第拾六話 生きるための病、そして
先日の事件から数日。
あれほどの事件だったにもかかわらず、ネルフ本部内はいつもと変わりない日常が過ぎていた。
というのも、最後にゲンドウと冬月にシンジが「お願い」したことが効いている。
ゲンドウはシンジの言う通りにあれに関わった人物に緘口令を引いたのである。
事件を知っているのは他にミサト、リツコ、加持にレイとアスカである。
あの時に参加した諜報部員は全滅し、残ったのはほんのわずかな人数であった。
その為、冬月はその人材集めに奔走する羽目になった。
もちろん残った諜報部員にも緘口令は引かれた。
あの場を通常職員及び病院の人間を皆階上に移動させていたことが幸いし、特にどこかへ洩れる、ということは無かった。
レイとアスカは当然口を割るはずも無く、ミサトは元々軍人であるため命令には従うし、リツコは不要なことは口にしない性格であるうえ、ゲンドウ達とともに裏の部分に大きく関わっている人物でもある。
加持は見た目は飄々としているが、工作員であるとともに諜報活動もする人物である。
口が軽ければ今頃とっくに空から地上を眺めているであろう。
もっとも、一箇所だけには報告していたが。
だが、最大の原因は皆、あの光景を早く忘れたい、ということであろう。
何もかもが異常な空間であった。
あちこちに散らばる肉片。
元は清潔感あふれる白い空間が禍々しいまでの紅い世界へと姿を変えていた。
そして、身を真紅に染め、一人の少年が立っていた…。
一刻も早く記憶から消去したいと願うのは当然の心理であろう。
リツコはその場に居合わせたわけではないが、映像を消去する際、それを見て思わず吐き気を催した。
ともあれ、今日もネルフ本部ではいつもと同じ時間が流れていた。
マヤが見つめるモニターにはチルドレン三人のシンクログラフが映し出されている。
その後ろにはリツコと腕組みをしたミサトが立っている。
厳しい表情でマヤの後ろからモニターを覗き込んでいるが、ミサトの表情には疲れが見え隠れしていた。
「お疲れですね、葛城さん。」
心配そうにマコトがミサトに声を掛ける。
ここのところミサトはずっとこんな調子であり、マコトも気にかけていた。
「まね、ちょっとここのところ眠れなくてね…。」
「あら、男遊びが忙しいのかしら?」
「うっさい!」
マコトに返事を返すと、横からリツコが軽口を挟む。
リツコとしても事実を知っているのでミサトが眠れない理由に容易に察しはついている。
リツコも数日前までそうだったのだ。
直接見たわけではないリツコでさえそうであるならば、その場に居合わせたミサト達はなおさらである。
ならば少しでも気を紛らわせようと冗談を口にしたのである。
ミサトもそんなリツコの気遣いに心の中で感謝しつつ、あっかんべをしながら軽口を返した。
(だけど…)
あの子達はどうかしら…?
そんな思いを浮かべつつ、モニターに目をやると、3本のラインが横に伸びている。
一本は相変わらずいつも通り、安定した数字を残している。
そこから下へ行くと、いつも通り、とまではいかないが特に問題はなく横へ推移している。
だが、明らかに残りの一本はいつもと異なっていた。
実験開始当初から激しくグラフは上下し、やっと安定してきたところでも普段からは大分低い数字のところで細かく上下していた。
(無理も無いわね…)
ある程度訓練を受けた大人である自分でもあの光景はきついものがあった。
実際まだ日常生活に影響を及ぼされている。
ならば、あの子はどうだろう…?
人一倍死に対する恐怖を抱くあの子は。
恐らく自分より大分ひどい状況だろう。
(参ったわね……)
何とかしなければならないが、ある程度時間に任せるより他は無いだろう。
プラグの様子が映し出されているモニターに視線を移すと表面上はいつもと同じ三人が映し出されている。
だが、シンクログラフが示すとおり、紅いプラグスーツを着ている少女の内心は激しく動揺している。
今回のテストに関してもこれ以上続けても疲労が増えるだけであまり意味は無い。
ミサトは視線をリツコに移すと、リツコもそれに気付き、テストの終わりを告げる。
「いいわ、今日はこれくらいで。みんな、お疲れ様。」
夜中の国道を一台の青いスポーツカーが駆け抜ける。
スポーツカーではあるが、夜中で走行する他の車がないのだが特にスピードを出すわけではなく、どちらかといえばのんびりと走っている印象を受ける。
その車のドライバーである葛城ミサトにしては珍しいことだが、ゆったりと車を走らせていた。
助手席には同じマンションに住むアスカと後部座席にはレイの姿があった。
結局、レイはアスカと一緒に住むことになった。
元々アスカはレイの面倒を良く見ていたし、アスカのマンションはミサトと同じマンションであるため、保安上からも問題ないだろうとシンジが判断したためである。
先日、レイにつれられて住んでいたマンションを見に行った時は流石のアスカも開いた口が塞がらなかった。
今にも崩れてしまいそうな雰囲気をかもし出している外観。
中に入ってみればコンクリートがむき出しの壁に部屋に置いてあるのはわずかな家財道具ばかり。
これでも前回に比べれば大分マシなのだが、それでも同年代の女の子と比べるまでもないのは言うまでもない。
当初はとりあえずどんなものか見て、暇をみて引越し、となるはずだったのだが、アスカの強引な勧めでその日の内に引越しを敢行。
レイはほとんど物を持っていないため、あまり時間はかからなかったが、それでもアスカの物を動かしたりするのに相当の時間を要した。
一心不乱に体を動かすアスカ。
それはどこかであの出来事を一時でも忘れたかった為の行動だったのかもしれない。
そういう顛末でアスカの部屋に引越したレイは、大体の時間をアスカと一緒に過ごしている。
その為、今こうして三人で一緒に帰っているのである。
窓の外と同じように静かに時が流れる。
普段のアスカからは考えられないほど憔悴しきっている。
あの日以来、アスカはほぼ毎日一睡も出来ない日々が続いていた。
眠ろうとするとばらばらになった肉片が瞼の裏に蘇るのである。
これまで感じたことのない恐怖。
ミサトの危惧した通り、あの光景はアスカの心に大きな傷を残した。
シンクロの極端な降下は見られなかったのは幸いだろうか。
レイの方は特にあの光景がどうだ、ということはないようだ。
まだまだ未成熟な感情故か、それとも死に対しての憧れがまだどこかにわずかながら残っているのかもしれない。
どちらにせよ、第三者にはうかがい知れぬところではあるが……。
レイにとってはアスカの様子の方が心配であった。
毎日うなされながら汗びっしょりで跳ね起きるアスカを見ていて、レイは無力な自分を悔しく思っている。
アスカと一緒に寝ていても何も出来ない。
またアスカはレイに心配をかけまいと心配そうに顔を見つめるレイに無理やり笑顔を浮かべるのである。
それはレイにとってもつらい日々であった。
以前ならば他人など気にする事はなかっただろう。
それが今では他人のことで心を痛め、身を切り裂かれるような思いを抱いている。
周りの人間が見れば成長だというだろう。
しかし、レイ自身はまだそこまで気付けていない。
今レイの心に浮かぶのは……
(碇君…どうして……?)
アスカを守るんじゃなかったの…?
どうして……?
その問いに答えてくれる人物はここにはいなかった。
「アスカ……」
ミサトは横でうとうとしているアスカに声を掛ける。
が、話が続かない。何を話せばよいのか分からないのだ。
何か話題はないかと運転しながら思考をめぐらせるミサトだったが、それはアスカによって遮られた。
「……ゴメン、ミサト。ちょっと休ませて……」
「あ、うん……分かったわ……」
そう言われると状態が状態だけにミサトも引かざるを得ない。
一言だけ言ってまたうとうとし始めたアスカだったが、すぐにハッ、として跳ね起き、再びうとうとしては跳ね起きるといったことを車がマンションに着くまで繰り返していた。
傍から見ていても痛々しいその様子にも二人はただ見守ることしか出来なかった。
ここは………?
真っ暗な空間の中をアスカはさまよい続ける。
どこを見ても暗闇しかない。しかし、何故か自分の体ははっきりと見える。
どこよ…ここは……?
声に出して尋ねてみるも返事は無い。
そもそもアスカ以外の人の気配すらないのだ。
辺りをキョロキョロと見渡してみても当然黒以外は存在していない。
他人の居ない世界。
だんだん心細くなってきたアスカはその場を離れようと当てもなく歩き始める。
もしかしたら他の場所には誰かいるかもしれない。
希望のない世界。
わずかな希望にすがり、単純にそう考えるのは不思議なことではない。
長い時間―――アスカの主観で、だが―――歩き続けたところ、彼方にわずかな光が見えた。
それこそ針の先ほどの光であったが、アスカは目ざとくそれを見つけるとそれをめがけて走り出した。
早くここから出たい
暗いのは嫌だ
一人は嫌だ
誰にも聞こえぬ叫びを上げながら足を回転させる。
どれ位走っただろうか。すでに時間感覚は曖昧で分からない。
何時間?何十分?それともまだ数十秒?
まだ息が切れてないからそんなに時間は経ってないのかも知れない。
そう考えながらさらにアスカは足に力を込める。
徐々に近づいてくる光。
針の先ほどしかなかったものが、今は人一人は十分通れるくらいになっていた。
やった!出口だ。
喜びに顔をほころばせながら真っ直ぐそこへ向かう。
だが、その直前で何かにつまづいたアスカは派手に転ぶ。が不思議と痛みはそれほどでもない。
いったいわね〜、一体何よ?
わずかな痛みとその原因に愚痴りながら、自分がつまづいた物に目を遣る。
先ほどまでは自分しか見えなかった。
だが今は光が近いせいかそれがはっきりと見えた。
ヌルッ、とした感触と、むせ返るような生臭さ。
きれいなピンク色をしたそれはまだ「新鮮」なのか、わずかにピクピクッと脈打っていた。
ヒッ!!
バラバラになっている元は人だったものに驚き、短い悲鳴をあげながら飛びのくアスカ。
二、三歩後ずさりしたアスカだったが、そこで再び何かにぶつかった。
恐る恐る後ろを振り返るアスカ。
そこには見慣れた顔があった。
ニッコリと笑うシンジ。
ようやく見知った人物と出会えて嬉しさを噛みしめるアスカだったが、シンジから少し離れたところで顔が恐怖に彩られた。
光に照らし出されたシンジの姿………
顔には紅いものがところどころ付着し、全身は真紅に染まっていた。
手には怪しく光るナイフ。
シンジは笑みを一層深くすると、ゆっくりとアスカに近づいていく。
シンジ…?何を……?
その問いは声にならない。
ひざががくがくと震え、力が全く入らない。
まるで影がその場に縫い付けられたかのように、一歩も動くことが出来ない。
シンジはアスカまで後一歩、というところまで近づくと
右手を大きく振り上げ
躊躇いもなくアスカに向かって振り下ろした
Rebirth
「使徒が現れたって、一体富士観測所はどこを見てたの!?」
ミサトが大声を張り上げながら発令所に駆け込んできた。
「探知していません!突如直上に現れました!」
ミサトの問いにすぐさま副官であるマコトが答えを返す。
「パターンオレンジ。A.Tフィールドの反応無し。」
「新手の使徒?」
「MAGIは判断を保留しています。」
「エヴァの準備は?」
「すでに全機発進準備は完了しています。」
「よし…。全機発進!」
ミサトが宣言し、第十二使徒戦が開始された。
人気のなくなった第三新東京市。
すでに街は平時の也を潜め、戦闘形態に移行している。
その中を三体の巨人が少しずつ使徒との間合いをつめていく。
兵装ビルの間をぬってアンビリカルケーブルが延び、三方から攻撃のタイミングを見計らっている。
「目標のデータは今送ったとおり。現状ではそれだけしか分からないわ。慎重に接近して可能なら市街地外へ誘導。いいわね?」
「了解。」
「…了解。」
「………。」
短く返事を返したシンジとレイだが、アスカからは返答が無い。」
「アスカ?」
「え…あ、わ、分かったわ。」
「アスカ、大丈夫?」
心配そうにレイがアスカに尋ねる。
ミサト達発令所の面々もアスカの状態を見守っている。
事件の事を知っているのはわずかだが、ここ最近のアスカの様子がおかしいのは全員が気付いていた。
大丈夫なのか、といった視線をミサトにマコト達上級職員が送る。
その視線にミサトは気付いていたが、気付かない振りをする。
ミサトとしても大丈夫、といいたいところだが、お世辞にも今のアスカの状態は大丈夫とは言いがたい。
いつ倒れてもおかしくない状況なのだ。
だからと言って調子が悪いといえる状況でもない。
調子が悪いからと言って休ませるわけにもいかない。
そこまでの余裕は人類、ネルフにはない。
余計な不安を職員に与えないためにも敢えてミサトは無視を貫いた。
「いいわね、さっき与えた指示通りに。不用意な攻撃は加えないこと。」
「分かってるわよ。」
いささかぶっきらぼうにアスカが答える。
そんなアスカにミサトは溜息をつくと続けて口を開く。
「では、作戦開始。」
零号機はライフル、弐号機はバズーカ、そして初号機はパレットライフルを手にじりじりと使徒との距離を詰めていく。
使徒―――夜を司るレリエルはまるで名前の通り深夜の静けさを表すかのように沈黙を保っている。
全くアクションを起こさない使徒に対して発令所でも徐々に苛立ちが募り始める。
そしてそれはエヴァの中に居るアスカにとっても同じであった。
「……早くこっち来なさいよ。」
疲れた体と脳は容易に冷静さを奪う。
一向に動き出す気配の無いレリエルに痺れを切らしたアスカは、ならばこちらから、とばかりに一気に間合いを詰めようとした。
だが、不幸がアスカを襲った。
接続されていたアンビリカルケーブルはすでに長さいっぱいの状態であった。
しかし、アスカはそれに気付かず、急激に移動速度を上げたため、後ろに引っ張られてバランスを崩して転んでしまった。
それだけならば特に問題は無かった。
大勢に影響は無い。
しかし、不幸にしてアスカは転んだ拍子に持っていたバズーカを発射してしまった。
砲弾が爆音とともに吐き出され、兵装ビルに当たり、激しく瓦礫が辺り一帯に降り注ぐ。
その直後―――
レリエルの姿はスッ、と掻き消え、発令所に警報音が鳴り響く。
「パターン青!!弐号機の真下です!!!」
マヤが叫ぶように報告を上げると、弐号機の足元に黒い影が染みのように広がっていった。
「下!!??」
その声はアスカにも届き、慌てて下を向くと、すでに弐号機のくるぶしの辺りまで沈んでいた。
「!!!???」
すぐさまアスカはバズーカを足元に発射するも、付近に響くのは発射音のみであった。
徐々に暗闇に吸い込まれていく自らに急に恐怖が襲いかかる。
「…い…いやぁ…いやああああああぁぁぁぁ!!!!」
「アスカ!!」
叫び声をあげるアスカにミサトは呼びかけるも、発令所では何も出来ない。
「くっ!すぐに攻撃を開始!!」
ミサトの指示にレイがライフルをふわふわと浮かんでいるレリエルに発射するが、またしても使徒の姿は消え、後ろにあったビルへ当たる。
「!!レイ、気をつけて!!」
その声に反応したか、レイはすぐさまジャンプし、近くのビルに飛びつく。
零号機のいた場所は同じような暗闇が広がり、レイの掴んだビルごと飲み込んでいく。
レイはビルの屋上へと登りきると次のビルへと飛び移り、その場を離れる。
「弐号機の状態は!?」
「すでに膝まで飲み込まれています!!」
ゆっくりと、だが確実に夜は弐号機を食らい尽くしていく。
「いやぁ!!誰か助けてよ!!誰でもいいからぁ!!」
ゆっくりと沈んでいく様はいやおう無しに恐怖を誘う。
もはや恐慌状態に陥り、泣き叫ぶアスカ。
その時、弐号機の沈降が急に止まる。
ガクッ、という振動とともにアスカは泣き伏せていた顔を上げる。
そこには紫の鬼がいた。
初号機はすでに太ももの辺りまで沈んだ弐号機を無理やり引きずり出すと乱暴に放り投げた。
自らの体と引き換えに。
「シンジ!!??」
涙で紅くなった目を大きく開いて、アスカがシンジに向かって叫ぶ。
が、シンジは黙して何も言わない。
紫の機体はその体を段々と黒く染めていった。
「シンジ!すぐに助けるから!!」
今度はアスカが初号機を助けようと黒い海へと駆け寄る。
しかし、それは叶わなかった。
後一歩、というところで、弐号機の中のアスカに何かにぶつかったかのような衝撃が伝わる。
驚いてアスカは視線を初号機へと向ける。
初号機はその左手を弐号機の方に向けていた。
時間は止まらない。
ずぶずぶと、まるで底なし沼に沈んでいくかのようにその身を沈ませていく。
アスカはその光景を呆然として見送っていた。
下半身が飲み込まれたところで、弐号機と零号機のモニターが開かれる。
「シンジ!」
「碇君…」
二人の呼びかけに答えず、通信状態が悪化したのか、乱れるモニターからただ一言言葉が紡ぎ出される。
「……すぐに戻るから…」
それだけを残して初号機はこの世界から消えた。
初号機がディラックの海に飲み込まれて数時間。
その間、本部内ではリツコの分析、作戦会議が行われた。
初号機を飲み込んだレリエルはそれ以降再び沈黙を保ち、今はそのゼブラ模様がライトによって照らされている。
「………以上のデータからの推測をすると、あの影のようなものが使徒の本体と考えられます。」
ホワイトボードに色々書き込みながらリツコがその場にいる全員に説明をする。
そこでミサトが手を上げて質問をリツコに投げかける。
「じゃあ、あの空中に浮かんでいるのは?」
「あれこそ使徒の影のようなものだと考えられるわ。使徒の本体と思われる部分は直径680メートル、厚さ約3ナノメートルの超極薄の存在です。その極薄の空間を内向きのA.Tフィールドで支え、内部は恐らく『ディラックの海』と呼ばれる虚数空間に繋がっているわ。」
「なら、使徒のA.Tフィールドを中和してやれば使徒はどうなるの?」
「…はっきりとしたことは言えないけど、恐らく自らの空間を維持できず消滅してしまうでしょうね。」
「なら弐号機と零号機で中和できないのかしら?」
「出来ないわ。」
即答したリツコにミサトは顔をしかめる。
「……即答ね…。」
「出来ないと思われる理由は二つ。まずあのA.Tフィールドを中和できるほどの出力はあの二機には無いわ。考えても見なさい。一つの空間を支えるほどのA.Tフィールドよ?それこそ凄まじいまでの出力があると推測されるわ。
二つ目の理由として、あの使徒は内向きのA.Tフィールドで空間を支えている……つまり外から干渉は出来ないわ。」
「じゃあどうすればいいのよ!?」
「私が考える中で唯一可能と思われ、かつ最も確率が高い案があるわ。」
そのリツコの言葉に会議に参加している全員の顔が上がる。
絶望的……リツコの話を聞いてほぼ全員の頭にそんな言葉がよぎっており、リツコの次の言葉に期待を膨らませる。
だがそれは許容しがたいものであった。
「現存する全てのN2爆雷を一斉に投下。その際に弐号機と零号機のA.Tフィールドで目標に1000分の1秒だけ干渉します。
その瞬間に爆発エネルギーを集中させて初号機を救出します。」
「そんな!それではシンジ君が!!」
ガタッ、と椅子を倒しながらマコトが立ち上がった。
「ええ、無事ではすまない可能性が高いわね。」
「そんな……」
顔を青ざめさせながら日向はうなだれる。
「他に何か案は無いんですか、赤木博士。」
何も言わなくなったマコトに変わりシゲルがリツコに問う。
「今のところ無いわね。さっきの案だって成功する保証はどこにも無いわ。あくまでも可能性の話。
もし、もっといい案があるのなら遠慮なく言って頂戴。」
大人たちが会議をしている間、レイはぼんやりと浮かぶ使徒を厳しいまなざしで見つめていた。
アスカの方は皆が会議をしているビルの屋上の端のほうで膝を抱えて座っていた。
「…アスカ。」
レイが声を掛けるがアスカは顔を伏せたまま反応しない。
が、構わずレイは話し続ける。
「アスカが毎晩何にうなされてるか知ってる。
でも…何にうなされているのかが分からない。」
アスカはその言葉に反応して顔を上げる。
「…何言ってんのよ、レイ。アンタ今知ってるって言ったじゃない…。」
だがその声には覇気はなく、顔には濃い疲労の色が見える。
「アスカがうなされてるのは多分、この前のことだと思う…
でも、アスカが本当にうなされてるのは事件そのもの?それとも…碇君に?」
「あ、アタシが何でシンジに怯えないといけないのよ!?」
やや強い口調で反論するアスカ。
「なら……どうしてあの時、助け出そうとしなかったの…?」
「したわよ!!」
「本当に…?」
「本当よ!でもあの時シンジが……」
「碇君がA.Tフィールドで近づけさせなかった?」
「そうよ!」
「それだけ……?」
普段あまりしゃべらないレイだが、このときは執拗に食い下がる。
アスカも徐々に語尾に力がなくなって来た。
「………何が言いたいのよ、レイ。」
「アスカ……貴方、本当は碇君が怖いんでしょう…?」
その言葉にアスカの顔色が変わる。
「…な……何を……?」
膝を震わせながら何とかそれだけを返す。
元々疲労で顔色は悪かったのだが、今はすでに血の気が引いて青白くなっている。
「……あの時碇君が何を考えていたのかは分からないわ。…あの時の碇君は普通じゃなかったと思う…。
多分アスカが碇君に怯えるのは普通のこと…。」
「あ…アタシは………。」
「認めて、アスカ。おかしいことではないわ。」
「………」
「私は碇君を信じたいと思う…。あの時公園で言ってくれたあの言葉を…。
碇君は私に人としての心を教えてくれた。人であっていいと言ってくれた。
正直、少し本当に守ってくれるのか疑ったけれど……。でも、今は碇君が一番信頼できると思うから…。」
言いたいことはそれだけ。
そう言うとレイはアスカに背を向けた。
すでに空が白み始めていた。
黒い空間の中
その暗闇の中、初号機は全く動かない。
シンジはエントリープラグ内で薄暗い非常灯の元、膝を抱えてうずくまっていた。
何時間そうしていたのだろう。
ただシンジはそうして微動だにしない。
「……いつまでそうしてるつもり?」
何の動きも見せないシンジに対してミナモが静かに問いかけた。
普段あまり怒の感情を見せないミナモにしては珍しく苛立ちを含ませている。
それでもシンジは何も話さない。
返事すらしないシンジに徐々にミナモの表情に怒りの色が濃くなってくる。
シンジもそれに気付いたのか、顔は伏せたままだが、小声で話し出す。
「………帰りたくない。」
「………」
「……アスカを傷付けてしまった。アスカがどんなトラウマを持っているか知っていたのに……。死を心底恐れていることを知っていたのに。」
「それで?」
「僕はやっぱり変わっていない。少しでも変われたと思ってたけどそれは嘘だった。
どんな力を持ったって無意味だ。大切な人でさえ傷つけてしまう。
あの時の僕はどこかおかしかった。二人の前で秘密をばらされて、頭に血が上って。二人にはずっと秘密にしておきたかったのに…。
だからと言ってあの場で殺す必要は無かった。でもやってしまった……。
昔からそうだ。僕は…僕という存在だけで必ず誰かを傷つける。
昔、葛城さんは言ってた…。昔から後悔と自己嫌悪の繰り返しだった、けどその度に前へ進めた気がするって……。
でも僕は何も進めてない!ずっとその場に留まったままだ。200年前のままなんだ。」
「だから戻りたくない、と?」
小さくコクン、とうなづくシンジ。
顔は伏せたままだが、ミナモによって無理やり上げさせられた。
シンジより小さく、線も細いミナモだが、シンジの胸倉を掴むと無理やり自分の方へ引き寄せた。
額がぶつかるほど顔を近づけ、ミナモの表情は憤怒で染まっている。
真っ直ぐにシンジを見つめるミナモ。
シンジは顔を逸らす。
「いい、聞きなさいシンジ。貴方、人を傷付けといてそのまま逃げる気?人は生きてる限り誰だって誰かを傷つけるものよ。それが心であれ体であれ、人は誰かを傷つけること無しには生きることなんて出来ないわ。
そのことに気付かずに過ごす人もいれば、そのことに怯えて生きる人もいる。でも他人を求めずにはいられない。心は痛がりで、寂しがりだから…。誰とも接すること無しに生きることは、それはとてもとてもつらいこと…。
それは貴方が一番分かってるでしょう?」
シンジの胸にかつての日々が去来する。
紅いセカイでたった一人、死ぬことも出来ず、憎しみと孤独とともに過ごした日々を。
「人は傷つき、傷つけられながらそれでも懸命に生き続ける。確かに中には人を傷つけてその痛みに気付こうともしない人もいる。
でも多くの人は人を傷つける度に悔やみ、悲しみ、嘆き、そしてその時の思いを胸にまた日々を過ごしていく。
もう同じ過ちは繰り返さない。そう胸に刻んでも繰り返してしまう……。人間って悲しい、不器用な生き物よね…。
だけど、人は犯した罪を贖うことが出来るわ。
確かにシンジはアスカを傷つけたわ。それは罪かも知れない…。
貴方はかつてサードインパクトを引き起こしてしまった。それは人間の尺度で言えばとんでもない罪よね。
ただ、貴方は200年という人間なら凄まじく長い時間を一人で生きてきた。そしてそれは十分贖罪として成り立つと思う。たとえそれが憎しみに支配された心だとしても…。
なら今度のことも償うことが出来るはずだわ。それはそんなに難しいことじゃない。
葛城ミサトの言葉じゃないけど、少しでも、人はほんのわずかでも前に進んで行ってると私は思うわ。そう信じたい。
そして、そのことはシンジ、貴方にも十分当てはまると思うわ。
貴方の歩みはとてもゆっくりで…でも確実に進んでいるわ。」
でもね、そう言うとミナモは怒りの表情を治める。
「シンジ…貴方、今まで殺してきた人、全てを覚えてきてるでしょう?」
黙って聞いていたシンジだったが、最後の言葉に思わず声を上げてしまう。
「ど、どうして……?」
「どうして知ってるのかって?そんなの簡単よ。」
そう言ってミナモはいたずらな笑顔を浮かべた。
「シンジは変わっていってるけど、貴方のいいところは全く変わってないもの。どんなに悪者ぶっても。」
その時のミナモはいつもの聖母のような表情だった。
作戦開始180秒前
結局あの後、リツコ以上の案が出ることは無く、リツコの案がそのまま採用された。
すでに影の周りには弐号機と零号機は配置されている。
もうまもなく992本のN2爆雷が投下されようという時、異変は起こった。
轟音とともに影の部分に亀裂が入り始め、何も無いはずの地面が盛り上がる。
空中に浮かんでいた本当の影とも言うべき球体はゼブラ模様から黒一色に変化し、そちらの方にも亀裂が走る。
「な、何が始まったのよ!?」
そんなアスカの呟きにも答えを持つものは居らず、ただ皆驚愕の表情で現状を眺めるだけである。
球体の亀裂から真っ赤な血のような液体が流れ始め、それが格子状に全体へと広がっていく。
グルゥゥゥゥゥゥゥゥ……!!
低いうなり声とともに一本の腕が使徒の表面を突き破って伸びる。
やがてその頭部が露になる。
ウオオオオオォォォォォォォォォォォォッ!!!!!
凄まじい雄たけびとともに徐々に初号機が這い出てくる。
やがて使徒は弾け、初号機は地上へと再び降り立った。
使徒の体液が雨のように降り注ぎ、第三新東京市を真紅に染め上げる。
仁王立ちの初号機。
その姿に誰もが恐怖を覚える。
果たしてあれは自分達の味方なのか………
そんな中、アスカとレイは笑顔でその巨人の帰還を迎えた。
ネルフ内の病院
シンジが目を覚ますと白い天井が目に入ってきた。
やや明るい白。
どうやら検査の途中で眠ってしまったらしい。
横を見るとアスカの姿があった。
パイプ椅子に腰掛け、こっくりこっくりと船を漕いでいる。
それを見てシンジの顔に笑みが広がる。
暗い嗤いでは無く、彼本来の笑顔。
嬉しかった。
自分を拒絶することなくここにいてくれたことが。
そのまま寝顔を眺め続ける。
すると、そんなシンジの気配を感じたのか、アスカが目を覚ました。
「あ……し、シンジ…」
普段明快な彼女にしては珍しく、口をもごもごさせるアスカ。
それを見てシンジはクスッ、と笑うと
「………ただいま…。」
shin:う〜ん…徐々に綻びが出てきそうだな…
ミナモ:綻び?
shin:ああ…。すでに最初の構想とは全く違う方向に行ってるからな…
書きながら矛盾が無いよう無いよう取り繕ってきたんだが、そろそろどこかおかしなところが出てきそうな気が…
アスカ:ま、無能、ってことよね。
シンジ:無計画だしね。
レイ:…その場その場で考えてたらおかしくなるのは当然…
shin:分かってはいるんだけどな。どうしても書いてるとこっちの方がよさそうだっていうのが出て来るんだよな。
ミナモ:読んでくださった方で、ここはおかしいんじゃないか、ってところがあったらご連絡ください。
shin:よろしくお願いします。
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