審判が見る「お手本DVD」
キム・ヨナ高得点の謎
(AERA 2010年4月12日号掲載) 2010年4月8日(木)配信
転んだキム・ヨナが、完璧だった浅田真央を上回った。
なぜか。理由をたどっていて、あるDVDの存在を知った。
試合前から「今回は正直、2位でも3位でも構わない」とまで言っていたキム・ヨナは、やはり転んだ。一方の浅田真央は演技後に「ほぼパーフェクト」と言った。
イタリア・トリノであった女子フィギュア世界選手権のフリー。2人の女王の勝敗は、採点前から決したかに見えた。ところが実際は、キム・ヨナ130・49点、浅田129・50点。キム・ヨナが上回った。浅田は他の女子が跳べないトリプルアクセルを成功させたのに、だ。
GOEは8・58差
なぜ、こんなことが起きたのか。左のチャートのうち、技の出来栄えを評価するGOEの点数をご覧頂きたい。
世界選手権でヨナはフリーのGOEが合計9・40点と浅田の7・72点を大きく上回っている。転んでも、演技の出来栄えがいいから上回ったというわけだ。バンクーバー五輪のフリー演技では、GOEだけでキム・ヨナと浅田の差は8・58点もあった。
出来栄えをどうジャッジするのか取材していくと、ある関係者のこんな証言に出くわした。
「キム・ヨナが見本となっているDVDを見たことがあります」
公平な採点をするために、フィギュアの審判員は研修を受けている。その場で、プラス評価すべき演技の具体例が映されている「お手本DVD」を使った勉強会がある。そのDVDの中には、他の選手とともにキム・ヨナも出ているのだという。
GOE評価の見本となった人が試合中に演技をしていたら、審判員が映像のイメージに引っ張られて、高い評価になってしまうのではないか。そんな疑問に対し、国際スケート連盟の関係者は、
「そんなことは絶対にない。ジャッジだって中途半端なキャリアを積んでるわけじゃない」
と、一笑に付した。だが、影響がゼロというわけではないようだ。
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