福岡市博多区堅粕の会社員、諸賀(もろが)礼子さん(32)の遺体の一部が見つかった事件は15日で発覚から1カ月を迎える。依然として死因や遺棄現場が特定されておらず、物証の乏しさが捜査の壁になっている。福岡県警は殺害された後に遺体を切断されたとみて容疑者逮捕に全力を挙げている。【島田信幸、近松仁太郎】
諸賀さんは3月5日夜、勤務先の製薬卸会社を1人で退社した後、連絡が取れなくなり、親族が7日に捜索願を出した。自宅アパートには財布などが残され、窓ガラスが内側から割れていた。
胴体の一部が見つかったのは1週間後の15日。能古島(同市西区)の東海岸に漂着していた。死後に鋭利な刃物で切断されたとみられ、生前にできたあざもあった。
県警は18日、死体遺棄容疑で自宅アパートを検証。しかし室内に殺害や遺体切断の痕跡となる血液反応はなかった。身の回りのものが残され、目立った争いの跡がないことから県警は諸賀さんが帰宅した後、顔見知りの人物に連れ出されたとの見方を強めている。
これまでに勤務先の社員ら100人近くから事情聴取。昨年11月に諸賀さんが関係した交通事故からトラブルになっていたとされる男性は事件への関与を否定した。
男性は毎日新聞の取材にも「(諸賀さんのアパートに行ったことは)一度もありません」と話した。
今月9日には福岡競艇場(同市中央区)と博多湾の隔壁付近でポリ袋に入った諸賀さんの両腕が見つかった。袋は大量に流通するごみ袋で、指紋は検出されていない。腐敗状況などから、胴体の一部と両腕は同じ時期に遺棄されたとみている。
「証拠隠滅しようとしたのだろう。事件の立証に必須の現場の特定すらできていない」。捜査関係者は「バラバラ殺人」特有の物証の少ない捜査の難しさを指摘する。
諸賀さんの胴体の一部が見つかった能古島と、両腕が漂流していた福岡競艇場は約8キロ離れている。博多湾の海流に詳しい愛媛大の磯辺篤彦教授(海洋物理学)は「今の時期は強い海流はなく、湾外から流れてきたとは考えにくい」と、湾内で遺棄された可能性を指摘。ポリ袋に入れられた両腕について「袋は風の影響を受けやすい。4月以降の強い北風による海流の影響も受けて流れ着いたのではないか」と推測する。
一方、両腕を発見した清掃作業員は「河口の漂流物は9割が川の上流から」と話すが、磯辺教授は「川からなら能古島で下腹部が見つかるよりも前に、両腕が見つかるのではないか」としている。
また、遺体の一部が別々の場所で発見されたことについて、磯辺教授は「同じ場所で遺棄されたものが違う場所に漂着する可能性はある」と話している。【関谷俊介】
毎日新聞 2010年4月14日 西部朝刊