「まあ無いものねだりは言っても始まんないわ。行くわよ」
緊張が走る。
「エヴァンゲリオン初号機、発進!」
カタパルトから火花が飛び、初号機がゆく。
「碇君・・・」
幼い心の思いを背負いつつ。
シンジのススメ
第九話
発令所
緊張が空間を支配する。二度目とはいえ負ければお終い、緊張するなと言うほうが無理だ。
それでも各々の職分を全うすべく動き出す。
「初号機、地上に出ます」
「ダミー展開、よろし」
日向と青葉が報告する。
「兵装ビル、射撃開始」
「了解、兵装ビル射撃開始」
ミサトの指示を復唱、射撃開始。
「ダミー展開完了、初号機配置につきました」
兵装ビルからの攻撃が着弾し始める。
「ダミーを前進させて」
「了解、ダミー前進」
「シンジ君、ATフィールド展開、射撃開始」
「了解」
「!使徒が・・・変形していきます・・・」
水平飛行から直立状態に移行した使徒が光る触手を伸ばし始める。
駄目だ。ここに居ちゃイケナイ。
戦士の勘が告げる。
「離脱します!」
言うと返答も待たずに飛びのく。
シュババババッ!
目の前にあったビルが切り刻まれる。
ダミーには目もくれず、シンジの居た場所を手前にあったビルごと切り刻んだのだ。
「な・・・」
硬質コンクリートと特殊装甲版で覆われた兵装ビルを瞬時に切断するなど、想定外だ。
使徒を中心に円を描くように移動する初号機。
足を止めずに、ビルの隙間から使徒が射界に入る僅かな瞬間を縫って、撃つ。
「ATフィールドは?」
「中和されています」
ミサトの問いかけにマヤは即答。
着弾はしているのだ。
やばい。
「効いてないわね」
ここまで黙っていたリツコが呟く。
(わぁってるわよ、でもあの鞭は厄介ね。接近するにしても威力が半端じゃないわ)
使徒の武器は触れるだけで装甲ビルをも寸断する触手。エヴァですら危険であろう。
常にエヴァと正対しているため、前回のような攻撃も使徒に届く前にエヴァが切られてしまうだろう。
「ミサトさん」
シンジから通信が入る。
彼の意図がわかってしまう。辛い。が
「許可します」
「了解しました」
ライフルを地面に置き、ケーブル切断。
「リツコぉ、ゴメン」
仕事増やしちゃう
「ミサト?あなた、何を・・・」
使徒に向かい駆け出す初号機。
鞭が伸びる。
「フン!」
ガシッ!!
触手を一本ずつその手に掴む。
「よし!」
つい声をあげてしまうミサト。
「両手の平にATフィールドの展開を確認・・・」
呆然としながらマヤが報告を上げる。
「でもあのままじゃ攻撃に移れないじゃない!」
声を荒げるリツコ。珍しい物を見るようにミサトの目が笑う。こんなときに。
「大丈夫、多分」
おそらくシンジ君の考えは私と同じ。やり方は違うでしょうけど、と。
彼の力量全てを知るわけでは無し、だが委ねられる。
「後のことは気にせずやっちゃって!シンジ君!」
「応!」
手のひらが焦げる感覚。
しかし
この身がどうなろうと問題無し!
任務は必勝にあり!
僕の身体は必勝の手段!
「拳が使えなければ戦えない訳で無し」
掴んだ触手をそのままに加速!
頭から使徒のコアに突き進む!
「零式積極肉弾!!」
使徒の身体を突き抜け、そのまま着地。
わが身は牙を持たぬ人の剣なり
掴んだままの触手が初号機と共に使徒自身を貫き通す。
コアを砕かれ、使徒は活動停止。なのだが。
掴んだままの触手に引かれ使徒の体が飛ぶ。
振動
使徒が山肌に激突。今度こそ活動を停止する。
「パターン青、消滅!」
「使徒の殲滅を確認!」
わっ、と沸く発令所。
そこに、使徒の右、山腹の神社の境内からの映像が映る。
「使徒付近に民間人が!」
マヤの悲鳴のような報告に焦る。
「すぐ保安部を行かせて!マヤちゃん照会して!」
映像記録から第三新東京市民の登録台帳を検索する。
「・・・あの二人」
「知ってるの?レイ」
検索が終る前にレイが呟く。
私たちのクラスの子・・・と
「出ました!相田ケンスケ、鈴原トウジ。・・・シンジ君のクラスメートです・・・」
ネルフ保安部 取調室
状況1 相田ケンスケの場合
「あんたねぇ!なぁ〜〜〜に考えてんのよ!」
せっかくの勝利に水を差して!
シンジ君の頑張りを!
「もうちょっとであんた達、見分けもつかないくらいに肉片だったのよ!?」
私達が、シンジ君が、誰のために頑張ってると言うのか。
「せっかく使徒を倒せてもあんた達が表に出てたらねぇ!」
そうだ。
「・・・シンジ君が可哀想じゃない・・・」
「あいつが可哀想ってなんだよ・・・コッチが死にかけたのに」
急に声を潜めるような言い方につい声に出して意見してしまう。
切れた。
自分勝手な言いぐさに
一閃
メガネの少年の頬にミサトの拳がめり込み硬いものが彼の口から飛び出す。
「放りこんどいて!あとで相田経理課長に引き取りに来させて!」
部屋を出る。次だ。
状況2 鈴原トウジの場合
「あなたの場合、彼にそそのかされたって言うことらしいけどね」
と、先ほど怒りゲージを使ってしまったのでテンションが落ちついている。
「聞いたわよ。前回の避難時に妹さんが興味本位で表に出ていったんですってね」
ビクッ、と身震い
「その時に!妹さん怪我しちゃったんでしょ!?そんでそのことを理由にシンジ君を呼び出したんですって?」
まったくのヤツ当り。責任転嫁の上に傷害事件を起こす気だったのか?
シンジが相手をしなかったので大事にもならなかったが。
「すんまへん・・・わしが悪いんです。
前ん時もわしが妹が抜け出したことに気ィついとったらなんでもあらへんかった。
怪我したんは妹の、面倒みきれんかったわしのせいです。
ほんまはわかっとるんです。
今回かって、いいんちょが口うるそうにジッとしとけ言うとったのにトイレや言うて抜け出してきたんやし」
はて、と
変だ
「ちょっと待って。シェルターから抜け出してきたの?」
そうだ、と大阪弁で返すトウジ。
トウジもケンスケの横の部屋に放りこみ、親を呼び出すように指示する。
携帯で保安部にコールしようとして、
逡巡
切る。リツコを呼び出すことにする。
「あ、リツコ?・・・コ゛メンちょっち調べて欲しいんだけど。・・・・忙しいのはわかってるわ。ちょっとマジな話なの」
「ミサト?まったくこの忙しいのになに?・・・調べ事くらい自分でなさいな。
一応MAGIの使用許可、下りてるんでしょ?
・・・戦闘中にシェルターから出れるか、ですって?なに言ってるのよ。
通路のドア開けたとたんに警報鳴り出すわよ。
・・・ええ、・・・そう、わかったわ。こちらでも調べてみるわ」
ミサトからの電話。戦闘を回避するためのシェルターから戦闘時に出れるか、と。
そんなこと出きるはずが無い。人員の確認がすめば出入り口がロックされて戦闘終了まで開かない。
内部のものが気軽にあけて出れるようなものはシェルターとは言わない。ガスなどの有毒物質が使われる場合だってあるのだ。
(ミサトの勘、よく当るのよね・・・悪いほうにばかり)
司令に次ぐ上位のパスを持ってしてやっとソレを確認できた。
監視カメラに映っていた映像を秘匿されていたのだ。
ミサトの執務室、メモリーディスクを持って訪れたリツコが
「この子達が出る場面よ」
と、ミサトに見せる。
「ね?ロックもなにも解除した様子が無いわ。ただの扉、妹さんのときもそうだったようね」
・・・
二人同時に立ちあがり歩き出す。
「施設部かしら?」
「そうね。あと保安部の警備課もね」
リツコは薄く笑みを浮かべ額に青筋が浮かんでいる。
ミサトは、と言うと脇から銃を取り出しスライドを引き薬室内に装弾されているのを確認してまた戻す。
両者怒りモードに突入。
施設部及び保安部の命運やいかに。
第九話 了