第拾七話 忍び寄る安息の終わり
いつもと同じような暗闇。
そこには臭いが充満していた。
すなわち、欲望と脂肪の。
この場にいるメンバー―――ゼーレの老人達に本当に人類の事を考えているものはいない。
皆、それぞれの道で財を極めたものばかりである。
また、この場に席を持つにはそれ相応の地位、血筋といったものが必要である。
元々そういった上から物事を見るのが普通の生活を行ってきたものばかりである。
財力で人類のトップに立ち、次は自らが神になる気でいるものが大半である。
もちろんそれは傲慢以外何物でもない。
だが、ほぼ全員がそれについて疑問を抱かず、むしろ当然だと思っている。
白人至上主義で、自らは選ばれた人間である。
自分達以外は劣等であり、他の人間を導いてやらなければならない。
関係ない人間にとっては大きなお世話だが、彼らは本気でそう考えている。
そんな泥臭く、人を毒する臭いを発する部屋に葛城ミサトはいた。
異様な空間に足を踏み入れた瞬間、ミサトは思わず顔をしかめた。
実際に臭いが充満しているわけではない。
決してそういうわけではないのだが、そのまま歩を進めるのを躊躇った。
あまりにも強烈で、胸くその悪くなるような臭い。
本気でミサトは逃げ出そうかと考えた。
ミサトにとってここに来る気はなかった。
本来この場に呼ばれたのはサードチルドレン、碇シンジであったのだが、それをリツコが拒否した。
曰く、まだサードは体調が回復せず、また記憶等に混乱が見られることから、そのような場に立つことは好ましくない、と。
(アイツがそんなわけ無いじゃない)
内心で一人悪態をつくが、リツコにそういわれると引かざるを得ない。
精神的な疾患、というものは中々症状として現れない。
もし、現れたとしたら、その時はすでに相当進行している時である。
ミサトにもセカンドインパクトの惨状を見て一時失語症になったことがあったため、そのように言われると強く出ることが出来なかった。
やむなくこの場に来たわけだが、本気で後悔していた。
「葛城三佐、サードチルドレンの尋問を拒否したそうだな。」
その声にミサトは気を取り直し、毅然とした態度で返事を返す。
「はい。先の事件で彼の情緒は大変不安定です。今ここに立つのは良策とは思えません。」
内心では苦々しく思いながらも、ミサトは表情を変えることなくリツコと同じような説明をした。
逆光で元々表情は向こう側からは読み取ることは出来ず、ミサトもそれを分かってはいたが、自然と表情を固まらせた。
「では聞こう、代理人、葛城三佐。」
「先の事件で使徒は我々人類にコンタクトを試みたのではないかね?」
「被験者の報告からはそれは感じ取れません。イレギュラーな事件と推測されます。」
「彼の記憶が正しい、とすればな。」
(中々鋭いわね……)
無言ながらもミサトはその鋭い言葉に舌を巻いた。
実際、ミサトもシンジがあの中で起こったとおりに話しているとは考えていない。
それはリツコも同じで、シンジにもっと突っ込んだ質問をしたかった。
その為に適当な理由をでっち上げてこの場にミサトを来させたのだ。
(腐ってもやはり委員会か…)
無能な人間はこの場に立つことは出来ない。
ミサトはゼーレについてはよく知らない。しかし、委員会についてはネルフの上位組織に当たるため、ある程度の情報は持っている。
それでもシンジや加持に比べると取るに足らない程度だが。
だが、実力があるものしか座につけないくらいは分かる。
それは彼らの目を見ても分かる。
醜悪な顔だが、目つきは欲望でギラギラしている。
度重なる苦境を自らの力で乗り越えてきたものがほとんどだ。
「記憶の外的操作は認められませんが。」
「エヴァのACレコーダーは作動してなかった。確認は取れまい。」
「使徒は人間の精神、心に興味を持ったのかね?」
それまでとは別の委員が質問をする。
(それはこっちが知りたいくらいよ!)
全く情報が無い相手に対してそんなこと分かるはずもない。
心の中で愚痴りながらも淡々と質問に答えるミサト。
「その返答は出来かねます。果たして使徒に心の概念があるのか、人間の思考が理解できるか、全く不明ですから。」
「今回の事件には使徒がエヴァを取り込もうとしたという、新たな要素がある。これが予測されうる第13使徒以降とリンクする可能性は?」
「これまでのパターンから使徒同士の組織的なつながりは否定されます。」
「これまではな。」
いい加減この場を本気で離れたくなっていたミサトだったが、その言葉に反応した。
「それはどういうことでしょうか?」
質問をしたミサトだが、別の声に冷たくあしらわれる。
「君の質問は許可されていない。」
「失礼しました。」
「質問は以上だ。下がりたまえ葛城三佐。」
思わせぶりなセリフに委員会が何か知っていると追求したかったが、そう言われてはミサトも引くしかない。
ミサトに当たっていたスポットライトが突如消え、部屋が暗闇に包まれた。
「どう思うかね、碇君。」
変わってテーブルに座っている六人の男達の姿が顕になる。
「使徒は知恵を付け始めています。残された時間は」
「あとわずか、ということか。」
キールが感情を交えず、事実、そう、わかりきった事を確認するように口を開いた。
「ふん、それにしてもVanishing Hunterが情緒不安定だとはな。笑わせてくれる。」
「全くだ。碇。まさか君の息子があの化け物だったとはな。」
その言葉にはゲンドウを批判する意味が込められている。
基本的に彼らはゲンドウがこの場にいることを嫌っている。
白人至上主義の彼らにとって黄色人種のゲンドウは劣等人種なのである。
「そうなると計画を修正せねばならん。」
「ああ、寄り代としては不適格だな。」
「…しかし、奴の戦闘能力は使徒戦においては欠かせません。」
「おや、やはり貴様も親、ということかな?あの化け物をかばうとはな。」
「奴には我々もかなりの被害を受けた。使徒戦においてもすでに半ばを過ぎている。退場願うにはすでに十分な時期と思うがな。」
怒りをやや露にしながらシンジの排除を切り出す委員。
表面上は無表情を装っているが、ゲンドウは気が気ではない。
決してシンジが大切なのではない。
まだ、シンジを切り捨てるわけには行かない。
先の事件で、シンジを捕らえるとき射殺許可を出したのは、別に本気で殺すつもりがあったのではない。
それほどの気持ちで挑まなければ無理だろうと判断してのことだった。
結局は失敗に終わったのだが。
ともかく、今自らの計画のためにもシンジを失うのは避けたかった。
少なくともユイを目覚めさせるまでは。
「止めんか。」
ずっしりと、腹にまで響くような声が空間に木霊する。
そのキールの声にやや騒がしかった部屋が静寂に包まれる。
「確かに奴は危険だ。だが、まだ切り離すには使徒が多い。
監視のまま今しばらく判断を保留する。以上だ。」
キールが強引に会議を終わらせる。
その決定に従うように他の委員達の姿がスッ、と掻き消える。
場にはゲンドウだけが残された。
「で、いつになったら開放されるんですかね?」
決して狭いわけではないが、所狭しと物が置かれ、また何台ものコンピュータが置かれているせいか、どこか息苦しさを感じる。
リツコの部屋につれてこられたシンジだったが、ちょうどリツコに急ぎの仕事が入り、かなり待たされていた。
シンジも特にやることがあったわけでは無かったので待っていたのだが、そろそろ痺れを切らしてきた。
「ごめんなさいね。もう少しだから。」
「もうそのセリフも3回目ですけどね。」
顔は笑顔だが、さらりと皮肉を言う。
リツコはその皮肉に特に反応するでもなく自分の作業を進める。
リツコ特製のコーヒーを飲みながら待つこと数分。
ようやく作業の終わったリツコがシンジのほうに振り返る。
「待たせたわね。」
「そうですね。そろそろコーヒーだけでおなかいっぱいになるところでしたよ。」
ふふ、と笑うシンジ。
意味深とも取れるシンジの笑いだが、リツコは気にせず手元のファイルを開く。
それからリツコはいくつかシンジに質問をしていった。
だがそれらの大半はすでに入院している間に答えたものばかりだった。
意味があるとも思えない質問の繰り返しに、シンジの表情も変わってくる。
「じゃあ、使徒の中で何か起きたかしら?」
「……その質問も以前お答えしましたよ?」
「確か、よく覚えていない、だったかしら?何度も繰り返しているうちに何か思い出すかと思ったのだけれども。」
「あの中ではすぐに意識がぼんやりしてきましてね、多分何度聞かれても何も思い出すことは無いですよ。」
「そうなの?残念ね。」
口ではそう言っているが、リツコの表情にその色は見られない。
質問が止まり、リツコは机に置いてあったやや冷めたコーヒーを入れなおす。
「シンジ君もどうかしら?」
「そうですね、頂きます。」
シンジも質問攻めにのどが渇いたか、リツコから再びコーヒーを受け取る。
お互いしゃべらず、コーヒーでのどを潤す。
やがて、シンジが口を開いた。
「……もうそろそろ本題に入りませんか?」
「本題というと何かしら?」
「とぼけるのも無しですよ、リツコさん。」
「そうね。いいわ。もう分かってるけど、貴方に聞きたいことがあるの。」
そう言いながら姿勢を正す。
シンジのほうも椅子に座りなおした。
「貴方、一体どこまで知っているのかしら?」
「知ってる?何のことですか?」
「とぼけるのは無し。そう言ったのは貴方のほうよ。」
「そうでしたね。」
苦笑いを浮かべるシンジ。
(どうするの?)
(さて、リツコさんには悪いけど、このままシラを切らさせてもらいますか。)
(多分納得しないわよ。)
(分かってる。)
「知ってることと言っても、そう多くは無いですよ。何か父さん達がしようとしてるのは知ってますけど、具体的なことは知りません。」
「本当かしら?言っておくけど、ここは今カメラも盗聴器も無いわ。だから気にせず言ってくれる?」
「本当に知りませんよ。何をリツコさんが疑ってるのかは知らないですけど、僕個人に出来ることなんかそんなに多くないですし。」
あくまでシラを切り通そうとするシンジに、リツコは一つ溜息をつくとコーヒーを口に含ませた。
「じゃあ、レイに引越しをさせたのは何故かしら?」
「逆に聞きますけど、もし、友達が綾波みたいなところに住んでいたらどうします?僕は彼女があんなところに住み続けさせたくなかった。それだけですよ。」
「あら、レイのことが好きなのかしら?」
リツコにしては珍しくいたずらっぽく笑う。
が、すぐに表情が凍りついた。
「……ミサトさんみたいですね。」
数分後、何とか精神の再構成を済ませたリツコはコホン、と咳払いを一つして、話を再開させた。
だが、まだやや顔は赤い。
「そ、それで、えっと…」
「リツコさん、落ち着いてください。」
シンジに言われて大きく深呼吸をするリツコ。
その間シンジは
(なんか、珍しいもの見れたね。)
(そうね、ここまで動揺するリツコは私も初めてだわ。)
などと考えてたりする。
「落ち着きましたか?」
「え、ええ。ごめんなさいね。ミサトみたいなことして動揺してしまったわ。」
「はは。葛城さんに言っちゃいますよ?」
「構わないわ。実際ミサトはこういう話に目が無いから。私もミサトなんかにやり込められるほど落ちてないわ。」
そう言って笑い合う二人。
すでに先ほどまでの空気は無い。
「それで、どうやったらここから出してもらえるんですかね。」
「そうね…貴方の知ってる情報を何か一つでも教えてくれたら考えないでもないわ。」
その言葉にシンジはニヤッ、と笑うと、少し考え込むような表情を浮かべて、ぽん、と手を打った。
「あ、そうだ。」
「何かしら?」
やっと話してもらえると、リツコは身を乗り出してシンジに近づく。
「リツコさん、父さんと付き合うのは辞めたほうがいいですよ?」
Intermission
「消滅!?確かに第二支部が消滅したんだな!?」
「はい、直接以外では確認済みです!」
発令所は慌しく動いていた。
別段珍しいことではないが、問題は使徒が来たわけではない、ということだ。
第二支部の消滅―――爆発では無く、消滅。
本来、人類が持っている兵器等ではありえない現象である。
リツコはその原因をS2機関の暴走、と結論付け、恐らくディラックの海に飲み込まれてしまったのだろう、と予測した。
「よく分からないものを使うからよ。」
ずっと黙って報告を聞いていたミサトがはき捨てるように言う。
(それはエヴァも同じよ。
でもミサト、貴女は気付いているのかしら。エヴァよりももっと不明な人物が私達の近くにいることに。いえ、恐らく誰も気付いていないでしょうね。)
「残った参号機はこちらで引き取ることになったわ。」
一瞬自身の思考に没しそうになるが、気を取り直してミサトに告げる。
「参号機はあっちが建造権を主張して無理やり持って行ったんじゃない!それをいまさら!」
「仕方ないわ。あんな事故があった後だもの。誰だって弱気になるわ。」
怒ったように大声を上げるミサトをなだめるようにリツコが落ち着いて言う。
「それで、パイロットはどうするのかしら?例のダミーを使うのかしら?」
ミサトはまだ治まらないようで、ぶっきらぼうにリツコに尋ねた。
「これから決めるわ。」
ターミナルドグマ深部
ゲンドウとリツコの目の前にはエントリープラグと同じ形をしたものが吊り下げられている。
「試作されたダミープラグです。レイのパーソナルが移植されています。ですが…」
「完成には程遠い、か…」
「はい。」
「起動は?」
「起動は可能です。ですが、戦力には恐らくならないでしょう。」
「構わん。老人達への目くらましにはなる。今ある分で引き続き進めてくれ。」
「分かりました。」
「参号機の起動は」
「四人目を使います。現時点で候補が数人上がっています。」
「選抜は君に一任する。」
「はい。」
二人の目の前には試験管のようなものがある。
しかし、その中には以前はいた人物がいない。
「ユイ……」
ゲンドウの呟きは暗闇に吸い込まれていった。
それをリツコは嘲笑と憎しみのこもった目で見つめていた。
「四人目を使うわ。」
ミサトに会ったリツコは開口一番にそれを告げた。
「四人目?パイロットが見つかったの?」
「ええ、昨日ね。」
あまりにもおかしい。
確かに新たなエヴァが来る以上パイロットが必要である。
しかし、早すぎる。
以前からネルフにはおかしい部分が多かった。
何か裏があるのではないか…?
作戦部長である自分にも知らされない秘密が。
「随分と仕事熱心なものね。三人目を探すのに10年以上かかった割には。」
「みんな生き残るための努力は惜しまないわ。」
コーヒーを飲みながらミサトの皮肉を軽く流すリツコ。
「候補は何人かいるわ。明日本人に伝達するわ。」
そう言って手元のファイルをミサトに見せる。
それを見たミサトの目が大きく見開かれる。
「アスカ達に話しづらいわね。」
「私達には子供達が必要なの。生き残りたいのなら、いい加減きれい事は止めなさい。」
「きれい事?」
「貴女の悪いところよ。優しくしたい、その気持ちは分かるわ。でもここは戦場で、貴女はそんな子供達に上官として命令を下す立場。中途半端な優しさは捨ててしまいなさい。」
冷たく言い放つリツコ。
ミサトも厳しい表情でリツコを睨んでいたが、踵を返して部屋を後にした。
「さて、今日もよう寝たわ。ケンスケ、帰ろうや。」
「いいぜ。今日もゲーセンによってくか?」
「おお、わしはかまわへんで。」
学校が終わり、いつもの様にトウジはケンスケと帰ろうとした。
だが、そこにヒカリがトウジに声を掛ける。
「鈴原。」
「おう、なんやイインチョ。」
「鈴原週番でしょう?ちゃんと仕事しなさいよ。」
ヒカリはシンジからシャムシエル戦の顛末を聞き、しばらくはトウジ達と距離を置いていた。
だから、と言って完全に恋が冷めたわけではない。
確かに話を聞いた直後はトウジに対して怒り心頭だった。
しばらくまともに顔すら合わせなかったときもあった。
だが、委員長として無視するのもどうか、と思い、その後普通に接するようになった。
こうなると、一度は冷めたはずの恋心が再び頭をもたげてきて、今や以前と変わらぬ気持ちをトウジに対して抱いている。
それどころか、(鈴原は私がちゃんと見ていなきゃ!)とさえ思っている。
「仕事?なんやあったかいな?」
怪訝そうな顔をしているトウジにヒカリはプリントを差し出した。
「はい、プリント。ちゃんと届けなさいよ。」
「はいはい、わかったわ。
ケンスケ。悪いんやけど、今日はパスや。」
「ああ、分かった。じゃあな。」
ケンスケは鞄を持つとトウジに手を振って教室を出て行った。
トウジもケンスケに手を振ると、ヒカリの方へ向き直る。
「んで、誰に届けりゃいいんや?」
「うん、その……碇君よ。」
それを聞いてトウジの表情が曇る。
ヒカリもその原因に気付いている。
トウジはあれからシンジを避けてきた。
完全な八つ当たりでシンジを殴ってしまい、挙句の果てに自分が原因でとんでもない迷惑をかけてしまった。
迷惑、と言う言葉では済まされない。
一歩間違えていれば皆死んでいたかもしれない。
ずっとシンジに謝りたかった。
しかし、その直後から自分はケンスケともども入院する羽目になり、タイミングを完全に逃した形になってしまった。
こうなると、時間が経つにつれ謝り辛くなる。
結果として、今までずるずるとそのままで来てしまった。
「鈴原………」
黙ったままのトウジをヒカリが心配そうに覗き込む。
だが、どこか期待の色が瞳にこもっていた。
「鈴原、その…もし行きにくいなら私も一緒に行こうか?」
ちょっと、ううん、かなり私ずるいよね。
内心で罪悪感を感じながらもトウジをヒカリは見つめた。
一緒に行ってくれんか―――その言葉を待って。
しかし、トウジの口からは期待された言葉は出てこなかった。
「いや、わし一人で行くわ。」
「………」
「スマンなイインチョ。わし一人で行かせてくれや。」
「う、ううん。いいの。」
口ではそう言っているが、落胆した様子が見て取れる。
「……ほな、な。」
申し訳無さそうなトウジ。
ヒカリを気にしながらもシンジの家へと向かった。
「トウジ。」
難しい顔をして下を見ながらシンジの家へ向かっていたトウジだが、その途中、声を掛けられ後ろを振り向く。
そこにはシンジが立っていた。
「い、碇……」
恐怖心はあった。
特に何かをされたわけではないが、体が金縛りにあったかのように動かない。
―――謝らなければ
そう思っても声も出ない。
シンジはいつも学校で浮かべている笑顔ではなく、真面目な顔をしていた。
それがトウジに思い起こさせる。
プラグ内でのあの時の目を。
普段とは全く違う声だった。
声と、視線だけで殺されると、本気でそう思った。
膝ががくがくと震える。
ともすれば気を失ってしまいそうだった。
「トウジ。」
シンジにもう一度呼びかけられ、遠のきかけた意識を何とか留める。
ゴク、とトウジの喉が鳴る。
「話があるんだけど、いい?」
「お、おお。ちょうど良かったわ。ワイも話したいこと―――いや、話さなならんことがあるんや。」
「そっか。なら家に来る?この近くだから。」
「ああ、ええで。渡さなならんもんもあるしな。」
二人並んでシンジの家へと向かう。
道中、トウジの手はぐっしょりと汗を掻いていた。
「どうぞ。汚いところだけどね。」
そうは言っているが、トウジから見れば十分きれいに見える。
流石に女の子の部屋ほどでは無く、所狭しと物が置かれているが、男の部屋としては十分である。
「まあ、座って待っててよ。コーヒー入れるから。」
「お、おう。スマンな。」
シンジはキッチンへと消え、トウジは近くにあったソファーに腰掛ける。
座るとトウジは気持ちを落ち着けるように深呼吸をした。
「お待たせ。」
「おおきに。ほれ、溜まってたプリントや。」
「あ、ありがとう。」
シンジは受け取りながらコーヒーをすする。
つられてトウジもコーヒーに口を付けた。
「で、話っていうのは?」
「あ、ああ…」
踏ん切りが中々つかないトウジだが、意を決してシンジに頭を下げた。
「スマンかった、碇。」
「?何のこと、突然?」
「前、わしお前のことよう分からんと殴ってしもうたからな。その上、えらい迷惑かけてもうて。」
それを聞いて、ああ、とようやくシンジは合点がいった。
「そんなの気にしなくてもいいのに。」
「いや、ホンマ悪かった。ずっと謝りたかったんやけどな。タイミングが掴めんで…いや、ただワイに根性がなかっただけやな。」
「それなら僕も謝らないとね。怖かっただろ?」
一瞬トウジは何のことか分からなかったが、こちらもシンジが言っていることを理解した。
「いや、それも含めてこっちが悪かったんや。命かけて戦こうてるとこにワイらのせいでお前ん命を危険にさらしたんやからな。腹たてんのは当然や。ホンマすまんかった。」
そう言って深々と頭を下げた。
「気にしてないから。もう、あんなことはしないでよ?」
「勿論や。」
そう言ってトウジは再びソファーに腰掛け肩の力を抜いた。
「これでようやくすっきりしたわ。こんなことならもっと早う謝っとけば良かったわ。
シンジも思うてたよりいい奴やな。」
笑いながらトウジが言うが、シンジはポツリと呟いた。
「僕はそんな人じゃないけどね…。」
だが、その声は小さくトウジの耳には入らなかった。
「んで、そっちの話はなんや?」
「ん、ああ。妹さん元気になった?」
「おう。毎日口やかましゅうてかなわんわ。」
「そう、良かった…。じゃあ、多分大丈夫だと思うけど…」
「なんや?」
「恐らく、近々トウジに参号機のパイロットの要請が来ると思う。」
その言葉にトウジは驚きの表情を浮かべた。
「なんやて!?」
「確信は無い。けど、もし来たら、絶対に断って欲しい。」
「別に構わへんけど、どないしてや?」
「…それは言えない。」
「そうか…。よし!分かった!」
「ありがとう。それから、他の人からそういう相談を受けたら絶対乗らないよう説得して欲しいんだ。」
「ああ、任しとき。なんや、碇も大変そうやな。」
「まあね。」
苦笑いしながらコーヒーを飲みほした。
「おや、シンジ君じゃないか。」
スイカに水をやりに来た加持だったが、シンジの姿を認めて声を掛けた。
「どうも、加持さん。お待ちしていましたよ。」
「おや、デートのお誘いかな。」
「どうでしょうね。少しお話をしたいと思いまして。
別に命を取る訳じゃないですから、そんなに警戒しないでください。」
「お見通し、か。」
そう言って、加持は隠し持っていた銃をしまった。
「加持さん。」
「なんだい?」
「ミサトさんに教えましたね?」
「……耳が早いな。」
「でなければ生き残れませんでしたからね。」
「そりゃそうだ。」
「どうして教えたんですか?」
「葛城が知りたがってたからな。都合よくパイロットが見つかる秘密を。」
「もう決まったんですか!?」
「おや、知らなかったのかい?とは言っても候補が上がってるだけだけどな。」
やや表情を厳しくしたシンジだが、話を続ける。
「そうですか。候補者を聞いたら教えてくれるんですかね?」
「そいつは俺の口からは言えないな。まだ機密レベルだからな。」
「今しゃべってる内容も十分機密ですけどね。
話を戻します。教えることでミサトさんに危険が迫ることは考えなかったんですか?」
「考えたさ。でもな、シンジ君、葛城は知るべきだとは思わないかい?」
「………」
「確かに知ることで葛城の身に危険が降りかかるかもしれない。でも彼女は知ることを望んだ。
葛城だって承知の上だ。どうせこんなことしてる以上いつ死ぬかなんて分からないさ。なら知って死ぬのと知らずに死ぬのどちらがいいか。葛城は前者を選んだだけさ。」
「死ぬことで悲しむ人がいることも承知の上ですか?」
「恐らくな。」
「加持さんも?」
「ああ。」
加持がうなづくのを確認するとシンジは加持に背を向けた。
「話は終わりかい?」
「ええ。
加持さん、貴方は今、すでに薄氷の上を歩いているようなものです。十分気をつけてください。」
「わかったよ。忠告、素直に聞いておくよ。」
「…できれば死なないで下さいね。アスカが悲しみますから。」
「そうだな…。十分気をつけるよ。」
「それでは失礼します。」
背を向けたまま話し、そのまま振り向かずにシンジは立ち去った。
顔に怒りと悲しみとが入り混じった表情を浮かべながら。
ミナモ:今回は特に大きな出来事は無かったわね。
シンジ:そうだね。僕とトウジが仲直り(?)したくらいかな。
レイ:私達の出番全く無しだったわ。
シンジ:アスカは?
レイ:向こうで作者を殴ってるわ
shin:ちょっと待て!何だその物騒なのは!
アスカ:問答無用!!
shin:グハッ!!
シンジ:……(黙って手を合わせる)
ミナモ:本編の方も特に大きな事件も無かったし、同じような構成だったら今回はこんなものよね。
レイ:もうすぐ忙しくなってくるわ。
シンジ:作者がTVで一番好きな場面が近いからね。どうなることやら。
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