病室で目を覚ますシンジ。

「知らない天井・・・か。やっぱり落ち着かないや」

 

 

 

 

 

 


 

シンジのススメ

第四話

 


 

 

 

  

始めての部屋で、しかも監視カメラつき

「気が休まるわけ無いよね」

言いつつ病室を出る。

(帰ろ・・・荷物どこだろ)

 

取り合えず玄関へ、と思いエレベーターに向かう。

途中、ストレッチャーに乗せられた少女と出会い、それに道を譲り見送る。

「・・・」

意識は在る様だがまったくの無表情。

眼帯をつけていない左目だけがぎょろりとこちらを向く。

 

(紅い目・・・アルビノか。しかも全身型のチロシナーゼ活性陰性みたいだ)

チロシナーゼというのはメラニン色素を作る際に必要な酵素である。

コレを体内で生成できないと、いわゆる日焼けも起こらない。

夏の直射日光など大敵である。

(今の日本じゃ暮らしにくいだろうなぁ・・・)

年中夏になってしまったこの国では、常に強い日差しと高い気温の日々が続いている。

メラニン色素が無いと、日焼けによる皮膚の角質層の肥厚が期待できず、皮膚免疫の向上も望めない。

(その上大怪我してるみたいだし、大丈夫かな?)

どうやら容姿には気を向けないようである。

異常なほどに整った、いわゆる美少女である。

アルビノであることが彼女の容姿を神秘性の域にまで高めている。が、シンジは気にも止めない。

「だって、見た目なんてどうでもいいから」

だそうである。

 

 

 

 

 

 

 エレベーターの扉が開き降りてくる人物が一人。

 

 

 

 

 

無言

 

 

 

 

 

 

 

当然のように無言で通り過ぎようとするゲンドウ。

「誰かのお見舞いですか?」

慇懃に問いかけるシンジ。

「・・・お前には関係無い」

「失礼しました。ではまた」

 

 

 


 

 

ネルフ本部正面玄関 守衛室

 

「すみませんが」

守衛室の防弾窓ごしにマイクを通じて声をかける。

「ん?なんだい?君は」

意外にフレンドリーな対応の守衛さんである。

「碇シンジと申しますが、葛城ミサト一尉か赤木リツコ技術三佐をお願いします」

「ああ、君が・・・」

エヴァのパイロットと、言いかけて、止める。

先日居酒屋で上機嫌で戦闘時の興奮を語っていた友人の技術部員を思い出した。

その彼は現在謹慎中である。

(一応守秘義務違反だからなぁ)

どんなに情報管理を徹底しようと、ココ日本では赤提灯で大声で機密を論議してしまう連中は多い。

あのような作戦の成功の後ならなおさら酒も美味かったであろうし。

「ちょっと待ってな」

 そう言ってシンジを守衛室に招きいれ、内線を繋ぐ。

 

 


 

 数分後

赤いジャケットと、紫がかった黒髪をたなびかせて慌てて駆けて来る女性が一人。

その駆けて来る手前、エレベーターの扉が開き、白衣を纏った女性が優雅に姿をあらわす。

「あらミサト、早かったわね」

そう言いながら、ぜぇぜぇと荒く呼吸しながらも横に並ぶ腐れ縁の友人を見ながら歩みを進める。

「ちょ・・・ぐら・・・待って・・・れてても・・・いいじゃ・・・い」

「貴方を待ってたら日が暮れるわ?」

息も絶え絶えに喋るのを聞き取れるあたり、腐れ縁の名に恥じない。

 

  

 「お待たせシンジ君」

ふくれっつらのミサトを放っておく。

「いえ、問題ありません」

その言葉に、某上司を思い出し、血の繋がりかしら、と思う二人。

「もう少し休んでいても良かったのよ?」

結構シンジを気に入ってる様である。

こんな言葉をかけるなど彼女にしては珍事である。

「ですがそろそろ帰らないと終電も無くなりますし」

「「え?」」

これは二人とも揃った返事。

「ちょ!ちょっとシンジ君!帰るだなんてそんな」

「あら、何も聞いてないの?司令から。貴方にお願いしたエヴァンゲリオンのパイロット、あれしばらく続けてもらいたいんだけど」

突然のシンジの帰宅表明に、どもるミサト。

ソレをよそにシンジに断りを入れるリツコ。

「・・イイワヨモウ・・・シクシク

セリフを横から掻っ攫われまくっているミサトは、しゃがみ込んで床に、のの字を書いてイジケテしまっていた。

「いえ、連絡は先の手紙だけでしたから。あの使徒、でしたか。あれを倒したらお仕舞いじゃないんですか?」

(あ・・・リツコ・・・・カナーリ怒ってる・・・)

イジケつつ、急に雰囲気を変えた親友を見やる。

長年の付き合い、普段穏やかな白衣の美女が、こう言う風に段取りの悪いのを非常に嫌ってるのを知っているミサトである。

にこやかに微笑を絶やさず青筋を額に浮かべるリツコ。

(この怒り方したら誰が宥めても逆効果なのよねぇ・・・離れてよっと)

 

胸元から携帯を取り出し連絡を取るリツコ。

「ああマヤ?・・・ええ。それは後回し。・・・それで良いわ、あと司令の現在位置、教えて頂戴」

携帯を切って無言で歩き出す。

「・・・父さんなら病院で見ましたが」

「・・・貴方のお見舞いにでも行ったのかしら?」

臆せず隣に並び声をかけるシンジ。

ミサトは三歩ほど離れて付いて来る。

「ええ、同じ階で他の人を見舞う様でしたが」

誰を見舞っているのか理解したリツコはもはや「誰にも止められないわ」状態に移行していた。

「・・・ちゃんと仕事してからにして欲しいわね、そう言う事は。ミサト?あなた事後処理すんだの?!

とばっちりである。

が、日向に押しつけてきたのは事実なので何も言えない。

「こ、コレからやろうとおもってたのよぉ・・・今からしてきます

青筋がもう1つ増えたのを見て、踵を返して足早に戻っていくミサト。

(か・・・改造される・・・よくて新薬の被検体だわ・・・)

あながち間違ってない想像ではある。

 

 

「ごめんなさいね、シンジ君。何もかも行き届かなくて」

「構いません。皆さん忙しそうでしたし」

病院内を移動しながら話を続ける二人。

「連絡がその手紙だけと言うことは、コレからのこちらでの生活の場も考えてないわね。

ネルフ内の宿舎はもう満室だったはずだから・・・そうね、うちにいらっしゃい」

「あ、え、そんな。じょ女性と同室など…」

焦って断ろうとするシンジに、リツコは理路整然と続ける。

「申し訳ないけれど、貴方にはこれから先、第1級の機密の守秘義務が課せられることになるわ。防諜のため、誘拐防止のためにもレベルの高い住居に住んでもらわないといけないの。貴方をさらうのは至難の技でしょうけどね。幾らネルフでも今日明日でそんな住居を用意できないから。それに、部屋は余って困るくらいなの」

「…お邪魔でなければ。よろしくお願いします」

一気に言われて暫し逡巡した後、頭を下げる。

そんなシンジを見て、くすりと笑うリツコ。

(鉄面皮だと思ったらそうでもないのね。表情を出すのを抑えてるだけね。彼女と違って・・・)

そう思いながら目的の場所についた事に気付く。

 

 

 

軽くノックを二回。

「入るわよ、レイ」

返事を待たずに扉を開き、声をかけながら入室する。

 

 

 

 

白い病室。

 

 

 

 

白いカーテン。

 

 

 

 

白いシーツ。

 

 

 

 

白一色の場所にその白い少女は居た。

 

 

 

 

「赤木博士・・・」

怪我のため動かせない身体を起こそうとする。

「ゆっくり寝ていなさい。レイ」

優しい笑顔を向ける。

ベッドの傍らに立つ長身の男に顔を向けるまでは。

「赤木君・・・シンジまで、何をし「司令!」・・う・・・問題無い」

溜め込んだ怒りを一気にゲンドウに向ける。

「なんですか!いつもいつもいつもいつも!気に入らない事や苦手なことがあるとすぐそう言って黙り込んだり副指令に押しつけたり!今度と言う今度は言わせていただきます!普段ならいざ知らず、レイがエントリー出来ない状況で!初号機の適格者たるシンジ君を呼ぶ際に!何故“来い”としか書いていない手紙を送るんですか!一から十まで懇切丁寧に説明して呼んでもおかしくないのに!しかも急な呼び出しにかかわらず、即乗ってくれて!素晴らしい結果を出してくれたシンジ君を見舞いもせずに!・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ゲンドウが小さくなってリツコの怒りのお小言を聞いているのを尻目に、ベッド荷見を横たえる少女に声をかけるシンジ。

「はじめまして、かな。さっき通路ですれ違ったんだけど、あんなのは会ったって言わないしね。僕は碇シンジ。よろしくね」

「あ・・・は・・じめまして・・・。よろしくおねがいします

尻窄みに小さくなる声。

頬が薄く紅に染まる。

 

(あら、レイったら。・・・美的感覚は正常な様ね。年頃の娘らしくて良いわネ)

ゲンドウへのお小言はそのままに、二人の様子をうかがい感想を心の中で述べる。

複数の事柄を同時に処理できるリツコの頭脳。

ゲンドウに向けるのとはまったく別の思考を二人に向ける。

「取り合えず、司令?お仕事をなさってきてください。ここは私が承認しなければ以後入室禁止です」

「む・・・それは・・・」

一方的に捲くし立てられ、反論する間も与えられ無かったゲンドウ。

最後に言い返そうとするが…。

 「良いですね?」

「…問題ない」

再びピシャリとリツコにたしなめられ、口を閉ざす。

寂しげに、フラフラと頼りなげな足取りで去っていくゲンドウ。

威厳の欠片も見うけられない。

「さ、貴方達、いずれ顔合わせさせようとは思っていたけど、ちょっと段取り狂っちゃったわね」

二人に向き直り、続ける。

「レイ、彼は碇シンジ君。新たにエヴァの適格者として登録されたわ。・・・司令の息子さんでもあるわ」

ども、と言う感じでレイに改めて会釈する。

「シンジ君?この娘は綾波レイ、ファーストチルドレン。貴方と同じ、エヴァの適格者よ。仲良くしてあげてね?」

そのレイの頬は未だ薄く色づいている様子であるが、表情は変らない。

「はい」

 

 

 

「じゃ、マタ来るわ。ゆっくり寝るのよ?」

「ありがとうございます、赤木博士。・・・い、かり君」

表情は変らないが、寂しげに言うレイに静かに黙礼を送るシンジ。

 

 

「ありがとう、シンジ君。レイと普通に接してくれて」

荷物を取りに本部に向かう道すがら、レイについて話し始める。

「あの娘には同年代の友人が一人もいないの。あの容姿のせいかしら」

「アルビノ、ですか」

「よく知ってるわね」

ほんの少し驚きの表情を浮かべるリツコ。

「正確な情報の収集、取捨選択はいかなるものでもその身を助けると師匠が仰ったので」

真っ直ぐに前を見ながらそう答えるシンジ。

「正鵠を射てるわね。正しいわ貴方のお師匠様。情報に振りまわされない決断力も身に付けなさいね?」

そんな彼を微笑ましげに見ながら助言する。

「まだまだ未熟ですが。精進します」

「良い返事ね。将来が楽しみだわ♪ それで、話を戻すけど。一応こちらでも学校に通ってもらうのだけど」

「はい」

「レイと同じクラスになるわ、必ずね。それで貴方にお願い。あの娘、学校でまったく会話をしないらしいの」

眉間に若干皺を寄せ、シンジに彼女の現状を伝える。

「いじめですか?」

「違うわ。人と付き合う方法を知らないの。私が教えるにしてもね・・・教わったからと言って出来るようになるものじゃないし」

リツコもそう人付き合い上手な方ではない。

自分のようにはなって欲しくは無いと思い、シンジに託そうとしているのであろうか。

「難しいですね・・・」

「徐々に、で良いのよ。人と触れ合う中で、貴方と会話するだけでも良いと思うの。誰かしら輪に入れてくれるようになれば・・・」

「わかりました。微力ながら」

リツコの陰のある横顔を見つめながら、そう答える。

「ありがとう」

 

 

 

 


 

 

 

 

司令室

机の上で組んだ手で口元を隠すいつもの姿勢で、ゲンドウが報告を聞いている。

後に控えるは冬月副指令。

「エヴァ初号機の修復計画の報告は以上です」

内心びくびく物で報告を終えるマヤ。

退室許可を貰ったとたん、足早に立ち去る。

 

 

「どうする碇。最短でも2週間、初号機は使えんそうだ」

「・・・ドイツ支部から弐号機を徴収する」

「弐号機をか?再三の本部配備命令もずるずると引き延ばしている。そう急には無理では無いか?」

「問題ない・・・」

にやり

(また何か悪どい事を思いついた顔だな・・・)

溜息を隠さずにそう思う冬月であった。

 

第四話   了

 

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