「あ〜碇君の席は・・・と。綾波君の横で」
「はい」
すたすたと綾波レイの横の席につき、
「これからよろしくね?綾波」
と
「・・・ええ、よろしく・・・」
シンジのススメ
第八話
喧騒は
「あなたたち!!いい加減にしなさいよ!!授業始まるわよ!!」
という一喝で消えうせた。
「騒がしいクラスで驚いたでしょ?私は洞木ヒカリ、ここの学級委員をしてます。何か判らないことがあったらなんでも聞いてね?」
「ありがとう、洞木さん」
「・・・ありがとう」
(綾波さんにお礼を言われるなんて・・・)
声を聞いたのさえいつだっただろう。
「気にしないで。これからよろしくね?ふたりとも!」
「・・・よ、ろしく」
「よろしくね、洞木さん」
授業中
シンジの教科書兼ノートのモバイルPCにメールが届いた知らせが入る。
赤木印の入ったこのPC、学校指定の性能やソフトはインストール&設定済である。
余談であるがリツコ曰く、「私の趣味で組んだ物だから、性能は折り紙付よ。色々オマケも付けてあるし」とのこと。
同じ物をレイにも持たせた様である。
メールアドレスは学校からの連絡事項伝達のために担任の先生にしか未だ教えていない。
取り合えず開いてみる事にする。
猫の足跡マークのセキュリティソフトが自動的にメールチェックを開始。
(ウイルスその他の脅威は存在せず、か)
目を通す。
[このあいだの紫色のロボットを動かしていたって本当?]
・・・
数秒の沈思黙考の後、メッセンジャー機能を開きメッセージを送る。
《to nekoneko_nikukyu》 《from type_zero_shinji》
type_zero_shinji : お仕事中すいません。今良いですか?
nekoneko_nikukyu : かまわないわ。何かしら?
type_zero_shinji : 僕が初号機のパイロットだって言うの、確か機密でしたよね?
nekoneko_nikukyu : ええ、第壱級のね
type_zero_shinji : 実は初号機を動かしてたのが僕じゃないか、とメールが来たんです。
nekoneko_nikukyu : それ本当?ってあなたがそんなつまらない冗談言う訳無いわね。いいわ少しそっちに入るから、PCにしばらく手を触れないでね?
type_zero_shinji : 了解です
なにやら妖しげなソフトが立ち上がり勝手に窓が幾つも開き文字がスクロールしていく。
しばらくすると、
「ああぁぁ〜。お宝画像とか機密とかが入ってんのにィ・・・」
と言う呟きが後の席から聞こえ
nekoneko_nikukyu : 発信先に攻性のウイルス送りつけてやったわ。今ごろHDDのデータ、飛んじゃってるわね。
type_zero_shinji : ・・・それ、僕の後ろの席の子みたいです
nekoneko_nikukyu : そのようね。名前わかるかしら?
type_zero_shinji : えっと、相田ケンスケって言う男子です
nekoneko_nikukyu : ん・・・と。
nekoneko_nikukyu : 確認できたわ。うちの経理部の課長の息子さんね。どうやら家に仕事を持ちかえったときに覗かれたのね。後のお仕置きは親御さんに任せるわ。もういいわね?
ありがとうございました、とメッセージ窓を消す。
と、
ガラッ
「すんません、遅れました」
黒いジャージの上下を着た大阪弁の男子生徒が入ってきた。
先生が、ああ、と思い出したように
「聞いとるよ。席につきなさい」
悪びれもせず席に向かう。
座るやいなや、隣席のメガネ癖毛君が耳打ちする。
と、表情が歪む。
「転校生!!ちょぉ顔貸せや」
昼休み、黒ジャージがシンジに声をかけ校舎裏に呼び出す。
どうにも平和的な話し合いが出来る気配ではない様子であるが
「自分、あの紫色の奴のパイロットらしいなぁ」
「その質問には答えられない」
シンジの口調がもとに戻っている。
「ケンスケが問いただそうとメールしたら速攻でパソコンぼこられたらしいや無いか。それこそが動かん証拠や」
状況証拠である。たまたまそのときにウイルスメールを貰ったんだろうと言われるだろう。
感情と脊髄反射で動く直情径行の彼は即、手が出た。
しかし
当らない。
大きく振りかぶったテレフォンパンチである。シンジとって、当れと言うほうが無理な話である。
死角に入って
「爆芯!!」
普段から履いているブーツ(強化外骨格の一部であるが)の底から推進剤が噴射され飛びあがる。
屋上の柵を越え、黒ジャージに目をやり思う。
暴力は極力避けるもの
「くそったれがぁ!」
爆風が起きたと思ったら転校生が消えた。
周囲を見まわし、ケンスケを見つけると
「どうせ撮っとったんやろ!?ちょぉ見せェ!」
駆け寄りながら声を張り上げる。
「わ、わかったから、壊れる!トウジってば!ちょっと待てよ!」
ケンスケはトウジを落ちつかせると再生を開始、ハンディカムの液晶をスキップさせ
「ここからだな、ほら」
見入る。
繰り返す
「・・・飛びあがった?」
見上げる。
三階建て鉄筋コンクリートの校舎。
「ほんまかいな・・・」
そのときサイレンが鳴り響いた。
屋上から降りる階段の途中。
レイがいた。
「・・・探したわ。」
少し息が荒い。探しまわっていたのだろう。
「非常召集。急ぎましょう」
「わかった。急ごう綾波」
優しい雰囲気に戻っているシンジ。
一旦教室に鞄を取りに戻ってから、連れ立って本部に急ぐ。
どうしたんだろう。
「使徒・・・かな?」
心の中での疑問に自答する。
行けばわかるさ。
「瞬着!」
閃光
超鋼を身に纏う。
「綾波!」
言ってレイを両手で抱える。
「急ぐから。しっかり掴まってて」
「・・・了解」
鎧越し・・・ちょっとだけしか嬉しくない。
そんなことを思う自分に多少驚きながら抱きつく。
「行くよ?」
背部推進剤噴射!
半ば飛ぶように駆ける。レイの怪我を思ってかその機動はひどく慎重であった。
「ファーストとサード両名、本部内に入りました!」
マヤの報告が聞こえる。
早いわね。保安部の車でも出したのかしら、とリツコは彼等の移動手段を考えておかなくちゃと、また自分の仕事を増やすのであった。
「映像入ります」
灯台の横を通りすぎる飛行物体。
どう見てもこれは・・・
「使徒ね」
「ええ、そうでしょうね」
MAGIの答えは未だ出ていない。
「他になんだって言うのよあんなの!」
作戦後のデブリーフィングでMAGIによる確認以前に使徒と断言した理由を聞かれそう答えた。そりゃあそうだ、時速300kmで50mの低空を飛ぶ羽根も推進器も無い巨大な物体。他にあるなら見てみたいもんである。
前回の戦闘では結果的にシンジ一人の能力によって勝ったようなもんだが一応間違いの無い指揮はしたと自負する。
今回は武器もある。
パレットライフル。
電磁カタパルトで弾丸を投射する、いわゆるレールガンである。
リツコは「作戦部からの要望で造っては見たけれど、エヴァが持って撃つ必要、あるの?エヴァはATフィールドの中和に専念して盾でも装備して、兵装ビルからの飽和攻撃で殲滅した方が効果的じゃないかしら」って言ってたけど。
せっかく器用に動く手があるのだ。有機的な運用をさせるに越したことは無いではないか。
当初出した要望書通りに造っては貰えたようであるが
「劣化ウラン弾芯?冗談じゃないわ。使用するたびに勘違いした奇妙な団体が文句言って来る様な素材、ごめんこうむるわ」
と諭され、タングステンカーバイト鋼製で落ちついた。かなり高価な弾になってしまったが。
ちなみに件の劣化ウランであるが、ウランから放射性同位元素であるウラン235を濃縮し取り出した残りカスなのだ。
採掘されたウランにおける放射性同位元素であるウラン235の含有率はおよそ0.7パーセント、残る99.3%は金属ウランであるウラン238。
後者は放射性物質では無い、念のため。
核燃料などに使用するためにウラン235の含有率を天然ウランの0.7パーセンから3〜5%へと濃縮する。
その過程で発生する、ほぼウラン235を含まないモノを劣化ウランと呼んでいるのである。
含有率としてはほぼ無視できる、自然に存在する放射線と同程度に落ちていると言う専門家が多い。
しかし、放射能汚染に関して恐ろしく過敏なこの国ではマスコミから環境団体からなにから何まで巻き込んで社会問題となりかねない。
アフガンなどで使用された際の戦地に残る放射線が取り沙汰されているが、逆に何年もの間その地に放射能汚染による発病者が増える方がおかしいとする識者もいる。
事実、日本のヒロシマ・ナガサキでは白血病患者等の発生率は数年後に下降に転じている。
まあこの件に関しては色々と問題があるので取り合えず使わないでおきましょう、というのがリツコの言いたい事である。
「初速も射程も要望より3パーセント増し。効かなくても文句言わないでね?」
エヴァが全力で球を投げたほうが威力があると後に聞かされて、リツコに文句を言いに行ったミサトであったが。
「だってあなた、聞く耳持たなかったじゃない」
と、一言で口を封じられてしまったりしたのである。
「いい?シンジ君。前回同様使徒の死角に出します。今回はパレットライフルを使用します。死角からの遮蔽物越しの射撃、よろしく。兵装ビルからの射撃も前回同様。使徒の攻撃方法等は不明。ここに至るまでの国連軍の攻撃には何の反応もしなかったそうよ。」
だから今回は前回より慎重に。
「あなたを出すと同時に初号機のダミーを初号機の隠れているビルの横に出します」
いいわね?と
「使徒の推定進路から、このポイントの通過を持って作戦開始とします」
質問は?と見まわし
「では配置に」
「しっかしやなタイミングで来たわねぇ。この使徒」
「あら、どうして?」
「明後日には弐号機が到着するんだからモウチョイ待っててくれればもーっと楽に・・・」
冷たい目で見られ言葉に詰まる。
「弐号機が配備されれば初号機はしばらく使えなくなるわ」
「なんでよっ!修理終ったんじゃないの?」
「ええ、当初予定より早く終えられたわ。何とかね。これ以上はまだ秘密なの。閲覧のレベルはAAA以上。AAのあなたには言えないわ」
ちなみにリツコはSSゲンドウはSSS冬月でS、シンジがAAA+、レイも同様である。極秘実験の被験者であるのだから当然と言えば当然であるが。詳しい内容を知らない被験者など物の役に立たない。
ブラインド実験(実験理由を知らないと言う前提で結果を求める実験)であるならともかく。
「まあ無いものねだりは言っても始まんないわ。行くわよ」
緊張が走る。
「エヴァンゲリオン初号機、発進!」
カタパルトから火花が飛び、初号機がゆく。
「碇君・・・」
幼い心の思いを背負いつつ。
第八話 了