突発的思い付き短編

 

 

シンジのススメ外伝

 

 

その頃のアスカさん

 頃の弐 アスカ、来日

 

 

 

 

 

台湾とフィリピンの間のバシー海峡。

今そこに、北海に面したドイツの軍港都市、ウィルヘルムスハーフェンよりはるばる地球を半周してその堂々たる偉容を見せつけながら進む艦隊がある。

国連海軍大西洋艦隊所属、正規空母オーバーザレインボーとその随伴艦達である。

国連海軍大西洋艦隊。

その構成は旧米海軍の大西洋艦隊のそれを引継ぎ、艦艇186隻、作戦航空機1300機を保有。それに加え、本来モスポール状態で保存されていた旧大戦の遺物とも言うべきアイオワ級戦艦4隻も含まれていた。

もっとも、今回の弐号機の輸送に使われている艦の主な陣容は正規空母1、戦艦2、巡洋艦2、ミサイル巡洋艦1、ミサイルフリゲート艦1、駆逐艦4、イージス巡洋/駆逐艦1その他補給艦等、戦力的には中規模国家と同等であろう。

旧米海軍 大西洋艦隊の中心、第2艦隊はそもそも訓練、予備兵力としての立場であったため、先のセカンドインパクト時の戦乱期を終えてもその偉容は左程減らしておらず、米国の維持予算の不足を持って国連に押し付けられたのである。

 


 

「あ〜つまんない。どっちを向いても海、海、海。もうおかしくなっちゃうわ。そもそもなんでパイロットまで船便なのよ!」

オーバーザレインボーの甲板上の柵にもたれて文句をたれる。

もっともである。まあ、裏にある理由は聞く事はないであろうが。

「まあそう言うな。船の連中もよくしてくれるんだろ?」

「そりゃね?男女の比率が9:1なんですもの。いくらちっちゃいからって言っても女は貴重品扱いね、でもね」

そう。長期間の航海を行なう艦隊内部には娯楽が少ない。そこにやけに激しく動き回る少女である。格好のおもちゃであろう。

「なんでみんながみんな私の事“マァム”って呼ぶのよ!」

はっはっは

「アスカ、今の国連大西洋艦隊は装備こそ旧米軍のおフルだがね、中身はイギリス海軍のそれなんだ。所謂“女王陛下の”ための、ね。民間の女性たちは彼らにとってすべからく“マァム”なのさ。幾つであってもね」

「ふーん」

そこへ

《告げる!加持一尉、至急艦橋へ》

「いつもながら色気の無い艦内放送だな」

と、苦笑しつつ足を向ける。

「あ、あたしもついて行こっと」

「呼ばれてないと艦橋には入れないぞ?」

「いつでもおいでって言ってくれたも〜ん」

 


 

「加持一尉、入ります」

「惣流アスカラングレー、入りまぁっす!」

「許可する」

艦長が重い口調で声を返す。

「おお、嬢ちゃんも来たか。まあこっちにおいで」

「司令、作戦行動中、しかも当直中に、お止め下さい」

艦長が諌める。

「む、そうじゃな。また今度な、嬢ちゃん」

 

艦隊司令、アーノルド・F・カーライル少将

孫ほどのアスカを大変気に入っている様だ。

「ワシの子や孫は男ばっかりでな」

ほうほう

「ネルフは好かんがあの娘は気にいった!孫の嫁になってくれんかの」

だそうである。

 

「呼び出したのは他でも無い。予定の変更が来た」

「へぇ、弐号機の輸送予定を変更するほどの何かが起きましたか」

「そうじゃ。」

「使徒が出たそうです」

「また、か。かなり間隔が早いな」

「一応殲滅は成功、しかし事後処理に相当時間がかかると言う話で受入れが出来んそうだ」

「で、どっかで暇を潰せと?」

「ああ。ま、このあたりで一番近いのは台湾で 「オキナワよ!」・・・なるほど、それもありか」

「ふっふ〜ん、ね?世界で一番美しい珊瑚礁とうたわれた沖縄に寄らずしてト゛コによるのよ!」

距離的には台湾が一番近い。だが乗組員の慰安も兼ねて、と言うなら沖縄は最適である。

「どうせこの任務が終るまでは他のことは出来んしな。ま、台湾も沖縄もネルフ本部から見れば似たような距離じゃしの」

「やったぁ!司令ありがとー!」

 


 

士官個室

「とは言った物の・・・」

アスカに与えられた個室である。

「焦らされるって〜のは落ちつかないわね」

未だ封を切っていない封筒をひらひらさせながら考える。

 

「ま、後悔の無いようにな」

 

「って言われてもねぇ・・・」

ベッドに倒れこみ寝返りを打つ。

予め知識を持っていたほうが良い場合もあるし、逆の場合だってある。

「よしっ」

ビリビリビリッ!

細かく破いて捨てる。

「私の主義じゃないわ!自分の目で見て!感じて!判断するのはそれからよ!」

取り合えずオキナワでバカンスよ!

 


 

「ジャイアントストライドエントリ〜!」

ざっぱ〜ん!

「加持さーーーん!早く早くゥ〜〜〜!」

やれやれ、と

「あんまり興奮すると潜水時間が減るぞ?」

わかってますって!とレギュレーターを咥えなおす。

 

「まさかアスカがCカード持ってるとはね」

「当然でしょ!興味のあることに手ぇ出さないのは主義じゃないわ」

「じゃ、加持さん!バディよろしくね!」

 

沖縄は那覇の旧米軍那覇軍港に入港したその足で地元のダイビングショップで機材を借出し(軍の機材にはアスカサイズのものは無かった)ドイツからこっち、オーバーザレインボーと輸送船オセローとの連絡用に使っていたネルフドイツから一緒に出向して来たヘリ、EC145で嘉手納基地へ飛ぶ。

 

ユーロコプター社製 EC145 

1999年6月12日ドイツで初飛行、2号機は日本でという妙な経歴を持つヘリである。

なんにせよアスカお気に入りのヘリである。

「軍用と違って、乗り心地良いのよ」

なるほど・・・。

 

ソフトタイプの珊瑚が多く見られる嘉手納周辺の海は意外に穴場のダイビングスポットである。その証拠にエントリーしているほとんどが日本人ではない。

「基地で船借りて乗ってきてもよかったかしら?」

「だな」

ここの防波堤は階段状になっている部分もあるのだ。加持にしてみればどちらでもよい。

「さ、行くか。見所はちゃんとチェックしてきたよ」

「やった〜さすが加持さん!」

 


 

「あ〜凄かった〜。あそこまで綺麗な海だとは思っても見なかったわ。ソフトコーラルの波に揺れる姿は忘れられないわ!」

「だろうな。ドイツの常冬の海とは色からして別物だ」

「それにそれに!イルカがあ〜んなにソバまで来るなんてぇ!」

「イルカがこのあたりで見られるのはほとんど無いそうだ。ついてたな、アスカ」

「ええ!や〜っぱ日ごろの行ないよねぇ!」

と加持をジロリと見る。

「加持さ〜ん?女の人泣かしちゃ駄目よぉ?」

「なっ!」

「ドイツ出るとき見ちゃったも〜ん。しかも三人。」

幻滅しちゃったわ

「最後だからと告白されたのを断っただけなんだがなぁ」

「またまた〜。ま、いいわ。本部に着いたらいろいろ手伝ってもらうこともあるだろうからそれでチャラね」

「おいおい、ドコにそのネタ言うつもりだったんだ?」

「ミサト、元気にしてるかしらねぇ」

しばらく前までドイツで研修していた葛城ミサト。日本の本部に戻って戦術作戦担当になったらしいけど。

咳き込む加持にヤッパリねと思う。向こうに居たときの加持の彼女を見る眼は恋人のそれだと感じてはいた。

憧れは憧れで良いか、と納得させるには不充分であったが。

「ま、人生いろいろあるわよ」

 


 

強くなったもんだ。

あれからそう時間もたっていないのにこっちが引っ掻き回される始末だ。

天才少女の名に恥じないってことか。

「第三への到着期日は未だ未定だ。どうする?このままでも良いがここからなら弐号機を置いて先に飛行機って手もあるぞ?」

緊急に弐号機を起動って事になっても一時間で着く。

「それも良いわね。ま、状況次第ね。沖縄観光に飽きたら考えるわ」

次の使徒がすぐ出るわけじゃ無さそうだし、と。

落ちついてきたな、使徒の話題を軽く出せるようになったか。

「それに〜、早く向こうに行きたいのは加持さんのほうじゃないのぉ?」

クックック

そうくるか(汗)

「いやはや、アスカはもう俺の手におえない様になっちまったか。寂しい限りだ」

「どういういみよぉ」

クスクス

「そう言う意味さ。そうそう、俺が渡した資料、どうせ読まなかったんだろ?」

「!よくわかるわね」

まあな、何年も付き合ってきたんだ。行動パターンぐらい多少は読める。

「知らない人の目で見た、調べたことなんかより自分の目で見て判断する。それも良いがな、それは自分の見たいようにしか見ないって危険性もあるんだ。気をつけろよ」

わかったわよう、と見透かされたのを悔しそうに、だがどこか嬉しそうに、ほおを膨らませる。

「俺達がアスカぐらいの時は・・・」

「ときは?」

「セカンドインパクト直後でな」

・・・・

「食い物の奪い合い、騙しあい、日常茶飯事だったのさ。同じ街中で違うグループと対立してな、結構デカイ喧嘩をしたりもしたのさ。それこそ死人も出るほどにな。そんななか、食糧を隠しておいた倉庫が襲われてな。たまたまその場に居なかった奴らがそれの先導をしたんだと、疑われた。死活問題だったからな、見せしめも兼ねてリンチさ」

息を呑むのがわかる。そんな経験はアスカには無いだろうからな。

「結局襲って来た連中は俺達のあとをつけていただけで無実だった。

俺達がもう少し落ちついて周りを見ていればそんな間違いは起きなかっただろう。

わかるかい?思い込みってのはそれこそ死に繋がるんだ。

誰々がそう言ったから、と鵜呑みにしないで裏を取る。常に俺はそうしてきた。

そうやって生き延びてきた。嫌な経験があったからこそ、な」

「加持さん・・・」

「人間は経験を引き継ぐことが出来る。言葉で伝えることでな。

それこそが人と他の生き物とを分かつ一因だと、俺はそう思ってる」

「・・・うん」

「わからない時はちゃんと聞け。わかってもらえない時はちゃんと言え。話を聞いてくれる奴、話を聞かない奴、話を聞いてもわかってくれない奴。いろいろいるだろうがな」

勝てない、負けたくない、もう駄目だ、と言うときにも

「以外とどうにかなるもんさ」

伝えることが出来るなら。

 

 

 

だからな、

 

 

 

自分から負けたと思うんじゃないぞ?

 

 

外伝2   了

 

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