「施設部かしら?」
「そうね。あと保安部の警備課もね」
リツコは薄く笑みを浮かべ額に青筋が浮かんでいる。
ミサトは、と言うと脇から銃を取り出しスライドを引き薬室内に装弾されているのを確認してまた戻す。
両者怒りモードに突入。
施設部及び保安部の命運やいかに。
シンジのススメ
第拾話
司令執務室
「いやはや、ここまで酷かったとはな」
「許容範囲だ。組織の膿みをその程度で出せたのなら問題ない」
「そうだな、監査に引っかかるよりはマシか。自ら組織を立て直した形だからな」
無駄に広い部屋にゲンドウと冬月の声が響く。
「それにしてもあの二人だけでここまでやるとはな」
「冬月先生、ご存じなかったのですか?」
すこし意外そうにゲンドウは問う。
「なにをだね?」
彼女達の経歴ですよ、とニヤリ。
先ずは証拠固めと逃げ道を塞がないとね、とミサト。
作戦課長の頭脳が回転を始める。
「MAGIによる査察に引っかかってないわ。だから帳簿上は帳尻合わせてるはず。どこから攻める?」
「先ずは施設部からの発注計画書と発注先の仕入れとウチへの納入品とのチェックからね。食い違いが無いようにしているだろうから」
そうね、まず発注品の返品率の低いほうから見せて。と
何故?とも聞かずMAGIを操るリツコ。
「出たわ。建設初期から現在に至るまで、返品率の低下はおもに建設後期に集中してるわね」
「ふっふ〜ん。うまく隠してる様子だけど、綺麗過ぎるわね。これなんか見て。このパーツ。この時期集中して同じものを大量発注かけてる。でもそれ以降はまったく無し」
「それ以上は必要なかったから、じゃ無いわね」
「そ、綺麗に発注かけて、綺麗に納品。入金も速やか。でもね」
画面をスクロール
「まったく返品が無いのよねぇん」
「すごいわね。普通はどんなに頑張っても必ず不良品が出るわ」
とニヤリ。
(う・・・司令のがうつったのかしら)
ちと顔が引きつるミサト。
どんなに工業製品の精度が上がっても返品率ゼロなどはありえない。
「もしこんなに優秀な生産技術があるトコなら次から其処に頼むわ。予算も限られてるんだし」
じゃ、その線で書類を洗い出すわね、と指先を動かす。
「そのたぐいの発注が増えたあたりのを担当者名も詳しくね」
じゃ、保安部の方、先にかたぁつけてくるわ、とさっきの画像データを収めたメモリーをひらひらさせながら出て行くミサト
それを見送りながら
「昔を思い出すわね、ふふっ」
保安部部長室
「ちゃ〜っす。戦術作戦担当の葛城一尉っすけど〜。先の作戦時の不手際、ナシ付けにきましたぁ〜」
「な、か、葛城君、もうちょっとキチンとした挨拶をだなぁ」
保安部所属、小林保安部長。
旧ゲヒルン時代からの生え抜き、今時珍しい現場叩き上げの管理職である。
「・・・マジメに仕事して無い連中に言われたか無いわね」
「なんだと?」
どういうことだ?と言いつつ仕事机の隠しボタンを押す。
これで外部から聞き耳を立てられることは無い。
「あんたんとこの警備課の連中が職場放棄してる件についてよ」
単刀直入
「・・・詳しい話を聞かせてもらおうか」
「これは・・・。」
さっきの画像を執務室に据付の端末に出す。
「どぉ?あんたのとこの子達にはシェルター出入口の警備は職務じゃないって事?」
「・・・申し訳ない。私の管理ミスだ」
潔いわね。でもね
「もうコトは起きた後なのよ。言い訳は聞かないわ。落とし前つけてもらうわよ」
とりあえずシェルターの警備担当責任者を呼び出し締め上げる。
はじめは「異常が見受けられたので、確認のためその場を離れていた」と報告を受けている、と言い張っていたが。
画像を見せ
「職場放棄じゃなく、敵前逃亡で軍法会議」
作戦行動中だからね、と言う言葉に饒舌になった。
「後はそっちが本職でしょ」
と引っ立てるのは任せる。と
「作戦行動時のうちの動きを見るための諜報活動たぁねぇ」
呆れた。そういったものを取り締まるべき保安部内でそういったことが起きるとは。
(能力だけであっちこっちから引き抜いてるからそういうことになるのよ)
「で、小林ぶちょお〜〜?ちょ〜っちお願いがあるんだけど」
「な、なんだね」
「フル装備で一個小隊ほど貸してくんない?信頼できる奴らのみで」
メイン通路を一個小隊引き連れて歩くほど馬鹿じゃない。何事があったのかと飛び出してこられても困る。
連絡したとおり、所定の場所までツーマンセルで行動。作戦開始時に集合するよう指示しておく。
「リツコぉ。こっち取り合えずカタぁつけてきたから。そっちの方はドウ?」
「もう済んでるわ。いつでも良いわよ」
「目標は?」
「施設部資材課の安藤課長、同じく運用管理課平野課長、そしてこれが一番の大物ね。
施設部、岩尾本部長」
それはそれは、適度に大物だ。
「司令の名前でも出てくるんじゃないかと思ってたんだけどねぇ」
「馬鹿言わないで。そんな事させるほどお金に困らせてないわ」
「はいはい、良い奥さんねぇ〜ダンナ様に財布の中身の心配させないなんて」
そう、リツコは金持ちである。
自ら取った特許や、実用新案等の管理を行なう会社や、それらを使った製品を製造する工房。母からの遺産もかなりの物である。
「う、うるさいわね、まだダンナじゃないわよ!」
「そ〜ね〜、マダね」
くっくっく
「まあいいわ。準備、出来てるんでしょ?どこ?」
「今はメイン通路だけど。集合は“上”の施設部の1階ロビーよ」
第三新東京市のビル街は兵装ビルと通常のビルとが混在し、有事には通常のビルは地下に潜り兵装ビルが顔を出す。
「ここのコーヒー美味しくないわね」
ネルフの地上での一番の働き者達の集団、施設部。
その活動の幅は広く仕事は速い。
戦闘で吹っ飛んだ建物その他の再建はもとより、倒された使徒の解体処理や某団地の解体工事まで様々である。
「まあ、ここいらの連中はコーヒーより酒だから」
「でしょうね」
いよっ!葛城一尉また今度みんなで飲みに行きましょうや!などと言いつつ去っていくオヤジを見ながらリツコ。
「気のいい連中ば〜っかなんだけどねぇ。親玉はどこも一緒かぁ」
時計を見つつ、
「そろそろね」
とリツコ。
じゃ、おっぱじめますか、とミサト。
さて、と腰を上げ
「総員整列!!」
あちこちから鞄から小銃を、防弾ヘルメットを、クリアーシールドを、取り出し装備していく者達が現れる。
瞬く間に一個小隊40人が並び指示を待つ
「施設内部の構造、把握してるわね?
じゃ、第1は資材課課長、第2は運用管理課長、残り第3と第4分隊は私と一緒に施設部本部長の各執務室前で待機」
リツコが前に進み出て説明を行なう。
「基本的に身柄の確保だけでかまいません。
抵抗したら非致死弾でも撃って差上げて。
各執務室にて所在は確認してあります。
罪状は業務上横領及び、未必の故意による殺人未遂、それに伴う利敵行為による反逆罪の適用も有得ます」
反逆罪の適用、と聞き周囲からざわめきが起こる。
反逆罪とされたら“最低”でも銃殺である。
「使徒殲滅の責務はつまんない我欲に邪魔されてはいけないの。見せしめも兼ねてもらうわ」
それでは状況開始!とミサトが叫び駆け出し、それに続き各分隊、指示通りの行動に移す。
それを見送り、さて、と受付に歩くリツコ。受け付け嬢達の顔が凍っている。
「アポイント無いんだけど、いいかしら?」
「第1第2分隊から、展開完了との事です」
第4分隊、分隊長 秋山サオリ曹長がミサトに告げる。
ん、と頷きリツコに伝える。
「りつこぉ?いいわよぉ」
「はい、そうです。赤木技術部長がおいでで・・・」
「かわって頂戴」
脂汗を流しながら面会を伝えようとするが脇からリツコの手が伸び受話器を奪う。
「岩尾本部長?お久しぶり。ちょっとオイタが過ぎましたわね。先の戦闘であなた方の発注の手抜き工事、及びそれに伴う業務上横領、発覚しましたわよ?」
『そ、な、何の事だね。ワシにはそのような 「ネタは全て上がってます。司令じきじきのところを私がそれなりに穏便に済ませて差上げようとまかりこしましたのに、門前払いですか?」・・・も、もし君の言うことが本当でわ、たしに濡れ衣をかぶせ様として、だ。き、君には警察権も何も無いだろうが!越権行為もいい所だ」
あらやっぱりね。
と受話器から携帯にスイッチしてミサトに言う。
「予想道理ね」
『あ〜ヤッハ゜シね。じゃ、』
「ええ、あとは任せたわ」
『だいたいだな、監査部の誰からもそのような調査が入るなどと連絡は貰っておらんぞ』
あら、監査のほうにもメス入れないと駄目かしら、と思いながら
「本部長?私は出直してきます。確かに警察権もなにも、私は持っておりませんから」
『あ?ああ、そうか。わかった』
言うが早いか不愉快な電話を切る。
「はい、おしまい、っと」
あとはミサトにお任せね。と
「安藤君、アレほど隠蔽工作は徹底しろと言っていただろうが!」
電話の向こうは同じ穴の狢(ムジナ)の安藤資材課課長。
いい訳めいた言葉を出す前に電話の向こうは静かになった。
(びびって声も出んか?まあいい。赤木部長が保安部を引きつれて来るまでに、ここから出て第2に逃げこめばなんとかなる)
と、ノックの音。
「なんだ!」
声が荒げられる。
「岩尾本部長、ご所望された品、お持ちしました。ご確認を」
なにをだ?
「はいれ」
シュッと開くドア。
駆け込んでくる保安部員。
その間を通り、赤いジャケットの指揮官が進み出る。
「岩尾本部長、業務上横領、殺人未遂、及びネルフに対する反逆の容疑で身柄を拘束させていただきます」
「な・・・」
「ちゃ〜んと警察権も委任されてきたからキッチリ落とし前つけてもらうわよ〜〜?」
連れてってと言い携帯で
「あ、リツコぉ?オツカレ。状況終了。後は司令にお任せね♪」
再び司令執務室
「どんな経歴なんだ?」
「ちょうど10年前、大学の教授連中の過半を首にして挿げ替える結果になる内部告発事件がありました。記憶されていますか?冬月先生」
「ああ・・・昔の知合いも巻き込まれて職を失っていたからな。詳しくは知らんが」
「あれの首謀者、と言うか内部告発の成功の立役者です。彼女らは」
ほお、と感心する冬月。
「あそこの大学は設備も環境もいいが教授が馬鹿だったからな。研究成果の吸い上げばかりしておるやつとか」
研究員の成果を自分の物だとして発表する。そんなことや予算より遥かに安い研究材料しか使わせて貰えない、などが日常化していたのだ
「あの男の調べ、赤木君の分析、葛城一尉の作戦行動でね。瞬く間だったそうです」
はっはっはっ
「心強いものだな、昔からだったとは」
あの三人組みが。その調子だったとは。
「今回の件、どう処分する?」
「きっちり調べ上げて、交渉に使いますよ。どうせ“第二”の連中のさしがねでしょうから」
「お前にも横領する気持ちがあったのではないかね?」
「ええ、赤木君に睨まれましたからね。止めました。私自身に必要な資金は十分賄ってくれましたから」
そうか、と冬月。
お前も罪な男だな?碇よ。ユイ君が戻ってきたらどうするつもりなのだか。
「ねえ綾波、美味しい?」
こくこく
「そう、よかった」
あむ。もくもく。こっくん
「おいしい・・・」
戦闘終了後、帰る足がないのでリニアでホ゛チホ゛チと帰る。
その途中スーパーに寄り食材を買い込む。
「リツコさん、今日は帰れそうにないからね」
「綾波は嫌いな食べ物ってある?」
「・・・お肉。駄目」
「味が嫌いなんだ?」
「・・・違うの。じんましんが出るの」
・・・・・・
「昔、司令に連れられてホテルでお食事をしたときに、司令が美味しいから、とほとんど火の通っていないお肉を注文したの。そのときに・・・」
「牛肉アレルギーかぁ・・・」
「・・・そう・・・。そのときのお肉でO157に感染したらしいの」
それ以来、お肉を食べると駄目なのだ、と
・・・衝撃の告白であった。
第拾話 了