「やっとここまで来た………」


雲一つ無い夜空を見上げながらシンジは呟いた。

笑みを如実に表すきれいな唇から紫煙が吐き出される。


――――――長かった


万感の思いが込み上げ、目を再び閉じてこれまで一年にも満たない時を省みる。


全てを憎んでこの街に来た。

レイを、アスカを憎んで、でも憎みきれなかった。

そして彼女達を守ると誓ったあの日。

にも関わらず傷つけてしまい、再び逃げ出そうとした。

また一度は落としかけた命―――いや、落としてしまったか

かつての友との再会と別れ

―――それらの積み重ねも全てはこの日の為に!


全てを終わらせるためにシンジはタバコを揉み消すと、暗闇の中へ消えた。















第弐拾五話 神のたのしみ

















「本部施設の出入りが、全面禁止!?」


人気が無く、宿直の三人が残る薄暗い本部発令所。

仕事の方も一段落し、同じように休憩してたマコト、シゲルとともにマヤはコーヒーをすすっていた。

そこでシゲルからもたらされた情報に、マヤとマコトは驚きを隠せない。

シゲルは神妙な面持ちでマヤの言葉に頷く。


「第一種警戒態勢のままか?」

「何故……

 最後の使徒だったんでしょ?あの少年が。」

「ああ、全ての使徒は消えたはずだ。」

「今や平和になったって事じゃないのか?」


そう言いながらもマコトは厳しい表情を崩そうとはしない。

詳しい話は知らない。

だが、マコトはここ数週間に渡って調べ上げた様々な情報から何か事件が起こることを予見していた。


「じゃ、ここやエヴァは?」

「ネルフは組織解体されると思う。俺達がどうなるのかは見当もつかないな。」

「補完計画が発動されるまで自分達で粘るしかないな……」


マコトの言葉に異論を唱えられるものはいなかった。








「出来損ないの群体として行き詰った人類を完全な単体としての生物へと人工進化させる補完計画……

 まさに理想の世界ね……」


第三新東京市の外れにある高台でミサトは車を止め、自らが調べ上げたものやマコトからもたらされた情報を整理していた。

ミサトの言葉通り、補完計画が成されれば素晴らしい世界が待っていることだろう。

だがミサトはどうしてもそれが素晴らしいものだとは思えなかった。


「その為に、委員会はまだ使うつもりなんでしょうね。アダムやネルフでは無く、エヴァ初号機を。

 でも初号機はシンジ君がいる。あのシンジ君がそう簡単に委員会に渡すわけは無い。

ならどうやって…?それとも他に要素があるのかしら……?」


何をどのようにすれば補完計画が発動されるのか。


最後にして最も重要な部分を掴みきれていないミサトにはまだ答えを導き出すことは出来なかった。







ゴオォォォォン………

低い音とともに十二のモノリスが一つの部屋に姿を現す。


「……約束の時が来た。ロンギヌスの槍を失った今、リリスによる補完は出来ん。唯一、リリスの分身たる初号機もサードにより困難だ。よって予定通り弐号機パイロットを以って補完を行う。」

「ゼーレのシナリオとは違いますが?」


01と書かれたモノリスであるキールの宣言にその正面に座るゲンドウが異論を唱える。

だが異論とは言ってもそれが形だけであるのは明白であった。


「人はエヴァを生み出すためにその存在があったのです。」

「人は新たな世界へと進むべきなのです。その為のエヴァシリーズです。」


冬月、ゲンドウが次いで口を開く。


「我らは人の形を捨ててまでエヴァという箱舟に乗る必要は無い。」

「これは通過儀式なのだ。閉塞した人類が再生するための。」

「滅びの宿命は新生の喜びでもある。」

「神も人も、全ての生命が死を以ってやがて一つになるための。」


今度はモノリスたちが順に語り始める。


「死は何も生みませんよ。」

「死は君達に与えよう。」


そしてキールから決別の宣告が行われた。

一斉に消えるモノリスたち。

残された冬月が呟く。


「人は生きていこうとするところにその存在がある。それが、自らエヴァに残った彼女の願いだからな。」


ゲンドウは手を組んだまま何も答えることは無かった。









地面におびただしいまでのコードが張り巡らされた空間で、ミサトは一心に端末を叩いていた。

MAGIを熱から守るためか、真冬のように寒く、ミサトから吐き出される息は白く染まっている。

にも関わらず、ミサトはその手をやめようとしない。

しばらくカタカタという音だけがしていたが、やがてその手が止まる。


「そう……これがセカンドインパクトの真意だったのね……」


画面に映る情報を頭に叩き込むミサト。

突如として画面がデリートの文字に埋め尽くされた。

慌てて拳銃を手に取り、後ろを振り向く。

だが、そこには誰もいなかった。

安心して肩の力を抜く。

しかし、その直後、ミサトの後頭部に冷たいものが突きつけられた。

一気にミサトの体に緊張が走る。


「……誰?」


背後から感じる殺気に冷や汗が流れるが、ミサトは違和感を感じた。

これほどの殺気を放っているにも関わらず、どうして殺さないのか?

そして、この殺気にミサトは覚えがあった。

意を決してその名前を口にする。


「………シンジ君?」

「ミサトさん……貴女は死にたいんですか?」


冷たい声が返ってきた。

だが、すぐに感情を伴わない声は姿をくらませた。


「こんな危険を冒さなくても、もうすぐ全てが明らかになりますよ?」

「どういうことかしら?」


殺気が解かれたことで緊張がほぐれたミサトは振り返ってシンジに問い返す。


「それも含めて、です。それより、こんなところでのんびりしてていいんですか?」

「……委員会が動くのね。」

「ゼーレが、ですよ。

 さあ、行きましょう?」


ミサトを促すシンジだが、その顔は喜びに歪んでいた。








「第六ネット、音信不通!!」


発令所のモニター全体に紅い警報が表示される。

職員達が慌しく走り回り、対応に追われる。


「左の回線は非常通信に切り替えろ!衛星を開いても構わん!!」


それはトップである冬月も例外では無く、電話越しに怒鳴りながら指示を出す。

状況は決して芳しくない。

あちこちから仕掛けられるハッキング。

そのルートを示すモニターにはおびただしいまでのラインが引かれており、その全てが日本―――ネルフ本部へと続いていた。


「敵はMAGIか…」


それは分かりきっていたことだった。

こちらにMAGIがある以上、生半可なコンピュータでは泣きを見る。

オリジナルに対抗しうるのはやはりコピーとは言え、MAGIを置いては無い。

………唯一シンジ君の組織だけは出来るだろうがな

だが恐らく関係は無いだろう。

それに相手は分かり切っている。つい先ほど最後通告を突きつけられたのだから。

世界中のMAGIから襲い掛かられていたが、ある瞬間を境にして急激に収まった。


「MAGIに第666プロテクトをかけました。以後62時間は外部侵攻は不能です。」


プロテクト作業を行っていたリツコがMAGIから抜け出して冬月に報告する。


「ああ、ご苦労様。」


先ほどの喧騒が嘘のように静かになり、ようやく場は落ち着いた。

冬月は大きく息を吐き出すと、普段とは違った感触の椅子に腰を下ろした。

いつもならば冬月が発令所で腰を下ろすことは無い。

だが今日は偶々か必然か、普段どっしりと構えている男がいなかったため、ゆっくりと疲れを取ることが出来た。

この場にいないその椅子の持ち主の事を頭に浮かべた。


(我々の願いが叶うのか、それともゼーレが事を成すのか……

 もしくはシンジ君がまたしても壁となるのか…

何故シンジ君はまだ動かない?俺の杞憂だったのか……?)


未だ動きを見せないシンジにいささか不安を覚えたが頭を振ってそれを振り払う。

もう自分に成せることはそう無い。

来るであろうゼーレの侵攻をこの場で食い止めるだけだ。

それまでの一時を冬月は今は楽しむことにした。











「待っていた……レイ。」


かつてレイの素体が浮かんでいた旧人工進化研究所。

ゲンドウはもう何も無い水槽を見つめていたが、静かに近づいてきた人物に気付き、ゆっくりと後ろを振り向いた。


「何でしょうか?碇司令。」


豊かになってきた表情をかき消して、かつ凛とした声で目の前の男に問いかける。

ゲンドウはレイをこの場に呼び出していた。シンジに関する事で話があると。

そうして呼び出すことは二度目だったが、ゲンドウは確信があった。

レイがシンジに関する事で断ることは無いと。

だが、今度はシンジに相談したり、もしくは誰かを―――リツコあたりか―――連れてくる可能性があった。

その辺に関しては警戒し、注意深く観察していたが、どうやら杞憂に終わったようで、見たところ一人のようだった。

内心でほくそ笑むゲンドウ。

しかし、それをおくびにも出さず、言葉を続ける。


「伝えたとおりだ。」

「碇君のことでしょうか?」

「そうだ。」


ゲンドウがかなり背が高いため、レイは上を見上げる形となる。

威圧的にレイを見つめるゲンドウ。

レイはそれを真っ向から見つめ返す。


「申し訳ありませんが、時間が無いので手短にお願いします。」


自らに対してこのような言い方をするレイに、腹立たしさをゲンドウは感じた。

そして、そのようにしたシンジにも。

まるでユイがそう言っているかのようで、辛かった。

それらの感情を普段から被っている仮面に隠す。


「分かっている。我々には時間が残されていない。」


そう言うと、懐に手を入れた。












パンッ
















「やれやれ……」


シンジはミサトを引き連れて本部内を発令所に向かって歩いていたが、不意に溜息をつくと肩をすくめた。

不審に思ったミサトはどうしたのか聞こうとしたが、その時、けたたましい警報が鳴り響いた。

そして、すぐにミサトの携帯が鳴る。


「どうしたの!?」

「先ほど日本政府がA−801が発表されました。」

「A−801?」

「特務機関ネルフの特例による法的保護の破棄、及び指揮権の日本政府への委譲です!

 それと同時に戦自が侵攻を開始しました!ゲートの守備隊は壊滅しました。

やつら無茶苦茶ですよ!かなりの重装備を惜しげもなく使っています!

そこも危険です!早く発令所……」


最後の方は聞こえなかった。

激しい爆発音と爆風がミサトを襲う。


「……ちょっと遅かったみたいね………」


爆発による粉塵が収まると、多量の装備を持った特殊装備の兵士達が一糸乱れぬ列を組んで姿を現した。

中には対戦車砲やバズーカなど、とても人相手に使うものではない武器も装備した兵士の姿も見える。

素早く無言で銃を構える。

辺りに隠れるような場所は無く、愛用の銃は未だジャケットの中。

ミサトが死を覚悟する間もなく、おびただしい量の弾丸が降り注ぐ。

まるでスローモーションの様に流れる景色。

それと呼応してか、体も動く間も無く、ただ瞼だけが静かに下りた。

視界が黒く染まる。


「何してるんですか、ミサトさん?」


この状況において場違いなほど能天気な声が聞こえて、ミサトは目を開く。


「えっ!?」


おかしな光景だった。

確かに自分達に向かって兵士達から大量の弾丸が打ち込まれたはずだった。

どう考えてもあれだけの弾を全て避けられる、または外れるはずが無い。

なのに無傷でこうして立っている。

そして何よりおかしいのはそれらの弾がある空間を境にして空中に静止して・・・・・・・いることだった。

信じられないのは戦自側も同じのようで、呆然とその光景に見入っていた。


「早く行きましょう?」

「えっ!?ええ……」


笑顔で先を促し、今度はミサトを先頭にして歩き始めた。

カン、カン、と軽い金属音が響く。

その音に我に返った兵士達は再び銃を構えると先ほど以上に激しい銃撃を繰り出す。

戯曲のように繰り返される愚かな行為。

フィルムを再生するかのように同じ光景があっという間に再現された。

シンジは興味が無いかのように前を見て歩いていたが、騒がしい後方に苛立ちを感じたのか、歩みを止めて振り返った。

右手を前に少しの間差し出すと前を向き、また歩き始めた。

無言で進むシンジに、ミサトはその行為の意味が分からなかったが、元々今の状態がミサトの理解の範疇を超えており、理解をするのを止めた。


(どうせ後で教えてくれるわよね?)


もうシンジと出会って数ヶ月になる。

こうなったらシンジに聞いても答えてくれないだろう事は容易に予想できた。

ミサトも無言でシンジに付いて行った。

その後ろでは戦自の兵士達がゆっくりと迫り来る不可視の壁に抵抗を試みながらも廊下の壁に押し付けられ、身動き取れない状態に陥っていた。












「碇はMAGIに第666プロテクトをかけた。この突破は容易ではない。」


06と書かれたモノリスが一同に報告する。


「サードを排除するための別動隊も失敗したとの報告があった。

 已むを得ん。戦自による本部施設の実力占拠と同時にエヴァシリーズの投入を行う。」


01と書かれたモノリスからの声には苦渋に満ちたものがあった。



















Genocide























戦自の攻撃は激しさを増していた。

本部の至るところのルートに潜入した兵士達は容赦なくネルフ職員を殺害していく。

まるで機械仕掛けの様に淡々と引鉄を引く。

そこに感情は無く、ただ仕事をこなすだけ。

ネルフ側も曲がり角の壁を使いながら抵抗をしているが、如何せん、錬度が違った。

一方は軍的な要素が混じるものの、元々は研究機関。

職員にも皆射撃訓練等は義務付けていたが、純粋な軍人は保安部や諜報部を除くと数えるほどしかいない。

他は皆、戦場を経験したことも無く、訓練も義務だから、といった感じである。

元軍人でさえも、普段から大掛かりな訓練をしているわけではない。

普段から戦場を想定して訓練をしている相手に叶うはずは無かった。

それでも前史よりはまだマシであった。

前は第三新東京市はすでに壊滅し、住民は皆疎開した後であったため、容赦なく戦車や戦闘機などを用いることが出来たが今回は本部の上に位置する街は健在である。

N2を使用するわけにもいかず、外部からの大規模戦闘をすることはほぼ不可能であった。

戦自、引いては日本政府も住民を殺害してまでネルフを占拠するわけにはいかない。

しかし、ゼーレにとってはそんな思惑など無関係であった。



ついに発令所下部にある扉が突破された。

爆音と衝撃と一緒に吹き飛ばされたそこからはモクモクと煙が上がり、続いて銃撃とともに兵士達が飛び込んでくる。

上部に位置する上級職員たちはまだ問題が無かったが、下部にいるオペレーター達は成す術も無く射殺された。


「第二発令所左翼下部フロアに侵入者」


爆音と射撃音が轟く発令所に虚しくその報告が響く。


「ちっ!!もう来たのか!」


上部に向かって打ち込まれる弾丸をコンソール部分を盾にしながらマコトは反撃し、口で悪態をつく。

だがそれでも大型の武器を使わないだけまだマシだった。


「やはりやつらはMAGIを出来るだけ無傷で手に入れたいらしいな。」


同じように身を隠しながら冬月もぼやく。

完全に学者肌の冬月は銃などほとんど撃った事が無い。

訓練も出来るだけ避けてきた。

慣れない手つきで安全装置を外しながらやや冬月は後悔した。

シゲルやリツコも普段は引き出しにしまわれている拳銃を取り出しながら反撃の機会を伺う。

シゲルは二丁銃を取り出すと、一方をコンソールの下で愛用のクッションを抱きながら震えるマヤに手渡す。


「ロック外して。」


自らの銃の安全装置を外しながらマヤに指示するが、マヤは手には取ったものの、それ以上をする様子は無い。

震える声で呟く。


「私……私、銃なんか撃てません……」

「訓練で何度もやってるだろ!」


シゲルの口調に苛立ちが交じる。


「でも!その時は人なんかいなかったんですよ!」

「馬鹿っ!!撃たなきゃ死ぬぞ!!!」


こうなることはシゲルにも、マヤにも分かっていた。

だがシゲルは覚悟を決め、マヤは絶対にこうならないと根拠の無い妄想を抱き、迫り来る現実から逃げていた。

シゲルは怒っていた。自分の手を汚そうとしないマヤに。

それでも最後の理性で女性に手を上げることだけは我慢した。


パンッ


シゲルの頬を空気が裂き、軽い音がマヤの頬から鳴る。

叩かれた衝撃でマヤの瞳に溜まっていた涙が床を濡らした。


「貴女はこの期に及んでまだそんなことを言ってるの?いい加減現実から目を逸らすのは止めなさい!!

 私達は戦自と戦闘状態で、生き残るためには撃つしかないの。

マヤ、貴女は子供達を戦場に送り出しながら自分の手はきれいなままでいたいの?子供達が命を掛けていても自分には関係ないと言うのね?」


リツコはマヤの顔を両手で挟み、言葉を紡ぐ。


「ち、違います!わ、私はそんなつもりじゃ……」

なら潔癖症は今すぐ捨てなさい!!もう私達の手は汚れきっているのよ!シンジ君やアスカ、レイを生き残させるためには私達はここで死ぬわけには行かないの!」


リツコにしては珍しく激昂してマヤを叱責する。

その目には確かな意志が存在していた。


「ならそんな汚れた手でも少しはきれいにしましょう?もしもの時に後悔しない様に……」

「先輩……」


マヤの顔に生気が戻る。

涙を振り払うとまだ震えながらもロックを外した。

その時、発令所上部―――リツコ達がいるフロア―――の扉がプシュ、と音を立てて開く。

リツコ達はその音に反応して一斉に銃を構えるが、そこから入ってきたのは白銀の髪の少年とミサトだった。


「葛城さん!!ご無事でしたか!」

「ええ、何とかね。状況は……かなりやばいことになってるみたいね。」


身をかがませて流れ弾に当たらないようにして皆と確認を取る。


「他のブロックもほとんど占拠されたわ。状況はまさに最悪。どうする作戦部長さん?」


リツコが敢えて明るい口調でミサトに問いかける。

ミサトもそれに合わせる様に明るく話す。


「そうねぇ…。この状況じゃ両手を挙げて白旗掲げても無駄よねぇ…。

 普通なら撤退、ってぇのが一番なんだけど。」

「それが出来ないこともちゃんと分かってるんでしょう?」

「まあね。」


ミサトがかなりの情報を掴んでいることを揶揄しながらリツコはマコトにちらりと目を遣る。

バツの悪そうに頭をかくマコト。

視線をミサトに戻せば同じように頭をかいている。

その後ろで身をかがませること無く立っていたシンジだが、ポケットに手を入れると、中から二つに畳まれたやや大きめのナイフを取り出した。

そこに最上部から降りてきた冬月が声を掛けた。


「何をするつもりかね?シンジ君。」

「いえ、大したことじゃありませんよ。そんな格好じゃ話しにくいし、周りもうるさいでしょう?」

「まあそれはそうだな。」


大の大人5人が狭いコンソールの下に集まっているのだ。当然大分密着し、動きづらい。

下からは容赦なく銃弾が打ち込まれて、不用意に身を乗り出そうものならたちまち蜂の巣にされるのは目に見えている。


「ですから、ちょっと静かにさせてきます。」

「ちょ、ちょっとまさか……」


ミサトとリツコはその目でシンジの実力を知っているが、武装した兵士相手にナイフ一本で向かっていくのはあまりにも無謀に思えた。

二人ともシンジを止めようとしたが、それよりも早くシンジは宙を舞っていた。

自由落下していくシンジにも例外なく雨のように弾丸が注がれた。

だが、それらは全てシンジと出会うのを嫌がるかのように横へと逸れていく。

タンッ、と軽く音を響かせて着地すると、シンジの姿は掻き消えた。まさにVanishing Hunterの名、そのままに。

ダンスを踊るかのように美しく舞う、二つの銀色。

それらを彩るように次々と見事な紅が舞い上がる。

ミサトは上からシンジを援護するため正確無比の射撃をするが、他の4人はそこまでの腕が無いため、傍観に回らざるを得なかった。


「……すごい………」

「ああ……。」

「あの噂は本当だったのか………」

「あら、貴方達は知らなかったのね?そうよ。シンジ君は恐らく裏の世界でもトップに位置するでしょうね。」


マコトとシゲルは噂と目下で繰り広げられる光景がまだ信じられないようで、食い入るように見入っている。


「きれい……」

「マヤ、確かにシンジ君の動きは美しいわ。それは戦闘に関してシロウトの私にも分かるわ。

 でも、彼が行っているのは間違いなく命を奪うこと。それを忘れてはダメよ。」


そんな当たり前のことに気付かず、無邪気に感動していたマヤは自らを恥じた。

手を汚すのを認めるのとそれに抵抗を失くすのは同義ではない。

マヤに言いながらもリツコ自身もそれを確認していた。


―――シンジ君はどうなのだろうか?分かっていてそれだけの殺害に耐えられるのだろうか?


階下で舞を続けるシンジにリツコは悲しげな視線を送った。



やがて美しき舞は終わりを迎える。

真紅の花が咲き乱れたフロアはその花弁を散らせ、大きな溜まりを作っていた。

床には狭い空間に100人近い人間が倒れ伏していた。


「おかしいわ……」


ミサトの呟きに反応したのは長年の友人であるリツコだった。


「そうね。おかしいわ。」

「何がですか?」


何がおかしいのか分からないマコトがミサトに問いかける。

他の二人も同じようだ。


「今シンジ君が倒したのは多く見積もっても100人。しかもあの入り口だけよ。ここを攻めて来たのは何人?」


そこまで言われ、ようやくマコトは気付いた。


「そう。他の奴らはどこへ行ったの?撤退したのならどうして?」

「……来るわね。とうとう。」


(全ての始まりとなるか、それとも人類全てを終わらせるのか……

 そして我々のしてきたことに結果がでるのか…)


冬月はこれから起こるであろう事に思いを馳せる。

ここでミサトは重要なことに気付いた。


「アスカとレイは!?」

「そ、それが、本部内に確認できませんでした。」

「MAGIがハッキングを受けて、その後すぐに攻撃されたから確認できなかったのよ……」


シゲルとリツコが申し訳無さそうに言う。

確かにあの時そんな余裕など無かった。

現に自分も今二人の事を思い出したのだから。


(私も薄情ね……)


ずっと自分達を守ってくれていた子供達を忘れていたことに罪悪感を感じ、落ち込みそうになるが、今はそれどころでは無い。


「すぐに二人の確認を……」

「大丈夫ですよ。」


ミサトの言葉を遮ってシンジがいつの間にか上へと戻ってきた。

体のあちこちに血液が付着し、身を真紅に染めていた。


「どういうことかしら?」

「二人は今僕の部屋にいるはずです。」















「おっそいわねぇ……。アイツどこまで買い物に行ってんのよ!」


ぶつぶつと文句を言いながらやることの無いアスカは足を大きく投げ出した。

ここをシンジに言われて訪ねたのがおよそ一時間前。

それからお茶請けが無いとシンジは買い物に出かけた。

もうすぐそれから一時間近くが経つ。

見渡すとたくさんの機材が並ぶその部屋はどこかリツコの部屋を連想させた。


「そうね…」


静かに時が流れる。

その静かさが逆にシンジに何かあったのでは無いか、と二人の不安を煽った。

その時、二人の携帯が同時に鳴る。

その相手は二人とも同じだった。


「アンタ!どれだけ待たせるのよ!!」

「碇君?今どこにいるの?」


あまりにも対照的な二人に思わず笑いがこぼれそうになるが、それを堪えて用件を伝える。


「ゴメン。今本部にいるんだ。」

「ネルフに?何でそんなとこいるのよ?」

「まあ色々とね。それより多分、もうすぐそこも危ないことになると思うから早くこっちに来たほうがいいよ。」

「?危ない、てどういうことよ。」


アスカの問いかけにやや考えるとシンジは答えを言った。


「戦場になるって事だよ。」









黒いその身とは対照的に真っ白な荷物を載せたそれは、着実に第三新東京市へと近づいていた。

それぞれに5から13までのナンバーが打たれ、紅いプラグには「KAWORU」と書かれていた。
































続劇


















SEO [PR]  ローン比較 再就職支援 バレンタイン 無料レンタルサーバー SEO