突発的思い付き短編

 

 

シンジのススメ外伝

 

 

その頃のアスカさん

頃の参 ASUKA STRIKES!

 

 

 

 


 

朝起きて、シャワーを浴びて、お気に入りのワンピースを着る。

今朝の沖縄の天気は快晴。

私の計画の成功を祝うかのような天気だわ。

昨日のうちにそろえておいた荷物を背負ってホテルをチェックアウト。

とりあえず腹ごしらえね。

 

泊まっていたホテル、日航那覇ク゛ラント゛キャッスルを出て、歩いて国際通りに向かう。

周辺の地図はばっちり頭の中だ。

 

国際通りに入ってしばらく歩く。オーパビルの手前を左に曲がると其処はいわゆる商店街。

雑然とした雰囲気を持ちながらも、活気あふれるそんな感じ。

その奥の公設市場が第一目的地。

 

うーんこんな亜熱帯の沖縄でもネルフのガード連中って黒服なんだ・・・。ばっかじゃないの?

真っ黒なサングラスはまあ許容範囲。でもねぇ、みんな半袖とかタンクトップばっかの中でそれはダメでしょ。

バレバレ。特にこんな生活感あふれる市場の中じゃ違和感ありすぎ。

まあいいわ。お陰でわかり易くて助かるし。

 

 

公設市場の2階の食堂に着いて、下調べしておいた沖縄の名物料理を頼むことにする。

ゴーヤチャンプルーは当然よね。ヘチマの味噌煮、熟する前のパパイアを野菜として使ったパパイアチャンプルー、ソーキそば、長時間煮込んだ豚足のテビチ汁、あ、ナカミ汁も捨てがたいわね。などと注文していったら。

 

むー。テーブルの上いっぱいになっちゃった・・・。

さすがにこの量は食えないわ。そもそも一人前が多すぎるのよ!

残すのは私の主義じゃないわ。しょうがない、

あ、店員さん、ちょっとこの荷物見ててね。

にっこり笑ってちょっと席を立つ。

 

隠れてるつもりのガードに近づく。

あんたたち!ちょっと来なさい!

「わ、我々はガード対象との「いいから来いって言ってんのよ!」・・・わかった、おい」

常にツーマンセルで行動する彼らを引っ張りだし、同じテーブルに座らせる。

「食べるの手伝って」

きょとんとするガード二人を見ながらソーキそばに手を伸ばす。

ずるずる。

「あにひてんのよ。冷めるわよ」

「あ、ああ」

恐々、といった感じで手をつける。

「毒なんか入れて無いわよ。いろいろ食べたいから注文しちゃったけど、私一人じゃ食べきれない。残すのはイヤだから、あんた達に手伝ってもらいたいのよ」

そういうと、納得したのか開き直ったのか、結構な勢いで食べ始める。

う、やるわね。しょうがない、この際だ、全メニュー制覇してやる。

「おばちゃ〜んメニューの端から順番に持ってきて!」

目の前の二人は汗をかきつつ、それでも黒服は脱がない。・・・やるわね。

箸の速度は緩めずに、

「あんた達、いっつもその服だけどさ、TPOって考えないの?」

こちらも勢いを止めずに、

「これも就業規定のひとつなんでな。俺たちはここにいますって目立つのも仕事なのさ」

いわばおとりさ、と。

 

ナルホド、彼らの気配が目の前にある今。

別の、興味深げに私たちを見る観光客や店々の人たちとは違った視線を感じる。

ま、視線を感じさせるって程度じゃせいぜい二流のケツよね。

 

てなわけで、二人に手伝ってもらって全メニュー制覇。

結構グロテスクなナカミ汁が一番気に入ってしまった・・・。

ナカミって中身、内臓のことだったのね。

 

ちゃんと私が支払い、市場を出る。

彼らはまた、ちょっと離れて私についてくる。

さってと、計画開始。

 


 

セカンドの少女がこっちに近づいてくる。

こっちに気付いてるのは前々から知っていたが、あからさまに寄ってくることなど初めてだ。

支払いの手持ちが無いのか?いや、ここは見た目と違ってカード払いOKだ。観光客向けだしな。

「あんたたち!ちょっと来なさい!」

わ、我々はガード対象との「いいから来いって言ってんのよ!」・・・わかった、おい

 

何をさせられるのかと思ったら、いろいろ試食したいから残飯処理をしろってことか。

それならそれで温かいうちに食わなきゃ損だ。安月給だしな。

 

「おばちゃ〜んメニューの端から順番に持ってきて!」

 

そんなこと思ってたらセカンドの奴、調子に乗って更に注文しやがった。

負けるもんか。野菜のかけらも残さず食ってやる。

 

「あんた達、いっつもその服だけどさ、TPOって考えないの?」

 

痛いところを突いてくる。俺たちだって何度上申したことか。

だが

「暑いだろうがな、脇の下のソレ、どこにしまう気だ?」

と言われれば黙るしかない。

スカートの内側やハンドバッグを改造して銃を仕込んでる女性もいたりするが、残念ながらスカートをはく趣味は無い。

 

まあ一応意見は汲み取ってくれたのか、新型黒服が支給された。

薄い生地で風通しはいい。前よりはまし、ってとこだがな。

「これも就業規定のひとつなんでな。俺たちはここにいますって目立つのも仕事なのさ」

嘘じゃない。

ガードのそばにぴったり寄り添う必要のある場合はそうする。

彼女の場合はちと違う。

人類の危機を救う可能性のひとつだ。命を奪われる危険性は低い。

むしろ誘拐などのほうがありうる。

今だってどこかの組織の監視の一つや二つ、付いてきてる。

まあ、二流と三流の間くらいの連中だな。

 

で、だ。俺たちの存在をアピールしつつ、彼女にはガードされてるって事を知ってもらう。ガード=危険性が有るってことだからな。

ガードされる側にもガードされる意識が無いとな。無意識に振り切られることもある。

発進間際の電車に飛び乗られたりしたらら結構辛い。

まあ沖縄には電車は一路線しかないから追尾は楽だが。

 

ふう、さすがの俺たちも腹いっぱいだ。

を、ちゃんと支払いはセカンドか。俺たちに払わせるのか、という考えも頭をよぎったが。

そういえば彼女は子ども扱いされるのを嫌っていたな、と思い出す。

「ご馳走様でした」

礼儀だ、一応な。

「いいって、あたしが無理いったんだから。上のほうにも言っといてあげる。私が無理に引っ張ったんだって。ガード対象との交流、一応ダメなんでしょ?」

わかってるじゃねえか

いい女になるよ、あんた。

俺の娘ほどの歳じゃなかったらアタックするところだ。

 


 

国際通りを県庁のほうに移動し道路を挟んで逆位置にある、みずほ銀行に入る。

カードでの支払いはちょっと足が着く。現金を用意しとか無いとね。

 

うーん、ドイツじゃ一日に引き出せる額は500ユーロとかだったのに、日本は違うのね。

一回あたりの上限はあるけど、回数を分ければ基本的に自分のお金なんだからって事で幾らでも下ろせる。

・・・カード、盗難されると厄介ね。

とりあえず、日本円の感覚がいまいちわからないので余裕を考え5000ユーロくらい下ろす。

680000円、結構な厚さね。

まあ無駄に使う気は無いから残れば預金に戻しゃいいのよ。

 

更に道を渡って、パレットくもじっていうショッピングビルに入る。

さて、お手洗いは、と。

 

出来るだけ人の出入りの多いところを選ぶ。

 

個室にこもり、着替える。

ブルージーンズに、空母で貰った大きめのフライトジャケットを着て、これはドイツから持って来たお気に入りのGottmannの、後頭部にたれの付いた帽子を目深にかぶり、

 

「アスカ、行くわよ」

 

気合を入れなおす。

 

 


 

 

おかしい。

セカンドがトイレに入ってもう30分になる。

はじめは「ま、ちっちゃくても女だしな、時間がかかることもあるさ」

と、のんきに構えていたが。

幾らなんでも遅すぎる。

女性のガードにつくのはだからいやだったんだ。

応援に女性のガードを呼んだが時すでに遅し。どこにもいない。

ご丁寧に発信機つきの携帯も個室の扉のフックに掛けられていた。

「ごめんね」

たどたどしいひらがなでそう書かれたメモと共に。

 

 


 

 

はー、我ながら完璧よね。

アタシのこの髪も隠しちゃえばまるっきり別人だし。

ファンデーションで肌色変えて、眉書いて、ん、完璧。

ちょっと暑いけどフライトジャケット着れば体形も隠せるし。

さて、こっから空港まで5kmほど。

下手にタクシー乗って足がつくのもイヤだから徒歩だ。

と思ってたら、なんだ。空港までモノレールがあるじゃない。

旭橋から那覇空港まで10分ちょい。

幸先いいわ、さすがアタシね。

 

 

国内に入ってりゃこっちのもんよ。

パスポート無しで飛行機に乗れるしね。

 

 往復券だと帰りが1割引きね、オッケーオッケー当然往復で購入ね。

チッ、スーパーシートは売り切れか。

空き待ちしてたら見つかっちゃうかもしれないし、まあいいわ。普通席で。

 

 

昨日潜った海が眼下に見下ろせる。

やーっぱ綺麗よねぇ。ドイツの海なんて年中冬真っ盛りだからもうどんよりしててなんか辛気臭いのよね。

まぁ嫌いじゃないんだけどさ。

さてと、後は到着まで一休み、っと。

 

 

 


 

 

 

しまったわ。

 

 

 

 

この天才、惣流 アスカ ラングレーともあろう者が、こんな些細なミスを犯すなんて。

 

 

 

 

第三新東京市に入ったのはいいけど、私あいつらのプロフィール捨てちゃってたのよね。

失敗失敗。

猿も木から落ちて筆の誤りを犯したりするのよ。

まあ何事も前向きに。

 

監視なしで一日遊べるんだと思えばいいことよ!

そーよ。そうに決定。

・・・つまんない自己弁護はこのへんにしておいて。

 

さすがネルフ本部のお膝元。

高層ビルだらけ。

ま、今日のところは下見よ下見。夕方の飛行機にはまだまだ余裕があるし。

市内観光開始っと。

 

 

・・・さすが使徒迎撃都市。出来立てほやほやの町のことは有るわ。

何にも見所が無いじゃない。

ジオフロントは一般人立ち入り禁止だし。

あーあ・・・帰ろうッかな。

・・・なにあれ。

ガラスケースの中に小さなぬいぐるみがいっぱい入ってて、ふむふむ、上に付いてるマジックハンドを操作してこの穴に持って来て落とすのね。

楽勝じゃない。

んっと、一回100円ね。五回分まとめて入れれば六回分、と。

両替両替。

 

くっ、中々やるわね。

・・・よしっ、そこよ!つかんだ!

って、なんで横に動くときの衝撃がそんなにでかいのよ。落ちちゃったじゃない。

これは私に対する挑戦ね。そうよ、そうに違いないわ。

・・・。にやり

 

ごと、ごとん。

ぱっぱぱーん!

ファンファーレが鳴り、私の勝利を高らかに告げる。

ふんっ!私が本気になればこんなもんよ!・・・一個取るのに2000円使ったのは内緒。

さー次行くわよ。口元押さえた猿は取ったから次はこの耳押さえてるのと目元抑えてる奴ね。

三匹ワンセット。言わない、聞かない、見ない、猿って事らしい。

 

「よお、ちょっと金貸してくんねえ?」

・・・はぁ?誰よあんた。物乞い?

ああ、いわゆるカツアゲって奴ね。

さっき両替するとき手持ちの現金見られたのね。

札入れなんて持ってないからマネークリップで留めてポケットに入れてるのがアダになっちゃったか。

あんたらにやる金なんか無いわよ、このお金は私の血と汗と涙・・・は、あれ以来流してないから違うわね。

とにかく努力の結晶なんだから、見ず知らずのあんたらなんかに1セントユーロだって恵んでやるモンですか。

 

無視して行こうとしたらジャケットのすそを掴んできたのですそを掴んだ手を離せないようにジャケットで包んで捻って投げた。

ふん!気安く触るんじゃ無いわよ!

「てめえ!舐めてやがんな?」

ちっ、ぞろぞろと仲間が出てきた。さすがに多勢に無勢ね。

出口は、っと。くそっふさいでるか。慣れてるわねコイツら。

こういう場合は正面から当たるのは無理ね。

 

とりあえず、と。一番手ごわそうなの・・・あいつかな。

先手必勝!

いきなり駆け出し前蹴りをそいつの腹に。前かがみになったところを顔面に膝を入れて、一人殲滅。

「Einmal」(ひとつめ)

ついドイツ語で口に出して数える。

いけないいけない、どこから足がつくかわかんないんだから。

これから日本で暮らすんだしちゃんと日本語でね。

 

なっ、やりゃぁがったな。やっちまえ。

 

一斉に襲い掛かってきたのをゲーム機を乗り越えてかわす。

さすがに一度に来られるとやばいわね。

逃げるしても駆け出せば隙が出来るし、逃げ出す方向は塞がれてる。

塞いでる奴をヤルのに手間取ったら後ろから襲われる事になる。

参ったわね。ま、痛い目見たら逃げ出すでしょ。

 

と思ってたらコイツらきりが無い。

気を失わせた、と思っても手すきの奴が起こしちゃう。起きた奴はやる気満々で復活してくるから困ったもんだ。

さすがに続くと疲れるわね。くそ。

並んだゲーム機の上を身軽に駆け、加速しつつ飛び蹴り。

 

「うぉりゃーーー!!」

 

 

 

どがっしゃーーん!!

蹴った相手を足場に更に飛び、再びゲーム台の上に。

 

蹴り飛ばされた奴が派手に吹っ飛んでさっき私が遊んでたぬいぐるみ取り機に激突する。

 

「っざけんな!この野郎!」

 

さすがに今の一撃にびびったのか鼓舞するように声を荒げる。

 

 

 

なにが野郎よ!おとめに向かってェ!

 

 と、飛び移りつつ蹴り飛ばす。

  

そもそも!あんたらが因縁つけてきたんじゃない!あんたたちに文句言われる筋合いは無いわよ!

 

 

まったく腹立つわね。

ソロソロ誰か警察でも呼んでくれたかしら。

とどめ差して良いんならこのくらいの連中いつでも瞬殺できるんだけど、さすがに拙い。

いい加減辟易としてくる。

こんな事しにココに来たわけじゃないのに。

なんてこと考えたら集中力切れちゃって。

連中もいい加減焦れたのか、数人がなにか引っ張ってきてる。

・・・椅子・・?

!マズイっ

そう思った瞬間には奴らが数人で椅子を放り投げてきた。

足場を移そうと飛んでる瞬間をねらって。

避けるのも受け止めるにも出来ずに私の意識は切れた。

 

  


 

 

 誰かに抱え上げられた感触。

・・・硬い?

あんな奴らにやられちゃうなんて、アタシも焼きが回ったわね。

なんだか冷静だ。

これから酷い目にあうのは確定だろうケド。なぜか冷静。ちがう、安心?なんでだろ。

殺されることは無いだろうケド、最低輪姦されちゃうんだろうな。

うっすらと視力が回復する。

私を抱えてる黒い人が

 

 

「非致死性麻酔液射!」

 

ってさ。相手に向かって何かしたみたい。

 

 

「な、なんだこいつ」

「マジヤベエんじゃねぇか?」

 

などと言う声も聞こえる。

 

私を抱える手が片方離れて

 

 

「赤熱化」

 

 

と言うと、なんだか熱い。

 

ぼんやりした頭で私を抱いてる人を見る。

黒い・・・鉄?顔まで鉄で・・・目の部分のレンズから覗く目が凛々しい。

ああ、助けてくれたんだ。

そうなぜか確信すると、また私の意識は切れた。

 

 

 外伝3  了

インデックスへ

1