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時効まで１年に迫り、さらなる情報提供を呼び掛ける小林邦三郎さん＝１０日午後３時半ごろ、ＪＲ池袋駅
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ＪＲ池袋駅（東京都豊島区）で１９９６年４月、春日部市の立教大４年小林悟さん＝当時（２１）＝が男に突き飛ばされ死亡した事件は、１１日で発生から１４年が経過する。国会では殺人罪などの公訴時効廃止を含む刑事訴訟法改正案が審議され、成立すれば、悟さんの事件も時効廃止の対象になる見通し。だが、父親の邦三郎さん（６４）はそれを望んではいない。最愛の息子を亡くして初めて知った思いがあったからだ。 仕事帰りの通勤客らであふれる深夜のＪＲ池袋駅。そこで事件は起きた。騒然とするホーム。だが、悟さんを突き飛ばして転倒させた男は逃走。目撃者として名乗り出たのは、数人だった。
中学で野球部、高校でバスケットボール部に所属した悟さん。大学ではスノーボードを仲間と楽しんだ。事件当時は就職活動の真っ最中。「就職がすべてではない。海外留学も考えたら」。息子にそんなアドバイスを送った矢先の出来事に、邦三郎さんは言葉にならない衝撃を受けた。
「人が大勢いる中で起きた事件。なぜ犯人が捕まらないのか」。その思いが今でも頭に浮かぶ。少しでも情報が欲しい。そんな思いから、邦三郎さんはこれまで、２０万枚以上の手製のビラを配布。家族の反対を押し切り、有力な情報提供者に私費で１千万円の懸賞金をかけた。
事件後に邦三郎さんは「人の命」と真剣に向き合った。「優しかった」息子と過ごした２１年間。犯罪とは無縁の生活で、人の死について考えたこともなかった。だが、突然襲った悲劇が、邦三郎さんを変えた。そして出した結論。「犯罪を減らしていくために、できることをしよう」
邦三郎さんは長年勤めた銀行を早期退職し、犯罪被害者の会を設立。再犯防止や、犯罪抑止に力を注ぐことが重要だと訴える。ある時訪れた千葉県の少年院では、少年らを前に「再犯をしないと誓ってほしい」と土下座までした。「家族を、他人を愛することの大切さを息子に教わった。他人を愛する気持ちがあれば、犯罪は起きない。それを社会に伝えていくことが、息子が生きた証しを残すことになると思う」
時効まで残り１年とわずかとなった３月、政府は公訴時効を撤廃する改正刑訴法案を閣議決定した。だが、邦三郎さんはそれが犯人逮捕につながるとは思っていない。「感謝の気持ちはあるけど、時効がなければ、犯人を逮捕できないことの謝罪が永遠にされない。捜査の責任はどこにいってしまうのか。亡くなった命の権利は本人にある。息子の魂が浮かばれないのでは」。胸中は複雑だ。
来年４月までに犯人が捕まらなければ、警察が証拠品として保管している遺品を取りに行くつもりだという。事件後に自宅に残っていた悟さんの腕時計やキーホルダーなどの遺品は、自分の身に付けるようにしていた。「息子の魂と一緒にいるみたい」。険しい表情で話していた父親のほおが、少し和らいだ。
公訴時効まで残り１年と迫った１０日、邦三郎さんはさらなる情報提供を求め、警視庁の捜査員や犯罪被害者の会の会員らと共に、ＪＲ池袋駅で約６千枚のビラ配りを行った。道行く人に「よろしくお願いします」と頭を下げる邦三郎さん。チラシを受け取った人からは、「頑張ってください」と励ましの言葉が返ってきた。
ＪＲ池袋駅・立教大生殺害事件 1996年４月１１日午後１１時半ごろ、ＪＲ池袋駅の山手線ホームで、立教大４年の小林悟さん＝当時（２１）＝が男に突き飛ばされて転倒。頭を強打し、５日後に死亡した。警視庁池袋署は傷害致死事件として捜査。時効直前の2003年に容疑を殺人に切り替え、捜査を続けている。同庁によると、逃げた男は２０～３０代で身長175㌢前後。がっちりした体格で右の目尻に丸い傷があるのが特徴。事件後、山手線外回りに乗って逃走した。情報は同署（℡03・3986・0110）へ。
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