芦ノ湖湖畔。
夕日に照らされ、好きな人にとっては最高の時間であろうその時、少年は設置されたベンチに座っていた。
しばらく自然の織り成す景色に見入ったように目を細めて夕日を眺めていたが、学生服の胸ポケットからタバコを取り出すと、それに火をつけた。
最初の一吸いで大きく吸い込み、肺に入れてゆっくりと吐き出す。
紫煙は何に遮られるでもなく、赤い空に吸い込まれていった。
その後新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んで深呼吸する。
そうしてまたぼんやりと夕焼けに染まる空を眺め始めた。
「♪フン〜フン〜フン〜フン♪」
懐かしい歌声だった。
もう200年以上も前になるのか………
シンジの胸の中に郷愁の念がこみ上げる。
もう一度タバコを吸う。
深く吸いすぎたか、むせ返りそうになるが、それを何とか堪える。
落ち着くとまたタバコに口をつける。
単純な作業。
今度はむせ返ることなく煙を吸い込めた。
頭がクルクルと回り、心地よい浮遊感がシンジを満たした。
タバコが短くなり、ポケットから携帯灰皿を取り出すとその中に吸殻を突っ込んで揉み消す。
ベンチから立ち上がるとシンジは歌声が聞こえてきた方へと歩き出した。
そして、岩の上に腰掛けて鼻唄を歌う自身と似た髪の色を持つ少年に話しかけた。
「待っていたよ。渚カヲル君?」
第弐拾四話 悲しき子供達
「どうして僕の名を?」
昔、自らが言ったセリフを全くのそのままに聞くことになるとは思ってもいなかったシンジはつい吹き出してしまった。
そんなシンジをカヲルは不思議そうな顔で見る。
「何がおかしいんだい?」
「いや、昔同じセリフを言ったことがあったからね。まさかそのまま聞くことになるとは思わなかったから。」
「そうかい?」
アルカイックスマイルを浮かべるカヲル。
その笑みを見て、シンジはまた懐かしさに襲われた。
かつては恨んだこともあった。
希望だと言われ、戻った世界は自らの所為とはいえ、何も無い世界だった。
だが、それはもういい。
カヲルに対してその気持ちはすでに残っていない。
遠い目をしているシンジにカヲルは声を掛ける。
「今度はどうしたんだい?」
「急に昔が懐かしくなったんだ。
それはそうと、君も僕の事を知ってるんだろう?」
「君の事を知らない者はいないさ。エヴァンゲリオン初号機パイロットにして過去の使徒戦において多大な戦果を挙げている。」
「皆そういうんだよね。僕は別に大して活躍していないよ?」
苦笑いを浮かべてシンジは否定する。
カヲルは笑顔を浮かべたまま言葉を続ける。
「直接倒した数じゃないさ。間接的なものも含めて、さ。」
「まあいいさ。でも君が知ってるのはそれだけじゃないんだろう?」
シンジがそう言うと今度はカヲルが苦笑いを浮かべて頭を掻く。
「参ったね。君には隠し事は出来ないようだ。
裏の世界ではかなり有名らしいね?」
「どこでそれを知ったの?」
分かってはいるが一応聞いてみる。
するとカヲルは申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「すまないがそれは勘弁してくれないかな?」
「そうだね。誰しも言いたくないことはあるもんだし。」
「ところで僕の質問には答えてもらってないけど?」
カヲルがそう言うとシンジは、ああ、と空を見上げる。
ニッコリと笑って人差し指をピンと立てると、
「それは秘密です。」
「碇、何故槍を使用した?」
低い声が暗い部屋に響いた。
場には11のモノリスが立っており、その中でただ一人ゲンドウだけがその身を晒している。
「使徒殲滅を優先したまでです。已むを得ない事象です。」
「已むを得ない、か。碇君、言い訳にはもっと説得力を持たせたまえ。」
「最近の君の行動には目に余るものがあるぞ。」
「左様。槍の喪失に続き零号機の爆破。君の解任には十分な理由だ。」
口々にゲンドウを責め立てるモノリスたち。
しかしゲンドウはそれにすでに慣れきっていて、逆に侮蔑の混じった視線を向けている。
無論濃いサングラスによって相手側に悟られることは無いが。
「もう良い。」
01と書かれたモノリスから威厳の篭った声が聞こえてきた。
「槍に関しては不問にしよう。衛星軌道上の敵を撃つには確かに槍以外にはあるまい。
だがそれ以上に厄介な問題が生じた。」
「確かに。まさか君の息子が生きていたとはな。」
「全くだ。そこら辺は君の血を引いているらしいな。」
その嘲りを無視してゲンドウは話を続ける。
「やはり組織の者が第三新東京市に紛れ込んでいたようです。MAGIをも誤魔化せるのですから相当な技術力を持っていると考えてよいと思われます。」
「それが一番厄介だな。」
「碇君、何とかならんのかね?第三新東京市は君の管轄化のはずだ。」
「計画の方は洩れてはいません。ご安心を。」
「本当だろうな?偽証は君の十八番だからな。」
「ついに約束の日まであとわずか。使徒も一体を残すのみだ。我々ももう後には退けん。良いな、碇?」
「はい。問題ありません。」
「サードについてはこちらでまた一考しよう。ではここまでだ。」
「ご苦労だったな、碇。」
形だけのねぎらいをかけてモノリスたちは姿を消した。
ゲンドウは椅子に座ったまま何も無い空間を見つめている。
後が無いのは我々も同じだよ………
それは音として発せられることなく、ゲンドウによって深く飲み込まれた。
「シンジ君も生きていたし、恐らくレイももうこちらにはつかないだろう。
我々の計画はすでに失敗しているのかもしれんな……」
「それでも我々は歩みを止めることは出来ん。ならば進むまでだ。」
会議の終了を見計らって後ろからゆっくりと近づいてきた冬月。
諦めの色がその表情には見て取れる。
「それもそうかもしれんな………」
ゲンドウの言葉に同意する冬月だが、どこか急に年老いたようにすら見えた。
ゲンドウはそんな冬月に気付いたが、何も言わずに席を立った。
「渚カヲル。過去の記録は抹消済み。レイと同じね。」
「ただ生年月日はセカンドインパクトと同一日です。」
「委員会が直で送ってきた子供よ?必ず何かあるわ。」
本部へと直通のカートレインの中、ミサトとマコトがカヲルについて話している。
委員会から送り込まれたフィフスチルドレン。
アスカがいるにも関わらず、だ。
普通に考えれば送られてくる必要などどこにも無いのに。
考えようによっては万一の事態に対する備えとも取れなくもない。
だがその際機体が無い。
エヴァは専用機だ。
自分以外の専用機とシンクロするとは思えない。
ならばその内彼専用の機体が来るというの?
そういえばこの前日向君がエヴァの増産を急いでるって言ってたわね……
少し早めにこちらに送って訓練をさせようとでも?
それなら考えられなくも無いけど……
でも引っかかるのよね………
出口の無い思考の迷路にミサトは迷い込んだが、カートレインが到着するまでに出口を見つけ出すことは出来なかった。
「惣流=アスカ=ラングレーさんだね?」
後ろから声を掛けられてアスカは振り返った。
その視線の先にはシンジと同じような白銀の髪を持った少年が笑顔を浮かべて立っていた。
アラエルの精神攻撃から解放されたアスカは一週間ばかり眠り続けていた。
苦痛から解放されたその寝顔はわずかな笑みを浮かべており、よほどいい夢を見ているのだろうと皆微笑ましく様子を見ていた。
一週間が過ぎ、医師達も何故目覚めないのかと徐々に焦り始めた頃アスカは目を覚ました。
アスカが目覚めて最初に見たものは真っ白な天井。そしてきれいな女性の姿だった。
つい先ほどまでの笑顔は消え、見知らぬ他人に表情が曇る。
だがその女性は金色の髪をかき上げるとアスカの体を黙って抱きしめた。
「えっ!?ちょっ、ちょっと!?」
突然の女性の行動にアスカは戸惑い、声をあげてその女性を振り放そうともがく。
しかし女性は決して離そうとせず、かと言ってきつく抱きしめることもせずただ抱きしめ続けた。
ぬくもりがアスカの体を包み込む。
暴れていたアスカだがその身を女性に任せ始めた。
涙が蒼い瞳から零れ落ちる。
「今はまだもうしばらくお休みなさい。」
女性らしい見事な肢体から紡ぎだされた優しい音色。
それは直接伝わる体温と供にアスカの耳に届いた。
「マ、ママ………」
そう呟いたアスカだが、意識が急速に遠のいていった。
暗闇に包まれていくがそこには何の恐怖も無い。
次にアスカの瞼が開いたときにはその女性の姿はどこにも無かった。
必死で部屋を見渡し、女性の姿を探すが見つからない。
体にもぬくもりは無く、それがアスカにとっては夢である事を物語っていた。
「そうよね、夢に決まってるじゃない……」
残念そうに言うアスカだが、その言い方ほど残念では無かった。
頬をピシャッと叩き、ヨッという掛け声と供にベッドから降りた。
とりあえずどれ位自分が眠っていたのか分からないので情報を仕入れようとアスカはドアの前に立つ。
だがその前にプシュ、と音がして扉が開いた。
最初アスカは誰が入ってきたのだろうと思った。
見慣れない白銀の髪。
レイを思わせる透き通るような、同性として惚れ惚れするような白い肌。
その少年の言葉に熱いものがこみ上げる。
「おはよう、アスカ。」
聞き覚えのある声だった。
そしてもう二度と会えないのだと、もう聞くことが叶わないのだと思っていた声だった。
「う……うそ…………」
「嘘じゃないよ、アスカ。」
「嘘よ!!だってアンタ、その、死んだって………」
「じゃあ今現実にアスカの目の前にいる僕は何なのかな?幽霊?」
意地の悪い笑みを浮かべる。
だがそれは優しい微笑みでもあった。
もうアスカは疑いようが無かった。
「……馬鹿シンジ。」
そう呟くとアスカはシンジの胸に飛び込んだ。
二つの蒼い瞳から零れ落ちる雫がシンジの学生服のカッターシャツに染み込んでいく。
わずかな嗚咽を洩らす目の前の小さな少女にシンジはただ胸を貸していた。
「ああ、アンタね。今度来たフィフスっていうのは。」
アスカが合点がいった、といった感じでうなづく。
「おや、耳が早いねぇ。」
「シンジが言ってたからよ。もうすぐフィフスチルドレンが来るって。」
「そうかい。では改めて自己紹介させてもらうよ。
僕の名前は渚カヲル。今回選ばれたフィフスチルドレンということになる。残念ながら機体は無いけどね。」
「機体が無いのにチルドレンっていうのも変よね?」
「そうだね。まあ君達に何かあったときの予備と考えてもらっていいよ。」
カヲルがそう言った時、アスカの表情がわずかに変わった。
「ちょっと待った。」
「どうしたんだい?」
どこか不機嫌そうな表情のアスカにカヲルは不思議そうな顔をする。
「アンタねえ、自分の事を予備だなんてものみたいな言い方するんじゃないわよ。」
「ダメなのかい?」
「アンタバカァ?ダメに決まってんじゃないの。自分の事をそういうふうに言うもんじゃないわ。もっと自分を大切にしなさい。」
はあ、と溜息をつきながらやれやれ、といったように肩をすくめる。
そんなアスカにカヲルは笑顔を浮かべた。
「何よ?」
「ふふ、惣流さんは優しいんだねえ。」
笑顔を浮かべたまま恥ずかしげもなく言うカヲルにアスカは顔を赤らめた。
「なっ、何言い出すのよアンタは!」
「僕は思ったことを口にしただけだよ?」
「そういうのは相手を前にしては言わないの!言われたこっちの方が恥ずかしいじゃない!」
「そういうものなのかい?」
「そういうものなの!」
面と向かって褒められたのが恥ずかしいアスカはつい大声で話してしまう。
だが、内心ではとても嬉しかった。
そういうふうに言われたことがアスカは今まで全くといっていいほど無かった。
自分でもそんなかわいい性格ではないと思っている。
だからか、素直に想いを言葉に出来る目の前の少年をうらやましくも思った。
「ところで、僕はまだここに来たばかりでね。どこに何があるのか全然知らないんだ。出来れば惣流さんに案内してもらいたいんだけど?」
「え?ええ、別にいいわ。付いてきなさい。」
まだわずかに頬に赤みを残したまま笑顔でカヲルを促すアスカ。
それを見てカヲルはまた笑顔を浮かべた。
「やっぱり惣流さんは優しいねぇ。」
「アスカ。」
それから数日が過ぎ、アスカはここのところ毎日カヲルと会っていた。
今日もカヲルと楽しい一時を過ごし、先ほど別れたアスカをシンジは呼び止めた。
「何、シンジ?」
「カヲル君と会ったんだね。どうだった?」
カヲルと似た笑顔を浮かべて尋ねるシンジだが、どこかいつもと違った。
「アイツ?いい奴だと思うわよ?ちょっと得体の知れないところがあるけど。
そうそう、アイツね、さっき食堂を案内したとき………」
しかし、アスカはシンジの様子に気付かず、案内しているときの事を話し出す。
その表情はとても楽しそうだった。
シンジは内心歯噛みしながらも適当に相槌を打って話を聞く。
(やっぱり………)
シンジとしては予想していたことだった。
今回はシンジは寄り代としては役に立たない。
となると元々予備の寄り代であったアスカがその役目を負わされる可能性があった。
果たして今その通りになろうとしている。
かつてシンジがカヲルに好意を抱いたように恐らく今アスカはカヲルに対して悪くない感情を抱いているだろう。
アラエルの精神攻撃に最悪の事態は避けられたものの、未だアスカの精神はどこか不安定である。
ケアはしてきたがそれでも十分では無い。
カヲルが自ら死を選んで欲しくないとは思う。
出来れば人として歩んで欲しいと思う。
だが恐らく今回もそうするであろうことは間違いない。
勿論サードインパクトを起こさせなどしない。
しかし、いづれにしてもアスカはこのままでは大きな傷を負ってしまう。
シンジはそれだけは避けたかった。
「アスカ。」
もう一度名前を呼ぶ。
笑顔は消え、その顔は悲しみに歪んでいた。
雰囲気の変わったシンジにアスカも話を止める。
「こんなことを言うのは悪いとは僕も思ってる。」
「何よ急に?」
「アスカ、カヲル君とはあまり付き合わないほうがいい。」
まさかシンジの口からそんな言葉が出るとは思っていなかったアスカは戸惑った。
「突然何を言い出すのよ!何かアンタ、アイツに恨みでもあんの!?」
「別にそうじゃないよ。でも………」
珍しく歯切れの悪いシンジ。
カヲルの事を悪く言われ、頭に血が上っているアスカはシンジに詰め寄った。
「じゃあ何よ!?言いたいことがあるのならはっきり言いなさいよ!」
「このままだとアスカが傷つくことになるから………」
「一体何の根拠があってそんなこと言うのよ!アンタがどう思ってるのか知らないけど、アイツはそんな悪い奴じゃないわ!」
「それは分かってる。たぶん僕の方がアスカよりカヲル君の事を知ってるから……」
「何?アイツとアンタ知り合いなの?」
「そう………だね。古い友人と言っていいかも知れない……」
「じゃあ教えなさい。アイツに何があるの?」
シンジは踏ん切りがつかなかった。
もしかしたらカヲルが人として生きていってくれるんじゃないだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
だが頭を振ってその考えを振り払う。
アスカのためなんだ………
そんな自己満足な考えに反吐が出そうだったが、意を決して事実を口にした。
「アスカ、カヲル君は………使徒なんだ………」
Last Angel
「君は僕と同じだね?」
本部内の長いエスカレーターを登りきった先でレイは突然そんなことを言われた。
シンジと同じような髪を持つ少年。
見ず知らずの人間に唐突にそんなことを言われ、レイは警戒心をあからさまに表に出す。
他人が聞いても訳が分からないか、或いは同じチルドレンであることを指しているのだろうと思うかもしれない。
しかしレイは自分特有の秘密の事を指しているのだろうと何となく分かった。
「貴方、誰?」
前のレイと同じようにその他の感情を消し、無表情を繕う。
だがカヲルはポケットに手を突っ込んだまま笑顔で気にした様子など微塵も見せない。
「お互いがこの星で生きていく体はリリンと同じ形へと行き着いたか……」
レイの問いかけを無視して、話を進めるカヲル。
自分の問いに答えることは無かったが、レイにとってそれだけで十分だった。
目の前の人の形をしたものは決して人ではない、と。
そして自らと相容れることは無いだろうと本能的に悟った。
「いいえ」
冷徹なまなざしを向ける。
「私と貴方は同じ。だけど違うわ。」
本部から帰宅して、アスカは自分のベッドに倒れこんだ。
頭の中がグルグルする。
思考がままならない。
何度も何度もシンジの言葉が頭の中を駆け巡っていた。
「アスカ、カヲル君は………使徒なんだ………」
「………は?」
「信じられないのは分かるけど、カヲル君は第十七使徒なんだ……」
「何言ってんの、アンタ?アイツが使徒のわけないじゃない。
大体使徒ってのは今までここを襲ってきてたでっかいエイみたいなのとか、空から降ってきたあの馬鹿でかい目ん玉お化けみたいなあんな奴でしょ?それに十七って何よ?次に来るのは十五でしょ?」
そこまで言ってアスカは気付いた。かつてシンジが言った事を、そしてレイの事を。
「使徒っていうのはね、だんだん進化してきているんだ。近接戦闘から長距離型、そして使徒は人の心に興味を持った。この前アスカに精神攻撃を仕掛けてきたのがいい例だ。そして行き着く先はこの体だったんだよ。
第十七というのは最初に来た使徒の前に二つの使徒が確認されている。一つはレイの持つリリス。そしてもう一つはアダムだよ。」
「で、でも私達も十八番目なんでしょ!?それにレイも普通に私達と生活してるじゃない!」
叫びにも近いアスカの言葉だったが、シンジは静かに首を横に振った。
「カヲル君とアスカ達とは決定的に違うところがあるんだ。
アスカ達は十八番目だけど、群体としての可能性。だけど他の使徒たちは単体として完成された存在なんだ。」
「だけど!別に共存できないって決まったわけじゃ無いでしょ!?今までのと違って話も出来るんだし、もしかしたら………」
「分かってる。僕だってカヲル君を説得してみるつもりだよ?だけどカヲル君がうん、と言うまでは出来れば離れていて欲しいんだ。」
シンジの言うことはアスカも分かっている。
だが感情が納得しない。
なおも食い下がろうとしたアスカだったが、それをシンジにしては珍しく睨みをきかせて止めさせた。
普段見せないVanishing Hunterとしての顔を覗かせるシンジにアスカはただならぬものを感じた。
冷や水を浴びせられたかのように一気に感情が冷める。
アスカが落ち着いたのを見るとシンジも殺気を解いた。
「アスカ、分かって欲しい。僕だってカヲル君をどうこうしたくないさ。友達だったからね?」
それを聞いてアスカも少し安心する。
いつだってシンジは言った事をやり遂げてきたのだから。
だが次にシンジの口から吐き出されたのはアスカの思いを裏切るに近いものだった。
「………でもあまり期待しないで欲しい……。たぶん、無理だと思うから………」
それからはよく覚えていない。
呆然とシンジを見送った後、気がつけばマンションへと戻っていた。
仰向けになってしばらく見慣れた天井を見る。
どうしてうまくいかないのか?
自分が何をした?
悪いことでもした?
神様って意地悪ね……
アイツとはいい友達になれそうなのに………
シンジが自信なさ気とはね……
いつもシンジは言ったことは全てやり遂げてきた。
そんなアイツが自信がない、て言うことは本当に自信がないのよね……
どうしてアタシが欲しいものは掌から零れ落ちていくんだろう………
体の向きを変えて今度はうつぶせになる。
枕に顔を押し当てると視界は真っ黒になった。
「どう?彼のデータ入手できた?」
「これです。伊吹二尉から無断で借用してきました。」
ジオフロントの地底湖にかかる橋の上。
もはや恒例になりつつあるミサトとマコトの密会。
だがそこにある雰囲気は男女の密会の甘い雰囲気などではなかった。
「悪いわね。泥棒みたいな真似ばかりさせちゃって。」
罪悪感を覚えつつもそれを無視し、渡されたデータを見る。
そこにあるのはミサトを驚かせるのに十分なものだった。
「マヤちゃんが公表できないわけですよ。理論上はありえませんからね。」
「シンクロ率を自由に設定できるとはね……」
ミサトの頭には話題の少年と同じ髪を持つ、もう一人の少年の姿が浮かんだ。
(あの時は改竄の方に意識がいってたけど……どうしてデータを改竄しないといけなかったのか……?
まさかシンジ君も……?)
そうではない事を祈りながらもミサトの中からその疑念はくすぶり続けた。
「やあ、惣流さん。」
カヲルは笑ってアスカに呼びかけた。
その笑顔とは逆にアスカの方は暗い顔で振り返る。
「どうしたんだい?何か悩みでも?」
アルカイックスマイルを浮かべ、アスカに問いかける。
アスカには分からなかった。
その笑顔が表面上のものなのか、それとも笑顔がそのままカヲルそのものを表しているのか。
「別に……」
「そうかい?何か悩んでるように見えるけど僕の気のせいかな?」
そう言ってまた笑顔を浮かべる。
アスカは迷った。
自分がカヲルについて知ってることを伝えて、これからどうするつもりなのか問いただすか否か。
前の彼女ならば迷うことなく問いただしたかもしれない。
だが、今のアスカは失うことが怖かった。
数瞬の間が空く。
自らの行動力と恐怖の葛藤は前者が勝った。
しかしわずかに遅かった。
「あのさ……」
「ああ、すまない。ちょっとこれからやらなければならないことがあるんだ。」
「そ、そう。ならしょうがないわね。ちゃっちゃと片付けてしまいなさいよ。」
「すまないね。」
申し訳無さそうにその場を去るカヲル。
笑顔を作ってそれを見送るとアスカは溜息をついた。
がしがし、と頭を掻き毟ると壁を思い切り殴りつける。
「何やってんのよアタシは……」
鈍い痛みに顔をしかめながらアスカもその場を去った。
本部内に警報が響き渡ったのはそれからわずか十五分後のことだった。
「エヴァ弐号機起動!!」
「そんな!?アスカは!?」
使徒も襲来していないのに、突然起動した弐号機に発令所は一気に喧騒に包まれた。
慌ててマコトは弐号機内部をモニターに映し出すがそこには誰もいない。
「エントリープラグは無人です!」
「弐号機パイロットは現在本部内廊下を移動中。こちらに向かっています。」
パイロットもいないのに起動する。
あり得ない事態に発令所はさらに混乱を極めた。
「アスカじゃないの!?」
「まさか、最後の使者……!?」
リツコの呟きにミサトが詰め寄る。
「リツコ!アンタ何か知ってるのね!?」
「え、ええ。恐らく最後の使徒が現れたのよ……」
リツコも出来るだけ冷静に努めようとするが、やはり信じられないのか、誰もいないプラグを見つめる。
「でもどうして勝手に弐号機が起動するのよ!?それにどこに使徒がいるってえのよ!?」
「多分、あのフィフスの少年ね……」
その直後、別の警報が鳴り響く。
「ドグマ内にA.Tフィールドを感知!」
「弐号機!?」
「いえ、パターン青!間違いありません!使徒です!!」
モニターにドグマの様子が映し出された。
そこに映るは弐号機を従者のように引き連れて降下していくカヲルがいた。
「そんな……あの少年が………」
「何が起きたの!?」
アスカとレイが息を切らせながら発令所に駆け込んでくる。
そして最初にアスカの目に飛び込んできたのは宙に浮かぶ第十七使徒の姿だった。
「そんな………」
分かっていたけれどもアスカはショックだった。
いや、どこかで信じていなかったのかもしれない。
信じたくなかったのかもしれない。
だけれども今アスカの瞳に映る光景は紛れもなく事実だった。
へなへなとその場に座り込むアスカ。
「アスカ………」
「初号機に追わせろ。」
低く、冷酷な声がゲンドウの口からこぼれる。
「どうした?」
「……はい。」
ミサトにはその命令に従うことしか出来なかった。
「まさかゼーレが直接送り込んでくるとはな……」
横で座って指示を出そうとしない男に代わって、冬月は各方面に次々と指示を出していた。
忙しいからか、それとも焦りからか、その額には大粒の汗が光っている。
「奴が弐号機を動かしたのは老人達にとって誤算のはずだ。ミスなのかは知らんが老人達は弐号機に追わせたかったはずだからな。」
「こちらにとっては嬉しい誤算、というわけか。どちらにしても危機には変わりないがな。」
「装甲隔壁は弐号機によって突破されています!」
「目標は第二コキュートスを突破!」
「エヴァ初号機は!?」
「現在メインシャフトを降下中。目標と接触まで後60!」
報告を聞き、ミサトはモニターに映るシンジを見遣る。
美しい白銀の髪によって顔は隠されており、その表情は見えない。
「パイロットの呼吸、脈拍ともに正常。」
「彼、落ち着いてるわね。動揺とかと無縁なのかしら?」
別のモニターに映し出されるシンジの状態を見てリツコが呟く。
そこにはいつもと変わらないシンジの体の状態が映っている。
「シンジは……知ってたのよ……」
「え?」
後ろからうめくようにアスカが呟く。
ミサトが振り返るとアスカは蒼白になった顔を上げてミサトとリツコを見る。
「シンジは………カヲルが使徒だって事を……知ってたわ。」
「何ですって!?どうして!?」
「そんなこと知らないわよ!!!」
大声を上げたリツコだったが、それ以上の声で叫び返すアスカに自分を落ち着かせる。
悲鳴にも近い叫びにリツコはアスカがこの場で一番ショックを受けていることに気が付いた。
「だから、アイツ……シンジはカヲルを説得してみるって……」
「そう……」
ミサトは小さく震えるアスカを慰めてやりたかった。
だが今はそんな余裕は無い。
意識からアスカの事を振り払うと今成すべきことへと集中した。
「いい、シンジ君?後15秒後に目標に接触するわ。ターミナルドグマへの侵入をなんとしても阻止して。」
「了解……」
「まもなく接触します!」
マコトの報告が耳に入るとシンジの目には昔と同じ光景が映し出された。
カヲルは近づいてくる初号機を見つめる。
「やっぱり来るのは君だよね……」
「カヲル君……」
二体の巨体が組み合う。
両手を合わせ、力比べをするかのようにお互いを押し合う。
カヲルは一瞬バランスを崩すがすぐに立て直した。
「やはりつらいものがあるね。起きかけた魂を使役するのは。」
ミサトはモニターでその様子を静観していたが、やがてそっとマコトに近づいて耳打ちをする。
「反応が消えてもう一度変化があったときは……」
「分かっています。ここを爆破するんですね?」
「すまないわね……」
「いいですよ…貴女と一緒なら……」
二人が覚悟を決めていたとき、その後ろでレイは未だ座り込んでいるアスカを立たせる。
「アスカ。」
「……何よ………」
「付いて来て。」
半ば引っ張るような形でアスカを発令所からレイは連れ出した。
「どこ行くのよ……」
レイはアスカの方を振り返らずに答えた。
「ターミナルドグマよ。」
組み合っている二機のエヴァを背にカヲルはぼんやりと壁を眺めていた。
(人の定めか……人の希望は悲しみに綴られている……)
(そうだよ…でも人はそれがないと生きていけないから……)
自らの思考の中に何かが割り込んでくる。
驚いてカヲルは後ろを向くが、そこには変わりなく攻防を繰り返すエヴァの姿があっただけだった。
(…気のせいか)
そう結論付けるとカヲルは目を閉じた。
発令所全体を激しい振動が襲う。
「何が起こったの!?」
「この間観測されたものと同等、いやそれ以上のA.Tフィールドです!!」
「光波、電磁波、粒子も遮断されています!!何もモニターできません!!!」
マコトとシゲルが次々と叫ぶように報告する。
「まさに結界か……」
「目標、及びエヴァ弐号機、初号機ともにロスト!パイロットとも連絡取れません!!」
天井に穴が開くようにしてそこから弐号機と初号機が落ちてくる。
塩の柱が立つ海に着地し、大きな水柱が上がる。
カヲルは二機を見つめていたが、踵を返して奥へと進んでいった。
(ミナモ、後を頼む……)
(分かったわ。シンジも決着をつけてきなさい…)
シンジの目が紅に変わる。
そしてプラグからシンジの姿は消えた。
宙に浮かんだままカヲルは暗い廊下を進んでいく。
やがてその前には頑丈な扉が現れる。
だがカヲルがそれを一瞥すると電子音とともにロックが解除される。
「最終安全装置、解除。」
「ヘブンズドアが……開いていきます……」
「ついにたどり着いたのね……使徒が…
日向君……」
ミサトの呼びかけにマコトは無言で頷いた。
その直後、再び振動が本部を揺らした。
「状況は!?」
「A.Tフィールドです!」
「ターミナルドグマ周辺に先ほどと同等のA.Tフィールドが発生。」
「結界の中に侵入していきます!」
「まさか!?新たな使徒!?」
ミサトが叫んだとき、モニターに踊っていた分析中の文字が消えた。
「しょ、消失しました!」
「消えた!?使徒が!?」
皆が混乱する中、リツコだけは消えたA.Tフィールドの正体を悟った。
「そう…完全に受け入れたのね、レイ……」
開いたドアをくぐってさらに奥へと進む。
そして視界が開け、紅い十字架に貼り付けられた白い巨人が見えてきた。
その胸元まで上昇し、真っ直ぐにカヲルはそれを感慨深そうに見つめる。
「待っていたよ、カヲル君……」
―――まさか
驚愕の表情で声のしてきた方に視線を向ける。
「どうしてここにいるのか、って顔だね?」
「ああ。教えてくれないかい?
とは言っても多分君は教えてくれないだろうね。」
「そうだよ。やっぱり答えは自分で見つけないと。」
ニッコリと笑うシンジ。
それにつられてカヲルも笑みを浮かべる。
「ところでカヲル君。何かに気付かない?」
そう言ってシンジは視線を白い巨人に向けた。
カヲルも十字架のほうを見る。
―――何かが違う
何の迷いもなくここまで来たが、カヲルは目の前の巨人に何か違和感を感じた。
確かにこの波動が目標だったはずなのに。
これに似て非なるものを頭の中でピックアップしていく。
「そうか……これはリリス……」
「そう。アダムじゃないんだよ。アダムは………」
ここだよ、と指で自分の胸を指す。
最初は何のことか分からなかったが、すぐにカヲルは理解した。
「あはははは!!何てことだい!!こちらに来てすぐにアダムと出会っていた、ということなのか!」
「カヲル君……君はこれからどうするつもりなの?」
そうシンジが聞くとカヲルは笑いやめ、じっとシンジの方を見つめた。
「僕が生き続けることが僕の運命だった。たとえ人類が滅びたとしても……
だが僕にとって生と死は等価値でもある。僕の目的は失敗した。だからこのまま退場させてもらうよ。」
静かに語るカヲル。
シンジは何も言わず、ただ静寂が支配する。
しかし、一つの感情がそれを打ち破った。
「そんなのダメよ!!!」
アスカの叫び声が空間に木霊した。
驚いてシンジもカヲルも振り向く。
「アスカ!綾波!」
ゆっくりとアスカとレイがシンジ達に近づいてくる。
アスカは今にも走り出しそうな勢いだが、レイに捕まって空中を移動しているため気持ちとは裏腹にゆったりと近づいてくる。
十字架の足元に着地すると、宙に浮いているカヲルに向かって叫んだ。
「ちょっとアンタ、さっさと降りてきなさい!」
「はい?どうしてだい?」
「い・い・か・ら!!早く降りてきなさい!!」
有無を言わせぬ口調でアスカが命令する。
しぶしぶカヲルはアスカに従って下に降りてきた。
つかつかとカヲルに詰め寄る。
「アンタ一体何考えてんのよ!?」
「そんなに大きな声出さなくても聞こえてるよ。
多分君の考えている通りさ。」
アスカの大きすぎる声にカヲルは顔をしかめる。
「どうしてよ!?」」
「僕は使徒で君は人。それが全てさ。」
涼しい顔で事も無げに言い放つ。
だがどこか悲しげだった。
その様子にアスカは気付かず、なおも言葉を続ける。
「納得できないわよ!大体人類も使徒なんでしょ!?なら問題無いじゃない!!」
「それが問題があるんだよ。多分君も知ってるんだろう?僕達と君達の決定的な差を。」
「そんなこと知ったことじゃないわよ!」
「惣流さん、落ち着きなよ。聡明な君のことだ。本当は分かってるんだろう?」
「分からないわよ!!」
一際大きいアスカの叫びが涙声に変わる。
途端に静まり返る地下の空間。
リリスの足元から滴り落ちるLCLの音だけが響いた。
「何でよ!どうしてアタシの前から消えようとするのよ!!」
蒼い瞳からこぼれた雫が足元に広がるLCLに波紋を作って消えていった
「アスカ……」
「アスカ………」
シンジとレイの口からほぼ同時にアスカの名前がこぼれる。
だがそれ以上の言葉を二人は考え付くことが出来なかった。
「惣流さん。」
沈黙をカヲルが破る。
「同じ時期に二種の生命は同等に存在できないんだ……
それは今の世の中を見ても分かるだろう?出る杭は打たれる。ましてや僕のような人以上の能力を持った生命をきっと存在させてはくれないだろう。」
「でも、レイはちゃんと私達と暮らしてるわよ!」
「それはレイちゃんの事を皆知らないからだろう?それにレイちゃんは人として生きていくことも出来るさ。どちらを選択するかは分からないけど。」
そう言ってカヲルはシンジの方を見遣る。
シンジも黙ってそれに頷いた。
レイは何のことか分からずじっとシンジの方を見つめるが、シンジは黙ってレイから目を逸らした。
それを見てレイは諦めたのか視線をカヲルに戻す。
「私からもお願いするわ。考え直してくれないのかしら?」
「おや、君からそんな言葉が聞けるとはね。」
「茶化さないで。私は真面目に言っているわ。」
「そうだね。失礼した。
僕が惣流さんと生きていけないのは他にも理由があるんだ。」
その言葉にアスカは伏せていた顔を上げる。
彼女の整った顔は涙でくしゃくしゃになっている。
「僕らはアダムを常に求めて止まない生命なんだ。君達が睡眠や食事を取るのと同じように。
本能と言ってもいいかもしれない。だけどそんなことされたらそっちも困るだろう?」
「………」
「ま、そんなことはシンジ君が許してくれないだろうけどね。
でもそれなら僕はどうすればいい?ある程度は我慢できるさ。でもいつかその歪みは限界に達する。そうすれば君達に取り返しのつかない迷惑をかけてしまう。僕としてもそんなことはしたくないんだ。
だから……今のうちに僕を自由にしてほしい。」
その長いセリフをアスカはずっと下を向いて聞いていた。
死刑宣告を聞いていたような気分だった。
最後に搾り出すようにこぼれたカヲルのセリフはアスカに悟らせた。
もう、無理なのだと。
自分が何を言ってもカヲルは意志を曲げるつもりは無いのだと。
「僕は」
目を閉じてシンジが語りだす。
「僕はね、ずっと未来は変えられるものだと信じてここまでやってきた。例え、どんな困難だろうとも。
でも君の事だけはずっと分からなかった。いや、本当は知ってたのかも知れない。僕は多分君の事を最も知っているから。」
そう言ってシンジはカヲルに近づいていった。
そして、ほとんど背の変わらないカヲルを抱きしめた。
「もう君を止めない。だけど、忘れないでいて欲しいんだ、カヲル君。君を大切に思っている人がいるのだということを。」
涙を流しながらシンジは掌をカヲルの頭に乗せる。
淡い光がカヲルの頭部で輝く。
「――――!?これは………!?そうか……、それで……
シンジ君、僕は君にも辛い思いをさせてしまったようだね……」
今度はカヲルがシンジの頭に手をやる。
「ごめん。そして、ありがとう。」
シンジの頭を撫でながら微笑む。
それは普段のアルカイックスマイルではなく、心から感謝してこぼれ出たものだった。
今度はアスカの元へカヲルは近づいていった。
「惣流さんも。ありがとう。僕の事を想ってくれて。」
アスカは伏せていた顔を上げ、じっとカヲルを見つめる。
カヲルは右手でそっと涙で濡れたアスカの頬をなぞる。
そして、静かに口付けた。
「君との会話はとても楽しかったよ。とても短い時間だったけど。
最後にもう一つわがままを言っていいかな?」
「何よ……」
「惣流さんにはずっと笑ってて欲しい。
無茶な注文だとは分かってるけどね。」
もうすぐ最後の時が訪れようとしているにも関わらず、申し訳無さそうに言うカヲルにアスカはなおも零れ落ちそうになる涙を堪えて微笑んだ。
「分かったわ。ホラ、これでいいんでしょう?」
「うん。やっぱり君には元気な姿が一番似合うね。」
「な、何言ってんのよ!」
歯の浮くような恥ずかしいセリフを恥ずかしげも無く言ってのけるカヲルにアスカは赤面した。
だが、それは最もカヲルらしい姿だったのかもしれない。
カヲルはアスカ、シンジ、そしてレイにきれいな微笑を向けた。
「ありがとう」
そして最後の使者は消えた。
静かになったターミナルドグマ。
誰もいない空間に三人のみが立っていた。
「アスカ……」
「大丈夫。」
心配して声を掛けたレイだったが、それをアスカがはっきりと遮った。
「アタシは泣かないわ。あいつと約束したから。」
出来るだけ明るく言うと、笑顔でシンジとレイの方へ振り返った。
だが、その口調とは裏腹に目尻からは透明な、光輝くものが零れ落ちている。
「だから、大丈夫……」
「アスカ、今は泣いてもいいと思うわ。我慢しないで。」
自らを鼓舞するように大丈夫、と繰り返すアスカだが、レイは優しくアスカに語りかけた。
ずっと堪えていたアスカだが、その歪なダムはついに限界を超えた。
顔をレイの胸に押し当てる。
小さな嗚咽はすぐに慟哭へと変わった。
「ううっ、ぐ、ふぁ
うわあああああぁぁぁぁぁっ!!
」
胸をえぐるようなアスカの泣き声にレイは静かにアスカの背中をさすり、シンジはただそれを見ているしかなかった。
ミナモ:なんだかねぇ…
shin:どうした?
ミナモ:私の役回り、ずっと変わってないと思ってねぇ…
シンジ:確かにそうだね。ずっと誰かを
目立たないように
支える、って感じだよね
ミナモ:……もうそう言われるのにも慣れたわ…
shin:俺はかなりおいしい役だと思うが…
ミナモ:ま、いいわ。今更言ってもしょうがないし
シンジ:ところで、僕が微妙に変わってるみたいだけど?
ミナモ:そうよね。レイとかを抱きしめるのはシンジの役目だったと思うけど?それにアスカが見たのは誰?
shin:お、いい質問だ。
シンジに関してはこれには訳がある。どういう訳かは言わないけど。
アスカが見たのは……そちらで推測を。多分分かると思うが。
ミナモ:ほとんど答えになってないじゃない
shin:シンジのことは最終話を読めば何となく答えが分かるんじゃないかと。
アスカの方はこれまでの流れで分かるんじゃないかと思って。
シンジ:どうなんだろうね?
shin:どうしても気になる方はメールで聞いてくだされば答えるが?
ミナモ:そこまで興味を持ってくださってる方、いるのかしら…?
shin:…さあ……?
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