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社説:外国人看護師 締め出し試験の愚かさ

 経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアとフィリピンから来日している受験生が初めて看護師国家試験に合格した。ただし、わずか3人。両国の受験者は254人で、合格率は1・2%だ。一方、日本人の合格者は約9割に上る。外国人受験生にとっての壁は、難解な漢字や専門用語だ。本当に看護師の仕事に必要なのか。わざと締め出そうとしているようにしか思えない。

 関税を撤廃し貿易の活性化を目指す枠組みが自由貿易協定(FTA)で、これに投資や知的財産保護を加えた幅広い自由化のルール作りをするのがEPAだ。インドネシア人候補者は08年8月から、フィリピン人は09年5月から受け入れ始め、これまでに看護師候補約360人、介護福祉士候補約480人が来日した。

 看護師候補者は半年間の日本語研修を経て、病院で働きながら国家試験の勉強をする。期限は3年間で3回の受験機会に合格すれば日本で働き続けることができる。試験は今年で2回目で、昨年は82人全員が不合格だった。第1陣は来年の試験に不合格だと帰国しなければならない。自国では看護師資格のある人々なのにである。

 試験問題の文中には「誤嚥(ごえん)」「臍動脈(さいどうみゃく)」「塞栓(そくせん)」「喉頭蓋(こうとうがい)」「喘鳴(ぜんめい)」「落屑(らくせつ)」などの難しい漢字がたくさん登場する。どうしても必要ならば仕方がないが、たとえば「眼瞼(がんけん)」は「まぶた」、「褥瘡(じょくそう)」は「床ずれ」に言い換えた方が患者もわかるし医療現場でも便利ではないだろうか。「創傷治癒遅延」は「傷の治りが遅い」ではだめか。「腹臥位(ふくがい)」「半坐位(はんざい)」「仰臥位(ぎょうがい)」「砕石位(さいせきい)」は診察や治療の際に患者に取ってもらう姿勢だが、イラストを付けるとわかりやすくなる。医学用語である「企図振戦」はintention tremorという英訳を付けてはどうか。

 日本人の受験生もこうした業界用語を習得する勉強に時間を費やしているのだろうか。患者とのコミュニケーションや医療事故を起こさないスキルの獲得に励んだ方が有益ではないか。患者や第三者の監視の目を立ち入らせないようにする閉鎖性がこういうところに表れるのではないかとすら思えてくる。

 形式的な公平だけでなく、実質的な公平を実現しなければならないことを「合理的配慮義務」という。国連障害者権利条約などにある概念で、障害や宗教、人種などによる目に見えない障壁を取り除くために用いられる。看護師を目指す外国人に対する日本の国家試験はまったく合理的配慮に欠けている。高齢化が急速に進んでいく一方で、就労人口は減っていく。外国人看護師にたくさん来てもらわなければ困るのに、いったい何を考えているのか。

毎日新聞 2010年4月15日 東京朝刊

 

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