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第弐拾六話 微笑を、君に
シンジからの連絡を受け、アスカとレイはネルフ本部へと向かっていた。
「ちょっと色々とやばいことが起きたからこのルートで来てね?」
電話越しにそんなことを言いながらも口調はそれを感じさせない。
人をあちこち連れまわして、と内心で愚痴りながらもアスカは足を急がせる。
戦場
シンジの口から出たその言葉に使徒が来るのかとも思ったがそうではないらしい。
さらに詰め寄ろうとしたが、それはシンジによって阻まれた。
「ゴメン、本当に時間が無いんだ。こっちに着いたらまた説明するよ。」
そう言うとシンジは一方的に電話を切った。
アスカとレイの背中に冷たい物が流れる。
シンジは嘘を言わない。そのシンジが時間が無いと言う事は本当に時間が無いのだろう。
言葉にしたわけではないが、二人は無言で頷き合うと部屋を飛び出した。
部屋にいた時には気付かなかったがよく街を眺めてみると明らかにいつもと様子が違った。
人がどこにもいなかった。
(いつ警報が鳴ったのよ!?)
シンジの新たな部屋は第三新東京市の郊外に位置し、元々人気の無い場所だった。
それにしても警報が鳴れば気付くはず。
にもかかわらず人っ子一人いない状況は状況の異常さを示すには十分なものだった。
(こうしちゃいられないわね……)
「レイ!急ぐわよ!!」
後ろにやや遅れてついてくるレイに声を掛けるとアスカは走り出した。
続いてレイも歩みを速める。
が、元々基礎体力の乏しいレイはすぐに息が上がり始める。
「待って、アスカ!」
「何してんのよ!?多分とんでもないことが起こるわ!少しでも早く着くのよ!」
そう言いつつ、やや速度を落としてレイにアスカは合わせ始めた。
「あ…ありがとう、アスカ。」
「礼言ってる暇があるなら少しでも呼吸を整えなさい。
全く……アンタ使徒なんだから、もっとシャキッとしなさいよ…てアンタ飛べるんじゃないの?」
先日のドグマの件を思い出したアスカがレイに問うとレイはどこか戸惑ったような表情を浮かべた。
「え、ええ。出来るわ。でも……」
「ならさっさとそっちにしなさいよ!!アタシも無駄に体力使わなくてよかったんじゃない!」
「でも……アスカは……大丈夫なの?」
目的語が抜け落ちたレイの問いかけにアスカは一瞬疑問の表情を浮かべたが、すぐに合点がいった。
「ああ、そういうこと。
レイ、アンタが気を使うことは無いの。アタシはもう吹っ切ったんだし、アイツのことは気にしなくていいわ。
だからほら!早く行くわよ!」
レイの背中をバンッ、と音を立てて叩くと、先を促す。
急に背中を叩かれて咳き込んだレイは恨みがましくアスカを見ていたが、アスカはそれを無視してレイの背中に捕まる。
「………ありがとう。」
「?何か言った、アスカ?」
「いいえ、何にも?」
明後日の方向を見つめ、わざとらしく口笛を吹く。
そんなアスカを不審に思いながらもレイはアスカを背にネルフ本部へと急いだ。
途中何事も無く、無事二人は本部前のゲートに到着した。
シンジが指定したのはいつも使っているゲートとは別口で、疑問に思いながらもレイは降り立つ。
「何よ…これ……」
背中から降りながらアスカは呟いた。
到着した二人を歓迎したのはまずボコボコに姿を変えたゲートだった。
完全に変形し、中には穴だらけの物や、もはやゲートとしての役目を果たしていない物すらある。
続いて二人を襲ったのは異臭だった。
どこか鉄臭く、しかし嗅ぎなれた臭いだった。
二人の背筋に戦慄が走る。
「あれ、早かったね?」
その時、場にそぐわぬ声を出しながら、シンジがゲートの裏から姿を現した。
何か作業していたのか、少し手が汚れていた。
「ちょっと!一体何があったのよ!?」
「ん?まあ、ちょっとね。それよりも思ってたより随分早いんだけど?」
アスカの質問に答えず、逆に問い返すシンジ。
それを見て溜息をつくと、その問いに答えた。
「レイに連れて来てもらったからね。こんなもんでしょ?」
その言葉にシンジは目を丸くして、レイの方を見る。
レイはそれにわずかに微笑んで答える。
「そう………」
シンジはわずかに顔を伏せると嬉しそうに微笑んだ。
「で?時間無いんでしょ?早く行くわよ!」
「そうだね。行こうか。」
アスカが促すとシンジは頷き、二人を引き連れてゲートをくぐる。
特に気にせずゲートをくぐったアスカとレイだが、外よりもさらにひどい異臭に思わず顔をしかめた。
「ゴメン、少しの間我慢してね?」
シンジがそう言うと二人は口元を手で押えながら頷く。
「っ……それで、ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」
ともすれば胃の中のものが逆流してきそうだが、それを何とか堪えるとアスカはシンジに状況の説明を求めた。
レイもそれに続く。
「……一体何があったの?」
「戦自が攻めてきた。」
短く、事実だけを述べる。
「これはその痕だよ。」
「どうして戦自が攻めてくるのよ?」
「ゼーレの指示だよ。」
「ゼーレって?」
初めて聞く単語にアスカは首を傾げるが、その後ろでレイはわずかに表情が揺れる。
「委員会って聞いたこと無い?一応ネルフは国連直属の組織ってことになってるけど、その実、ネルフの上位組織はゼーレと呼ばれる老人達の集まりだよ。中世時代から世界を裏から支配してきた、ね。
ネルフはね、そんな老人達の愚かな願いを叶えるための組織なんだよ。」
「……何よ、それ………」
「ともかく、老人達にとってネルフ、いや碇司令が邪魔になったというべきかな?それで戦自と日本政府に嘘の情報を流して接収にかかったんだ。
いや嘘でも無いか、司令の目的もサードインパクトを起こすことだから。」
まるで日常での何気ないことの様に話す。
だがそれはアスカの背筋を凍らせるのに十分だった。
レイはそっと顔をシンジから背ける。
アスカは信じられなかった。
目の前が暗く閉じていくような錯覚に陥る。
シンジは今、なんて言った?
司令の目的がサードインパクト?
何よ、それ………?
アタシは、アタシは……
足元が崩れ落ちていくようだった。
そこであることにアスカは気付いた。
「…アンタさっき司令も、って言ったわよね?」
「うん、言ったよ。」
「てことは、そのゼーレとかいう奴らの目的も………」
「勿論。」
足元がふらつく。
笑いが込み上げてくる。
結局は自分はサードインパクトを防ぐためでは無く、起こすために戦っていたことになるのだから。
「でもそう悲観することも無いんじゃない?」
倒れそうになる体をレイに支えられているアスカにシンジは敢えて明るく言った。
「どっちにしろ使徒は倒さなきゃならなかった。それは事実だよ。」
「でも……」
「アスカは自分のやってきたことに誇りを持っていいよ。」
「碇君。」
厳しい面持ちで、それでいてどこか悲しそうにレイはシンジに問う。
「碇君はどうしてここにいるの?」
「前にも言ったと思うけどね。復讐の為だよ。そして……
全てを終わらせるために僕はここにいる」
額にポッカリと大きな穴が開いた。
ゲンドウの手にある拳銃から吐き出された弾丸は確実に目の前の少女の頭を貫いていった。
白い煙がゆったりと立ち上り、ゲンドウは無表情のまま少女を眺めていた。
何も無い水槽からの光がぼんやりと二人を照らす。
レイとリツコによって水槽の中のレイのコピーが破壊される前、ゲンドウは夜中、一人でこの場にやってきた。
すでに完成していた素体を見ると、その内の一つを取り出した。
LCLで濡れているにも関わらず、それを抱えあげると別室に移動する。
自身のカードを差込み、ロックを解除すると中に入っていった。
そこにあったのは同じような水槽。
その中に引き上げた素体を入れると幾十にもロックを掛けてその部屋を後にした。
ゲンドウは予測していた。
恐らくは再びシンジに素体が破壊されるであろう事を。
その為の予備として一つを移動したのであった。
最早レイは自身の計画のためには明らかな障害となる。
そう判断したゲンドウは現在のレイを切り捨て、新たなレイを誕生させることにし、レイを呼び出したのだった。
額を打ち抜かれた少女はゆっくりとその身を後ろへと傾き、床に横たえ………無かった。
大きくのけ反った少女は口元をニヤリと歪ませるとおもむろにゲンドウの銃口を握った。
「!!!???」
それまで無表情だったゲンドウの顔が驚愕に歪む。
「残念だったわね。」
レイと同じ顔、同じ声でそう嘲った少女はゆっくりとその身を起こし、ゲンドウを嘲笑した。
額に空いた穴は肉が盛り上がり、見る見る間に傷を塞いでいった。
「…お前は誰だ……?」
「貴方とはこうして会うのはこちらでは初めてね。」
その言葉とともに目の前の少女の肉体が変化する。
背はわずかに伸びた程度で、そう変わりは無いが、レイと同じ蒼銀だった髪が大きく変化する。
色は紫へと変わり、長さもショートカットから肩にかかる程度にまで伸びた。
顔立ちはそれとは逆にほとんど変わることは無かった。
そしてわずか、髪の色が変わっただけで、その姿は彼女と一緒だった。
「ユイッ!!!」
彼女を失って11年。
求めて止まない女性の姿に、ゲンドウは感激で震えた。
その姿を確かめようと手を伸ばしたとき、残酷なセリフが愛らしい唇から吐き出される。
ユイと全く同じ声で。
「残念ながら私は碇ユイではないわ。」
見た目にはゲンドウにはユイ以外には見えなかった。
それ故、いるはずの無い彼女がここにいること、その事実以上にその言葉が信じられなかった。
「何故だ!?どうしてそんなことを言う!?」
「落ち着きなさい。貴方の知ってる碇ユイはここまで髪が長かった?ここまで若かったかしら?」
凛とした声で話す。そこにはユイが持っていた優しさはどこにも無かった。
言葉に詰まるゲンドウをよそに言葉を続ける。
「付いて来なさい。そこで貴方に全てを教えてあげるわ。」
「アスカ!!レイ!!」
発令所に到着した三人を出迎えたのはミサトの歓喜のこもった叫び声だった。
ミサトも不安だった。
戦自との交戦に追われていたとは言え、居場所の確認が出来ず、生死すら不明だったのだ。
だがアスカとレイはいまいち正確に状況が理解できていないため、どうしてそこまでミサトが喜んでいるのか理解できなかった。
レイが戸惑った表情でシンジを見るとシンジは苦笑しながら答える。
「それだけ激しい攻撃だったということだよ。」
「そんなに激しかったの?ゲートや臭いで大体分かるけど。」
アスカのその言葉にシンジは、ふむ、と考え込むとリツコに話を振った。
「リツコさん、今日、ネルフに何人職員がいたか知ってますか?」
「そうね……全部で300人くらいかしら?どうしてかは知らないけどいつもの半分くらいなのよ。」
「そうですか。それで、生き残ったのは?」
「……100人にも満たないわね。」
リツコの口から出た答えに二人は驚きを隠せない。
そんな二人にそっと下を覗いてみろ、とシンジが階下を見るよう促す。
最初それが何か分からなかった。
何か黒いものとベージュ色のものが折り重なって紅いじゅうたんの上にあった。
それらが全て人であったものだということに気付くのにしばらく時間を要したのは距離だけが原因ではなかった。
そもそも誰が理解できようか?
狭い空間に床を埋め尽くすほどの死体が敷き詰められているなどと。
頭ではそうだと分かっていても、二人は実感が伴わなかった。
「理解できないほうが正しいよ。」
苦笑いを浮かべるシンジだが、急に表情が厳しくなると何も無いはずの天井を見つめた。
シンジが何を見つめているのか誰も分からない。
ただ真っ直ぐに見つめるシンジの瞳にそれまで見せたことの無い歓喜と悲しみが見え隠れしていた。
「ついに来たようですよ。ミサトさん。」
「…そう、来たのね。」
ミサトも表情を引き締め、副司令である冬月に確認を取る。
「副司令。」
「ああ、構わんよ。出撃させなければ何も始まるまい。」
冬月からOKが出て、恐らく何も知らないであろうアスカとレイに振り返る。
「二人ともいいかしら?」
「何が始まるのよ?その表情からしてあまりいい話じゃ無さそうだけど。」
「エヴァ量産型がここに来るわ。いえ、もう来た、と言っていいわね。」
「……それでアタシ達をここに呼んだのね?」
「そ「ちょっと違うよ。」」
驚きを抑え、努めて冷静に尋ねるアスカに答えようとしたミサトだが、それより早くシンジが口を挟んだ。
「違うの?」
レイの疑問は皆同じようで、マコト達オペレーターやミサトやリツコまで違うのか?といった表情でシンジを見る。
「量産機が来るから、というのは間違いじゃないよ。でも多分皆さんが思っているのとは違います。」
「どういうことかしら?」
「時間が無いので手短に説明します。ゼーレの目標はアスカです。」
「あ、アタシ?」
思いがけず自分の名前が出てアスカはシンジに問い返さずにはいられなかった。
自分がどうして目標にされるのか。
エヴァのパイロットだということを考えれば確かに自分が狙われる、というのもわからないでも無い。
だが自分はそれだけなのだ。
シンジやレイのほうがよほどその可能性が高い。
アスカを始めとする皆が疑問に思う中で、冬月だけは顔をしかめていた。
「どうしてアスカなの?」
「ゼーレの目的はサードインパクトを起こすこと。その為にアスカを寄り代にするんですよ。」
ですよね、と冬月にシンジは確認を取る。
全てを見抜かれている。
それを認めざるを得ない冬月は軽く溜息をつくと頷いた。
「そしてネルフの目的も同じです。」
ゼーレの目的を知らなかったオペレーターの三人は先ほどのアスカと同じように全てが崩れていくような思いに駆られる。
うすうす気付いていたマコト、シゲルはすぐに精神を再構成するが、全く知らなかったマヤはリツコに飛びついた。
「先輩!本当なんですか!?」
嘘だ、そう言って欲しい。
顔にありありとそう書いており、リツコも本心ではそう言ってあげたかった。
だがこの場でそうするわけにもいかない。
「……本当よ、マヤ。」
「そんな……」
かすかな希望にすがったマヤだったがそれを冷たく却下され、うつむくしかなかった。
「マヤさん。」
シンジが声を掛ける。
「さっきもアスカに言いましたけど、マヤさんがそれを悔やむ必要は無いんです。どちらにしろ使徒はこの世界にいるべきでは無かったんですから。」
「シンジ君……」
「マヤさんも他にも悔やむべきことがあると思いますが?」
目を細めてシンジはマヤを見る。
冷たさが篭ったまなざしで睨まれたマヤはその身を完全に固まらせた。
「シンジ君」
たまらずリツコが口を挟む。
シンジは一息溜息を吐くと、視線を外す。
「……そうですね。今更言ってもしょうがないことですね。」
それじゃ時間も無いですから、と残してシンジはその場を後にした。
「副司令。」
シンジの姿が見えなくなると、ミサトは冬月へと向き直った。
厳しい表情で睨みつけ、低い声で冬月に話しかける。
周りもリツコを除いて同様に冬月を睨んでいる。
「何も言い訳はせんよ。この場を乗り切れたらいかなる裁きも受け入れるよ。」
そう言うと冬月はそばにあった椅子に腰掛けた。
そして目を瞑る。
(やはり悪いことはうまくいかないようになっているのだな。
碇……。浅ましい我々の、そしてゼーレの願いは恐らく叶うまい。お前の息子が全てを終わらせてしまうだろう………)
Good Bye
「目標、間もなく肉眼で確認できます。」
マコトの声とともに主モニターに9機の輸送機が映し出された。
その底面には白い機体がそれぞれ一つずつ搭載されていた。
レイとアスカはそれを無力感を感じながら見つめていた。
思い返せば常にシンジに頼り切ってきた。
シンジがいなければどうなっていただろうか?
冷静に考えてみてもまともな結果にはならないだろうことは容易に予想できた。
そして最後の最後まで頼らなければならないのか?
アスカの唇からつぅ、と血が流れる。
やがて輸送機から機体が切り離される。
自由落下をしていたが、大きな翼を広げ、鷹のように旋回を始めた。
そのわずか数秒の間。
一瞬だけアップになった量産機の首筋にあった紅いプラグをアスカは見逃さなかった。
「KAWORU」と書かれたその文字を。
「そんな……ダミーシステムが完成していたの……?」
恐らくはあの少年の人格を移植しているのだろう。
(シンジ君がアスカを出させなかったのはこれもあったからなのね……)
リツコは隣でモニターを見ていたアスカに目を遣る。
驚きにその表情は満ちていたが、毅然としてモニターを未だじっと見つめていた。
(でもどうやら杞憂に終わったようね……)
リツコの視線の先には確かに強くなった少女の姿があった。
「初号機の状態は!?」
ミサトが確認を取るが、今ここに居るオペレーターは3人のみ。
いつもの様に素早く情報を回すことは出来ず、慌しくキーボードを叩く。
「ちょっと待ってください……
ダメです!!エントリープラグ、及び周辺の施設が完全に破壊されています!」
発令所に衝撃が走る。
いかにシンジが強かろうとそれは相手が人である場合の話しだ。
エヴァ無しではどうしようもない。
「零号機や弐号機のは!?」
「ダメです!全て戦自にやられています!」
「なんてこと……!!」
「そんな!じゃあどうすんのよ!!」
「日向君、人の手では発進準備できない!?」
「出来なくは無いですが、時間的に不可能です。」
まさに八方塞がり。
必死でミサトは頭を働かせるが、どうしようも無かった。
そんな時、シゲルからの報告が更なる驚愕をもたらす。
「ひ、人が兵装ビルにいます!!」
「誰よ!こんな非常時に!!」
カメラを操作してその場所をアップにする。
そこにいたのは先ほどまで自分達の隣にいた白銀の髪を持つ少年だった。
「し、シンジ君!?」
「あの馬鹿!エヴァ無しであんなところで何をやるつもりよ!?」
いくら街はほぼ無傷で存在しているといっても、発令所の声が聞こえるはずは無い。
だが、シンジは街中に無数に存在しているカメラの中からピンポイントでアスカ達が見ているカメラに振り返った。
その瞬間、アスカやレイは胸が締め付けられるような感覚に陥った。
それは笑顔だった。
悲しみに満ち満ちて、だけども、それでもニコリと笑った。
旋回を続けていた量産機だったが、やがて徐々にその高度を下げてきた。
それを見てシンジは右手を上空に掲げる。
発令所の面々は何をするつもりかと一様に黙ってシンジの様子を見守っている。
その沈黙をシゲルの報告が打ち破った。
「大気圏外から高速接近中の物体があります!!」
「何だと!!」
それまでしゃべることなく椅子に腰掛けていた冬月だったが、その報告に椅子を蹴倒しながら立ち上がってモニターへ駆け寄る。
大気圏外から近づいてくるようなものに冬月は一つだけ心当たりがあった。
しかし、それであるはずが無い。初号機は未だ起動していないのだから。
その時、プシュ、と軽い音が響く。
皆一斉に振り向くと、そこにはゲンドウと見慣れない女性の姿があった。
その中で、リツコとレイだけは激しく動揺していた。
冬月は歓喜に満たされていた。
髪型こそ違えど、その容姿は紛れも無く碇ユイ。
他の者は直接見たことが無いため、不審げな顔をしたり、レイと交互に見比べたりしていた。
「気にしないでいいわ。それより、そっちの方はいいの?」
女性に促されて、ミサト達は再びモニターへと向き直る。
レイとリツコは声まで同じ女性から目を離せない。
それでも女性が二人の方からモニターへ視線を移したため、仕方なく二人もモニターへ動かした。
本能的な何かを感じたのだろうか。
ゆっくり降下していた量産機が急激にその速度を速めて、シンジの居るビルへと突っ込んでいった。
「碇君!!」
「シンジ!!」
二人の少女が悲痛な叫びを上げる。
だが、皆が予想したような光景は無かった。
何かの壁に遮られるように量産機はある一定以上の距離からシンジに近づくことは出来ない。
それは先ほどシンジがミサトに見せたのと同じ光景だった。
そこには確かに何も無い。
ただ不可視の壁がそこにあるとしか思えなかった。
「まさか……!!A.Tフィールド!?」
「け、計測不可能!!こちらの計器では測定できないほどのA.Tフィールドが展開されています。」
「し、シンジ……」
まさか、と言うのは全員に共通した思いだった。
フィフスに続いてシンジまでも使徒だったとは。
呆然としているアスカやレイはしょうがないが、大人たちはどこか納得したもの感じていた。
使徒ならばあれほどの戦闘能力も十分納得できるというものだ。
それでも、冬月とゲンドウは納得できなかった。
二人ともシンジが人間であったことは知っている。
シンジが幼い頃を知っているから。
だが人類が強力なA.Tフィールドを展開することは出来ない。
ならば目の前の少年は何者なのか?
「しばらく待ちなさい。時機に答えを教えてくれるから。」
内心の疑問を見透かした女性がそれに答える。
二人はそのまま現状を見守ることにした。
やがて一つの巨大なものがシンジの元へ空気を切り裂きながら到達する。
真紅に染まったそれは音速をはるかに超える速度で近づいていたにも関わらず、シンジのところへ来るとピタリと停止した。
「ロンギヌスの槍……」
槍は見る見る間に縮み、人と同じ程度の大きさまで収縮した。
それを手に取るシンジ。
それで攻撃するのかと思われたが、槍はずぶずぶとシンジの体の中へと潜り込んでいった。
もはや驚くべきことが連続で何に驚けばいいのかすら皆分からなかった。
唖然としてモニターを凝視する。
その中でゲンドウを連れてきた女性だけが平然としていた。
シンジの体が淡い光を発し、元々白かった肌がさらに白く変化する。
レイやカヲルを思わせる、透き通るほどに変化し、シンジは閉じていた瞳をゆっくりと開けた。
紅みがかった金色へと変化したそれをはっきりと見開くと今度は右手を前へと掲げる。
量産機は目の前の壁を打ち砕こうとひたすらもがいていた。
槍のレプリカを何度と無く次々と叩きつけ、中には体当たりしているものもある。
ガン、ガン、と無人の街に殴る音が響く。
幾度と無く繰り返した行動を壊れた機械の様にさらに続ける。
これでもかとばかりにその内の一機が大きく振りかぶった。
一際大きな音を立てるかと思われたが、その音は鳴らなかった。
ただ次々と量産機を覆っていた装甲がガシャガシャと音を立ててアスファルトにめり込んでいく。
ヒビの入った地面に黄色く、紅い液体が染み込んでいった。
発令所に戻ってきたシンジを出迎えたのは歓声ではなかった。
アスカやレイは戸惑いを、女性は特に何の感情も無く、他のメンバーは厳しい面持ちの中に畏怖にも近い恐怖を抱いていた。
(まあ、それも当然だよね。)
シンジも喜びを期待していたわけではない。
十分予想していた反応だったし、自然と受け入れられるとも思っていない。
「お疲れ様、シンジ。」
「別に今の僕じゃ大したことじゃないよ。」
女性がねぎらいの言葉を掛けながらシンジのそばに寄って来る。
そしてシンジの隣に立つ。
「……シンジ、きちんと説明しなさいよ。」
誰も口を開けない中、アスカが意を決してシンジに話しかけた。
「ああ、分かってるよ。でもちょっとだけ待っててくれるかな?」
すぐに済むから、と告げると、女性とともに右手を差し出し目を瞑る。
今度は何をするのか、誰もが疑問を抱きながらも黙って待つ。
そしてすぐにシンジが呟き、女性に尋ねる。
「こっちはいいよ。そっちは?」
「ん、ちょっと待って……。よし、見つけた。」
「じゃ、いくよ。」
「オッケー。」
見た目にそぐわない仕草でシンジに答えると、突如として空間にポッカリと穴が開いた。
そこから一斉に下半身が機械と化した老人達が姿を現す。
「なっ!!どうしてここに居る!?」
「私は自室に居たはずだ!それにお前達こそどうして!?」
それぞれ自室から状況を観察していたはずの自分達が瞬間移動してこの場に居ることが理解できないゼーレの面々は混乱を極めた。
それにシンジが割り込む。
「それは僕が連れてきたからですよ。」
「貴様は!サード!一体何をした!?貴様は何者だ!?」
「残念ながら貴方達に答えるような口は持ち合わせていませんので。」
小馬鹿にした態度のシンジにキールは憤怒の表情で睨みつけた。
だがシンジはそんなキールを相手にせず、ミサトの方を振り返った。
「さあ、ミサトさん。どうしますか?こいつらがミサトさんの仇と言えるゼーレですけど?」
「どうしますか、って言われても……」
突然話を振られてミサトは大いに戸惑った。
何がどうなっているのか理解すら出来ないのに、何をすればよいかなど分かるはずも無い。
「簡単に言えば復讐の絶好の機会ということですよ。その為にネルフに入ったんでしょ?まあ、ミサトさんが思っていた相手とは違うでしょうが。」
軽い口調で復讐を進めるシンジ。まるで単なる好みを尋ねるかのように。
具体的な指針を与えられ、ミサトは一歩前に出た。
愛用の銃に指を掛け、照準をなにかとわめきたてる一人に定める。
「あ、皆さんは目を瞑って耳を塞いでいてください。見たくないでしょう?」
言われるがままに皆耳を塞ぐ。
数人を除いて。
軽い音が響く。
それだけで直前までがなり立てていたそれは永遠に口を閉じた。物言わぬ骸として。
動かなくなったそれを無造作に持ち上げるとシンジは出てきた真っ黒な空間に放り投げる。
未だ生に執着している老人達は怯えた表情でシンジを見る。
一人、キールだけは毅然としてシンジを睨みつけていたが。
「どうでしたか?まずは一人目の復讐を果たしたわけですが。」
「………もう少しすっきりするかと思ってたわ。でも全然嬉しくないのね……」
蚊の鳴く様な声でポツリと洩らすミサトにシンジはへえ、と声を上げた。
「意外ですね。」
「私ももう少し達成感とかそんな感じのがあるかと思ってたわ。でも………残ったのは虚しさだけ。」
「………」
皆黙ってミサトの独白に耳を傾ける。
「こんなことのために私は何年も何をしてきたのだろう、って。さっきから頭の中はそれだけね……」
辛そうに顔を伏せるミサト。
その顔には涙が浮かんでいた。
「それでも僕も今更やめることは出来ません。」
小さくそう呟くとシンジは老人達に向き直った。
無表情で老人達の一人一人を品定めでもするかのように眺める。
一通り見てしまった直後、一番後ろでゴト、と音がした。
老人達が一様に振り返る。
そこには首の無い骸が一つ横たわっており、呆然としたまま硬直したしわだらけの頭が転がっていた。
それを皮切りに一方的な殺戮が始まった。
同じように頭を跳ね飛ばされたもの、首筋を切り裂かれたもの、機械と切り離されたもの。
それらが次々に増えていくが、不思議と出血は無かった。
増えていった死体をゴミ処理員のように次々に女性が穴へと投げ入れていく。
一人、二人と消えていき、最後にキールだけが残された。
「さっきの質問だけど、一つだけヒントをあげるよ。」
そうキールに言うと、シンジは無くなった左腕を見せ付けるように突き出した。
訝しげに腕を見ていたが、やがて視界が黒に染まった。
それがシンジにバイザーを捕まれたからだと気付いたときにはキールの魂はこの場には居なかった。
バイザーと下半身だった機械だけがその場に残され、それらをキールを構成していた液体だけが濡らしていた。
それらをシンジはつまらなさそうに見ていたが、やがて天井を見上げるとふぅ、と大きく溜息をついた。
あっけない。
あまりにもあっけなさすぎた。
これまでかけてきた時間を考えるととても割に合うものではなかった。
(なるほど、ミサトさんの言う通りだな。)
つい数分前のミサトの言葉を思い出す。
確かに何も残らない。
だが、ミサトとは違い、シンジはわずかばかりの満足感とともに安堵ともいえるものを感じていた。
「シンジ、そろそろ皆に説明してあげれば?皆何が何だか分からない、って顔してるわよ?」
言われてシンジが皆の方を振り向くと、驚くことの連続でどこか疲れたような顔が連なっていた。
自分がちょっと待ってて、とアスカに言っていた事を思い出した。
「では、皆さんに説明したいと思います。少し長くなりますのでお席についてください。」
他人行儀に伝えると皆適当に席に着く。
シンジは胸ポケットからタバコを取り出して火をつける。
「碇君、発令所は禁煙。」
レイのどこか場違いな指摘にシンジは苦笑いを浮かべる。
今日だけは許可してくれ、と言うと大きく吸い込んだ。
「さて、まずは彼女に自己紹介でもしてもらいましょうか?」
その言葉にレイによく似た女性が前へ出る。
先ほどは気付かなかったが、一見大人びて見える彼女もどこか顔に幼さを残していた。
「どうも、初めまして。それからリツコさん、レイちゃん、アスカちゃん、こんにちは。」
丁寧に頭を下げられ、思わず頭を下げてしまったが、名前で呼ばれた三人に心当たりは無かった。
「申し訳ないけど、私とどこかでお会いになったでしょうか?」
「ええ、会ってますよ。最もその時はこんな姿じゃなかったですけどね。」
確か、と顎に手を当てて何かを思い出す。
そして、徐々に姿が変化していった。
変化と言ってもそれは大したでは無かった。
髪は見事な黒髪へと変わり、肌も一層白くなる。
元々似ていた顔は最早レイと見分けがつかないほどにそっくりになった。
「ミナモさん……」
「えっ!?」
レイの呟きに隣に居たリツコが驚きの声を上げた。
ミナモはふふっ、と小さく笑い声を上げるとリツコに向き直る。
「リツコさんの時は……」
と言うと再び容姿が変化する。
今度は見た目からも中高生程度に変わり、幼さを残す顔立ちになる。
瞳の色は真紅からやや赤みがかった茶色へ変化した。
「お久しぶりですね。赤木博士。」
軽くウインクして見せる。
その仕草が先ほどまでの大人びた姿といい感じにギャップがあり、それこそそこらに居そうな女子高生のようだった。
リツコの方はそんなミナモに思い切り肩の力が抜けていた。
「もう人間じゃないって言うのは十分に分かったから……」
言外にもういい、と告げる。
ミナモは少し残念そうにしながら元の姿に戻った。
「えっと……じゃあ、夢だと思ってたあの女の人も……」
「ああ、あれは私じゃないわ。」
アスカの問いに否定の返事をすると、後ろを振り返る。
つられてアスカもミナモの背後に視線をずらす。
皆の視線を一身に受けたシンジは小さく溜息を吐く。
その瞬間、その容姿が大きく変わる。
背は大きく伸び、170センチほどに。
それに伴って髪は肩の辺りにまで伸び、色は白銀から輝くほどの金色になった。
体つきも成長期前の少年のものから成熟した女性のものへと変わる。
同性でさえも見とれるほどの均整の取れたプロポーション。
そして顔は幼さの完全に消えて、成長したアスカそっくりだった。
美しかった。ただ残念ながら着てる服が見事なまでに体に合っていない男物の学生服だったが。
その姿を見てミナモが大きな笑い声を上げる。
「しょうがないだろ!ミナモがやれって言ったんだから!」
「は、はは……わ、私はそんなこと一言も言ってないわよ。」
変化した姿のまま周りを置いてきぼりにしてミナモとぎゃあぎゃあと言い合いを始める。
先ほどまでの緊迫した空気などどこ行った、と言った様子だ。
それまでとは違った意味で一同が唖然としている中、冬月がコホン、と咳払いをする。
「あー、シンジ君。申し訳ないのだがそろそろ……」
「あ、そうですね。」
気を取り直して皆席に着く。
シンジも姿を元に戻してようやく落ち着いた。
「ゴメン、アスカ。」
「へっ?」
落ち着いたところで突然シンジはアスカに向かって頭を下げる。
頭を下げられたアスカは意味が分からず変な声を上げてしまう。
「アスカを騙すようなことをして……」
なおも頭を下げようとするシンジをアスカが制す。
「でも……」
「アンタが謝る相手のアタシがもういいって言ってんの!それよりさっさと続きを話しなさいよ。全然進んでないじゃない。」
そう言えばそうだった、と現在の状況を思い出したシンジは改めて再開した。
「少し長くなりますので、こちらを見せながらお話します。皆さん目を閉じて頂けますか?」
一斉に全員が目を閉じる。
シンジはそれを確認すると自身も目を閉じた。
真っ白な空間だった。
レイは奇妙な浮遊感を感じながら辺りを見渡していた。
本当に何も無い、ただ白一色の世界。
ここに立っているというのに足の裏には感触は何も無く、そのくせ自分の存在だけはいやにはっきりと認識できた。
何をしてよいかも分からず、ただ立っていただけだったが、そのうちにいくつかの影が現れた。
それらは次第にはっきりとした形を作り、ついには個人の形を成した。
「な、何よここは!」
「落ち着いて、アスカ。皆さんも大丈夫ですから。」
代表するかの様にアスカが叫び声を上げた途端どこからかシンジの声が聞こえてきた。
何かをアスカが続けようとしたが、突然皆の目の前に巨大なモニターが現れた。
「恐らくそちらの方が感覚的に理解しやすいと思いまして。」
ブン、と低い音が響き、何かの映像が流れ始めた。
そこに映し出された場所が第三新東京市だということに気付くのにそう時間はかからなかった。
「ある所に一人の少年が居ました。
常に他人の恐怖に怯えていた少年はひどく内罰的で、人の顔色ばかりを伺ってばかりいました。」
シンジの声をBGMにして映像は進んでいった。
そこにリニアに揺られるかつてのシンジの姿があった。
「少年の母親は早くに居なくなっており、また父親の方も親戚の家へ少年を預け、以後10年に渡って少年と顔を合わせることはありませんでした。
預けられた家でも少年は疎外されていました。表面上は普通に付き合っていましたが、親戚は少年が邪魔でたまりませんでした。少年を引き取った理由はただ一つ。父親から莫大な養育費が支払われていたからでした。
小学6年の時、少年は庭に立てられた小さな小屋に移されました。
少年はそのことに対して感情を抱きませんでした。
もうすでに諦めていたことでしたから。
そのまま中学二年までそこで過ごしましたがそこは少年にとって快適でした。
自分だけの世界。決して誰も荒らそうとしませんでしたし、ある意味天国だったのかもしれません。
そんな時、一通の手紙が届きました。
差出人の名は碇ゲンドウ。
ただ一言「来い」とだけ書かれた手紙とともに同封されていた切符。
一度は破り捨てたのですが、少年は父親との会いたさに切符に書かれた先へと向かいました。
かすかな期待を胸に上京した少年でしたが、そこで待ち受けていたのは感動の再会ではありませんでした。」
そこでまた場面が変わり、ネルフ本部、続いて初号機のケージへと移った。
「少年を待ち受けていたのは巨大なロボットと冷酷な父親、そして全てを少年に押し付けようとする大人たちでした。
大人たちは口々に言いました。『これに乗って戦え』と。そうしないと人類が滅亡してしまうのだと。」
画面には必死で少年を乗せようとするミサトやリツコ、ゲンドウが映っていた。
そして包帯を巻かれた紅い目を持つ少女がストレッチャーに運ばれてきた。
「重傷ながらも戦おうとする少女の姿に少年は戦う決意をしました。
しかし、少年は何も訓練しておらず、大人たちは一歩歩いただけで大喜びするような状態で勝てるわけありません。
仕組まれた暴走で勝利しましたが、もう逃げ出すことは出来ず、少年も状況に流されることを是としました。」
そこからフィルムは早回しになる。
叱責され、家出するシンジ。
涙を流してミサトとの同居を喜ぶ。
ヤシマ作戦で危機一髪成功し、微笑むレイ。
シンジとアスカの太平洋上での戦闘。
イスラフェルに対するユニゾン攻撃。
マグマ内へ沈み行く弐号機とそれを支える初号機。
暗闇の中を三人で歩き、初の三機同時作戦。
巨大なサハクイエルを受け止め、ミサト達とラーメンを食べに行ったこと。
シンジの弾くチェロをアスカが褒める。
「少年は戦うことに疲れ、傷つくことに慣れていきました。
それでもそんな日々の中にも幸せを見つけ出しかけていたのです。
アスカとミサトさんとの楽しい団欒の時間。
綾波とのわずかな会話。
トウジやケンスケとの学校での馬鹿話。
しかし、そんな日々もやがて陰りが見え始めました。」
それまで日常の楽しそうなシンジ、アスカ、ミサトの様子が映し出されていたが、急に雰囲気が暗くなる。
「最初に綻びを見せ始めたのはアスカとの関係でした。
シンクロ率で抜かれることはこのアスカには許容できることではありませんでした。
楽しい団欒は以後見られることはありませんでした。」
レリエルを切り裂き、咆哮をあげながら這い出す初号機。
戦慄に襲われる一同。その中で口元を歪ませるゲンドウ。
続いてダミーシステムによって参号機のプラグが潰される。
「参号機にはトウジが乗っていました。しかし少年はそれを知らず、また教えてもらえず、ただ同い年の子供が乗っているのだと思っていました。
少年に参号機を攻撃することは出来ませんでした。しかし零号機、弐号機はすでに倒れ、ダミーシステムを強制発動させた初号機はトウジの足を奪いました。
自業自得とは言え、少年の心にはヒビが刻まれました。
一度はネルフを離れようとしますが、その時使徒が襲来、他の二機は倒れ、少年は自らの意志で初号機に乗り込みました。」
そして、初号機の覚醒、シンジの喪失。
シンジのプラグスーツを抱きしめ涙を流すミサト。その後ろから出てきたシンジ。
留守電を聞き、泣き崩れるミサトを見て、部屋へと逃げ込むシンジ。
「一ヶ月後に現実に戻ってきた少年に対しても現実は優しくありませんでした。
ミサトさんは部屋に閉じこもり、アスカは明確な憎しみをぶつける様になりました。
そんなアスカに対して少年は言葉を持ちませんでした。また自身もアスカを傷つけていたことに気付きませんでした。
第15使徒の襲来。それによりアスカは精神汚染を受け、少年は初号機を出すよう進言しましたが受け入れられず、全てが終わった時にはアスカは再起不能なほど心に傷を負っていました。」
もがき苦しむ弐号機の姿が流れ、続いてアルミサエルが姿を現す。
零号機に突き刺さり、涙を流すレイの様子が映し出される。
やがて閃光がモニターを白く染めた。
「アスカはすでに弐号機を動かすことは出来なくなっていました。
結果、己の全てを失ったアスカは廃人と化し、ベッドで眠るだけの生活。
綾波は少年を守るために第三新東京市ごと自爆。
悲しみに押しつぶされそうな少年にある報告が。
綾波が生きていると言うのです。
喜び勇んで少年は病院へと急ぎました。しかし、どうも様子がおかしい。
そして、少年はリツコさんに憎しみとともに全てを少年に明かしました。
少年の心にその事実は受け止めることが出来ませんでした。
すでに崩壊寸前の少年の心でしたが、そんな時、支えとなる別の少年が現れました。」
そして画面にカヲルの姿が現れた。
笑顔を浮かべ、シンジに笑いかける。
「ところが、そんな少年は使徒でした。
弐号機を引き連れ、カヲル君はドグマへと降りていきました。
それを少年は必死で追いながら叫び続けました。
どうして僕を裏切るのか、と。
少年の乗る初号機が追いついた時、彼はリリスの前で微笑んでいたんだ。
そしてカヲル君は少年に告げました。自分を消してくれ、と。
少年は必死で頼みました。こんなことをさせないでくれ、と。
だけど、結局カヲル君は少年の掌の中で消えました。少年にその時の感触と傷を残して。」
そして場面はクライマックスを迎えた。
次々と襲い掛かる戦自隊員。
虐殺される職員達。
そして、うずくまり、自分の殻に閉じこもった少年の姿があった。
「少年の心はもはやボロボロでした。それでも、大人達に少年の事を気にかける余裕はありませんでした。
そして、状況は少年に死ぬことを許しません。
当初、量産機がやってきた時、アスカは復活しました。」
圧倒的な力で次々と量産機を打ち倒していく弐号機。
だが、次の瞬間、倒したはずの量産機が立ち上がり、修復を始めた。
「残されたわずかな時間でアスカは必死で戦いました。しかし、一機の量産機が放った武器が変形しロンギヌスの槍に変わり、弐号機のA.Tフィールドを破って突き刺さりました。
それと同時に弐号機は電源が切れ、活動を停止しました。
量産機たちに捕食され、最早跡形を残さなくなり、それを見た少年の心は――――――壊れました。」
シンジの叫びが響き、直後に初号機の背中から巨大な羽が広がった。
そこでフィルムは止まり、スクリーンは真っ黒になった。
「綾波は、カヲル君は少年に言いました。君は希望なのだ、と。
そして、少年も皆にもう一度会うことを願いました。」
その結果、と言うとスクリーンに再び光が灯る。
「これです。」
そこに映し出されたものが何であるか、誰も理解できなかった。
人は、知らないものを理解できない。
新しいことを学べるのは、それを既存の言葉に置き換えている、もしくは既存の事象の組み合わせだからだ。
だが、今全員が見ているものを理解できずに居た。
スクリーンいっぱいに映し出された紅い世界を。
「説明します。これがサードインパクトの結果です。」
「これが……」
「初号機、及びその搭乗者たる少年を使ったサードインパクトにより、地球上全ての生命がスープとなって一つになりました。
それは少年が願ったものでしたが、同時にそれは違うと思いました。
他人の恐怖が始まるかもしれない。それでも少年は今一度他人の存在を願いました。
ですが、少年が戻ってきた先には何もなく、ただ紅いだけの世界に少年とアスカだけがいました。
そしてアスカも少年に『気持ち悪い』とだけ残して消えました。
紅い世界にたった一人取り残された少年は自らの不甲斐無さを呪い、嘆き、海へと身を投げました。
そこで手に入れたのは世界中の知識と、
どうしようも無いほどの凄まじい人間の暗部でした。
暗く、どす黒い醜い感情が自分に入ってくるのを感じた少年はその中に一つの情報を見つけました。
それは自分達に関するものでした。
セカンドインパクトからサードインパクトまで。
全てが仕組まれていたことを知った少年は憎しみに狂いました。
そして全てに復讐すべく、過去へと旅立った……」
そして、アスカ達の視界がホワイトアウトし、気が付けば周りは見慣れた発令所へと姿を変えていた。
皆一様に顔を蒼くさせ、ガタガタと体を震わせる。
シンジはしまった、といった表情を浮かべた。
出来るだけ客観的に事実を伝えようとしたが、どうも知らず知らずのうちに感情が伝わってしまったらしい。
勿論憎しみは未だ残っている。
それを少しばかり伝えるつもりだったが、伝わり過ぎてしまったらしい。
場の緊張を解すべく、笑いながら言葉を続ける。
「もう昔の話です。今は憎しみはそれ程でもありませんよ。」
「シンジ君は許せるというの?」
私達を、と言外に込めてリツコが尋ねると、シンジは笑顔を浮かべたまま話す。
「そうですね。最初は最後には皆さんを全員殺してしまおうかと考えてました。
最初の頃はですよ?今はそんな気持ちは全くありません。」
アスカと綾波に感謝して下さい、と今度は全員に向かって話す。
「私?私は特に何もしてないわ……」
「またアタシ?そう言われても心当たりなんて無いんだけど……」
似たような反応の二人を見て、クスクスシンジは笑い出した。
「ちょっと、何笑ってんのよ!?」
アスカは馬鹿にされたように感じてシンジに突っかかり、レイも言葉にしないがやや立腹しているらしい。
「ゴメンゴメン。
二人が居てくれたからこそ僕は憎しみを爆発させずに済んだんだ。僕も二人には感謝しているよ。」
「何か納得行かないけど……」
まあいいわ、ととりあえず追求の槍を引っ込めた。
どうせ心のうちなど他人には分からないのだ。本人がそういうのならそれでいい。
「さて、ここからは皆さんからの質問を受け付けます。」
どうぞ、とのシンジの言葉にマヤが恐る恐る手を上げた。
「その、分かってはいるんだけど……やっぱりシンジ君は過去に遡ってきたの?」
「そうね、私もそれは気になるわ。そのまま過去にやってきたの?それとも似た世界にやってきたのかしら?」
「それは平行世界ではないのか、ということですね?」
シンジの確認にリツコは頷く。
「僕は過去に戻ってきました。従って僕が前のままならこの世界は確実にあの紅い海へとたどり着いたでしょう。」
「そう……」
シンジの答えにマヤは肩を落としてうつむいた。
マヤとしては自分がやってきたことは自分では無いと思いたかった。
故にシンジに対しての質問だったのだが、その期待はあっけなく打ち砕かれて落ち込んでいた。
「ついでにいいかしら?」
「どうぞ、リツコさん。」
「どうやって過去に戻ってきたのかしら?時を渡るなんて人には不可能よ。」
「そうですね。彼女のおかげですよ。」
そう言って後ろに立っているミナモを親指で指す。
「ミナモさん?」
「そうです。彼女はですね、初号機の魂なんですよ。」
その言葉にリツコ、冬月が立ち上がる。
ゲンドウは無表情のまま真っ直ぐシンジを見つめている。
「そんな!エヴァに自我があるなんて!」
「初号機の自我はとても弱いものなんです。サードインパクトまではその自我はコアの中の人物に押さえ込まれていました。」
「コアの人物とはユイ君のことかね?」
「そうです。話を戻しますね。
サードインパクトの中心に初号機は居ました。その時、インパクトの余剰エネルギーが一部初号機に流れ込みました。
さらに碇ユイはその時に魂はなくなりました。結果、彼女の自我が少しずつ育ち始めたんです。」
「それでも大分かかったんだけどね。」
横からミナモが口を挟む。
「他の記憶は無かったけどずっと縛り付けられてたのだけ覚えてるわ。
ずっと眠ってたら突然縛り付けられて動きが取れなくなって……
元々S2機関が無かったから力自体は大して無かったわ。」
瞬間的には出せるけどね、と付け加えることも忘れなかった。
「ともかく、そうやってずっと過ごしていたんだけど、ある時気付いたの。
ずっと暖かくて、だけどとても弱くて、今にも消えそうな気配に……
インパクトの瞬間、全てが私に流れてきたわ。
シンジの悲しみ、怒り、憎しみ、そして優しさが。
それは心にすっと入り込んでくる冷たさと暖かさだったわ……。」
遠くを眺めるように目をミナモはすっと細めた。
シンジは自分の事を言われて恥ずかしいのか、頬をぽりぽりと掻いている。
「シンジを助けたいと心から思ったわ。それは私の元となったリリスの母性なる物かも知れないけど。
それで私は残ったエネルギーをかき集めてシンジを過去に飛ばしたわ。」
「そういえば、シンジは中学生に見えるけど、本当は何歳なの?」
シンジを同級生だと思っていたアスカだったが、実はものすごいおっさんなのでは、と変な不安にかられた故の質問だったが、その返答はアスカの予想のはるか上を行っていた。
「ねえ、ミナモ。僕って正確には何歳?」
「そうねえ……」
確か精神だけなら225歳じゃなかったかしら、と事も無げに言う。
その言葉に目を丸くする一同。同級生、もしくは子供だと思っていた相手が実は自分よりはるかに年上だというのだから当然だが。
「気が長いわね……」
そんなアスカの呟きにシンジはそこら辺も含めて人では無くなったのだと答える。
「人じゃ精神が耐えられないよ。と言っても自分が人外だと気付いたのはここに来てからなんだけどね。」
さて、と一息つき、質問を促す。
「では、シンジ君、私からも良いかね?」
「どうぞ。」
「確か、君はどこかの組織に属しているのだろう。だがこちらがいくら調べても何の形跡も無いのだよ。よかったら教えてくれないかね?」
ああ、と思い出すかのように天井を仰ぎ見る。
「そう言えば、そんな振りもしてましたね。」
「振り、とは?」
「簡単に言えば、そんな組織なんて存在しないんですよ。なにせ僕とミナモの二人だけでずっと行動していましたしね。」
その途端、冬月は声を上げて笑い始めた。
「なるほど、道理でゼーレにも見つからないはずだ。」
「僕もここまでうまく行くとは思ってませんでしたけどね。」
「シンジ。」
ずっと無言を貫いていたゲンドウが口を開く。
「ユイはどうした…?」
「あの人ならもうとっくにこの世から消えたよ。」
「そうか……」
そう返事をすると静かに席を立ち、シンジの所へ歩み寄る。
シンジも黙って立ち上がる。
「心の準備は出来ているようだね……」
「ああ。
シンジ……すまなかったな……」
「……前にも同じ事を言われたよ………」
「そうか……」
シンジは黙って右手を差し出す。
「特別にユイさんのところへ行ける様に祈ってあげるよ。」
「すまないな……」
それがゲンドウの最後の言葉だった。
足元にはキールの時と同じように水溜りが残った。
場に沈黙が流れる。
無言でその溜まりをシンジは眺めていたが、伏せていた顔を上げ、笑顔で皆の方へ振り返った。
「さて、これで僕の復讐は全て終わりです。」
「私はいいのかね?」
自分もゲンドウやゼーレと同罪のはずだ。
そう言う冬月にシンジは笑う。
「勿論副司令も罪を償ってもらいます。
ゼーレが居なくなった今、組織自体はしばらくガタガタでしょう。
当然、経済を牛耳っていた組織ですから世界中の経済に多大な影響が出るでしょう。
そこで副司令にはゼーレを押えてもらいます。そして、経済の建て直しを図ってもらいます。」
「簡単に言うがね、そんな容易なことではないのだよ?」
「拒否は受け付けてませんよ?」
笑顔で冬月の抗議を跳ね除けるシンジに冬月は溜息を禁じえなかった。
「これなら碇の奴の方が良かったよ……」
苦笑混じりに呟く冬月を見て笑うと、シンジは他のメンバーの方を向いた。
「皆さんもですよ?ちゃんと冬月先生を助けてあげてくださいね?」
皆一様に大きく頷く。
それが自らに課せられた罰だと皆知っているから。
それを見てシンジは嬉しそうに微笑んだ。
そして、今度はアスカとレイの方を向く。
どこか寂しそうなシンジの表情に、二人の胸に悪い予感がよぎる。
果たして、それは現実となった。
「さて、ここでお別れだよ。綾波、アスカ。」
アスカに驚きは無かった。
どこかでこうなることを知っていたのかも知れない。
シンジが人では無いと知った時から。
「どうして、そういう事言うの……?」
だが、レイは信じられない、といった顔でシンジを見つめる。
そんなレイをシンジはそっと抱きしめて囁く。
「サードインパクトはね、僕の犯した罪でもあるんだよ。
そして、皆と同じように罪は償わないといけない。」
「碇君はサードインパクトを止めたわ。たくさんの人を救った。」
「でも救わなかった人もいる。そして何百という人を実際にこの手で殺めてきた。
それに例え、そうでなかったとしても僕はここには居られないんだ。」
どういうことだ、と目で問いかけるレイにシンジはその真紅の瞳を見つめて諭すように語り掛ける。
「僕はね、使徒ですらないんだ。分かりやすく言えばその創造主たる神と同等になってしまったんだ。」
こんな力要らなかったのにね、と寂しそうに呟く。
「カヲル君も話していただろう?二種の生命は同等に存在できないって。しばらくは出来るかもしれない。でもその歪みって言うのはいつか大きな力を生んでしまうんだ。その時、どちらかが滅んでしまう。でも僕を滅することが出来るのは僕だけ。ならば結末は分かるだろう?折角止めた人類の滅亡を終わらせたくないんだよ。」
それに、とさらに付け加える。
「僕はもう疲れたんだ………」
自嘲気味に呟くその姿にレイはそれ以上何も言えなかった。
涙を懸命に堪え、レイはシンジをじっと見つめる。
「……分かったわ。碇君、今までお疲れ様。そして、ありがとう……」
言葉の途中で涙がこぼれ始める。
そしてそれは留まることを知らなかった。
そっとシンジはレイから離れる。
そしてシンジはレイをアスカに預けた。
「一応、礼は言っておくわ。随分と世話になったし。
でもそれ以上は無しよ。契約を反古にするんだから。」
契約?、と頭をひねるシンジにアスカは忘れたのか、と詰め寄った。
「アタシ達を守り続けるって言う契約よ。」
「そうだったね。それについてはゴメンとしか言えないな。」
それに頼みがあるのだとシンジは打ち明けた。
「何よ?」
「二人には、この世界の僕を育てて欲しいんだ。過去に飛んだとは言え、僕自身はそのくくりから外れた存在なんだ。だからこの時間の碇シンジの魂も存在する。
彼は今4歳で成長が止まってるんだ。僕が消えたらその子が居るはずだから二人にその子をしっかりした人間に育ててもらいたい。僕のようにならないように。」
気持ちとしてはアスカは即決したかった。
だが、一方的に去ろうとするシンジが恨めしかったため、たっぷりと時間をかけて返事をする。
「……いいわよ。アンタから真面目に頼まれるなんてほとんど無かったからね。」
心底嬉しそうに笑顔を浮かべるシンジにアスカは自分の心も温かくなるのを感じた。
「綾波も、いい?」
確認を取るシンジにレイは小さくコクン、と頷いた。
「じゃあ、もう行くね?」
「もう行くのね……」
「うん…。これからはその子の成長と二人がきれいになっていくのを楽しみにして過ごしていくよ。」
「アタシ達は今でも十分美人よ!」
失礼な、と憤慨するアスカにシンジはそうだった、と頭を掻く。
そうして三人は声を上げて笑い出した。
すでにレイの目には涙は無かった。
シンジの周りが光が覆い尽くし始める。
暖かな光に包まれたシンジとミナモは笑顔だった。
「じゃあね、アスカちゃん、レイちゃん。ちゃんとバカシンジを賢い子に育ててね?」
「誰に言ってるんですか?」
「それもそうね。二人なら安心できるわ。」
徐々に消え行く二人の姿。
「ありきたりだけどさよならは言わないわ。」
「そうだね。
それじゃ、またね。」
「うん。またね。」
「また会いましょう、碇君。」
嬉しそうに微笑みながら二人は光とともに消えた。
どこか分からない場所
「ねえ、これでよかったのかな……?」
「何が正解で、何が不正解なんて誰にも分からないわ。シンジが良いと思うならそれでいいのよ。」
「そっか…そうだね。」
「そうよ。」
「ミナモ。」
「ん?」
「ありがとう。」
「いいのよ。私が好きで付き合ってるんだし。」
そう言うとシンジは体をミナモに預けて目を閉じた。
それをミナモは慈しむようにシンジの髪を撫でる。
「おやすみ、シンジ……」
NEON GENESIS EVANGELION
ONE MORE FINAL
THANK YOU!!
新緑の木々から零れ落ちる日差しがまぶしい昼下がり。
子供達の笑い声がそこかしこから聞こえてくる。
シンジが居なくなって数年。日本に季節が徐々に戻りつつあった。
公園のベンチに座り、はしゃぎまわる子供達の一団を眺める二人の女性の姿があった。
しばらく日陰で子供を眺めていたが、その内一人の子供が泣きじゃくりながら二人のそばへ寄ってきた。
「どうしたの、シンジ?」
一人が優しく語り掛ける。
「うぐ、ひっく、あのね、皆がね、みぃちゃんをいじめてたの。」
「それで?」
「止めようとしたんだけどね、そしたら今度は僕をいじめるの。」
「あ〜、もう!情けないわね!泣くな!!」
そこでもう一人の女性が大声で子供を叱る。
子供もその剣幕に驚いたのか、反射的に泣くのをやめる。
「アンタ、男でしょ!?男がそれくらいで泣くな!!やられたらやり返すくらいやってきなさい!!」
「アスカ、極端すぎ。」
「いいのよ、男の子はそれくらいじゃないと。」
レイは溜息をつくと、子供のほうへ向き直る。
「いい、シンジ。貴方は立派なことをしたの。悪いことだと思ったから止めたのでしょう?」
レイの言葉に子供はコクン、と頷いた。
「なら胸を張りなさい。それに貴方の心はちゃんといじめてた子にも伝わってるわ。」
ほら、とレイは子供の後ろを指差した。
子供が振り向くと、そこには数人の男の子が居た。
「……ごめんな。」
リーダーっぽい男の子がぶっきらぼうに謝る。
「ほら、もう一度遊んできなさい。」
「うんっ!」
嬉しそうに一団へと走っていく。
それを二人は微笑みながら見送っていた。
しかし、走っていく途中で急に立ち止まると、二人の方へ振り向いた。
「どうしたの?」
レイが笑顔で尋ねると子供は微笑んだ。
「ありがとう。」
終劇
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