きょうの社説 2010年4月15日

◎真宗の北陸布教調査 東西合同でこそ歴史が見える
 北陸に真宗寺院が多く、全国屈指の「真宗王国」と呼ばれるのはなぜか。室町期に本願 寺8代の蓮如が越前吉崎に拠点を設け、北陸各地を精力的に布教したことが一番に挙げられるが、それ以前にも本願寺の歴代宗主(しゅうしゅ)が北陸と深くかかわっていたことは意外と知られていない。

 真宗大谷派(東本願寺)、浄土真宗本願寺派(西本願寺)と本社が実施する真宗の北陸 布教調査は、謎の多い蓮如以前の歴代宗主の足跡にも光を当て、本願寺と北陸との関係を探るものである。調査が進展すれば、「真宗王国」の歴史の奥行きはさらに広がるだろう。

 とりわけ意義深いのは東西が合同で取り組むことである。来年に親鸞750回忌という 共通の大事業を控えるとはいえ、江戸期の分派以来、交流の乏しい両派が学術調査で手を組むのは異例である。

 両派の本山、末寺の史料を突き合わせ、一線の研究者が活発に論じ合うことで、歴史を 解く新たな糸口が見えるかもしれない。宗祖の遠忌で真宗への関心が高まるなか、北陸の宗教土壌や精神文化を考えるきっかけにもしたい。

 調査は本願寺の5代綽如(しゃくにょ)、6代巧如(ぎょうにょ)、7代存如(ぞんに ょ)が中心になる。綽如は南砺市井波の瑞泉寺の建立者として知られ、巧如も井波を拠点にしたほか、存如も加賀などに足跡がある。3人は半ば伝説化しているが、蓮如以前から真宗が広がる濃密な下地があったことをうかがわせる。

 親鸞の血を引く歴代宗主が北陸に深く関与した事実が裏付けられれば、本願寺はこの地 域を早い段階から重視していたことになる。東西両派にとっては、北陸との関係を見つめ直す重要な調査である。

 東西両派は教義が同じでも、儀礼の所作や用語などが異なり、違いを明確にしながら教 団を発展させてきた。だが、本願寺はもともと一つであり、史料も限られる分派以前の歴史検証で協力するのはむしろ自然なことに思える。

 蓮如500回忌にちなみ、金沢では1998年に初の東西合同法要が営まれた。親鸞の 遠忌を控え、北陸で再び具体化した東西連携は、それ自体が真宗王国を象徴する歴史的な意味を持っている。

◎日本の核安保貢献策 米国の深い信頼がカギ
 初の核安全保障サミットで、参加各国は核物質の安全管理と核テロ防止のための貢献策 を表明し、その実行力が問われることになる。鳩山由紀夫首相が示した日本の貢献策の中で、とりわけ注視したいのは「核鑑識」技術の確立である。これは高度な核関連技術を持つ日本ならではの貢献策といえるが、米国の深い信頼を得てこそ成り立つ貢献策であることを認識しておきたい。

 核鑑識とは、核物質の組成を分析して供給源を特定する技術である。核兵器製造に必要 なウランは産出地で成分が微妙に異なり、ウランの高濃縮やプルトニウムの加工方法も国によって違いがある。千差万別の核の「指紋」を識別すれば製造元の特定が可能なため、米国は核鑑識に必要な試料や「指紋」情報のデータベース化と技術の確立に力を入れている。

 日本は国際原子力機関(IAEA)が核査察で採取した試料の分析を行っており、核鑑 識に応用できる高度な技術と経験を持っている。それだけに日本の技術協力に対する米側の期待は大きいが、実際の核鑑識には米国の保有する核データの提供が欠かせない。

 しかし、日本の情報管理体制はまだ米国に十分信頼されておらず、非公式な情報活動も 通じて得た核データの共有化を米側がどこまで認めるか不透明である。要するに、核テロ防止の貢献策も、日米同盟の深化が大前提であることを認識する必要がある。

 鳩山首相は核鑑識の技術協力のほかに、核安全管理技術者を育成する「アジア核不拡散 ・核セキュリティー総合支援センター」の設立などを表明した。アジアの核テロ対策の拠点として、原子力施設や核物質管理の人材育成に努めることは、新興国への原発輸出ビジネスにも有利に働こう。

 もっとも、中国も核拡散防止技術を提供する「核安全模範センター」の創設を打ち出し 、インドなども類似の構想を発表した。鳩山首相は核安保サミットで日本の存在感を示すことができたと胸を張ったが、核安保における日本の存在感は、高度な技術を生かした今後の行動にかかっている。