第拾八話 異変






ピンポーン

部屋に明るいチャイム音が響いた。

いつも通りの仕事に加え、今度来る参号機についての色々な調整が入り、普段以上の忙しさに追われていたリツコは連絡無しの来訪者に苛立ちを感じた。

とは言え、無視するわけにもいかず、くわえていたタバコをもみ消すと、部屋の前についているカメラのモニターのスイッチを入れた。


「こんにちは、リツコさん。」


カメラに向かって朗らかに微笑むシンジ。

前回の質問では芳しい結果を得られなかったリツコはわざわざ向こうから来てくれた以上、何か話してくれるのか、と期待しながら扉を開けた。


「忙しいところすみません。」

「構わないわ。ちょうど休憩にしようと思っていたところだもの。ミサトだったら開けなかったけどね。」

「相変わらず仕事の邪魔をしにくるんですか?葛城さんは。」


何気ない会話だったが、リツコは引っかかりを覚えた。


「あら、シンジ君、どうしてミサトがここに邪魔をしにくるって知ってるのかしら?」

「?リツコさんよく葛城さんの愚痴をこぼすじゃないですか。それに普段のあの人を見てるとあまり真面目に仕事してるようには見えませんしね。

 リツコさんと葛城さんは仲がいいんでしょう?となれば仕事をサボるのはここしかないでしょう。」


冷静に理路整然として推測を話すシンジに、ぼろを出したと内心喜んでいたリツコは少しがっかりした。


「なるほどね。確かに貴方ほど優秀なら容易に推測できるわね。」

「それはいいんですけど、えっと、いくつか質問があります。

 まず、この前も聞きましたけどこの部屋に盗聴器やらその類のものはありませんね?」

「ええ、無いはずよ。」

「じゃあもう一つ。リツコさんは父さんをどう思っていますか?」


突然がらっと変わった質問にリツコは赤面した。

前回の質問の最後でもシンジにゲンドウとの関係を暴露されて、あたふたとしているうちにシンジに逃げられてしまった。

今回こそは、と気を取り直して精神を再構築した。

それでもまだ頬には朱が残っていたが。
「別に。貴方も知ってる通りの関係よ。」

「関係の事を言ってるんではありませんよ。まだ父さん、碇ゲンドウの事を好きですか?」

「…好きよ。」

「ナオコさんに対する復讐心から、では無く?」

「……どう言う事かしら?」

「貴女は母親であるナオコさんにコンプレックスを持っていた。常に「赤木ナオコの娘」と見られていることに我慢できなかった。

 ある日、貴女はゲンドウと母親の情事を目撃してしまった。自分に構うことなく好き勝手やってきた母親が名誉を全て手に入れ、その上女としての幸せを掴もうとしている。母親の仕事をせずに。

ところがある日母親は死んでしまった。これはチャンスだと思った貴女はゲンドウを寝取ることで復讐を果たした。違いますか。」


ガタッ、と音を立てながら立ち上がるリツコ。

ずっと隠していた本心。

ずっと越えられなかった母親への嫉妬心からの行動。

憎かった。あの女が嫌いだった。

科学者としては尊敬に値する人だったが、人間としてはとても尊敬できなかった。

だから………


「でもあの男はナオコさんを利用していただけだ。実際、ナオコさんを見てなどいなかった。十分利用し尽くして、そして…邪魔になったから消した。

 それは貴女も一緒ですよ。このままだと、リツコさん…貴女もゲンドウに殺されるでしょう。」


明確に突きつけられた現実。

そう。分かっていたのだ。

あの人が私を見ていないことなど。

分かってはいたのだ。

あの人の心は未だユイさんから離れていないことなど。

それでもいつか、いつの日か振り向いてくれると信じて………


信じている?

馬鹿げている。

どうして信じられる?

あの人が信じるに値する人間か?

何も信じていない者をどうして信用できる?


自らの愚かさに笑いを堪えることが出来ない。


「貴女はゲンドウのそばにいるべきではありません。

 まあ、早急に判断する必要も無いですが。

 それはそれとして、今日来たのはお願いがあるからです。」

「お願い?」


笑いを何とか押さえ、シンジに問い返す。


「ええ。今からお話しすることを貴女の心の中に留めて他人に漏らさないこと。

 そして、これからお話しするのは貴女が知りたがっていたことの一部です。

交換条件として僕からのお願いを聞いて頂ければいいんです。」


「…分かったわ。」


少しの逡巡の後、リツコははっきりと了承の意を伝えた。

鉄の仮面をリツコは被りなおし、いつものクールな顔に戻る。

シンジは了承の言葉に無言でうなづく。


「まもなく、使徒が来ます。」


短い言葉だったが、それにリツコは驚愕の声を上げた。


「何ですって!どうしてそれを…」

「そこらへんは申し訳ないですけど秘密です。

 そして、その使徒は恐らく参号機に寄生しています。」

「それじゃ…」

「ええ、参号機は今後使用できませんし、もし新たなパイロットが乗ったらその子は…命を落とすか、運が良くても重傷を負うでしょう。」

「貴方としてはそういうことを起こしたくない。だから、私に交渉しに来たのね。」

「はい。僕らの組織は貴方達より高い技術と、情報を持っています。僕らとしても、なるべく人的被害を抑えたいんです。」


リツコはシンジがあっさりと自らが組織に属していることを明かしたことに面食らった。


「いいのかしら?そんなに自分の事を明かしたりして。」

「別に構いませんよ。これもリツコさんは知りたかったのでしょう?大分便宜を図っていただきたいのですから、これくらいはしょうがないでしょう?」

「一人の命の為にそこまで出来るなんてね…。正義の組織ってところかしら?」

「そこまでうぬぼれていませんよ。

 話を戻しますと、その使徒は参号機の起動とともに活動を開始しますが、それまでは何の反応もありません。正直なところ、参号機に使徒が取り付いてる確証はありません。ただその可能性が一番高い、といったところです。」

「それで、貴方はどうしたいの?」

「起動したくても、パイロットがいないと始まりません。ダミープラグの開発も頓挫しているようですしね。そこで、こちらが指定したパイロットを乗せて欲しいんです。」

「情報が筒抜けね。貴方達の組織がどれくらいの規模なのかは知らないけど、簡単にネルフを滅ぼせそうね。」

「そう簡単でもないですよ。後ろにはゼーレもいますし。」


外部の人間が知りえないはずの情報が次々とシンジの口から出てくる。

リツコはめまいを感じた。


「貴方の話を聞く限り、そうは思えないわ。

 パイロットの話だけど、矛盾してないかしら?貴方はパイロットを乗せたくないんじゃなかったの?」

「いえ、彼女なら大丈夫です。」

「彼女?女性なのね?」

「ええ、そこにいますよ。」


そう言いながらシンジがリツコの後ろを指差す。

リツコが振り向くと、そこには中高生くらいの年齢の少女がいた。

大人びて見えるが、どこかあどけなさが残る顔立ち。

いつの間に入ったのか、リツコは全く気付かなかった。

それだけでも見た目は子供のその少女の実力がうかがい知れる。

リツコはその少女を見たことがあった。


「…さっきから驚くことばかりでいい加減疲れたわ。

 やっぱり彼女とシンジ君はつながりがあったのね。」

「どうも、お久しぶりですね、赤木博士。私のことはミナモと呼んで下さい。」

「彼女とは、そうですね…戦友といえばいいのかな?実力は僕が保証します。」


シンジの紹介と同時に、人懐こい笑顔を浮かべ、手をミナモは差し出した。

優しい笑顔。

全てを包み込んでくれそうな微笑に、見ていると全てが吸い込まれそうになるわずかに赤みがかった茶色い瞳。

整った容貌には、とても世界の暗部にいたようには見えない。

不意にリツコは握手をしながら、今までの自分の犯した罪を洗いざらい話したい衝動に駆られた。


「貴女まだ十四歳だったのね。あの時はとてもそうは見えなかったわ。」

「そうですか?まあ、状況が状況だっただけにそう見えたんでしょう。」

「ところで、貴女が乗るってことだけど…大丈夫なの?どうやって脱出するの?」

「そこらへんも企業秘密、ということで勘弁していただけませんか?」


茶化した様子で話すシンジだが、リツコはこうシンジが話すときはこれ以上話す気が無い事を悟った。


「教えてはくれないのね。」

「ただ、確実に彼女が無事なのは保証します。」

「分かったわ。」

「それから、万が一に備えて、職員は出来るだけ少なく、また、参号機から離れたところから作業してください。」

「ええ、アメリカの二の舞は避けたいですもの。」

「では今日は以上で失礼します。後はそちらで処理してください。」


そう告げると、シンジはリツコの部屋を出て行った。

ミナモも次いで出て行く。

だが、体を半ば部屋から出した状態で振り返る。


「…赤木博士。貴女が犯した罪は消えません。ですが、償うことは出来ます。そのことを念頭において今後行動してください。」


静かに告げるミナモ。その表情には先ほどの笑みは微塵も無かった。

その目は人を裁く裁判官のようであった。



二人が出て行き、自分の椅子に腰掛けるとタバコに火をつけた。

吐き出された煙がゆらゆらとさまよう。

コンピュータを慣れた手つきで操作すると、画面が変わり、そこには若かりし日のゲンドウとナオコ、そして、まだ髪を染める前の自分の姿があった。

再びタバコを口にすると、大きく吸い込む。

口から吐き出された煙は先ほどと同じくふらふらと部屋を漂った。












「ふうん、今日かぁ…」

「うん、松代で実験するみたいだよ。」


青空広がる第三新東京市。

都市部からやや離れたところに位置する第壱中学校の屋上で、シンジ、アスカ、レイの三人は仲良く昼食を摂っていた。

箸を休めることなく話し続けるアスカ。


「しかし、よく参号機を引き取ったわね。アメリカで事故があったんでしょ?」

「まあね。でも使徒が来るのはここだし、予備戦力があるに越したことは無いよ。」


レイは会話に参加せず一心不乱に弁当をつついている。



以前はパンやコンビニの弁当が主だったのだが、最近は二人とも料理を覚えるようになった。

これはアスカとレイが一緒に暮らすようになったのが大きい。

自分ひとりなら出来合いのものでもアスカは構わないが、レイの部屋を見て、また普段レイが食事している姿を見たことが無かったアスカはレイに普段の食事を尋ねたところ


「…普段?これを食べてるわ…」


と言って取り出したビスケットと錠剤を見て、予想以上の結果に思わず天を仰いだ。

これはアタシが何とかせねば!と義務感に駆られたのはいいが、今までまともに料理をアスカはしたことが無かった。

そんな暇も無かったのだが。

いざ何を作ろうか、と思った時頭の中に浮かんだのは何も無かった。

困ったアスカは、誰か料理をする人物はいないだろうか、と考えたが、不幸にも最初に出てきたのはミサトであった。

レトルト食品をまずくする、ある意味料理の天才。

ドイツで食べたミサトの料理を思い出し、アスカは身を震わせた。


(あんなのになるのは絶対嫌!!)


義務感に加え、恐怖に迫られたアスカはレイを部屋に置いて本屋へとダッシュした。

その日からレイと二人での料理の猛特訓を始めたのである。

しばらくはまともな物を二人とも作れなかったが、ここ数日どうにか形になるものが作れるようになった。

そしてそれはレイにとって相当嬉しいものだったらしい。

話に加わらず弁当をほとんど食べてしまったレイは幸せそうな表情を浮かべた。


(そう、これが美味しいと言うことなのね…)


気が付けばシンジとアスカも話を止めてレイの方を見ていた。

レイは見られているのに気付き、気恥ずかしくなったか、ほんのり頬を赤らめる。


「綾波、美味しい?」


優しく、シンジが尋ねるとレイは小さくコクン、とうなづいた。



アスカは今、小さな幸せを感じていた。

以前、第三新東京市に来る前には感じることは無かった。

こんな時間を持つことも、この時間を心地よいと感じることも無かった。

それが今はどうだろう。

何気ない時間を愛おしく思える。

前とは全く違う自分に驚くとともに、変われたことを心から嬉しく思った。

それと同時に、変わるきっかけをくれたシンジに感謝した。

そうだ、今度シンジにも弁当を作ってきてやろう。



「…それで、何の話をしていたの?」

「今日松代で参号機の起動実験があるって話だよ。」

「…もうすぐ予定では実験が始まるわ。」

「誰が乗ってんの?」

「……この前のアメリカのことがあるからね。まずは無人で始めるみたいだよ。」

「ま、当然の判断よね。」














「パイロットは決まったの?」


背後から声を掛けられ、リツコが振り向くとそこにはミサトが厳しい表情で立っていた。

ミサトの表情の原因がある程度分かっているリツコは気にせず目の前の作業に集中した。

どうせ無意味に終わると分かっているのだが。


「ええ、この子よ。」


そう言って差し出されたファイルをミサトに渡す。

アスカやレイの友人がパイロットになると仕組まれていると知ったミサトは厳しい表情のままファイルを開く。

だが、そこに書かれていたデータに表情を一変させる。


「あら、こんな子いたかしら?」

「いたわよ。確かこの前見せたファイルの最後の方だったかと思うけど。」


いけしゃあしゃあと嘘をつくリツコだが、ミサトは普段書類の読み漏らしがよくあることなので納得いかないものの突っ込めない。


「…そう……。

 ……今日の実験、大丈夫なんでしょうね。」

「大丈夫、と確約は出来ないけれど、できることはやったつもりよ。万一に備えて職員は出来るだけ減らしたし、作業も距離を置いて行われるわ。」

「パイロットの方はどうするのよ?」

「そればかりはこちらからではどうすることも出来ないわ。もし、有事の際には自分で何とかしてもらうしかないわね。」


無責任とも取れるリツコの言葉にミサトは頭に血が上っていくのを感じた。


「何よ、それ!責任者としては無責任じゃない!」

「じゃあ聞くけど、ミサト。アメリカのような事故が起こったとして、私達に何ができると言うのかしら?」


リツコの反論にミサトの声は急速にしぼんだ。


「あ、あれはどうしようもないけど……。」

「結局私達に出来るのは予防策しかないのよ。機体が無事ならすぐに救護班を遣らせる準備も出来てるわ。」


そこまで告げると、リツコはもう話は終わりだ、と言わんばかりにミサトに背を向けた。

気まずくなったミサトは、その場を逃げるように立ち去った。


まだ言いたいことはある。

子供達を何とかしてあげたい。その思いに偽りは無い。

だが、代案が無いのだ。


(結局、中途半端なのね…)


思いだけで行動が伴わない。

おぼろげながらミサトは自らの欠点を自覚し始めた。





















Unexpectable














「それではこれより参号機起動実験を開始します。」


リツコが宣言し、いよいよ起動実験が開始された。

開始の言葉とともにオペレーター達の指が忙しく動き始める。

今、この場に日本人オペレーターの姿はほとんど見られない。

大多数がアメリカ支部から三号機とともにやってきた職員である。

リツコとしては日本人オペレーターだけでやりたかったのだが、アメリカ支部の支部長が強引に押し切ったのだ。

いくら本部勤めの技術部長といえども対外的には支部長ほどの権限は無い。

そうなると、シンジの忠告に従うには日本人オペレーターの人数を削るしかない。

リツコとしては色々とやりづらいのだが、この場合已むを得ない。

リツコはモニターに映る参号機に目を遣った。

正直なところ、まだリツコは半信半疑だった。

あの場ではシンジのもたらす情報の山に飽和状態に陥って鵜呑みにしてしまったが……


冷静に考えてみると、どうして信じてしまったのだろう。

確たる証拠はどこにも無いのに。

それにあの少女―――ミナモといったかしら―――は有事の際どうやって脱出するのか。


もしかしたらあの正体も分からない組織に自分は騙されているのではないか。

使徒が寄生しているというのは真っ赤な嘘で、その組織が何か事を起こそうとしているのではないだろうか。

何かを起こすときにミナモさんがそれを事前に知っていて脱出する。

そう考えるとつじつまが合うではないか。

でも、機体を調べても何も出てこなかった。

では、ミナモさんが何かするのか?



「エントリープラグ固定完了。」


オペレーターの声に、リツコは現実世界へと戻ってきた。

とりあえず、今はこっちに集中ね…。

それに、もう後戻りは出来ないわ…。

頭を上げ、正面に移る黒い巨人をリツコは見つめた。


周りからは次々と報告が入ってくる。

ほとんどが英語で一部日本語が混じっているが、リツコはそれらを聞き分けながら指示を出していく。

ミサトも一応この場にいるものの、ほとんどオブザーバーとしてであり、当然技術的なものは何を言っているかすらわからず、無言のまま作業の様子を見ていた。


「初期コンタクト問題なし。」

「了解。作業をフェイズ2へ移行。」

「オールナーヴリンク問題なし。」

「リスト2550クリア。」

「ハーモニクス、全て正常値。」

「絶対境界線、突破します。」


順調に実験は進められていたが、境界線を越えたところで突如実験指揮車内に警報が響き渡った。

紅い警告灯が異常事態を告げている。


「実験中止。回路切断。」


リツコは冷静に素早く指示を出す。

すぐさま電源がパージされるが、参号機はそんな努力をあざ笑うかのように動き続ける。

拘束具を引きちぎろうともがく参号機。


「参号機内部に高エネルギー反応!!」


その報告の直後、皆が見つめるモニターには口を開いて邪悪な笑みを浮かべている参号機の姿が映っていた。


「まさか!使徒!?」


ミサトが叫び声を上げた時、プラグの差込口のところに粘着質の物体が確認された。

だが、映像はそこで途切れた。

指揮車を激しい振動が襲う。


「きゃあああああああぁぁぁっ!!!」


モニターがいくつか破損し、ガラスが降り注ぐ。

それでも車が横転しなかったのは奇跡かもしれない。


「くっ………状況は!!??」


揺れが治まり、ミサトの声が指揮車内に響き渡る。


「ダメです!モニターできません!」

「外部カメラは!?」

「外部カメラからの映像、出ます!」


そこに映し出されたのは見事なまでに何も無い空間だった。

建物は全て破壊されて吹き飛ばされ、きれいな更地になっている。

それを見て、ミサトはぞっとした。

いや、ミサトだけではないだろう。

指揮車内の全員が顔を青くして呆然と映像を見つめている。

リツコも同様だった。


まさかこれほどの事が起きるとは………。

それに途切れる直前に流れた映像。

あれが使徒なのだろうか……?

だとしたら、シンジ君が教えてくれたことは事実だったの?


そこまで考えて、リツコはハッとした。


「パイロットの状態は!?」

「ダメです。機材がやられて測定できません!」


(なんてこと………

 こうなればミナモさんが脱出してることを祈るしかないわね……)


「本部に至急通達!!
 松代で事故発生!参号機は独立して移動中!使徒に乗っ取られた可能性あり!!」

「了解!」


立ち尽くすリツコの横でミサトが矢継ぎ早に指示を出していく。


「何やってんのよ、リツコ!やるべきことがあるでしょ!!」


ミサトにハッパをかけられ、体を重そうに動かす。

その時、リツコの携帯が鳴った。


「誰よ、こんなときに!」


リツコは無視しようかとも思ったが、重大な連絡だと困るのでとりあえず白衣のポケットから取り出した。

すると携帯の液晶にはミナモの名前があった。


「もしもし!!」


急いで通話ボタンを押して、大声で話しかける。


「………そんなに大きな声出さなくても聞こえてますよ。」


耳元から発せられた大音量にミナモは顔をしかめながら返事を返す。


「ごめんなさい。無事なのね。今どこにいるの?」

「そうですね。今、そちらから大体500メートル位のところにいます。今は携帯からかけています。」

「携帯って……。そんなもの持ち込んでたの?」

「ええ。いけませんでしたか?」

「本来なら困るのだけど、この際目を瞑るわ。」

「そうでしたか。

 それはいいとして、では私はこのまま失礼します。後のことはお願いします。」

「えっ!?ちょ、ちょっと!」


一方的に告げるとミナモは携帯を切り、止まることなく歩み続ける参号機を見遣った。


「さて、後はシンジたちに任せて私は退散するかな。」


その直後、ミナモの姿は掻き消えた。

後には赤黄色い水溜りだけが残った。



溜息を一つつくと、リツコはオペレーターに追加事項を伝えた。


「もう一つ本部に通達。パイロットは無事に脱出。現在参号機は無人で稼働中。」

「了解。」

「リツコ、今パイロットはどこにいるの?」

「さっき救護班を行かせたから念のため、そのまま病院に送るわ。」

「そう…。」



パイロットが無事と分かり、ミサトもホッと胸を撫で下ろした。

実はミサトはパイロットがミナモである事を知らない。

実験前に見たファイルはリツコが前もって偽造していたものである。

だが以前リツコに見せられたファイルに乗っていたのは全てアスカやレイの比較的仲の良い(仲は良くないがトウジも含む)子ばかりであり、また加持からもたらされた情報により偽造ファイルに載っていた子も2−Aの生徒だと思い込んでいた。

実験前に一度会っておこうと思ったのだが、リツコに「一人にして欲しいらしいわ。」と言われたため、控えたのだった。

無論これはリツコが配慮したのである。



「なら、急いで本部に戻るわ。悪いけど後はよろしく。」


近くにいた日本人オペレーターに告げると、ミサトは指揮車を飛び出した。

リツコはそんな親友の様子に再び大きく溜息をついた。











「松代で事故発生!!実験施設で大規模な爆発を確認しました!」


いち早く報告を受けた情報分析担当のシゲルが後部に位置する司令席へ大声で伝える。

隣でそれを聞いたマコトとマヤは顔を青くしている。


「しょ『葛城さん(先輩)は無事なのか(ですか)!!!』」


マコトとマヤが二人揃ってシゲルに詰め寄る。

セリフをかぶせられたゲンドウはややムッとして顔をしかめる。

それが分かったのは長いこと一緒にいる冬月くらいのものだったが。


「く、詳しいことはまだ……」


二人の勢いにやや引き気味にシゲルが答える。


「総『何か分かったらすぐに知らせてくれ(ください)!!』」

「あ、ああ。」


先ほどから二人のセリフがゲンドウのセリフと重なっていることに気付いていたシゲルは、返事をしながらもチラッとゲンドウの方を見た。

そこにはいつもと同じ仏頂面で手を顔の前で組んでいるゲンドウの姿があった。

だが、発せられてるオーラは明らかに不機嫌である事を物語っている。

不幸にもその空気に中てられたシゲルはゲンドウが自分を睨んでいる気がして冷や汗を掻いていた。


(俺のせいじゃないっすよ〜)


そうこうしている内に再びシゲルの端末が連絡が来た事を告げる。

後部上方から送られる視線から逃げるように受話器を取る。


「総員「赤木博士と葛城三佐は無事だそうです!」」


そこまで言ってシゲルは今度は自分がゲンドウの言葉と重ねてしまったことに気付く。

先ほどとは比べ物にならないほどの大量の汗がシゲルの背中を流れる。

そこに助け舟が出された。


「参号機はどうなっているのかね?」

「は、はい。現在第三新東京市に向かって移動中です。

 えっ!あ、了解。

パイロットは自力で脱出。参号機は使徒に乗っ取られた可能性が高い模様です。」

「やはりな…

 よし、総員第一種戦闘配置。戦自が介入する前に全て処理しろ。」

「了解。総員第一種戦闘配置!繰り返す!総員第一種戦闘配置!」


予想通りの結果に冬月は表情を厳しくする。

だが、隣の男は


「何故冬月だけ……」


全然違うことを考えていた。










山の端から太陽がその身をわずかにさらす夕暮れ。

その鮮やかなオレンジ色とは対照的に全てを闇に閉ざさんと漆黒のボディをさらす参号機。

距離のある松代と第三新東京市の間をゆっくり、ゆっくりと歩みを進めてきた。

そして、今ネルフ本部の発令所メインモニターにその姿を露にした。

その途端、発令所の面々からどよめきが起こる。

あらかじめ参号機が使徒に乗っ取られた可能性が高いと伝えられてもやはり信じたくは無かったのだろう。


(やはりこうなったか……)


シンジは内心でホッとしていた。

なるべくなら前史と違う出来事は起こしたくない。

今後どうなるかの予測が困難になるのは非常に困る。

これがまだ誰か中に乗っているとなったら話は別だが、すでにミナモはこちらへ戻ってきている。

つまり………参号機を攻撃することに何の遠慮も要らないのだ。


「そんな……使徒に乗っ取られるなんて…」


シンジの耳にアスカの呟きが入ってくる。

レイも口にこそしないものの、自らが見ている光景に驚いているのはモニターに映る表情を見れば明らかだった。


「先ほど連絡が入って、パイロットは乗っていない。つまり無人だ。戦力として今後使えないのは痛いが遠慮なく攻撃しても構わない。」


この場にいない作戦部長に代わってマコトが指揮を執る。

ミサトの無事が確認されて落ち着いたらしい。


「じゃあ、何も気にすることが無いのね?ミサト達は?」

「今こちらへ向かっていると連絡があった。

 使徒についてだが、正確にはまだパターン青が検出されてないんだ。」

「…使徒以外にエヴァを乗っ取れるのはないわ。」

「それは分かるんだが、ともかく、先の使徒の例もある。

 いつ、どんな行動をしてくるか分からないから慎重に接近してくれ。」

「了解です。

 アスカ、綾波。」

「何、シンジ。」


発令所とのモニターを閉じると、シンジは他の二機に向かって呼びかける。

すぐに二つのモニターが開かれ、アスカとレイの厳しい表情が映し出される。


「僕がまず目標に攻撃を仕掛けてみる。二人は援護をお願い。」


とりあえず提案してみたものの、シンジの予想通り二人は反対した。


「何言ってんのよ、シンジ!アンタこの前のこと忘れたの!?」


そう言うアスカの表情はつらそうなものだった。

その理由は二人にも容易に想像がついた。

元々プライドの高いアスカである。

かなり丸くなってきてるとは言え、自らのミスで状況を悪化させたことを思い出すのはつらいのだろう。

その推測は決して間違いではない。

だが、正解と言うにはやや遠すぎる。

そのことはまだ、二人が気付くことは無かった。


「碇君、私も反対。危険すぎる。」

「大丈夫。自分の力を過信してるわけじゃないけど、僕なら大抵の攻撃は避けるだけなら出来るから。」


シンジに言われ、シンジの素性を思い出す二人。

確かに自分達ならともかく、シンジがそう簡単にやられるとは思えない。

だが……


「だめよ!この前みたいに突然足元に現れたりしたらどうすんのよ!!」


確かにアスカの言う通りだが、そんなことは無いと分かっているシンジは何とかアスカを説き伏せようとする。


「アスカの言う通り向こうがどんな攻撃をしてくるか分からない。だから二人には援護をお願いしたいんだ。」

「でも!」

「アスカ。」


なおも食い下がろうとするアスカだが、レイがそれを止めた。


「ここは碇君に任せましょう。まずは相手の攻撃が分からないとどうしようもないわ。」

「………」

「危険だけど、碇君を信じましょう。」

「…シンジ。気をつけなさいよ。」


納得いかないまでも了承し、シンジに声を掛けた。

それにシンジは大きくうなづくとすでに肉眼でも大きく見えるほど近づいた参号機に向かった。




(さて、多分能力は前とあんまり変わってないと思うんだけど)


参号機と対峙し、プログナイフを構える初号機。

他の二機は山の陰に隠れながら、いつでもパレットライフルを発砲できるよう注意を払っている。

初号機に行く手を遮られ、参号機はその歩みを止める。

緊張が皆に走る。

直後、参号機の腕が初号機に伸びた。

明らかに通常の間合いより遠い。

遠すぎるのだ。

にも関わらず初号機はその身を捩じらせて攻撃を避ける。

文字通り参号機の腕が伸びたのだ。

あり得ない動きに加え、その速度も速い。

恐らくアスカやレイなら攻撃を食らっていたことだろう。

しかし、シンジはすました顔であっさりとそれを避け、体を反転させてナイフでその腕を切り裂く。

だが、腕が切れることは無かった。

ナイフを押し当てた場所からまるでゴムのようにさらに腕が伸びる。


「チッ!!」


舌打ちしながら一度間合いを取る初号機。

だが、それを参号機は許さない。

ノーモーションで跳躍すると初号機に覆いかぶさるように飛び掛った。

シンジは避けようとするが、その必要は無かった。

無数の銃弾が参号機に浴びせられる。

隠れていた二機のエヴァからの銃撃で、空中にいた参号機は大きくバランスを崩す。

シンジはその隙を見逃さなかった。

ナイフをその喉元に突き刺す。

参号機は本能的にその危険を悟ったのか、咄嗟に腕でガードする。

するとシンジは前蹴りを食らわし、参号機を吹き飛ばす。


「アスカ!綾波!」


シンジが叫ぶと同時に二機から再び参号機に弾丸の嵐が降り注ぐ。

次々と着弾し、その煙幕が参号機の姿を覆い隠す。

シンジはその煙幕に突っ込み、参号機に体当たりを食らわせ、そのまま馬乗り状態になった。


「うおおおおおおおおおおおっ!!!」



粘菌であるバルディエルを倒す方法はただ一つ。

宿主である参号機を再生不可能なほど徹底的に攻撃を加える。


「ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!」


シンジにしては珍しく大きな雄たけびを上げ、それに呼応するように初号機からも全てのものを凍て付かせるような咆哮を辺り一体に響き渡らせた。

同時に初号機の左腕が参号機の顔面に振り下ろされる。


グシャッ!!


嫌な音とともに顔がつぶれる。

辺りにはその体液が降りかかり、夕日とは似て非なる色に染め上げる。

本部との接続を切っているのでその様は直接シンジ以外の目に入ることは無いが、偵察ヘリなどにより、真っ赤に染まった田園風景やその血しぶきが飛び出す光景はライヴで発令所に届けられる。

マヤは口元を押えて必死で戻すのを堪え、何人かは顔を青ざめさせてその光景を見つめていた。



グシャ!

グシャ!

グシャ!!



何かを潰すような音が数回、いや十数回聞こえたところで、初号機は立ち上がった。

もはや参号機は原型を留めておらず、初号機はその両手を真紅に染め上げている。


「日向さん、パターン青は?」

「えっ、ああ。ぱ、パターン青消滅。目標は完全に沈黙。」

「了解。ではこれよりそちらへ戻ります。」


感情を交えずそう告げると、第三新東京市へ向かって歩き出す。


「シンジ…」

「アスカ…」


モニターに映るアスカに、バツの悪そうに顔を背けるシンジ。


だが、アスカは小さく呟いた。


「……ありがとう…」




そこへ……


「状況は!?」


よく聞くセリフを吐きながらミサトがようやく発令所に駆け込んできた。

シーンと静まり返る所内。


「あ、あれ……?」


勢い込んで入ってきたのはいいが、予想とは違う反応にミサトは戸惑いを隠せない。


「葛城さん……もう終わりましたよ。」


申し訳無さそうにマコトがミサトに告げる。


「そ、そう…?」


本来なら無事を喜ぶところだが、間が悪かった。

ここに居辛くなったミサトはいそいそと発令所から退避した。














(良かったわね。アスカちゃんも完全にあの事件を乗り切ったらしいし。)


パイロットとしての全ての仕事を終え、自分の部屋に帰ってきたシンジは、ソファに座り、大きく息を吐いた。

胸ポケットからタバコを取り出し一息つく。


(うん…人としてバルディエルを倒すにはああするしかなかったからね。ちょっと、いや、かなり不安だったけど、本当に良かったよ。)


やっと顔をほころばせるシンジ。

先日の事件の事を考えると自分以外にやらせるわけにはいかなかった。

レイなら特に気にしないかもしれないが、やらせたいとは絶対思わない。

二人はきれいな手のままでいてもらいたいのだ。


「ん?」


シンジは何かが近づくのを感じた。

何かは分からない。

だが、どうも人ではないようだ。

それらしい気配を何も感じない。

あたりに注意を払ってみても特に何も無いようだ。


(どうしたの?シンジ。)

(いや、なんか変な気配を感じたんだけど…)


ミナモと会話しながらあたりをキョロキョロと見回す。

その時どこかからか、音が聞こえてきた。

最初は小さな音だったが徐々にその音は轟音へと変化してきた。


そして………



あたりに爆音と



激しい焔が満ち、



後に残ったのは瓦礫の山と



持ち主を失くした左腕だけであった。



















シンジ:あれ?

レイ:碇君…さようなら

ミナモ:ちょっと待ったぁ!!勝手に殺すなぁ!!

アスカ:そ、そうよ!まだ死んだと決まったわけじゃないわ!

シンジ:そこらへんどうなの?

shin:どうだろうねぇ。まだそこらへんは言えないねぇ。

レイ:私はアスカの方が気になるわ。

ミナモ:そうね。なんだかアスカちゃんがシンジにただならぬ感情を抱いているようなんですが、そこらへんはどうなんでしょう(芸能レポーター口調)

アスカ:あ、アタシは別に

レイ:動揺するところが怪しいわ。

シンジ:この作品、カップリングってどうなってたっけ?

shin:んー、一応未定だったはず。確か今後の展開しだい、みたいな事を昔言ってた気がする。

レイ:ダメ…碇君は私と一つになるの……。それはとてもとても気持ちいいこと…。さあ、碇君…

どげしっ!!

ミナモ:レイちゃ〜ん?何をやってるのかなぁ?

シンジ:ま、まあミナモ落ち着いて。ほら、足蹴にしちゃダメだって!

アスカ:(ホッ…何とか逸れてくれたわね。)

ミナモ:ダメよ、全く。この場でのフライングは反則よ。話の中でちゃんと競わなきゃ。

アスカ:だからアタシは別に…

シンジ:無駄だよ、アスカ…。こうなったら止まらないよ。

shin:て言うか、全ては俺次第なんだがな…















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