ユーザーにもユーザーニーズは分かっていない?
先週、ものづくりベンチャーを7年前に立ち上げたという経営者の方を取材しました。その方のお話で特に印象に残ったのが「ユーザーに聞いてもユーザーニーズは分からない」というもの。通常なら「どうして?」と不思議に感じるフレーズですが、ちょうど私も同じようなことを考えていたので、妙に納得してしまいました。というのも、ユーザーとして全く自分のニーズを認識していなかったことに最近、気づかされたからです。きっかけは約1カ月前、デジタルメモ帳「ポメラ」を購入したことにあります。
ご存じだと思いますが、ポメラはキーボード部を2つに折りたためる小型の文字入力用デジタル機器です。メモ帳機能に特化しているためWeb接続などはできませんが、起動時間が約2秒と短く、移動中や出先でも取り出してすぐに使える点に特徴があります。私がポメラの購入を考え始めたのは、今から約1年半前のこと。発売前に掲載されていた新聞記事を読み、「これは便利そうだ」と記事を切り抜き、しばらく手帳に挟んでいたほど注目していました。なのになぜ、最近になるまで購入しなかったのか。それは自分のニーズを「本質的には」理解していなかったからだと思うのです。
パソコンなどを購入するとき、私が最も重視しているのが「軽さ」です。紙の資料やカメラを持ち歩くことが多いので、バッグの重量はかなりのもの。これまでも小型のパソコンを持ち運ぼうと何度も挑戦したのですが、その度に「やっぱり重い」と挫折してきました。なので、ポメラの場合も実際に量販店に出向き、サンプル品を手で持ち上げてみて検討しました。店頭には、ちょうど同じ頃に軽さを売りに発売された小型のノートパソコンもありました。こちらも手で持ってみて考えます。質量だけでみるとやはりパソコンの方が大きいものの、それほど差は感じません。値段は小型パソコンがポメラの倍(その量販店では)。結局、搭載機能の多さが決め手となり、小型パソコンの方を選びました。
その小型パソコンは、私が当時、持っていたものに比べてはるかに軽いものでした。なので、「さぞ肌身離さず持ち歩くことだろう」と予想していたのですが、結果は同じ。最初こそ大喜びで持ち歩いたものの、次第に朝の持ち物チェックで「持っていかなくてもいいや」と判断するようになったのです。この時、自分の中で「もしかしたら、私が求める機能は『軽さ』ではないのかもしれない」という思いが芽生えてきました。「持っていかない」という判断の中に「どうせ使わない」という理由が含まれていたからです。
ムダとりの取材を多くしてきたこともあり、ここ数年は、取材先の生産現場に明らかに必要以上のスペックの設備があると「もったいないな」と感じるようになっていました。使わないことが分かっているのに、高いお金を投じる必要があるのだろうか、と。これを自分自身のパソコンに置き換えてみたら・・・。同じことが言えるのではないか。
「どうせ使わない」ことの裏には、個人特有の事情もありました。パソコンを持ち歩く主な目的は電車の中で使うこと。でも、電車の乗り換えが多いので、まとまった時間は15分程度しかありません。その15分を有効に使うには、起動時間が短いことが大切になります。つまり、私が本当に求めていた機能は「軽さ」よりも「起動時間の早さ」だったことに、おくればせながら気づいたわけです。
同僚には「どうせまた使わなくなるんじゃないの?」と疑念の眼を向けられながらも、負けじと(?)ポメラを購入しました。以来、毎日休まず、私のバッグの中にあります。ユーザーも気づいていないニーズを誰よりも早く見つけ出し、ユーザーに提供する。そこに商品開発の本質があると、改めて感じました。