◆特定看護師 より広範囲の医療行為を行う看護師。一部大学院で養成が始まっている。
今月、東京都目黒区の国立病院機構敷地内に、東京医療保健大の大学院が誕生した。5年以上の臨床経験を持つ看護師21人が入学した。患者の状態に応じて総合的に判断・診断できる▽医療行為に踏み込んだ検査や治療を実践▽医師と協力してチーム医療を推進--などの能力を持つ看護師を育てる。
病気のなりたちから薬理学、診察・診断学までを学ぶ。隣接する同機構東京医療センターなどで医師の指導のもと実践教育を積む。
自身の診療経験から必要性を感じてきた矢崎義雄・同機構理事長は「看護師は医師より患者に目線が近く、患者をよく見て判断できる。高齢化が進む中、看護師が診療に入った方が医療の質が上がる」と強調。医師の卒後臨床研修並みの態勢で臨むという。
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厚生労働省の検討会は先月、看護師の役割を拡大する新資格「特定看護師」(仮称)の導入を提言する報告書をまとめた。導入されれば、簡単な傷の縫合や患者の状態に応じた薬の選択や使用など、これまでより広範囲の医療行為ができるようになる。厚労省は保健師助産師看護師法(保助看法)の改正も視野に入れる。しかし導入については、「特定看護師の業務独占になり、チーム医療を行う地域医療の現場が混乱する」(日本医師会)など反対意見もある。
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医師不足が深刻な現場からは、医師と看護師らが協力する中で、看護師らの役割が広がることへの期待感が高い。日本周産期・新生児医学会(名取道也理事長)は、新生児仮死などの緊急時には医師の管理のもと、訓練を受けた看護師や助産師が気管内吸引などの蘇生を行えることや、医療施設に限定し助産師が定期検査の発注、出産時に膣(ちつ)の出入り口を切る会陰(えいん)切開や縫合などをできるよう求める要望書を検討会に提出した。
同学会では質の高い新生児蘇生技術を普及させようと、全国で医師や看護師、助産師らを対象に講習会を開催し認定もしている。しかし、医療現場では医師以外は行えないのが実情だという。副幹事長の久保隆彦・国立成育医療研究センター産科医長は「分娩(ぶんべん)施設は減少しているのに、リスクの高いお産は増えている。新生児仮死は重い後遺症の原因となるが、医師が到着するまで蘇生を行えないのでは貴重な時間を失うことになる」と訴える。
このほか、日本外科学会など11学会は連名で、「米国では日本より外科系医師数が少ないのに手術件数は多い。日本のような過重労働も問題になっていない。最大の要因は医師と看護師の中間レベルの職種の充実にある」などとし、特定看護師の早期導入を求めている。
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厚労省は10年度からモデル校を指定し養成を試行するほか、特定看護師ができる医療行為を明確にする方針。こうした動きに先行し、東京医療保健大を含む一部の大学院が養成を始めた。
昨年度から糖尿病など慢性疾患管理ができる看護師を養成する国際医療福祉大大学院の湯沢八江教授(看護管理)は「日本の看護師の基礎教育は米国などと比べて医学がきちんと教えられていない。養成大学は今後増えると予想されるが、そこを考慮しないと、名前だけの特定看護師が出てくる可能性がある」と指摘する。【下桐実雅子】
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保助看法では「療養上の世話または診療の補助」であり、「医師の指示がある場合には医療行為ができる」とされている。しかし、高度な医学的判断や技術が必要な医療行為は「診療の補助」の範囲を超えるため、医師が自ら行うべきで、看護師は行えないと解釈されている。
両者の役割分担は過去にもたびたび議論になり、厚労省は02年に静脈注射、07年に薬の投与量調節などについて、看護師ができる「診療の補助」に含まれるとする通知を出した。しかし、それ以外の医療行為については明確にしておらず、現場の判断に任されてきた。
海外では診療ができる看護師資格の導入が広がっている。医師不足の議論と相まって日本でも、能力のある看護師を活用しようと、業務拡大の検討が始まった。
毎日新聞 2010年4月14日 東京朝刊