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注目記事

 私の友人たちの話によると、ニューヨークの低所得の黒人やヒスパニック系の人々は、朝食事をしないで仕事に出かける。多くの人々が電気や水道、電話を切られてしまっている。アメリカでいま失業の嵐にてひどく打ちのめされているのは建設業や製造業、それに金融業など男性の職場である。

 一方、オバマ政権の援助もあり、教育や医療の仕事は不景気に直撃されておらず、女性たちの職場は男性と比べるといま少し安全であるといえる。このためアメリカでは、家庭を支える男性が仕事を失い、女性たちに生活の重荷がかかってきている。家庭の主婦が仕事をするのに選べるのは、日本と同じようにコンビニやスーパーでのレジや雑用である。アメリカの社会では現在、生活を支えるのは女性であり、その女性たちの給料も最低賃金の1時間8ドル50セントにすぎない。

 アメリカの社会は、いま失業と不景気に押しつぶされようとしている。これまでのようにアントレプレナーが注目を浴び、新しい仕事が次々に生まれるような雰囲気ではない。私の知っている人たちも長いあいだ失業に苦しんでおり、失業が長引けば近所づきあいも難しくなると同時に、これまでのようにはパーティーに呼ばれることもなくなる。社会との付き合いも極端に減ってしまう。

 家庭内での暴力事件が増え、社会から隔絶されているという気持ちが人々の孤独感を増大させ、アメリカ社会が停滞している。

 ハーバード大学の私の知人であるロバート・ライシュ博士は、アメリカの景気は今後X型になるだろうという予測を最近行なった。つまり、「これでおしまい」ということである。ライシュ博士の予測は、アメリカでこれまで経済専門家が述べてきた二重底W型の不景気や、不景気が長引くL型、さらにはU字型、V型といわれる景気の予測をすべて否定するもので、アメリカ経済は新しい仕組みを考えないかぎり当面立ち直ることは難しいとしている。

 ボストンコンサルティンググループのデイビッド・ローズとダニエル・シェルターの二人は、経済の停滞からいかに立ち直るかという本を書き、ハーバード大学の教授だったジョセフ・シュームペーター博士や、ロシアの経済学者ニコライ・コンドラチェフの学説を引っ張り出してアメリカの景気停滞と失業は20年続くと警告している。

 アメリカの人々は不景気の心配と失業で頭が一杯であり、中国の問題や核兵器のことを考える暇すらなくなってしまっている。アメリカが依然として超大国であるというキッシンジャー博士の主張は否定できないが、長期間の経済停滞の見通しと失業の重みに人々は打ちひしがれている。いまアメリカに多くを期待するのは難しい。

オバマ外交の完全な行き詰まり

 アメリカは停滞する経済と失業のなかでも、世界の超大国として指導的な役割を果たしつづけようとしている。3月の終わり、私はフィリピンで行なわれたアメリカ海兵隊とアメリカ第7艦隊の合同演習を取材した。この演習は、佐世保を基地にする第7艦隊72揚陸艦隊の揚陸用空母エセックス、デンバー、ハーパーフェリーの3隻が参加し、沖縄の第31海兵遠征軍2000人の海兵隊員が演習を展開した。普天間基地からもヘリコプターや垂直離着陸戦闘機ハリアーが参加し、2010年の西太平洋におけるアメリカ軍最大の軍事訓練になった。

 この訓練を見て私が気が付いたのは、これまでは燃料の石油やそのほかの費用をふんだんに使っていたアメリカ軍が、節約に心掛けていることだった。

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