上野原市が11年度中の完成を目指す新市立病院を巡り、江口英雄市長と上野原医師会(渡部一雄会長ら16人)との対立が続いている。同医師会は同市の幼小中全16校の学校医の委嘱を拒否し、各校は学校医不在のまま新年度に入った。江口市長は旧上野原町立病院長も務めた元同医師会の医師で、いわば「内輪もめ」。子供を無視した“場外乱闘”を周囲はヒヤヒヤしながら見守っている。【福沢光一】
「学校医の委嘱を受けるのは(法律上の)義務ではなく、あくまで善意の協力。地域医療をほったらかす気持ちはないが、今回のように敵対して扱われると……。議会のチェック機能も働かず、市長に対抗できる勢力は僕らだけで、独りぼっちになってしまった」
8日、同市の自宅で渡部会長は記者たちの前で胸の内を明かした。前日夜、渡部会長は江口市長と会談した。渡部会長によると、市長は学校医不在について「自分に責任がある」などと陳謝したが、学校医委嘱の要請はしなかった。
その際、渡部会長は市長に要求書を手渡し▽市長が「自分の言動により、学校医不在という極めて深刻かつ前代未聞の事態を招いたことは、配慮が足らなかったことを認め、深く反省する」などの声明文を発表すること▽医師会を批判し続けた理由について文書回答すること--などについて15日正午までの回答を求めた。
その上で、渡部会長は「16日の医師会定例会で市長が直接謝罪すれば学校医の委嘱を受け入れる」と語った。
一方、江口市長は「医師会と協議中の内容で今のところコメントは差し控えたい」と沈黙を続けている。
そもそも対立が表面化したきっかけは、江口市長主導で今年2月、設計業者の選定委員会が発足したこと。委員7人は市外出身者が多数を占め、同医師会は委員に加われなかった。地域医療を支えてきたとの自負のある同医師会は2月、抗議文を提出したが、江口市長は回答せず、選定委は3月28日、公募に応じた7社から東京都中央区の建築事務所に決めてしまった。
川原哲夫・前同医師会長は「江口市長と私は約15年間同じ病院で働いた元同僚。医師会は選挙には絡まないが、昨年2月に江口市長が当選した時は、期待していた面はあった。ところが、市長になったら新病院を巡って医師会を中傷した」と述べ、背景に医師同士の感情的なしこりが横たわることを示唆した。
「大人のけんか」のしわ寄せを受けているのは幼稚園児、小中学生たちだ。09年度は16校中15校が4月に健康診断を行ったが、今年度は学校医不在のため予定が立たない。健康診断は学校保健安全法の施行規則で毎学年6月30日までに行うと定められている。
学校医は地元の医師会ではなくても委嘱を受けることは可能。しかし、実質的に委嘱先を決める市教委の大神田光司教育長は「今後のことを考えると地元の医師会にお願いするしかない。子供たちの立場に立ってほしいとお願いしており、市長と医師会長の両トップの会談で決めてもらうしかない」と頭を抱えている。北都留小中学校PTA連合会の豊泉嘉伸会長は「子供たちのために一刻も早く解決してもらえるとありがたい」と言葉少なに話した。
16日夜の医師会定例会で江口市長が頭を下げることができるか--現時点での解決の鍵はそこにある。
毎日新聞 2010年4月14日 地方版