どこかの片田舎の電話ボックス。
旧世紀末から徐々に姿を消し、今ではほとんど見られなくなった緑電話が残っていることからかなりの田舎であることがうかがえる。
辺りを見渡せば、そこにどこまでも広がるのは命の息吹を感じさせる青々とした田園風景。
加持はどこかへ電話をかけていたが受話器を置くと、出てきたネルフのロゴ入りのカードを見つめた。
「最後の仕事か……。まるで血の色だな………」
瞳に移るは真紅のカード。
加持にはそれがどこまでも禍々しく見えた。
第弐拾壱話 世界の裏で
2007年
タイ南部
レヴィはその日機嫌が悪かった。
別に何かをやらかしたわけではない―――自分ではそう思っている―――が新入りの後始末を押し付けられて、やっと今その始末が終わったところだった。
実際はレヴィが交渉の席で銃をぶっ放し、その後始末に行った新入りの後始末をするという、なんともややこしい事態ではあったのだが。
セカンドインパクトの後、この地域は荒れに荒れていた。
インパクト前から治安は非常に悪かったのだが、インパクトによってさらにそれに拍車がかかった。
今やここはまさに無法地帯。
殺し屋、傭兵、娼婦、ヤク中………裏の住人大集合の状態となっていた。
警察もいることはいるのだが、ここに根を張るマフィアから袖の下を大量に渡され、全く役に立っていない。
「スイマセン。」
むっつりした顔のまま、通りを歩いていたとき、甲高い声がかけられた。
女性にしてはやや低く、男性にしては高すぎる。
「………アアッ?」
不機嫌な空気を思いっきり放ちながらレヴィは振り向いた。
基本的にレヴィは子供が嫌いである。
一人では何も出来ず、わがままで、自分勝手で………あまりにも無力な存在。
声を聞いた時点で、レヴィは声の主が子供だと当たりをつけていた。
そしてそれは的中した。
視線を正面から少し下にずらすと、少年が立っていた。
身長はレヴィより頭一つとちょっと小さいくらい。
どちらかと言えば「少年」より「男の子」といった方がしっくり来そうだ。
身には襤褸(ボロ)を纏い、ドロドロに汚れた鞄を持っている。
「なんだ?」
すっぽりと頭まで覆われた布で顔は見えず、どこか気味の悪さを感じさせる。
だが、レヴィは特になんとも思わない。
この地域ではこういった子供が多い。
セカンドインパクトやその後の混乱で親を亡くし、浮浪児となった者はこの地域に限らず今ならまだ世界中どこででも見ることが出来るだろう。
だから、この子供も恐らくは食べ物か何かをこうして乞い歩いているのだと思った。
別にレヴィは世話をしてやるつもりは毛頭無いのだが。
「あたしゃお前にやる物なんて持ってねえし、やるつもりもねえ。物乞いならどっかヨソでやんな。」
一方的にそう告げるとレヴィは事務所に向かって歩き出した。
「で、レヴィ。その子はなんだい?」
「?その子って何言ってんだ、お前………」
事務所に帰り着き、部屋に入って一言二言会話を交わした後、紫呉(しぐれ)に言われてレヴィはわけがわからない、と言った様子で振り向いた。
頭にクエスチョンマークを浮かべながら後ろを見ると、そこには先ほどの男の子がいた。
「!?」
思わずレヴィは飛びのいた。
全く気付かなかった。
レヴィもこの世界ではそれなりの人間である。
いや、それどころかかなり上位の能力を持つ。
そのレヴィがつけられていたのに全く気付かなかったのだ。
警戒を露にしてボロボロの布を纏った男の子に問いかける。
「おめぇ……なにもんだ……」
「そんなに警戒しないで下さい。」
そう言いながらも睨み合う二人。
緊張が流れる中、紫呉が口を開いた。
「あー、とりあえず、君は何者なんだい。」
その飄々とした感じの声に毒気を抜かれたか、男の子の方が緊張を解く。
「そうでしたね。まずはこちらが自己紹介をすべきでしたね。」
「そうしてくれると助かるよ。」
男の子が纏っていた布を取る。
そこから現れた姿に二人は驚きを隠せなかった。
相手は子供だと思っていたが、予想以上に幼い外見をしていた。
その男の子は礼儀正しく深々と頭を下げると自己紹介を始めた。
「申し訳ありません。僕は碇シンジと申します。」
再び2015年
「何ですって!?」
突如としてミサトは大声を上げた。
それもそうだろう。今知らされた内容はとても許容できるものでは無かった。
「副指令が拉致されたって………貴方達諜報部は何をしていたの?」
諜報部の大失態とも言える事態にミサトは報告に来た男達を非難する。
だが、男達は全く表情を変えず淡々と報告を続ける。
「身内に内報、及び先導をしたものがいます。その人物に裏をかかれました。」
そこまで聞いてミサトは悟った。
この男達は報告に来たのでは無かった。
黙ってミサトはIDと愛用の銃を机の上に置いた。
「話が早くて助かります。」
「まあね。諜報部をそんなに簡単に欺いたことと、貴方達がここにいることでわかったわ。
犯人は加持君で、私と彼の関係を考えれば当然よね。」
はあ、とミサトは溜息をついて吸っていたタバコを揉み消した。
「作戦部長をお連れしろ。」
2007年
「それで、お前さんの目的はなんだい。」
ダッチが椅子に座ってコーヒーをすするシンジに尋ねた。
シンジはコーヒーを飲みながらも顔はやや伏せ気味であり、ダッチや他の人間からははっきりと顔は見えない。
シンジが自己紹介をした直後二人の男が事務所に入ってきた。
一人は今シンジと話しているダッチ。
がっしりとした体の黒人である。
スキンヘッドでムキムキの筋肉と肉体派な印象を与えるが、濃いサングラスと落ち着いた話からは知的な物も伺える。
そしてこの事務所の所長でもある。
もう一人がベニー。
長身痩躯のユダヤ系で、ぼさぼさの頭に眼鏡をかけている。
眼鏡をかけているのだが、ダッチと違い、知的な印象はそれほど無く、どちらかと言えば近所の人のいいお兄さん、と言った感じだ。
だが、見かけの印象とは違い、ベニーは仕事上の全ての情報を一手に扱うその道のスペシャリストと言える。
「僕をここで雇っていただけませんか?」
見たことも無い子供が突然やってきて自分を雇ってくれと頼む。
笑い話にしかならないが、多分にもれずレヴィがそれを一笑に伏す。
「ハッ!!寝言は帰って暖かいママの胸ん中で言いな!
おい、ダッチ。さっさとここ閉めて飲みに行こうぜ。」
「言い方はきついがレヴィの言う通りだ。給士も掃除婦も足りてる。それにここはおめえさんみたいな子供の来るとこじゃねえ。
悪いがお引取り願おう。」
レヴィの言葉を引き継いで席を立つダッチ。
ベニーは奥で本を開いて興味無さそうに読んでいる。
紫呉は目の前の少年がどのような行動に出るのか、興味深そうに状況を眺めている。
「では、どうすれば僕は雇ってもらえるんでしょうか?」
「ウゼェな。ダメだっつってんだろ!」
「お前さんが望む仕事は他を回ったほうが早え。なんなら紹介してやるからそこ行きな。」
「………一つ聞きたいんだが…」
ここで紫呉がシンジに話しかけた。
「君は見たところ日本人だ。そして、つい最近まで日本に住んでいたね?」
それは尋ねる、と言うよりも確認。
見た目はどこかの冴えないサラリーマン、といった容姿で、加持を思い起こさせた。
その洞察にシンジは警戒を強める。
「……よく分かりましたね。」
「そんなに警戒しないでくれないかい?僕もちょっと前まで日本にいたからね。君の持っている鞄。つい数ヶ月前に発売されたデザインだ。
それで、ここいらは今でも世界で最も治安の悪い地域の一つだ。そんなところに普通の日本人が来るはずはない。しかもそんなボロを纏っているってことは君は一人のようだ。
と言うことは君は自分から
進んで
・・・
ここに来たんだね?」
細い、切れ長の目を一段と細くしてシンジを見つめる紫呉。
その言葉にレヴィは目を丸くさせている。
「君は何を望む?」
「………力を。これから僕が為す為に必要な力。具体的には銃器類の扱いです。」
そう答えたシンジ。そこで初めて伏せていた顔を上げる。
レヴィや紫呉、そしてベニーもその瞳を見てギョッとする。
濁りきって光を全く灯していない目。
レヴィは物心ついた頃からずっとこの世界で過ごしてきた。
中には似たような目をしていた奴もいた。
だが、シンジの目は根本的に違うのだ。
その目に宿るはただの闇。
光さえも飲み干し、それに魅入られたモノは全てを塗り替えられるような。
自分も幼い頃嫌と言うほど絶望を見てきた。
だが、目の前の子供はわずかの間にどれほどの絶望を見てきたのか。
危険だ。
経験が、自らが築き上げた勘が警報を発する。
「銃なんぞは今時日本でも手に入るだろう。どうしてここに来た?」
そんなレヴィの恐怖になど気付かないように、シンジの言葉にダッチが質問する。
「そこの方が言った通りです。ここは世界で最も治安が悪い場所です。それが理由です。」
「………」
ダッチはタバコに火をつけ、一度吸い込むと大きく息を吐いた。
煙が真っ直ぐ天井へと昇っていく。
「………安い給料しか出らんが、それでいいかね?」
「ありがとうございます。」
「ダッチ!!」
頭を下げるシンジをヨソにレヴィはダッチに詰め寄る。
「…何考えてる………?」
「別に。ただ今度の仕事に人手が必要だ。そして奴はその能力を持ってる。そう判断したから雇うまでだ。」
「アイツは危険だ。」
「そうだ。だが、必要な人材だと俺が判断した。何か文句あるかね?」
ダッチは真っ直ぐにレヴィを見つめながら答える。
しばらく睨み合いが続いたが、レヴィはくるり、と向きを変える。
「レヴィ。」
「便所だよ!!」
そう言って力いっぱいドアを閉め、その音に紫呉とベニーは顔をしかめる。
「やれやれ。」
「怒らせてしまいましたね。」
「ああ、気にしなくていいよ。彼女は機嫌悪いときはああなんだ。」
笑いながら紫呉がシンジにフォローになってないフォローをする。
ベニーも苦笑いを浮かべている。
「それで、シンジだったな?一つ確認したいことがある。
……今まで人を殺したことは?」
その言葉に事務所の空気が変わる。
紫呉もベニーも先ほどまでの笑顔は消え、シンジを見つめている。
「難しいですね。ある、と言えばあります。ですが、直接殺めたことはありません。」
シンジの顔がわずかに曇り、瞳には一瞬光が戻るが、すぐに元に戻る。
「そうか………」
ダッチにしても気になるところだが、それ以上の追求は控えた。
この世界の人間には誰にも言えない事はある。
そして、それを深く知ろうとする者が早死にするのはこの世界の常識だ。
「他に特技みたいなもんはあるか?」
「体術についてはある程度。後は情報処理と外国語。」
「……おい、レヴィ!」
「アンだよ。」
明らかにまだ機嫌悪そうにトイレからレヴィが出てくるが、ダッチは気にせず話を続ける。
「レヴィ。シンジと立ち会ってみてくれ。」
「はあっ?」
レヴィは素っ頓狂な声を上げるがダッチは気にしない。
「銃は無し。ま、早い話がどつき合いだ。とは言ってもボコるのは無しだ。仕事前に怪我されちゃたまらんからな。」
「…いいのか?」
「実力が分からんことには作戦も立てられん。出来る限り本気で行け。」
「分かった。
おい、ガキ。表に出ろ。」
レヴィに促され、シンジはソファから立ち上がり、レヴィの後ろについて外へと出る。
「はっきり言っとく。アタシはてめえが気にいらねえ。今なら許してやるからさっさとこっから出て行きな。」
「折角決まった就職先を捨てるつもりはありません。」
「そうか…。なら、行くぞ!!」
力強く走り出す。
レヴィも
二丁拳銃
トゥーハンド
の二つ名を持つ実力者である。
素早い動きであっという間にシンジとの間合いを詰める。
そこには油断など微塵も無い。
ジャブを数発繰り出し、シンジの様子を伺う。
シンジは上半身を反らして避ける。
レヴィはジャブに続いて右ストレートを繰り出す。
が、それはフェイントでしゃがんで足払いをする。
(もらった!)
レヴィからはシンジの意識が上半身にいっているように見えた。
足元はがら空き。
事実、周りから見ているダッチからも足払いがヒットしたように見えた。
だが、次の瞬間シンジの姿が消えた。
正確にはレヴィからはそう見えたのだが。
一瞬でレヴィの背後に回り、体勢の整わないレヴィの足を払う。
虚を突かれたレヴィは咄嗟に対応できず、バランスを崩す。
何とか倒れるのは堪えたが、気が付いたときにはレヴィは地面に寝ながらどんよりと曇った空を見ていた。
誰もが口をアングリ、と開けて目の前の状況を理解しようとしているところへダッチの携帯が鳴る。
「……ああ、分かった。」
短く返事をすると携帯を切り、4人の方へ向き直った。
「仕事だ。」
The Birth Of The V.H
「久しぶりです、キール議長。」
わずかな光の侵入さえ許さない部屋の中心で床からの明かりが冬月を照らしている。
何も無い空間の中、冬月が皮肉気に口を開くと、突然01と書かれたモノリスが姿を現した。
「非礼を詫びる必要は無い。君とゆっくり話をするためには当然の処置だ。」
「相変わらずですね。私の都合はお構い無しですか。」
「議題としている問題が急務なのでね。」
「わかってくれたまえ。」
次々と現れるモノリス。そこから発せられる声は機械によって変換されており、くぐもった声になっている。
「委員会では無く、ゼーレのお出ましとは……」
(これは大分ゼーレも焦っているようだな……)
「我々は新たな神を作るつもりは無いのだ。」
「ご協力をお願いしますよ、冬月先生。」
(冬月先生、か……。全てはあの男に会ったことから始まったのだな…)
2007年
深く茂った森の中。
樹海、と言うほどでは無いが、光を遮り、昼間だと言うのに薄暗くする程度には深い。
視界もあまり聞かないがその中を三つの人影が音も無く進む。
三人の視線の先には何かの施設らしきものがある。
「ベニー、研究所の中はどうだ?」
「今、予定通り警備員の交代の時間だ。カメラの方も準備できてる。」
無線でダッチが少し離れたところに位置する車の中にいるベニーに問いかけると、了承の返事が返ってきた。
ベニーの役割は特技を生かした情報処理である。
紫呉とベニーは実戦には向いておらず、後方支援が主な役割となっている。
ベニーはダッチたちにリアルタイムで相手方及び周囲の情報伝達を。
紫呉は作戦の立案・推敲を主に。実戦の場ではベニーの傍らにいて不測の事態に備えている。
続いて傍らにいる二人に確認する。
「OK。レヴィ、シン。心の準備はいいか?」
「ハッ、あたぼうよ。いつでもいいぜ。」
威勢のいいレヴィの返事とは逆にシンジは無言でうなづいた。
「最後にもう一度手筈を確認する。
まずシンが突っ込む。続いてレヴィがシンを援護しながら目標を急襲。シンはそのときレヴィの射線上に来ないよう注意しろ。俺は少し遅れて別口から侵入する。OK?」
今度は二人とも無言でうなづき、体勢を整える。
速やかに作戦はスタートした――――――――
ナイフを左手に、ベレッタを右手に持ち、シンジが駆け出す。
気配を消していたため、また交代の時間になり油断していた警備員はその接近に気付くのが遅れた。
それがこの世界では命取りになる。
「何………!?」
言い終わる前にシンジのナイフが一閃する。
頚動脈を切断され、血が吹き出す。
声に成らぬ叫びを警備員は上げるが、続いて心臓を銀色に輝くナイフが貫く。
わずか数秒。それだけで男は絶命した。
「ヒュウ♪」
レヴィが口笛を吹いて感嘆を表すがシンジは無視して奥へと足を進める。
中には研究員が大勢居り、気付かれずに進むのは不可能である。
だが、こちらの役目はここで目立つことである。
「いくぜ、くそガキ。」
レヴィが手榴弾のピンを抜き廊下へと投げ込んだ。
轟音が鳴り響き、続いてたくさんの足音がこちらへ近づいてくる。
辺りはまだ白煙が立ち込めており、視界は晴れない。
だが、シンジは一気に駆け出した。
やや視界が晴れたところで警備員の一団は自分達の方向へ突進してくる子供の姿を認める。
この世界では子供が暗殺者、というのはそれほど珍しいことではない。
それを知っていた警備員は目の前の子供に集中する。が、集中しすぎてしまった。
小気味良い炸裂音が響き、次々と倒れる警備員。
「ジルバだ。踊るぜ。」
左手にサブマシンガン、右手には愛用のソード・カトラスを持って一団の中に飛び込むレヴィ。
相手に反撃を許さず、一撃で倒す正確な射撃。踊るように戦場を舞う彼女の姿は美しい。
弾が全て彼女を避けるように、まるで戦いの神に愛されたような銃を持ったレヴィの動きにシンジも息を飲む。
続々と駆けつける警備員。中には傭兵崩れらしき者も見受けられたが、今のレヴィには敵ではない。
シンジも初めての実戦で見事な動きを見せ、徐々にレヴィの信頼を得だした。
大部分を倒し、シンジもやや気を抜きかけていた。
この世界に戻って数年。体を鍛え、刃物の扱いなどを必死で鍛錬した。
体術に関しても知識は頭にある。経験もその数年の間に十分と言っていいほど積んできた。
だが、生死が隣り合う場では生身ではゼロに近い。
だから気付かなかった。
油断が即、死を招きかねないことに。
レヴィはシンジが気を抜いているのに気付いていた。
シンジ自身は意識してないのだろう。
だが、濁り切っていた瞳に色が戻り、相変わらず表情は無いものの、緊張感が薄れていた。
―――何だかんだ言ってもまだガキだな。
だがここはまだ戦場だ。
ここは一発バシッと言ってやらねば。
レヴィがシンジを叱責しようとしたとき乾いた音が数発響いた。
「!?ガッ……は…。」
くぐもったうめき声を上げてシンジはその場に崩れ落ちた。
「シンジ!」
レヴィはシンジの元に駆け寄ろうとするがその前に男が立ちふさがる。
「………どきな。」
「スマンがそれは出来ん。こっちも仕事なんでな。」
低くドスの効いた声でレヴィが言うが、男は表情を交えない声で応じる。
「行くぞ!!」
「ちっ!!」
見たところ同業者。
あまり見ない顔だから新参者だろう。
だが油断は無い。
アタシが成すべきは目の前の敵を殺すことだけ。
サブマシンガンを投げ捨て、レヴィはベレッタとカトラスの引鉄を引いた。
シンジは後悔していた。
気を抜けばこうなる事くらい分かってたのに…!
所詮「知って」いるだけか………!
自らの不甲斐無さにシンジは思わず歯噛みした。
意識が徐々に遠のく。
いつの間にか視界は横に、視線はやたらと低い。
ゆっくりと近づいてくる脚がシンジから見えた。
「悪いなボウズ。ここはこういう場所なんでな。」
シンジの頭上から声が掛けられる。
頭には冷たい感触。
恐らく銃を突きつけられているのだろう。
僕の命もここまでか………
さっき殺しちゃった人、ゴメンなさい…
でも今更かな………何億人を殺したかわかんないのに………
そういえば随分長く生きてきたんだな…。200年以上か……。
あの頃僕はどうやって生き延びてたんだろう?200年も何で生きられたんだろう?
死に際だと言うのにそんな今更な疑問が浮かんできた。
だんだんぼやけてきた視界に紅いモノが目に入った。
ああ、僕の血か……
紅いなぁ………紅い、紅い、紅い、
紅、アカ、アカ、アカ
記憶が蘇る。紅い海の記憶。
憎い、殺してやる、壊してやる、憎い好きだったのに憎い嫌いだよお前のせいだアンタバカァ乗るのなら早くしろでなければ帰れ逃げちゃダメようるさいうるさいうるさい騙したなサードチルドレンを寄り代に僕らを駒にしたなしっかり生きて死になさい生きてやる生きてやる憎い憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い殺してやる憎い
シンジの頭に銃口を押し当てたまま男―――名前をエンリコという―――は背筋に走る寒気に身を震わせた。
そして自分の発する警報に従い、引鉄を引いた。
2015年
プシュ、という音と供に光が暗闇を照らす。
コツコツ、という革靴独特の音を立てながら部屋の中心に縛り付けられていた冬月の縄を解く。
「……君かね。」
「ご無沙汰です。外の見張りにはしばらく眠ってもらいました。」
「この行動は君の命取りになるぞ。」
「真実に近づきたいだけですよ。ゼーレの方は大方調べはつきましたからね。」
「………だといいんだがな…。」
「どういうことです?」
加持は冬月にかけられた手錠を外しながら問う。
「もはや事態は我々も、そしてゼーレも手を出せないほど計画から外れている気がしてならんのだよ。」
「………」
加持からは自分の問いかけに答える冬月の姿は、全てを終え、諦めてしまったただの老人にしか見えなかった。
2007年
サイレンサー付き特有のパシュ、という軽い音が通路で鳴った。
接射ゆえに外すことは無いはずだった。
だが現実にエンリコによって放たれた弾丸はシンジの頭を逸れ、廊下の床にめり込んでいる。
銃口を見れば小さな手が銃身を掴み、シンジの頭から逸らしていた。
(しくじった!)
口の中で舌打ちをすると銃身を掴むシンジの手を外そうとエンリコは力を込める。
しかし、幼く、か細い腕で掴まれた銃はピクリともしない。
渾身の力で振り払おうとしたとき、再びエンリコを寒気が襲う。
銃を諦め素早く距離を置く。
シンジはその身をゆったりとした動作で起こした。
腹部からは未だにダラダラと紅い血が流れ、白い床を汚している。
エンリコはその姿に戦慄した。
冷たい汗が額から流れ落ち、まるで幽霊を見るかの様な目でシンジを睨みつける。
シンジは顔を下に伏せ、やや長い髪のせいで表情を隠すような状態になっている。
実際にはほんの数秒。だがエンリコにはそれが何時間にも感じられた。
立ち上がったシンジの顔が上がる。
その顔を、瞳を見た瞬間自身が固まるのを自覚した。
脳と体の接続が切れたように、意識ははっきりとすれど体は命令を無視する。
それが本能的な恐怖だと気付くことは無かった。
瞬きした瞬間目の前の子供は掻き消え、自身の意識は暗闇へと吸い込まれていたのだから。
血溜りの中立ち尽くすシンジの腹からの出血は収まりかけ、瞳は紅く輝いていた。
レヴィと現れたもう一人の男―――名はジョゼ―――との戦いは苛烈を極めていた。
通路ゆえに隠れるところなどほとんど無いが、通路の曲がり角を利用して銃撃戦を行っていた。
お互いに隙を伺いながら攻防が繰り広げられているが中々決定打が出せない。
そろそろレヴィの我慢も限界に近づいてきていた。
元々彼女は隠れながらの戦いというものが好きではない。
性に合わないのだ。
しかし、この場でノコノコと出て行くのがあまりにも無謀だと言うことも分かっている。
だが、撃たれたシンジの事も気になっていた。
―――どうするか………
そろそろダッチも中枢の占拠が終わった頃だろう。
こっちも早いとこ仕事を終わらせてずらかりたいとこだ。
(やるか………)
発砲しながらレヴィが飛び出す。
が、ジョゼのほうもそろそろだと予想していたのだろう。すぐさまレヴィに応じる。
こうなると一気に肉弾戦の模様を呈してきた。
互いにパンチやキックを繰り出す。
ところが中々クリーンヒットせず、当たっても素早く体勢を立て直すため連続してヒットせず、一進一退状態に陥った。
射撃戦のときと同様、決め手が無いまま体力は消耗されていく。
その所為か、脚払いがレヴィの脚にヒットし、完全にレヴィはバランスを失った。
(勝った!!)
ジョゼに笑みがこぼれた。
スローモーションで倒れていくレヴィ。
その時、レヴィの背後からジョゼの目に飛び込んできたのは血の海の中に立つ悪魔。
血と同じ真紅に彩られた瞳に魅入られた者の末路は唯一つ。
パァン!!
一つの弾丸が喉を貫いた。
力を失い、床に倒れ伏すジョゼ。
「ハア、ハア………」
右手に自分の相棒を握ったまま大の字になって荒い呼吸をレヴィは整える。
だが、ハッとしてすぐにシンジに元に駆け寄る。
「おい!!生きてっか!?」
床に伏せているシンジを抱き起こし、状態を確認する。
出血はすでに小康状態だが、危険な状態なのは変わりない。
「チッ!!おい、ベニー!!聞こえてっか!?」
「どうしたレヴィ!?ダッチはすでに脱出したぞ!」
「分かってる!それより救急の準備をしとけ!くそガキが撃たれた!!」
「!分かった!すぐに脱出しろ!もらうものは手に入れた!」
「知らない天井か………」
シンジが目を覚まして最初に目に入ってきたのは薄く汚れた灰色の天井だった。
おぼろげながら徐々に記憶が戻ってくる。
確か油断して腹を撃たれて………
そこまで思い出して自分の腹を見た。
そこには真新しい包帯が丁寧に巻かれていた。
「目が覚めたか?」
カチャリ、と音がして視線を向けるとレヴィがパンを片手に入ってきた。
「ホレ。食えよ。」
「……ありがとうございます。」
そのまま無言でシンジは渡されたパンにかじりついた。
レヴィも何も言わず椅子に座ってコーヒー片手にタバコを吸い続ける。
やがて、シンジが食べ終わった頃レヴィが口を開いた。
「………やっぱりお前、日本へ帰れよ。」
「……嫌です。」
「今回はたまたま助かったけどよ、次も助かるなんて保証はねえぞ。それでもいいのか?」
「覚悟の上ですよ。これくらいで帰るくらいなら最初からここへは来ません。」
再び無言になり、二人とも見つめあった。
レヴィは視線を外すと、なにやら色々と考えていたようだが、頭をガシガシとかきむしると顔を上げた。
「あ〜もう!わぁったよ!認めてやるよ。もう何も言わねえ。
でもな、一つ条件がある。」
「何ですか?」
「笑え。」
「………は?」
「だ・か・ら、笑えっつったんだよ!アタシはな、辛気くせぇのが嫌いなんだよ。
お前の過去に何があったかは知らん。もとよりこの世界にいる奴らは皆脛に傷抱えている。だから何があったか詮索はしねぇ。
けどな、普段からそんな目をする必要はねえんだよ。この世界で生きていきたかったらな、表情を自分でコントロール出来る様にしとけ。
そんな表情だったらハナッからみんな警戒しやがってうまいこといかねえ。
そして楽しむときは楽しむ、これが一番大事だ。そん為にも普段は笑っとけ。そうすりゃいつもハッピーな気分だ。分かったな!」
シンジはポカン、としてレヴィの話を聞いていた。
そのシンジの表情を見てレヴィは訝しげな顔をする。
「何だよ?」
「い、いえ。分かりました。」
「なら早速笑えよ。」
「そんな急に言われても笑えませんよ。」
「いいから笑え!!」
シンジに掴みかかって無理やり笑わせようとするレヴィ。
傍目には年のやや離れた兄弟がじゃれあっているように見える。
いつしかシンジの顔には長らく忘れられていた笑顔が戻っていた。
その後、シンジは7年をここで過ごし、V.Hの名は裏の世界で確固たる地位を築く。
そして2014年、事務所「ラグーン商会」を退社。以後、第二東京に住みつつ、ゼーレの情報を探りその施設の破壊を繰り返す。
2015年
カラカラカラ………
夕日が部屋を照らし、外れかけの換気扇が乾いた音を響かせている。
ギィッ、という音をたてながら扉が開かれ、部屋の中にいた男が振り返る。
「よぉ。遅かったじゃないか。」
加持がそういい終わるのと同時に一発の銃弾が放たれた。
床に横たわる二つの体。
それらを見つめる一つの影があった。
影は長髪の男の方に近づくと腕を振り上げる。手にはナイフが握られており、夕日に照らされて紅く光っている。
しかし、それが振り下ろされることは無かった。
その影が呟く。
「馬鹿ですね、貴方は………。真実なんてものはくだらないんですよ………。」
ポツリとそう吐き捨てると目の前に横たわる男を軽々と抱え上げてそのまま夕闇に消えていった。
shin:というわけで、今回はシンジの過去についてお送りしました。
ミナモ:何か色々なキャラが出てきたけど……
shin:元ネタは俺の大好きな漫画から。事務所のキャラについてはほぼ原作のキャラにした(つもり)。
とは言っても、事務所の仕事は原作と微妙に違うし、一人別の漫画から出してみた。
シンジ:原作ファンが怒らないといいけどね。
shin:それに関してはどうしようもない。広い目で見ていただければ幸いだが…
ミナモ:それにしても最後の方は何だか無理やり閉めた感があるわね。
shin:…いや、書いていたらものすごく長くなりそうだったんで(汗)
シンジ:面倒臭くなったんだね。
shin:………仰るとおりです。
ミナモ:はぁ………
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