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【社会】

派遣法改正案 「雇用義務」穴だらけ

2010年4月15日 07時09分

 十六日から国会で審議予定の労働者派遣法改正案で、企業側に違法行為があった場合、派遣先企業に労働者の直接雇用義務を課す新制度について、労働者側から「抜け穴だらけだ」と批判が噴出している。直接雇用といっても契約期間は短期で終わる場合もあり、労働条件も元のままだからだ。派遣労働者の“解雇”が相次いだのを背景に導入される新制度も、労働者側は「違法派遣の根絶にならない」と改善を求めている。 (橋本誠)

 「違法に働かされている労働者を救ってほしい。政府案は許されない」。十四日、国会前の歩道。宇都宮市にあるキヤノンの工場で約八年間働いた後、雇い止めにあった阿久津真一さん(42)は通行人に呼びかけた。同じように職を失った約二十人の元派遣労働者も路上から不満の声を上げた。

 阿久津さんらが問題にしているのは、改正案に盛り込まれた「直接雇用みなし制度」。現行法でも三年の制限期間を超えて派遣で働かせた場合、派遣先企業は労働者を直接雇用する義務があるが、改正案は違反対象を拡大。建設・港湾作業など危険業務への派遣や、実態は派遣なのに業務請負に見せかける「偽装請負」などの違法行為があった場合も直接雇用を義務付けた。

 だが、直接雇用が実現しても、フランスやドイツと違って、期間社員として有期雇用となるため、雇用期間が過ぎれば、すぐに雇い止めになる恐れが依然として残される。

 阿久津さんの場合、二〇〇〇年から請負会社の社員としてキヤノン工場で勤務。だが、実際は、工場の指示で働く事実上の派遣労働だったとして、〇六年に栃木労働局に申告。

 労働局は違法性を認め是正指導。阿久津さんは〇七年秋に期間工員として直接雇用されたが、三回の契約更新の後、昨秋、雇い止めになった。

 阿久津さんは再雇用を求めてキヤノンを提訴。キヤノン側は阿久津さんが契約条件に同意しなかったため「期間満了で退職した」と反論する。この体験から阿久津さんは「直接雇用を義務付けても、短期で切られるなら、労働者は救われない」と不安を訴える。

■違法知らねば 派遣先は免責

 偽装請負や危険業務派遣、三年間の期間制限違反などの違法行為は後を絶たない。企業側の違法行為を労働局などに告発して待遇改善を求める労働者に対し、企業側は契約を更新しない「雇い止め」や契約期間中でも解雇する「派遣切り」で対抗することが多く、直接雇用が実現する例は少なかった。

 新制度はこうした“告発つぶし”にも歯止めをかけるとして期待されるが、改正案では派遣会社の違法行為を派遣労働者の受け入れ企業が知らなかった場合、直接雇用義務はないとする例外規定があり、労働者側には実効性への懸念が強い。

 労働問題に詳しい棗(なつめ)一郎弁護士は「実際の裁判では派遣先のほとんどが違法派遣を知らなかったと主張する。例外規定は削除が必要」と指摘する。また改正案では、企業側が違法行為を認めて直接雇用する場合でも、賃金などの労働条件は派遣時代と同一としており正社員との格差は解消されないことになる。

 <直接雇用みなし制度> フランスでは派遣先が派遣期間制限などに違反した場合、労働者と無期限の雇用契約を結んでいたとみなして社員にしなければならない。ドイツでは派遣会社が無許可営業の場合、派遣先の労働条件で雇用される。日本では2008年、厚生労働省の研究会が導入を提案。財界は「契約や採用の自由を侵害する」と反対したが、横行する違法派遣に歯止めをかけようと派遣期間内の有期雇用の形で改正案に盛り込まれた。

(東京新聞)

 

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