2009-09-18 23:26:38

男と女 その九

テーマ:男と女

女は、つつましい暮らしを好んだ。

高価なブランド品を欲しがらず、必要以上に快適な住まいを求めるでもなく、それよりはささいなことで笑い、愉快に過ごす日々に感謝を忘れなかった。

それは尊い美点だと男は思っていた。


ところが、最近は様子が違う。

ゴオクヨンセンマンエン、ゴオクヨンセンマンエン……と呪文のように唱えている。

途方もない大金だ。


「今日、会社の同僚に『ヴェルディなくなっちゃったら、もういっこの東京を応援すればいいじゃん』って言われた」

「わかってないね」

「そう、わかってないの。死んでもできない」

「ごもっとも」

「いい人なんだけど、ヴェルディだけは嫌いみたい」

「まーあれだ。気持ちはわかる。それより関白は風呂に入りたいぞ」


男は亭主関白を気取り、女には自分を関白と呼ぶように言い聞かせてきたが、一向に定着の気配がない。

この日も、返事はそっけないものだった。


「関白がスイッチ入れてきて」

「はい、わかりました」

「ついでにゴミ捨ても」

「かしこまり」


女は新しい経営者がどれほどの器量を持つのか気にしていた。

男は初見で受けた印象を正直に話した。


ヴェルディをどうにかしたい気持ちは本物だと感じたこと。周辺取材でもそれを裏付ける証言があること。そのほか、新たな支援を得るためにはマスメディアを利用したイメージ戦略、行政やサポーターを巻き込んだ気運の高まりを伝えたいところだが、現状はうまくいっていないことなどをざっくり語った。


「期限までに、スポンサー料5億4000万集めないとダメなんでしょ?」

「マストやね。ただし、Jリーグは当初の事業計画より支出が減れば、ラインを下げる含みも持たせた。いかんせん、そのへんはあいまいだからよくわからん」


女はじっと何かを考えている。

男も視線を落とし、いま何をすべきか考えていた。






同じテーマの最新記事