テキスト音楽サクラユーザのためのVSTガイド
はじめに
PC上で個人が自由に手軽に曲を書けるようになって20年以上経過しています。昔は、同時に発音できるのは3音程度だったので、ドミソの和音を鳴らすのが精一杯でした。音色はピコピコしているものやキンキンしているものが主体で、いかにもコンピュータミュージック、のようなものが多かったです。現在は、Windows XPには標準でRoland製のソフトウェアシンセサイザーが利用可能ですしPCによってはYamaha製のソフトウェアシンセサイザーも搭載されていたりします。同時発音は64音以上、音色はピアノ、ギター、バイオリンといった、より本格的なサウンドを楽しめるようになりました。
最近はPCの性能が大変向上したため、標準で搭載されているソフトウェアシンセサイザーだけでなく、VST(Virtual Studio Technology、バーチャルスタジオテクノロジー)に対応したソフトウェアシンセサイザーを使って、更に表現力を高めることが可能になりました。残念ながらWindows XPに標準搭載されているRoland製の音源は、音色にリバーブやコーラス(残響を入れて音に厚みを出す効果)を掛けることができなかったり、そもそも音色自体に厚みが無くソロに向かなかったりします。一方、VSTに対応したシンセを使えば、分厚い音、突き抜けるような音、透き通る音、など普段とはチョット変わった音を鳴らすことが可能です。標準搭載のシンセに飽きたアナタ、是非、新しい世界に足を踏み入れてみましょう。
このガイドは、「テキスト音楽サクラ」ユーザを対象に、VST対応のソフトウェアシンセサイザーを使う方法を説明したものです。次のような人が読者対象になります。
MS Windows上でテキスト音楽サクラを使っている
VSTというものを使ったことがないが使ってみたい
ちょっと変わった音を鳴らしてみたい
単音でも存在感のある音を使ってみたい
なお、VSTを使うには、それなりにPCの環境が整っている必要があります。推奨動作環境はPentiumIII 650MHz程度です。
PCで音が鳴る仕組み
まずは、テキスト音楽サクラを操作するとなぜ音が鳴るのか、について軽く勉強しておきましょう。どうして音が鳴るのかを理解できると、VSTを動かすのに必要なソフトウェアが理解できますし、このドキュメントで説明していないソフトウェアも使えるようになると思います。
なお、すぐにVSTを試してみたい、という方はこの章をスキップしてください。
テキスト音楽サクラ
みなさんご存知の音楽を記述するソフトウェアです。テキスト音楽サクラの再生ボタンを押せば音がなりますから、このソフトウェアだけあれば良さそうに思うかもしれませんが、実はテキスト音楽サクラだけでは音は鳴りません。PCから音楽を再生するための一部分にしかすぎないんです。では、テキスト音楽サクラで出来ることって何でしょうか?
テキスト音楽サクラは、MMLまたはストトン表記をMIDI信号(演奏情報)に変え、その演奏情報を、ソフトウェアまたはハードウェアシンセサイザーが繋がっているトコロへ流しています。シンセサイザーへの入り口をMIDIポートといいます。
ということは、MIDIポートに繋がっている先の楽器が違うと、また別の音が鳴ることになりますよね。このような、演奏情報をMIDIポートへ流すソフトウェアのことをMIDIシーケンサなどと呼びます。
シンセサイザー
先ほどからシンセサイザーという言葉が出てきていますが、これは何でしょう? この言葉は、「合成」を意味するsynthesize(シンセサイズ)という単語から来ています。「音」とは空気振動(=波)のことですが、ピアノやギターといった音は複雑な波の形をしています。波は、簡単な波を足し合わせることで複雑な形の波に変えることができますが、このことを合成と言います。合成波を作り出す装置のことをシンセサイザーと言います。Windows XPにはMicrosoft GS Wavetable Software Synthという名前のソフトウェアシンセサイザーが搭載されており、楽器の音を波形として持っており、音の高さに応じて、波形を変形させています。
シンセサイザーは、自由に音の波形を作り出すことができますので、演奏情報を受け取って波形をつくりだせば楽器になります。シンセサイザーはMIDIポートからMIDI信号を受けて音の波形を作るというのが、その役割になります。気づいている人が居るかもしれませんが、シンセサイザーだけでは音が鳴りません。作った音の波形を空気振動に変えなければならないからですが、それはサウンドカードとスピーカの役割になります。
シンセサイザーには大きく分けて、ハードウェアシンセサイザーとソフトウェアシンセサイザーがあります。ハードウェアシンセサイザーは、箱に入っていたり鍵盤がついているシンセサイザーを指します。一方、ソフトウェアシンセサイザーは名前の通りPCにインストールして使います。ソフトウェアシンセサイザーは波形を数値で処理するため、PCの性能が高ければ高いほどシンセとしての性能が上がります。
さて、私たちがこれから使うのはソフトウェアシンセサイザーです。ハードウェアシンセサイザーに比べてソフトウェアシンセサイザーはソフトウェアなので安く、さらには無料で使用できるものがあります。このドキュメントでは無料で使えるシンセを紹介します。
サウンドカード&スピーカ
サウンドカードは数値で表された波形を電圧波形に変え、オーディオケーブルを通してスピーカに電圧変化を伝えるのが役目になります。スピーカは電圧変化に従って、空気を振動させるので、その波形が私たちの耳に音となって届きます。
MIDI
MIDIは演奏情報を伝えるための信号です。テキスト音楽サクラはMIDI信号をMIDIポートへ送ることが出来ます。逆にシンセサイザーはMIDIポートからMIDI信号を受け取ることができます。よって、MIDIポートにシンセサイザーを繋ぎかえることで、新しいシンセサイザーをテキスト音楽サクラから動かすことができるのです。ところが、Windows XPではMicrosoft GS Wavetable Software Synthに直結したMIDIポートが用意されているものの、それ以外にポートが無いので、そのままでは新しいシンセサイザーへMIDI信号を伝えることが出来ないのです。
まとめ
これまでの説明をまとめると、テキスト音楽サクラにMMLやストトンで曲を書いて再生すると
MMLまたはストトン
↓
[テキスト音楽サクラ]
↓
MIDI信号
↓
[MIDIポート(OUT)]
↓
[MIDIポート(IN)]
↓
[シンセサイザー]
↓
数値化された信号(波形)
↓
[サウンドカード]
↓
電圧
↓
[スピーカ]
↓
空気振動
と、いう感じで動作している、ということになります。
VSTとは
VST(virtual studio technology,バーチャルスタジオテクノロジー)は、ドイツにある音楽関係の会社によって提唱された波形処理の統一インターフェースです。波形処理には大きく2つのケースに分かれます。一つはすでにある波形を加工するケース、もう一つは波形を作り出すケースです。が、小難しいことは置いておいて、つまりはソフトウェアシンセサイザーを指します。VSTで実現されたソフトウェアシンセサイザーはVSTiと呼ばれます。iはinstrument(インストゥルメント、楽器という意味)の頭文字です。
VSTを動かすには、VSTホストと呼ばれる本体とVSTプラグインが必要です。VSTiはプラグインとして提供されます。そこで、VSTによるソフトウェアシンセサイザーを使うには
VSTホストを動作させる
VSTホストにプラグインを読み込ませる
VSTホストとMIDIポートをつなぐ
VSTホストとサウンドカードをつなぐ
といった作業が必要になります。ソフトウェアシンセサイザーの本体はプラグインとして提供されますので、プラグインを変えていけば次々と新しいシンセを試すことが出来ます。そしてVSTホストをサウンドカードに繋げば(そしてサウンドカードとスピーカが繋がっていれば)音が鳴りますが、ハードディスクに繋げばオーディオファイルとして保存することも出来ます。
ソフトウェアのインストール
では、必要なものをインストールしましょう。最低限必要なものを挙げますが、それぞれの役割が分かっていれば、同じ役目をする別のソフトウェアでも代用できます。
MIDIYoke
MidiYokeはWindowsに新しいMIDIポートを追加するソフトウェアです。サイトにインストーラ(
MidiYokeSetup.msi)があるので、実行して「Next」を押していけばインストールできます。このソフトウェアはWindows用ドライバとして動作しますので、インストール後は再起動してください。
このソフトウェアはフリーソフトなので無償で使用できますが個人使用のみ可能です。商用利用は別ライセンスとなりますのでライセンスの方をよくお読みいただいた上でお使いください。
VSTHOST
4front piano
ピアノを再現するソフトウェアシンセサイザー(VSTi)です。
ファイルサイズは7MBと14MBの二つがあります。サイトから7MB版(
http://www.yohng.com/vsti/4fpiano1-i.exe)をゲットします。これはインストーラになっていて実行すると、デフォルトでは次のファイルがインストールされます。
C:\Program Files\Steinberg\VSTPlugins\4Front Piano Module.dll
4Front Piano Module.dllはプラグインとしてVSTホストアプリケーションに読み込ませることになります。
テキスト音楽サクラからVSTを使う
デフォルトではパソコンにインストールされている音源へMIDIが出力されますので、それを変更します。テキスト音楽サクラを起動し、マルチメディアの設定を選びます。
出力先をMicrosoft GS Wavetable SW SynthからMIDIYokeへ変更します。デフォルトインストールだとMIDIYokeは全8ポートあるので、とりあえずポート1を選択します。
テキスト音楽サクラ側の設定は以上で終わりです。ではVSTHOSTの設定を行います。まずはVSTHOSTを起動します。
最初に立ち上げた場合、何も表示されないはずです(画面ではすでにプラグインが読み込まれていますが無視してくださいね)。プラグインを読み込ませるためFxボタンを押します。
ファイル選択画面になるので、
C:\Program Files\Steinberg\VSTPlugins\4Front Piano Module.dll
を選びます。
MIDI入力元を設定します。Devices→MIDIを選びます。
MIDI入力元をMIDIYoke1に設定します。
サウンドの出力先を設定します。Devices→Waveを選びます。
サウンドの出力先がサウンドカードになっていることを確認してください。
では、サクラから何か音を鳴らしてみましょう。聴こえましたか? 4Front Pianoはフリーなのですが大変良く出来たシンセで、軽快に動作するしVST自体の設定が無く使いやすいと思います。また、普段Microsoft GS Wavetable SW Synthしか使ったことがない場合は、ピアノのクォリティの違いに驚くことでしょう。
おわりに
以上、駆け足で説明しましたが如何でしたでしょうか? とりあえずピアノソロは4Front Pianoで聴きたくなって来たでショ? しかしながらまだソフトウェアシンセサイザーの世界のホンの入り口に過ぎません。
この先ですが
パラメータを変更可能なVSTを使う
エフェクトを使う
複数のVSTを使う
など、色々と楽しんでみてください。国産のシンセである
Synth1なんかは楽しい音が出ますよ。是非。
なお、インターネット上のサイトは常に更新されているため、リンクは切れている可能性がありますので注意してくださいね。