3月22日、阪神甲子園球場で第80回選抜高校野球大会を観戦してきました。
母校である千葉県立安房高校が21世紀枠によって出場を果たし、地元・館山市は沸きかえっています。何しろ野球部創立は1901年で、今回が春・夏通じて初出場。さらに千葉県南部を中心とする、いわゆる“第7ブロック”の中からも初出場ということで、千葉県内の高校野球ファンからも注目を集める形となりました。
当日の西宮市は朝から晴天に恵まれ、まさに野球日和。少し厚着をしていったのですが、午前中から汗ばむ陽気となりました。
せっかく初日に安房が登場するならということで、開会式から観ることに。
入場無料の外野席に入ると、すでにかなりの人だかり。開会式が週末に当たったことで観客が相当増えたようで、主催者発表では44,000人を超えたとか。これは初日の動員としては異例のことだそうです。
初めて球場の中に入りましたが、第一印象としてはとにかくデカい！スタンドの高さや銀傘の存在感に圧倒され、照明塔の邪魔さ加減も改めて認識（笑）。千葉マリンスタジアムに初めて行った時もデカいなあと思いましたが、甲子園は別格ですね。ここで50,000人のタイガースファンが一斉に応援をすれば、それはもう圧巻でしょうね。
開会のセレモニーにはゲストとして谷村新司が登場。彼の作曲でセンバツの歌として親しまれている“今ありて”を歌い上げました。作詞を担当し、昨年亡くなった阿久悠の話もチラリと。
谷村新司からは、
「作詞を依頼する時に、‘ああ甲子園’というフレーズを入れてほしいとお願いした」
という話を披露。このフレーズが春の日差しの柔らかさと相まってセンバツを彩ってきたわけですね。夏の大会に流れる“栄冠は君に輝く”は強烈な太陽の光を思わせる勇壮さを持ったメロディですが、それとはまた違う魅力あふれる楽曲です。
そしていよいよ開会式が始まり、選手たちが入場。北海道の駒大岩見沢から沖縄尚学まで、北から南の順に進む行進。今年の行進曲はコブクロの“蕾”です。当初、このバラード曲が行進に合うのかどうか心配でしたが、どうしてどうしてこちらも“今ありて”同様、春の大会にふさわしいメロディでした。
行進はいよいよ関東の順番に。千葉経大付の後ろ、安房高校の選手たちが姿を現しました。これはひいき目もあるかもしれませんが、前後を行進するどの高校よりも手足の振りが大きく、一際目立った行進の姿だったと思います。
「常に全力」
これが安房高校野球部のモットー。その言葉を体現してくれた素晴らしい行進。いかにも田舎モノ。しかしだからこその純粋な姿。まさかあの安房高校がこの甲子園のグラウンドを行進しているなんて、といろいろなことを考えていたらもうこの時点で私はこの日1回目の涙が…。どうして高校野球の入場行進って、あんなに泣けるんでしょう。ただ歩いているだけなのに。
開会式は滞りなく…いや、文部科学大臣の挨拶の時だけマイクのスイッチが入っていませんでしたが（笑）、その他はスムーズに進行。選手宣誓も元気に決まり、選手たちは退場。いよいよ始まります。
第1試合が開始される前に一旦スタンドを出て、タイガースのミュージアムを見学。やはりタイガースは伝統のチーム、長い歴史を支えてきた名選手たちの姿がたくさん飾られていました。星野監督を胴上げする輪の中には、井川やオマリーの姿が。そして若かったなあ、中村勝広。まだ目の隈も少なく…。
その後、球場となりのダイエーで食事。
安房高校が登場する第3試合までは時間があるので、急遽、甲子園駅からバスに乗って鳴尾浜のウエスタン開幕戦にも潜入することに。
こちらも甲子園に負けず劣らずの大盛況。小さなスタンドはギュウギュウ詰め、通路には二重、三重の人の山。鳴尾浜に日参してるのであろうオヤジさんから福岡から来たという（バスの中で話が聞こえてきた）熱心なホークスギャルまで、それはもうある意味、人種の坩堝。
先発にびっくりですよ。鳴尾浜タイガース・下柳、雁ノ巣ホークス・和田。しかも5回を投げきった和田の後を継いだのが、何とパウエル。いきなり豪華なメンバーです。
目についた選手は、タイガースの捕手・小宮山。いや、名前に惹かれたわけではなく（笑）。まだ若く、これといった特徴のある選手ではありませんが、下柳の多彩な変化球をこぼすことなくしっかり受け止め、打者を恐れないリードはなかなか立派でした。矢野の後継者争いが激しく、その上で矢野自身も相変わらず元気なのでタイガース捕手陣も大変ですが、百戦錬磨の下柳から学ぶことは多かったと思います。こういう光る存在がいるのもファームの楽しみです。
一方のホークスでは、育成選手として登録された吉川。はい、あの吉川元浩ですよ。昨年、ジャイアンツから戦力外通告を受けた時は何ともったいないと思ったものですが、ホークスに拾われる形となりました。背番号こそ3ケタになりましたが、パンチ力は健在。この日もセンター返しのクリーンヒットを放ってアピール。守備に光るものがあるわけではない吉川なので、小宮山と同様に上に食い込んでいくには大変な努力を要すると思いますが潜在能力は高いので可能性は十分といえるでしょう。それにしても吉本はいつになったら爆発するんでしょうか…。
後半戦に入ったところで時間が来たため、再び甲子園へ。
道すがら、北大津のバス群に遭遇。なんでも90台以上の大応援団だとか。こりゃ安房も負けてられないなあと思ったら。
一塁アルプススタンド入口は紫色の人・人・人…。館山や南房総市などから総勢5,000人が甲子園に乗り込んできました。お世話になった先生や知り合いを探そうにも、列に並んでしまうと身動きの取れない状態で、結局誰とも会えず仕舞い。しかしここにいるほとんどの人が房総の人たちだと思うと不思議な感覚でした。
球場に入ると、外野からとはまた違った眺め。アルプススタンドは内外野の間にボックスのように仕切られたエリア。ここが紫一色に染まったのでまたビックリ。明らかに対戦相手の熊本・城北高校の応援団よりも数が多いのです。
しばらくすると選手たちがベンチから出てきました。ここで大歓声。
試合開始、選手たちはダッシュ。また大歓声。
1回の攻撃、サイレン。大歓声。
本日、2回目の涙。安房高校の選手が、甲子園で野球をやってる。泣けました。
スタンドからの応援歌。トップを切るのは当然、X JAPANの“紅”。YOSHIKIとTOSHIは安房高校OBで、YOSHIKIはこの日のために多額の寄付を行なったとか。おかげで50台以上のバスを出すことができたそうで、これは素直に先輩に感謝しなければいけませんね。警備の都合上、本人の観戦が見送られたのは残念ですが賢明な判断と言えるでしょう。野球以外の目的で球場に人が押し寄せてもいけませんし、この日は甲子園のリニューアル初日で警備もフル稼働だったこともありパニックが起きたときに対処できない可能性が高かったという話ですので、仕方ない状況だったといえるでしょうね。
話を戻して。高校野球の応援歌としてすっかり定着した“紅”ですが、やはり安房高校の“紅”は一味違って聞こえます。当然、ドラムも気合が入ってます。
この時、売り子の兄ちゃんが、
「YOSHIKIも大好きな○○茶、いかがですかー！」
と売り込みに来た時は、
「本当だろうな？本人が館山に帰ってきたら確認するぞこの野郎！」
とツッコミたかったですが。
試合は投手戦となりました。安房の先発・佐野はランナーを出しながらもバックの堅い守りに助けられて無失点。
一方、九州ナンバーワンの呼び声も高い城北の先発・村方も鋭い変化球を武器に、8回まで3安打とチャンスを与えません。
試合が動いたのは8回。城北の打者が打ち上げたファールフライをサード・佐藤が追いかけて、カメラマン席にダイブ。結局、キャッチはできなかったものの、耳や脇腹を強打しながらボールを追いかけたガッツが佐野を助け、ピンチを切り抜けます。佐藤はベンチで治療をしましたが、その後は問題なくプレー。これが9回の攻撃の呼び水となります。
9回表。一進一退の攻防を繰り広げて、両チーム無得点。ここで安房打線はようやく村方をとらえ、4番・鹿嶋がついに均衡を破るタイムリースリーベースヒット。アルプススタンドはすべてがひっくり返りそうな勢いで大騒ぎ。私もこの時ばかりは大声を上げて喜びました。
さらに先ほどガッツを見せてくれた5番・佐藤が連続のタイムリー。ケガの影響を微塵も感じさせない、すごい選手です。
これでスコアは２−０。9回裏、俄然スタンドは盛り上がります。守備の間は座っていた応援団も、みんな総立ち。
ランナーをふたり背負う苦しい展開にも、声援で後押し。声にならない声を上げる人、手を合わせて祈る人、そしてグラウンドのナイン…全員で戦っていました。
最後の打者が打ったゴロがファーストに渡り、スリーアウト。試合終了。
安房高校が、歴史的な1勝を甲子園の地に刻んだ瞬間です。
誰彼かまわず握手、ハイタッチ、抱擁…スタンドはもう優勝したようなお祭り騒ぎ。私も、2005年にマリーンズがパ・リーグ優勝を決めた時のパブリック・ビューイングを思い出しました。
選手たちが整列。校歌斉唱。
空澄み渡る 鏡が浦の
輝く波に 富士の峯浮かべり
真理の光の 差しくるところ
ああ若き日の 希望はあふれて
松の林の 風清し
安房高校の校歌が、甲子園の空に響き渡った瞬間、この日3回目の涙…。在学中の3年間、こんなに誇らしい思いで校歌を歌ったことはありませんでした。昨年の夏、千葉県予選で歌った時に十数年のブランクがあるにも拘らず歌詞も見ずに校歌を歌えたことに自分で驚きましたが、この日の校歌は一段と大きな声で、いつまでもこの甲子園に残響として居続けてほしいと思える声で歌うことができました。
最後まで歌い終えて、選手たちがスタンドへダッシュ。また大歓声。
一列に並び、礼。一際大きな歓声。
おめでとう。ありがとう。いろんな声が交じり合った大歓声。
夕暮れの甲子園で4回目の涙…まともに前を向けませんでした。
しばらく呆然とした後、大混雑のスタンドを出て、グッズショップにたどり着く頃には安房高校のグッズは軒並み売り切れ。みんな、おみやげ買っていったのね。
球場から甲子園駅に続く紫色の人並みは、涙と笑顔と疲労と歓喜がごちゃまぜになった幸せの塊でした。
夜は梅田で祝勝会。仲間と尽きない野球談義。
城北に敬意を表して、熊本の米焼酎「鳥飼」をいただきました。身体にしみました。
3月27日、宇治山田商との2回戦で、安房高校はサヨナラ負け。
甲子園での、初めての敗戦を経験しました。
「常に全力」
このモットーを最初から最後まで体現してくれた安房高校野球部は、たった2試合ですがたくさんの素晴らしい経験を積むことができました。
言ってしまえば、21世紀枠はご祝儀。今度は、夏は、実力で甲子園への切符をつかんでほしい。そして再び、甲子園で「常に全力」のプレーを見せてほしい。
もちろん、安房が戦うのは超がつくほどの激戦区・千葉。今年は2枠になったとはいえ狭き門であることに変わりはありません。甲子園出場校ということで、ライバルたちも一介の公立校と思ってはくれないでしょう。
でも、苦しい時ほど甲子園での経験を活かし、またイキイキとした姿を私たちに見せてほしいと思います。
まずは短い休息の時を過ごし、再びボールを追いかける日々が始まります。
がんばれよ。
今回、貴重な瞬間に立ち会えることができて、多くの皆さんに感謝しています。
名もない高校の応援で一緒に盛り上がり、祝勝会でうまい酒を酌み交わすことができた皆さん、特に感謝いたします。
本当に、本当にありがとうございました。
＜関連リンク＞
・毎日新聞
安房 ２−０ 城北
宇治山田商 ４x−３ 安房
（9回サヨナラ）
第８０回センバツ高校野球：安房初勝利「夢のよう」 紫の応援団、喜び爆発 ／千葉
青春譜：役目果たし、自信取り戻す−−安房・鹿嶋勇太選手（３年）
第８０回センバツ高校野球：奮戦安房に拍手、大歓声 「夏にまた来いよ」 ／千葉
この一瞬：勝者と敗者、わずかな差 宇治山田商４−３安房
・スポーツナビ
安房高が教えてくれた「全力」の意味 タジケンのセンバツリポート Vol.１
・ニッカンスポーツ
21世紀枠安房ガッツで快勝／センバツ
・スポーツニッポン
安房 全力野球で甲子園１勝
高野連要請でTV観戦も…YOSHIKI感激
・サンケイスポーツ
千葉・安房、甲子園初勝利を呼んだガッツプレー！
・スポーツ報知
安房、ＹＯＳＨＩＫＩと１勝 Ｘ魂…センバツ
・デイリースポーツ
ファイトプレーで火…安房 闘志の初陣星
・千葉日報
緊迫一転 歓喜の最終回 センバツ大会 安房高初勝利 ５０００人超す大応援団後押し
・房日新聞
センバツ 甲子園に�牋陀疾�風�畤瓩�
開会式 ひと際輝く9番目
安房初勝利 夕暮れの甲子園響く校歌
早川監督コメント
大応援団も「常に全力」 一塁側スタンド
佐藤、躊躇なくダイブ
商店街 甲冑隊から勝どき
母校である千葉県立安房高校が21世紀枠によって出場を果たし、地元・館山市は沸きかえっています。何しろ野球部創立は1901年で、今回が春・夏通じて初出場。さらに千葉県南部を中心とする、いわゆる“第7ブロック”の中からも初出場ということで、千葉県内の高校野球ファンからも注目を集める形となりました。
当日の西宮市は朝から晴天に恵まれ、まさに野球日和。少し厚着をしていったのですが、午前中から汗ばむ陽気となりました。
せっかく初日に安房が登場するならということで、開会式から観ることに。
入場無料の外野席に入ると、すでにかなりの人だかり。開会式が週末に当たったことで観客が相当増えたようで、主催者発表では44,000人を超えたとか。これは初日の動員としては異例のことだそうです。
初めて球場の中に入りましたが、第一印象としてはとにかくデカい！スタンドの高さや銀傘の存在感に圧倒され、照明塔の邪魔さ加減も改めて認識（笑）。千葉マリンスタジアムに初めて行った時もデカいなあと思いましたが、甲子園は別格ですね。ここで50,000人のタイガースファンが一斉に応援をすれば、それはもう圧巻でしょうね。
開会のセレモニーにはゲストとして谷村新司が登場。彼の作曲でセンバツの歌として親しまれている“今ありて”を歌い上げました。作詞を担当し、昨年亡くなった阿久悠の話もチラリと。
谷村新司からは、
「作詞を依頼する時に、‘ああ甲子園’というフレーズを入れてほしいとお願いした」
という話を披露。このフレーズが春の日差しの柔らかさと相まってセンバツを彩ってきたわけですね。夏の大会に流れる“栄冠は君に輝く”は強烈な太陽の光を思わせる勇壮さを持ったメロディですが、それとはまた違う魅力あふれる楽曲です。
そしていよいよ開会式が始まり、選手たちが入場。北海道の駒大岩見沢から沖縄尚学まで、北から南の順に進む行進。今年の行進曲はコブクロの“蕾”です。当初、このバラード曲が行進に合うのかどうか心配でしたが、どうしてどうしてこちらも“今ありて”同様、春の大会にふさわしいメロディでした。
行進はいよいよ関東の順番に。千葉経大付の後ろ、安房高校の選手たちが姿を現しました。これはひいき目もあるかもしれませんが、前後を行進するどの高校よりも手足の振りが大きく、一際目立った行進の姿だったと思います。
「常に全力」
これが安房高校野球部のモットー。その言葉を体現してくれた素晴らしい行進。いかにも田舎モノ。しかしだからこその純粋な姿。まさかあの安房高校がこの甲子園のグラウンドを行進しているなんて、といろいろなことを考えていたらもうこの時点で私はこの日1回目の涙が…。どうして高校野球の入場行進って、あんなに泣けるんでしょう。ただ歩いているだけなのに。
開会式は滞りなく…いや、文部科学大臣の挨拶の時だけマイクのスイッチが入っていませんでしたが（笑）、その他はスムーズに進行。選手宣誓も元気に決まり、選手たちは退場。いよいよ始まります。
第1試合が開始される前に一旦スタンドを出て、タイガースのミュージアムを見学。やはりタイガースは伝統のチーム、長い歴史を支えてきた名選手たちの姿がたくさん飾られていました。星野監督を胴上げする輪の中には、井川やオマリーの姿が。そして若かったなあ、中村勝広。まだ目の隈も少なく…。
その後、球場となりのダイエーで食事。
安房高校が登場する第3試合までは時間があるので、急遽、甲子園駅からバスに乗って鳴尾浜のウエスタン開幕戦にも潜入することに。
こちらも甲子園に負けず劣らずの大盛況。小さなスタンドはギュウギュウ詰め、通路には二重、三重の人の山。鳴尾浜に日参してるのであろうオヤジさんから福岡から来たという（バスの中で話が聞こえてきた）熱心なホークスギャルまで、それはもうある意味、人種の坩堝。
先発にびっくりですよ。鳴尾浜タイガース・下柳、雁ノ巣ホークス・和田。しかも5回を投げきった和田の後を継いだのが、何とパウエル。いきなり豪華なメンバーです。
目についた選手は、タイガースの捕手・小宮山。いや、名前に惹かれたわけではなく（笑）。まだ若く、これといった特徴のある選手ではありませんが、下柳の多彩な変化球をこぼすことなくしっかり受け止め、打者を恐れないリードはなかなか立派でした。矢野の後継者争いが激しく、その上で矢野自身も相変わらず元気なのでタイガース捕手陣も大変ですが、百戦錬磨の下柳から学ぶことは多かったと思います。こういう光る存在がいるのもファームの楽しみです。
一方のホークスでは、育成選手として登録された吉川。はい、あの吉川元浩ですよ。昨年、ジャイアンツから戦力外通告を受けた時は何ともったいないと思ったものですが、ホークスに拾われる形となりました。背番号こそ3ケタになりましたが、パンチ力は健在。この日もセンター返しのクリーンヒットを放ってアピール。守備に光るものがあるわけではない吉川なので、小宮山と同様に上に食い込んでいくには大変な努力を要すると思いますが潜在能力は高いので可能性は十分といえるでしょう。それにしても吉本はいつになったら爆発するんでしょうか…。
後半戦に入ったところで時間が来たため、再び甲子園へ。
道すがら、北大津のバス群に遭遇。なんでも90台以上の大応援団だとか。こりゃ安房も負けてられないなあと思ったら。
一塁アルプススタンド入口は紫色の人・人・人…。館山や南房総市などから総勢5,000人が甲子園に乗り込んできました。お世話になった先生や知り合いを探そうにも、列に並んでしまうと身動きの取れない状態で、結局誰とも会えず仕舞い。しかしここにいるほとんどの人が房総の人たちだと思うと不思議な感覚でした。
球場に入ると、外野からとはまた違った眺め。アルプススタンドは内外野の間にボックスのように仕切られたエリア。ここが紫一色に染まったのでまたビックリ。明らかに対戦相手の熊本・城北高校の応援団よりも数が多いのです。
しばらくすると選手たちがベンチから出てきました。ここで大歓声。
試合開始、選手たちはダッシュ。また大歓声。
1回の攻撃、サイレン。大歓声。
本日、2回目の涙。安房高校の選手が、甲子園で野球をやってる。泣けました。
スタンドからの応援歌。トップを切るのは当然、X JAPANの“紅”。YOSHIKIとTOSHIは安房高校OBで、YOSHIKIはこの日のために多額の寄付を行なったとか。おかげで50台以上のバスを出すことができたそうで、これは素直に先輩に感謝しなければいけませんね。警備の都合上、本人の観戦が見送られたのは残念ですが賢明な判断と言えるでしょう。野球以外の目的で球場に人が押し寄せてもいけませんし、この日は甲子園のリニューアル初日で警備もフル稼働だったこともありパニックが起きたときに対処できない可能性が高かったという話ですので、仕方ない状況だったといえるでしょうね。
話を戻して。高校野球の応援歌としてすっかり定着した“紅”ですが、やはり安房高校の“紅”は一味違って聞こえます。当然、ドラムも気合が入ってます。
この時、売り子の兄ちゃんが、
「YOSHIKIも大好きな○○茶、いかがですかー！」
と売り込みに来た時は、
「本当だろうな？本人が館山に帰ってきたら確認するぞこの野郎！」
とツッコミたかったですが。
試合は投手戦となりました。安房の先発・佐野はランナーを出しながらもバックの堅い守りに助けられて無失点。
一方、九州ナンバーワンの呼び声も高い城北の先発・村方も鋭い変化球を武器に、8回まで3安打とチャンスを与えません。
試合が動いたのは8回。城北の打者が打ち上げたファールフライをサード・佐藤が追いかけて、カメラマン席にダイブ。結局、キャッチはできなかったものの、耳や脇腹を強打しながらボールを追いかけたガッツが佐野を助け、ピンチを切り抜けます。佐藤はベンチで治療をしましたが、その後は問題なくプレー。これが9回の攻撃の呼び水となります。
9回表。一進一退の攻防を繰り広げて、両チーム無得点。ここで安房打線はようやく村方をとらえ、4番・鹿嶋がついに均衡を破るタイムリースリーベースヒット。アルプススタンドはすべてがひっくり返りそうな勢いで大騒ぎ。私もこの時ばかりは大声を上げて喜びました。
さらに先ほどガッツを見せてくれた5番・佐藤が連続のタイムリー。ケガの影響を微塵も感じさせない、すごい選手です。
これでスコアは２−０。9回裏、俄然スタンドは盛り上がります。守備の間は座っていた応援団も、みんな総立ち。
ランナーをふたり背負う苦しい展開にも、声援で後押し。声にならない声を上げる人、手を合わせて祈る人、そしてグラウンドのナイン…全員で戦っていました。
最後の打者が打ったゴロがファーストに渡り、スリーアウト。試合終了。
安房高校が、歴史的な1勝を甲子園の地に刻んだ瞬間です。
誰彼かまわず握手、ハイタッチ、抱擁…スタンドはもう優勝したようなお祭り騒ぎ。私も、2005年にマリーンズがパ・リーグ優勝を決めた時のパブリック・ビューイングを思い出しました。
選手たちが整列。校歌斉唱。
空澄み渡る 鏡が浦の
輝く波に 富士の峯浮かべり
真理の光の 差しくるところ
ああ若き日の 希望はあふれて
松の林の 風清し
安房高校の校歌が、甲子園の空に響き渡った瞬間、この日3回目の涙…。在学中の3年間、こんなに誇らしい思いで校歌を歌ったことはありませんでした。昨年の夏、千葉県予選で歌った時に十数年のブランクがあるにも拘らず歌詞も見ずに校歌を歌えたことに自分で驚きましたが、この日の校歌は一段と大きな声で、いつまでもこの甲子園に残響として居続けてほしいと思える声で歌うことができました。
最後まで歌い終えて、選手たちがスタンドへダッシュ。また大歓声。
一列に並び、礼。一際大きな歓声。
おめでとう。ありがとう。いろんな声が交じり合った大歓声。
夕暮れの甲子園で4回目の涙…まともに前を向けませんでした。
しばらく呆然とした後、大混雑のスタンドを出て、グッズショップにたどり着く頃には安房高校のグッズは軒並み売り切れ。みんな、おみやげ買っていったのね。
球場から甲子園駅に続く紫色の人並みは、涙と笑顔と疲労と歓喜がごちゃまぜになった幸せの塊でした。
夜は梅田で祝勝会。仲間と尽きない野球談義。
城北に敬意を表して、熊本の米焼酎「鳥飼」をいただきました。身体にしみました。
3月27日、宇治山田商との2回戦で、安房高校はサヨナラ負け。
甲子園での、初めての敗戦を経験しました。
「常に全力」
このモットーを最初から最後まで体現してくれた安房高校野球部は、たった2試合ですがたくさんの素晴らしい経験を積むことができました。
言ってしまえば、21世紀枠はご祝儀。今度は、夏は、実力で甲子園への切符をつかんでほしい。そして再び、甲子園で「常に全力」のプレーを見せてほしい。
もちろん、安房が戦うのは超がつくほどの激戦区・千葉。今年は2枠になったとはいえ狭き門であることに変わりはありません。甲子園出場校ということで、ライバルたちも一介の公立校と思ってはくれないでしょう。
でも、苦しい時ほど甲子園での経験を活かし、またイキイキとした姿を私たちに見せてほしいと思います。
まずは短い休息の時を過ごし、再びボールを追いかける日々が始まります。
がんばれよ。
今回、貴重な瞬間に立ち会えることができて、多くの皆さんに感謝しています。
名もない高校の応援で一緒に盛り上がり、祝勝会でうまい酒を酌み交わすことができた皆さん、特に感謝いたします。
本当に、本当にありがとうございました。
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大応援団も「常に全力」 一塁側スタンド
佐藤、躊躇なくダイブ
商店街 甲冑隊から勝どき