小沢と吉本社長が密会
2010年4月12日 AERA
夏の参院選まで3カ月。「使えるものはなんでも使う」。選挙を仕切る小沢幹事長が次に仕掛けるのは、人気お笑い芸人の擁立か。
政界のニュースを「平沼・与謝野」新党が占めていた4月7日。民主党の小沢一郎幹事長は、国会議事堂2階にある自身の執務室に、意外な上客を迎えた。
客間に現れたのは、吉本興業社長の大崎洋氏(56)だった。
お笑い界のガリバー的存在の吉本興業の社長を2009年から務め、業界内では、あの「ダウンタウン」の育ての親として広く知られている。
内閣支持率も党の支持率も低迷し、「仏頂面」が多かった小沢氏の顔つきは、いつになくほころんだ。
幹事長室で会談
秘書も同席させなかった会談には、小沢グループ「一新会」事務局長の岡島一正衆院議員と、小沢氏に近い当選1期で大阪2区選出の萩原仁衆院議員も加わったとされる。小沢氏と大崎社長が会うのは初めてだ。大崎氏の自己紹介から始まり、ひと通り話が進んで盛り上がると、小沢氏は萩原氏に、こう指示したという。
「おい、お前、それを教えてもらえばいいじゃないか。やっておけ」
7月の参院選に向けた準備にひた走る小沢氏と、政界とはかかわりのない吉本興業社長との間で、いったい何が話し合われたのか。
会談について、萩原氏に話を聞こうとすると、
「ノーコメント」
という言葉しか返ってこなかった。吉本興業の広報担当者も同様に、
「ノーコメント」
会談の存在を知る民主党関係者は、こう推し量る。
「参院選向けの広報戦略や党のイメージ改革をどうしたらいいか、小沢さんが聞いたのではないか。吉本興業の芸人を候補者の演説会に連れてこさせ、候補者の売り込みに使おうと考えているのでしょう」
吉本も地方に進出
小沢氏は、参院選での単独過半数確保に向け、地元の反発を買いながらも2人区での2人目の擁立に執念を燃やしている。しかし、選挙までは時間がなく、ドブ板選挙を徹底する小沢流選挙術だけで乗り切れないことは小沢氏自身もわかっている。2日にあった定例記者会見では、「2人目」候補の戦術について、こう語った。「あらゆる世代、男女問わず、もっと支持を広げるには時間がないので、浮動層に対象を絞り、街宣・辻立ちを中心とした活動になる」
余裕のない小沢氏にとって、人の心をつかむ吉本興業のノウハウはのどから手が出るほど欲しいに違いない。
会談に同席したとされる萩原氏は昨夏の衆院選で、漫才師のオール阪神や落語家の桂きん枝、桂小軽ら、吉本興業の芸人を応援部隊にしたキャンペーンを展開し、小泉チルドレンを破り、初当選にこぎつけた。
事情を知る民主党関係者は言う。
「そのときの芸人のつてで、萩原議員は吉本の上層部と知り合い、それが発展して今回の小沢・大崎会談につながったと言われている」
2004年の参院選でも、大阪選挙区で吉本興業の大物芸人である島田紳助の応援を受けた候補が約90万票を得てトップ当選した。
じつは、吉本興業にとっても、政権与党に近づく理由がある。
お笑いブームは頭打ちとなり、吉本興業は最近、地方にビジネスチャンスを見いだそうとしている。
昨年末には「エリア開発センター」という部署を新たにつくった。所属タレントを起用した特産品のPRイベントなどで、町おこしに協力するという内容だ。人気芸人が各地の名産品などを歌詞に盛り込んだご当地ソングも発売した。
地方戦略を重視する民主党と、視線はぴったり一致する。
吉本興業は、株式公開買い付け(TOB)を受けて今年2月非上場化した。多くの株を握る創業家の影響力を脱し、新たに出資するテレビ局や通信会社との連携による新事業に力を入れたいという目論見だ。新事業の核と目されるのは、インターネットや携帯電話への番組配信。ただ、この分野は収益性が計算しにくく、将来は未知数だ。吉本興業にとって、政権とのパイプはあるに越したことはない。
会談は、たんなるノウハウ話だけで終わったのだろうか。
狙いは芸人擁立か
ある政界関係者は、本題をこう推察する。「吉本が社として民主と組むことはない。が、単なる意見交換のために、社長がわざわざ出ていくだろうか。参院選に向け、所属芸人の擁立を話し合ったのではないか」
吉本のタレントを経て政治家に転身した西川きよしや、故・横山ノックのような例もある。
民主党の2人目の候補擁立でいま注目されているのは、大阪選挙区(改選数3)だ。西川、横山を輩出した大阪には「お笑い票」が100万票あると言われている。
民主党は大阪で2議席の獲得を狙い、大物新顔候補の擁立を急いでいる。ただ、すでに女性タレントの名前が取りざたされており、そこに吉本芸人を持ってくることは考えづらい。となれば、全国比例区での擁立が可能性として浮上する。
関西落語界の大物、桂三枝氏は民主党からの立候補の打診を報じられ、ブログで完全否定した。別の関係者が言う。
「三枝さんは絶対に出ないと聞いています。出るとすれば、ほかの大物芸人じゃないんですか」
小沢氏周辺と大崎社長との間で、水面下での交渉が続くとみる関係者もいる。
編集部 常井健一
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。