「綾波は嫌いな食べ物ってある?」

「・・・お肉。駄目」

「味が嫌いなんだ?」

「・・・違うの。じんましんが出るの」

・・・・・・

「昔、司令に連れられてホテルでお食事をしたときに、司令が美味しいから、とほとんど火の通っていないお肉を注文したの。そのときに・・・」

「牛肉アレルギーかぁ・・・」

「・・・そう・・・。そのときのお肉でO157に感染したらしいの」

それ以来、お肉を食べると駄目なのだ、と

 

・・・衝撃の告白であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンジのススメ

第拾壱話

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、スーパーでお買い物の二人。

「ろくな事しないねぇ、父さんも」

「・・・麺類は好き」

「うどんとか?」

「ラーメン・・・」

「ラーメンかぁ・・・」

スーパーの商品棚を見ながら

「ラーメンはまた今度にしようね。スープとかちゃんと作れば凄く美味しいの作れるから」

ちょっと残念そうに頷き、

「にんにくも好き・・・」

と言うレイ。

(・・・女の子でにんにく好きって公言するのって普通なのかな?うーんよくわかんないや)

「じゃあ、にんにく料理にしよっか。」

 ひょいひょい、と、にんにくをカゴにいくつか入れる。

「青森産のが美味しいんだよねぇ」

どうやら修行に自炊も含まれていたようだ。

 

 

 

 

 

 

フライパンにエキストラバージンオリーブオイルをたっぷりいれ、みじん切りしたにんにくを入れ赤唐辛子を一本丸ごといれてから、とろ火にかける。

「焦がしちゃダメなんだよ」

油で煮る感じで、と言いつつパスタの茹で具合を見る。

「麺は細めでデュラムセモリナ種100%の奴なら何でもいいから」

 レイに教えながら、と言うのは

 

「・・・ご飯って自分で作れるものなの?」

 

 と言う発言からであった。

 

赤唐辛子を取除き、茹で汁を少し入れる

 「これでね、もう味付けもいらないんだ。胡椒を振るくらいかな?茹で汁にお塩が入ってるからね」

水と麺と塩の分量は100:10:1ぐらいだね、と中々細かい。

「オイルの乳化さえ上手くいけばもう失敗することは無いよ」

と麺をフライパンに放り込み、手早くかき混ぜる。

刻みパセリを入れすぐに皿に移す。

 

「はい、出来上がり。簡単でしょ?さ、食べてみて」

 

 

 

・・・いい香り

にんにくラーメンのとはまた違ういい香り。

フォークで麺を巻いて口に運ぶ。

ぱく。ちゅるり。

あむあむ。んっくん。

おいしい・・・。

 

 

 

 

「ねえ綾波、美味しい?」

こくこく

「そう、よかった」

あむ。もくもく。こっくん

「おいしい・・・」

 

アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ(Aglio, Olio e Peperoncino)。一般にぺぺロンチーノで名が通っているパスタ料理の定番中の定番である。

直訳すれば、「にんにく、オイルと鷹の爪」というなんとまあそのマンマだなと言う名前。

事実それ以外の材料はイタリアンパセリぐらいで他には何もいらないシンプルなもの。

具の少なさから「絶望のパスタ」とも呼ばれるが人気の一品。

シンプルだから難しい、誤魔化しきれない料理。

 

 

 

 「じゃ、次はこれね」

小皿ににんにくが丸ごと。粒でなく、丸ごとである。だが皮は剥けている

「にんにく好きだって言うからさ、こんなのも作ってみたんだ」

 

よく見ると油で揚げてある。まるごと油で煮て、皮だけ剥いたのである。

 

「一粒づつとって食べてね。このお塩つけて」

岩塩にパセリやバジルの細切れが混じっている。

恐る恐る手を伸ばす

あむ。もくもく。

こっくん。

「おいしい・・・」

 

じゃ、次はこれね、と

「鯛の切り身に塩コショウとタイムを振って、2,3分置いて、さっきみたいに刻みにんにくを油で煮てそこ入れて焼くんだ。揚げるみたいにね」

 両面焼いて、白ワインを差して蓋をし、火が通ったら出来上がり。

 

「・・・おいしい」

 

お皿に残ったソースはパンでふき取るようにして最後までね、と言ったところに

「ただいま、あらいい香りね」

「おかえりなさい」

「・・・おかえりなさい」

「これシンジ君が?」

レイの前の皿を見つつ言う。

「・・・赤木博士のと同じくらい美味しいの」

「すぐ出来ますからリツコさんもどうぞ」

「いただくわ」

 

 

 

 

 

 

「あら、いけるわね」

「ありがとうございます」

「これから任せちゃおうかしら?」

あはは、と

「そんなにレパートリー無いですよ。所詮男の料理なんですから」

「でもいい味よ?あ、そうそういいワインがあるのよ」

とワインセラーから白ワインを持ってくる。グラス三つと。

 

「これなんだけどね。試してみる?」

「・・・いいんですか?」

未成年に保護者が率先して飲酒を薦める。

「別にかまわないわ。明日は実験も無いし。」

「・・・いただきます」

嫌いではないし、と

「レイはどう?一回飲んでみる?」

多少逡巡してから

「・・・少しだけ・・・」

 

 

「ヴォルペ パシーニの白。お魚料理によく合うわ。まあ言ってても始まらないから試してみて」

 

美味しいワインだった。

「高いんじゃないんですか?」

ちびちび

 「いいえ、買ったときは3千円だったもの」

こぽこぽ

「手ごろな値段ですね」

くぴくぴ

「高いのが飲みたいのならセラーの奥にもうひとつ部屋があるからそこで見繕ってらっしゃい」

こぽこぽ

「いや、そんなには飲まないですから・・・って綾波?」

くぴくぴ

「そんなに飲んで・・・。大丈夫?レイ?」

「だ〜いじょぶじょぶじょぶ。へっちゃらよぉ」

「あ、アヤナミサン?」

「なぁによお」

「・・・酔ってるわね、これ以上ない位」

「どうしましょう」

「よってないっていってるれひょ〜」

言ってない言ってない

「性格・・・変ってるわね」

空になったワインのビンを名残惜しそうに引っくり返して覗くレイ。

「酒乱・・・?」

「いかりくぅ〜ん、もう一杯ちょうら〜い」

横に座るシンジにしなだれかかるレイ。

「ま、ミサトに比べりゃ可愛いものね」

「な、落ちついてないで助けてくださいよ、リツコさん」

「ま、グラス3杯くらいならアルコール量も知れてるわ。しっかり介抱してあげてね♪シンジ君」

「よって・・・ないわよぅ・・・ぐぅ」

「寝ちゃいましたね・・・」

シンジの肩にあごを乗せたまま寝入ってしまったようだ。

「そうね・・・」

「部屋まで連れて行ってきますね」

「まだ襲っちゃ駄目よ?」

「そんなことはしません」

まじめねぇ。冗談よ、と笑うリツコの声を背に部屋へ連れていく。

 

 

 

「あんなにお酒に弱いとは思いませんでした」

「中学生だしね。そのうち強くなるわ。シンジ君は酔って無さそうね」

自分と同じ位は飲んでるはずだ。

「ええ、薬物には耐性を付ける訓練もしましたから」

それに、と

「どうも顔に出ないタチらしいんです」

(あの人と一緒ね)

と、くすりと笑う。

 

「ドイツから弐号機とそのパイロットが明後日到着する予定だったんだけどね」

「だった、ですか」

「ええ、使徒の影響でね。今来られても受けいれ出来ないから沖縄で停泊して調整中。初号機の整備と事後処理その他が済まないとね」

入港は未定、だそうだ。

でね、と

「ミサトがね」

「何かあったんですか?」

「ええ、あなたの技量の確認をしたいって。明日、本部内の武道場で体術の手合わせをして欲しいそうよ」

「ええ、いいですよ」

後片付けをしながら言うシンジ。

「悪いわね、ミサトに付き合わせちゃって」

「いえ、自分たちの、いえ人類の命運を預かるんですからそれなりの力を示さないとどこからか反発が来るでしょうから」

それは誇示しておいた方がいいでしょう、と。

 

 

 

  

 

 

 

 

「おはようございます、葛城一尉」

「おっはよーシンジ君」

朝から元気が良い。寝起きの悪いとの噂であるが。

「昨日事後処理で徹夜しちゃってさぁ、相手するのちょーっちツライのよねン」

起きっぱなしの様である。

 

 

 

武道場

「で、替わりにこいつらがお相手してくれマース」

「こいつらとはひどいですよ、葛城一尉」

そうだそうだ、と不満の声。嬉しそうだが。

どうやらこの系統の男連中に人気が高い様である。

 

保安部 警護課所属 森岡達也二尉及び彼の率いる、要人警護中隊総勢160名の面々である。

 見るからに産まれてこの方体育会系一筋と言った奴らばかりである。

 

 

「で、シンジ君」

はい?と聞き返すシンジ

「何人くらい相手出来そう?」

「言わないと駄目ですか?」

「実際シンジ君の限界がどのあたりなのか知っときたいのよ」

「ですが、零式には・・・」

「ん〜?なに?怖気づいた?」

まさかね、と思いつつ聞く。が

ミサトに耳打ちする、全員お相手出来ます。しかし、

「零式では手合わせできないんです。当れば即、死に至りますから」

「そ〜れはちょ〜っち拙いかなぁ」(汗)

「零式の鍛錬をはじめる前に身体造りにと、幾つか他の武術を学ばされましたから、そちらでかまいませんか?」

「・・・じゃ、それでお願 「葛城一尉!」 ・・はいなんでしょう・・・」

「我々にも面子ってぇもんがあります。一対一で相手させていただきたい!」

 

あ〜ヤッパそう来るわよねぇ、と

(このシンジ君が変な鎧つけて使徒に徒手空拳で向かっていったとは思わないでしょうしねぇ)

「わかりました、じゃあどなたかシンジ君と手合わせしてもらえるかしら?」

「はい!よっし、皿田!お前からだ!」

「はいっ!」

(お前で終わらせろよ)と耳元でささやく。

「おおっす」

 

「面白くなってきたわね・・・」

いい肴になるのに、惜しいわ。ビールがないのが。

 

 

第拾壱話  了

 

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