蒼井優さん　第１回　こだわり　こだわりは黒のニット帽　バツイチ役「結婚にあこがれなくなった」

　「男はつらいよ」の山田洋次監督が、１０年ぶりに現代を舞台にした映画「おとうと」で、吉永小百合さんの娘役で出演している女優の蒼井優さん。初めての“山田組”は「独特で、どうやって演技を日常（の場面）に落とし込むか難しかった」と振り返り、「また知らなかった（演技の）扉が開いちゃった」と、女優としてまた一歩前に進んだことを実感したようだ。今年は「おとうと」に続いて３作品の公開が控え、日本映画に欠かせない存在となった蒼井さんのこだわりは、「冬に手放せないニット帽」。「おとうと」の中で結婚して、バツイチになる役柄にちなみ、蒼井さんの結婚観などを聞いた。【細田尚子】

　蒼井さんは「特にこだわりがないんですよね」と困りながらも、「冬は毎日同じニット帽なんです」と答えた。「２、３年前に青山（東京都港区）の古着の店で見つけた」という黒色の帽子で、ラビットファーが付いており、「先がちょっと出ていて変な形をしているんです」と個性的なところが気に入ったという。「女の子っぽいファーは苦手なんですけど、これは形が気に入って、自分では可愛いって思うんです。それ以外の帽子を探しているんですけど、なかなかいいのが見つからなくて……」と寒い季節は手放せないようだ。

　食べ物は、「ブロッコリー」をつい食べてしまうといい、「その日によってどんな食べ方でもいいんです。ブロッコリーであれば」と、ゆでたものにマヨネーズを掛けて食べたり、パスタとあえたり、さまざまな料理を楽しむという。「何で（好きなん）でしょうかね。美容にいいのかな」と笑顔を見せる。

　映画「おとうと」では、母の弟（笑福亭鶴瓶さん）に披露宴をめちゃくちゃにされ、離婚する役どころを演じた。最初にこの役が来たとき、「バツイチになるなんて、最初はどうなんだろうかと思ったんですけど、監督が私でいいっておっしゃってくださったのだから、いいんだと信じようと思って」と前向きに考えた。撮影に入る前に蒼井さんの役と境遇が似ている女性とたまたま知り合い、「（蒼井さんの役名）小春と同じ人生という方がいたので、それでまたちょっと心強くなった」という。その人や周囲の人から話を聞いて役を作り上げていった。

　鶴瓶さん演じる叔父さんが酒を飲んで暴れるという「まるで地獄絵図のようで、結婚式のシーンなのに、小春の頭の中には『離婚』という文字が巡っていて、こんな不幸な結婚式はないなと思った」と悲惨な思いを疑似体験したことで、自身の結婚観は変わったのか。「撮影で結婚式をやるとあこがれも何もなくなるんですね（笑い）。今回、山田組でウエディングドレスで結婚式を挙げて、べつの映画では白無垢（しろむく）で結婚式をしたんですけど、どちらも大変でした。ドレスはドレスで苦しいし、和装は和装で苦しいし」とどちらの現場でも「結婚式はもういい」とぐちをこぼしたら、周囲から「撮影は何日もかけてやるけど、本番はちゃっちゃと終わるから」となだめられたという。

　自身の結婚は「あまり考えられない」というが、親友の結婚式に出席して友人代表としてスピーチしたときに、感極まって「もう泣いて、泣いて。『あんなに泣いている友人代表のスピーチは聞いたことがない』といろんな人にいわれながら帰りました（笑い）」と感激屋の一面も持っている。

　次回は、山田組での演技の苦労など、蒼井さんの女優の顔に迫る。

　＜プロフィル＞

　１９８５年８月１７日、福岡県出身。９９年にミュージカル「アニー」のオーディションで合格しデビュー。０１年に映画「リリィ・シュシュのすべて」（岩井俊二監督）で映画デビュー。０２年に「三井のリハウス」の第１０代リハウスガールに選ばれた。０３年、ドラマ「高校教師」で連続ドラマに初めてレギュラー出演。０５年には７本の出演作が公開された。その中でも「ニライカナイからの手紙」（熊澤尚人監督）で初主演。０６年で公開の「フラガール」（李相日監督）での演技が認められ、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞やブルーリボン賞主演女優賞など数多く映画賞を受賞した。その後、「ハチミツとクローバー」（０６年、高田雅博監督）や「人のセックスを笑うな」（０８年、井口奈己監督）、「明日への遺言」（０８年、小泉尭史監督）、「百万円と苦虫女」（０８年、タナダユキ監督）、「ＴＯＫＹＯ！～シェイキング東京」（０８年、ポン・ジュノ監督）、「ホノカアボーイ」（０９年、真田敦監督）などに出演。１０年は３０日公開の「おとうと」（山田洋次監督）をはじめ、「ＦＬＯＷＥＲＳ」（６月１２日公開）、「雷桜」（秋公開予定）ら出演作の公開が目白押しで、３日から放送を開始したＮＨＫ大河ドラマ「龍馬伝」にも出演。山田監督の作品は「おとうと」が初出演で吉永小百合さんの娘役を演じている。共演は笑福亭鶴瓶さん、加瀬亮さんら。