第拾参話  侵入者達




カタカタカタ・・・


いつものように暗い部屋でキーボードを叩く音が聞こえてくる。

部屋の主はしばらくパソコンのモニターからの光のみの中作業していたが、一息ついたのか、大きく肺の中の空気を吐き出す。

当初この部屋の中には一台の小さなノートパソコンしかなかったのだが、いまや巨大なスーパーコンピュータが何台も置かれている。

もちろん部屋に入る大きさの範囲で、だが。

全てのコンピュータにはシンジの手が入って、性能自体は格段に向上している。

だが、いつもと異なるのは、シンジの手が止まってもキーボードを叩く音が途絶えない、と言うことだ。

数分そうした音が続いていたが、もう一方も作業が終わったのか、手を休めてシンジの方に振り向いた。


「シンジ、終わったわ。」

「そう、お疲れ様。」


屈託の無い笑顔を浮かべるシンジ。

向けられた少女もわずかに笑みを浮かべている。


「じゃ、そろそろ始める?」


机に置かれた時計を見ながらシンジに尋ねる少女。


「もうこんな時間か・・・。

 そうだね、始めようか―――ミナモ。」



















ネルフ本部発令所

今、MAGIの定期検診が行われている。

作業の責任者であるリツコは椅子に座って手元の用紙になにやら書き込んでいる。

マヤの方も忙しそうに手元の端末を叩いている。

そのスピードは相当なもので、マヤの正面のモニターには色々な数字がスムーズに流れていっている。


「流石、速いわね。」

「それはもう、先輩の直伝ですから。」


嬉しそうに自分の感想に答えるマヤに笑みを浮かべてマヤの作業を見守っていたが、何かに気付いたのか、マヤに声を掛けた。


「待って。そこ、A−8の方が速いわよ。」


リツコの言葉に手を止めるマヤ。


「ちょっと貸して。」


そう言いながら近くにあった端末をあたり始めるリツコ。

その直後、リツコの手が端末の上を踊り始める。

片手での作業にも関わらず、マヤの目の前のモニターには先ほどの倍以上の速さで数字が流れ始めた。


「流石先輩・・・」


そのスピードと、的確な選択に思わず感嘆の声を漏らすマヤ。

リツコのほうは何事も無かったかのように手元の用紙に視線を戻す。

と、そこへ


「どーお?MAGIの診察は終わった?」


近くのリフトに乗ってミサトが姿を現した。


「大体ね。約束どおり今日のテストには間に合わせたわよ。」

「さぁすがリツコ。同じものが三つもあって大変なのに。」


言いながら机の上にあったリツコの飲みかけのコーヒーを飲みだすミサト。

それを見てリツコは


「冷めてるわよ、それ。」


リツコの言葉と同時に飲んでしまい、思わずミサトは顔をしかめた。








ピーッ


甲高い音とともに検査が終了し、リツコから作業に携わっていた職員にねぎらいの言葉がかけられる。




女子トイレで顔を洗うリツコ。

正面の鏡に映る自分の顔はどこか疲れて見えた。

それもそのはずである。

通常の仕事に加え、いくつか考えなければならないことがあった。


一つはシンジについて

これはシンジがこちらに現れてからずっと調べていたが、未だに何の情報も掴めない。

人が生きている以上、何らかの足取りはつかめる筈なのである。

しかし、何もつかめない。

これは、シンジの過去を何らかの組織が意図的に隠している、と言う可能性。

つまり、シンジがネルフ以外の組織に属している、いうなればスパイ、と言うことである。

だが、リツコにはそうなると気になることがあった。

リツコはコンピュータの扱いに関しては自信を持っている。

そのリツコが情報を得られない、となると、相手はMAGIと同等もしくはそれ以上のコンピュータを持っている可能性がある。

または相手が自分以上の技術を持っている可能性。

いずれにしてもリツコとしては看過できるものではない。

情報がつかめない別の可能性としては突然シンジが現れたと言うもの。

つまり、本当に過去が無い、と言うことである。

レイのように。

だが、これに関してはリツコは自分の考えを鼻で笑った。


(まさかね・・・)



もう一つ考えなければならないこと

それはかつて出会った組織についてである。

J.Aの披露会の時に出会った女性。

ゲンドウに報告した後、その組織について探るよう密命が下っている。

そして、ゲンドウに報告していないものの、リツコはその組織とシンジが何らかの関わりを持っていると考えている。

ゲンドウはまだシンジの事を特別意識してはいない。

だが、リツコはどうにもシンジのことが気になる。

完全なるジョーカーのような気がしないでもないのだ。

しかし、どこかでシンジに期待を持っている自分にも気が付いている。

矛盾する心。

自分が今どちらを本当に望んでいるのか。

鏡の前の自分に問いかけても答えが出ることは無かった。












「え〜、また脱ぐのぉ〜?」

「ここから後は超クリーンルームですからね。」


うんざりしたように言うアスカに対していつもと変わらず冷静に説明をするリツコ。


「何でオートパイロットの実験でこんなことしなきゃいけないのよ。」

「時間はただ流れているだけでは無いわ。エヴァとテクノロジーも進歩しているの。」


チーン、という音とともにシンジ、レイ、アスカの三人が姿を現す。

三人とも全裸姿で、大事な部分にはすりガラスがあるものの、当人達にとっては心許ないだろう。

だが、三人の中で騒いでいるのはアスカだけで、他の二人は顔色一つ変えることなく、平然と立っている。

よくよく見ればレイもわずかに頬を赤く染めているが、遠くからではよく分からない。


「ほら、お望みの姿になったわよ。17回も垢を落とされてね!」

「では、三人ともこの部屋を抜けて、その姿のままエントリープラグに入って頂戴。」

「え〜!?」

「大丈夫。映像モニターは切ってあるから。」

「そういう問題じゃないわ!気持ちの問題よ。」


頬を染めたまま、カメラをにらめつけているアスカだが、ちらり、と横目でシンジの様子を伺う。

シンジはいつもの笑顔ではなく、無表情、どちらかというと心持ち厳しい表情を浮かべている。

アスカの視線に気付いたシンジはにっこりと笑ってアスカを見返す。

シンジに見つめ返され、頬をますます赤く染めて慌てて視線を前に戻した。


「し、シンジが先に行きなさいよ!」

「ん、僕が?」

「そうよ!早く行きなさいよ!」


恥ずかしさからか、ややどもりながらシンジに先を促すアスカ。


「別にいいけど?綾波もいい?」

「・・・構わないわ。」

「分かったよ。じゃあ・・・」


レイに一旦確認を取った後、シンジは歩き出した。

アスカは視線を逸らしながらも、ちらちらと横目でシンジの姿を追う。

レイの方もしっかりとシンジの後姿を見つめていた。

初めて見るシンジの体。

服の上からではそうしっかりした体には見えなかった。

しかし、こうやって見てみると体は細いながらも、引き締まった筋肉が見て取れた。

二人ともしばらく見とれていたが、不意にアスカが頭を横に振り出す。


(な、な、何見とれてんのよ、このアタシが。アイツはシンジなのよ!)


一瞬頭に変な考えが浮かんだが、すぐにそれを打ち消す。


(ははは・・・、まさかね・・・。)


アスカが気を取り直して視線を前に向けた時にはすでにシンジの姿はどこにも無かった。

横を向けば、気の抜けたように前を見ているレイの姿があった。


「・・・それで、二人はいつになったら進んでくれるのかしら?」


スピーカーからリツコの怒気のこもった声が聞こえてきて、二人は慌てて奥の部屋へと駆け込んでいった。














「各パイロット、エントリー完了しました。」

「テストスタート。」


作業員の報告を聞き、リツコが実験の開始を告げる。

エントリープラグが模擬体に打ち込まれ、名目上のオートパイロットの実験がスタートする。


(けど、これがダミープラグの開発に繋がっているんだよね。)


シンジの脳裏にあの時の記憶が蘇る。

自分の制御を離れ、ただ一方的に破壊するだけの兵器と化したエヴァ。

泣き叫びながらゲンドウに停止を求めるが、止まることは無く、親友と思っていた人の足を奪ってしまった。

無力な自分。そして、全てを捨てて逃げ出そうとした過去。

あれからすっかり変わってしまった。

もはや、人を殺すことに何のためらいも感じない。

ともすれば喜びすら感じているのかもしれない。

自らの変化に自嘲気味の哂いを浮かべる。

シンジの両掌にはうっすらと聖痕が浮かび上がっていた。


(そういう笑い方は変わらないのね・・・)


シンジに聞こえぬよう、ミナモはそっと呟き、悲しそうな表情を浮かべた。



プリブノーボックス内では、実験のデータ収集が行われていた。

すさまじい速度で次々とデータがモニター上を流れていく。


「おお〜、速い速い。」


その速度にミサトも感嘆の声を上げる。


「気分はどう?」


嬉しげなミサトとは対照的に静かに三人に問いかけるリツコ。

リツコにとってその速度はそう驚くようなことではないようだ。


「何か違うわ。」

「そうですね、どこか違和感がありますね。」

「感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりして、後はぼやけている感じ。」


三人とも違和感を訴えるが、シンジだけは心底気持ち悪そうに話す。

普段、100%のシンクロ率を出しているシンジにとっては、ミナモとのつながりが一切感じられない模擬体との接続は耐え難いものがあった。


「ふむ・・・。レイ、右手を動かすイメージをして頂戴。」

「はい。」


リツコの言葉に、レイは右手を添えてあるインダクションレバーを動かした。

それに伴い、模擬体の右手も鈍く反応する。

リツコはその様子をガラス越しに見守っている。


「データ収集、順調です。」

「問題は無いようね。MAGIを通常モードに戻して。」

リツコの指示を受け、MAGIが通常に戻される。


「ジレンマ、か・・・。」


ミサトがポツリともらす。


「作った人間の性格がうかがえるわね。」

「何言ってんの?作ったのはアンタでしょうが。」

「貴女・・・何にも知らないのね。」


リツコの言葉にむっとした表情をミサトは浮かべる。


「リツコはアタシみたく自分のことべらべらと話さないからよ。」

「そうね・・・。」


視線を模擬体の方へと移し、口を開く。


「私はシステムアップをしただけ。本体を作ったのは母さんよ。」









「確認してるんだな?」


冬月がシゲルに尋ねる。

冬月、マコト、シゲルの三人が見つめるモニターには第87タンパク壁の様子が映し出されていた。

その中央部分にはいくつかのシミのようなものがある。


「拡大しますと、シミのようなものが見られます。何でしょう、これ?」

「侵食だろ?温度と伝導率が若干変化しています。」


大したことでもないかのように、自分の仕事をしながらマコトが口をはさむ。


「無菌室の劣化はよくあるんですよ。」

「工期が60日近く圧縮されてますからね。また気泡が混じっていたんでしょう。」

 杜撰ですよ、B棟の工事は。」

「無理ないっすよ。みんな疲れてますからね。」


二人の原因と思われる推測を聞き、冬月は指示を出す。


「明日までの処理しておけ。碇がうるさいからな。」



そうしたやり取りをしている間、問題のタンパク壁ではそのシミのようなものが鈍く光を放っていた。




「また水漏れ!?」


発令所からの報告を聞き、うんざりしたようにリツコがマヤに聞きなおす。


「いえ、侵食だそうです。」

「実験への影響は?」

「今のところは何も。」

「では続けて。おいそれとこのテストは延期するわけにはいかないの。」


リツコのその言葉に、一瞬マヤは顔を曇らせたが、自分の仕事に集中し始めた。


(ふふ、リツコさん焦ってるねぇ〜。確かに大分開発が遅れてるみたいだしね。)


リツコたちのやり取りを見ながらシンジは怪しい哂いを浮かべた。

現在、レイはあまり実験に参加していない。

全く、というわけでは無いが、以前ほど積極的な参加をしなくなっている。

リツコもゲンドウから開発を急かされているが、レイに命令することが難しくなっている。

原因はシンジにある。

リツコは必要以上にシンジを警戒していた。

レイを強制的に参加させるのは簡単だが、それに伴いシンジが何かしら気付くかもしれないと思っている。

中学生に何ができる、とゲンドウなら鼻で笑いそうなものだが、リツコにはどうしてもシンジがただの中学生とは思えないのだった。


(シンジ、そろそろ来そうよ。)

(ん、わかった。

 さて、イロウル、うまいことやってくれよ。)


ミナモに返事をすると、シンジは再びニヤリ、と笑みを浮かべた。




「A.Tフィールド、出力2ヨクトで発生します。」


零号機のところで微弱なA.Tフィールドが発生しよう、というところにあわせて、シンジは自らのA.Tフィールドを展開した。

その途端、壁のシミが紅く光り始めた。

突如鳴り響く警告音。


「どうしたの!?」

「シグマユニットAフロアに汚染警報発生!」

「第87タンパク壁が劣化、発熱しています。」

「タンパク壁の侵食部が増殖しています!爆発的スピードです!!」


マヤが見つめるモニターには異常な速度で増殖するイロウルの姿があった。


「実験中止!第6パイプを緊急閉鎖!」

「はい!」


矢継ぎ早に寄せられる報告に指示を出すリツコ。

指示を受け、次々とパイプの接続部が切り離されていく。


「ダメです。侵食は壁伝いに進行しています!」

「ポリソーフ用意。レーザー、出力最大!」


壁からポリソーフが出てきて、シミが現れるであろう位置に照準が合わせられる。


「来ます!」


マヤが叫ぶとプリブノーボックスに沈黙が訪れる。

だが一向にシミが姿を現す様子は無い。

見つめ続ける一同。その時


「ぐあああ!!」


シンジの叫び声がマイクから流れてきた。

それとともにシンジが乗っていた模擬体が動き出す。

そちらに視線を移すと模擬体は何かに苦しんでいるかのような動きを見せていた。

わずかに遅れてシミがパイプの表面に現れる。

ミサトは何かに取り付かれたように動き続ける模擬体を見つめている。

するとそれに気付いたかのように模擬体の腕がミサトに伸びてきた。

それを見ていた作業員によって急いで爆破処置が取られる。

右腕が肩の部分から爆破され、ミサトの正面に叩きつけられる。

ミサトは思わずのけぞったが、すぐにシンジの様子を確認する。


「シンジくんは!?」

「ぶ・・・プラグ内にもシミが認められます!」

「何ですって!?」


ミサトは耳を疑ったが、急いでマヤの元へ行く。


「あ、いえ、消失しました。」

「消失?見間違いじゃなくて?」

「いえ、一瞬でしたからなんとも・・・」


ミサトの問いに戸惑いながらも答えるマヤ。

ミサトは、ほっ、とも胸を撫で下ろした。


「とにかく、エントリープラグを緊急射出して!」

「は、はい!」


厳しい声で指示を出すリツコにマヤは慌てて手を動かす。

すぐさまプラグが模擬体から射出される。

それと同時に模擬体とパイプにレーザーが照射される。

シミは焼かれていったが、やがて、レーザーが紅く光る壁によって跳ね返される。


「A.Tフィールド!?」


目の前の光景が信じられない、といった様子でミサトが叫び声をあげる。

それは他の職員も同じで、皆呆けた様子で言葉を失っている。

模擬体の体全体が紅い色を帯びてきて気味悪い様相を呈してきた。


「何よ、これ・・・」


ミサトが顔をしかめながら気持ち悪そうに言う。


「分析パターン、青。間違いないわ。使徒だわ。」











Intruder













「使徒!?使徒の侵入を許したのか!?」

「申し訳ありません。」

「言い訳はいい!セントラルドグマを物理閉鎖!シグマユニットと隔離しろ!」


リツコからの報告を受け、苛立ちながら冬月は辺りに指示を出していく。



プリブノーボックス全体が怪しく光を放ち、もはやそこには無機物、といった感じはしなくなっていた。


「ボックスは破棄します!総員退避!!」


ミサトの言葉を皮切りに職員が我先にとボックス内から逃げ出していく。

だがリツコだけはガラスの向こうを見つめて動こうとしない。


「何やってんの!早く!!」


ミサトに声を掛けられてようやく足を動かし始める。

二人が部屋を出ると同時に強化ガラスが割れ、大量の水が流れ込んできた。









発令所が喧騒に包まれている中、ジオフロント内の地底湖に浮かぶ三つの円筒状の物体。

その内一つのハッチが開き、中から少年が姿を現した。


「MAGIの様子はどう?」

(まもなくメルキオールが乗っ取られるところよ。)


蒼銀の髪からLCLを滴れせながら独り言を呟く少年はどこか神々しさを感じさせるものがあった。


「A.Tフィールドの感知は?」

(恐らく気付かれることは無いかと。)

「そう。じゃあ行こうか。」

(ええ。)


第三者から見ればわけのわからない独り言を終えると、少年の姿は見えなくなった。

辺りは静寂が支配し、突然消えた少年の姿を見ていたものは誰もいなかった。







発令所内では様々な処置が取られていた。

ドグマの閉鎖、エヴァの地上退避、I/Oシステムのダウン等、色々行われたが、イロウルはその勢力をさらに広げ、その勢いはとどまることを知らない。

エヴァだけは汚染を避けられたものの、それにより物理的な殲滅は不可能となった。

もともと細菌状態の使徒に対し、エヴァでどのようにして殲滅するかは疑問ではあるが。

一時的にはオゾンに弱く、その投与によって拡大を抑えることが出来たものの、すぐにオゾンに耐性を持ち、逆にそれを取り込み始めた。

かつての生物が酸素を必要不可欠なものとして取り込み始めたように。

急激な成長を見せたイロウルはMAGIにハッキングを仕掛け始めた。

発令所の職員も全力を持って対応するが、尋常でない速さでハッキングを進めるイロウルに対応できなかった。

ハッキングの位置を特定したシゲルはその信じられない場所に驚嘆の声を上げた。


「こ、これは・・・プリブノーボックスです!」


かつて模擬体だったものが紅く発光していたが、その色を金色へと変えていた。

リツコたちはその様子に驚きを隠せなかった。


「保安部のメインバンクにアクセスしています。パスワードを走査中。12桁、16桁・・・Dワードクリア!」

「保安部のメインバンクに侵入されました!!」


その報告を聞き、冬月の顔色が変わる。


「メインバンクを探っています。このコードは・・・やばい!MAGIに侵入するつもりです!!」


発令所のメンバーに緊張が走る。

誰も口を開けない中、ゲンドウがその口を開いた。


「I/Oシステムをダウンしろ。」


ゲンドウの指示に従い、マコトとシゲルが鍵を差込み、電源を落とそうとする。

しかし、反応は無い。

電源すらも落とせない状況になす術もない。

そうしている間にもイロウルはMAGIの奥底へと侵入していく。


「ダメです!乗っ取られます!」


マヤが言うのが早いか、メルキオールはあっけなく陥落した。

もはや言葉も出ない状況の中、人口音声が発令所に響く。


「メルキオールにより、自立自爆が提案されました。否決、否決・・・」


すぐさまメルキオールからバルタザールにハッキングが行われる。


「くそっ!速い!」

「なんて計算速度だ!」


マコトたちも必死で阻止を試みるがわずかな足止めさえも出来ない。

その時、ずっと黙っていたリツコが叫んだ。


「ロジックモードを変更!シンクロコードを15秒単位にして!!」


リツコの言葉にすぐさま反応するマコトたち。

その処置が行われると、イロウルの進行速度は目に見えて遅くなった。

その様子に胸を撫で下ろす一同。


「どのくらいもちそうかね?」

「い、今までの速度から見て2時間ほどは・・・」


この場にいて唯一表情を変えないゲンドウが口を開いた。


「MAGIが敵に回るとはな・・・」


だがその口調には忌々しげな様子がうかがい知れた。










「ここまでは前史と大して変わらないようだね。」

「そうね。」


シンジの自室で二人の人物が椅子に座ってモニターを見つめている。

シンジの髪はいつもの黒髪に戻っているが、一人では無く、紫の髪の少女がいた。

少女、というには大人びているが、どこか幼さも感じさせる。

二人の見ているモニターには喧騒が終息し、一息ついている発令所の様子が映し出されていた。

イロウルのハッキングに乗じて発令所に設置されているカメラからの映像をまわしているのだ。


「ところで、シンジ。腕は大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。」


シンジは前史と大して変わらない、と言ったが異なる箇所もあった。

イロウルがプラグ内まで侵入してきたのである。

シンジにも侵入しようとし、腕に寄生されたのだが、力をわずかに解放して押さえ込むことが出来た。

もちろんミナモによりすぐにその様子は削除されたのだが。


「さて、リツコさんたちが本格的に動き出すまで少し時間があるな。」

「どうしようか?」

「そうだね、折角イロウルが自分から僕に来てくれたんだから有効に活用しないとね。」


そう言って笑ってみせるシンジの腕ではイロウルがほんのりと光っていた。








「彼らはマイクロマシーンです。細菌タイプの使徒と考えられます。

その個体が集まって群れを成し、この短期間で爆発的な進化を遂げています。」


リツコの推論に皆耳を傾ける。


「彼らは自分自身を常に変化させ、いかなる状況にも対処するシステムを模索しています。」

「まさに生物が生きるためのシステムそのものだな・・・」


感慨深げに呟く冬月。

ミサトはなにやら考えていたが、その口からリツコにとってとんでもない発言が飛び出した。


「自己の弱点を克服、進化を続ける目標に対して有効な手段は死なばもろとも。

 MAGIと心中してもらうしかないわ。MAGIの物理消去を提案します。」


その言葉にリツコはすばやく反論する。


「無茶よ!MAGIの破棄は本部のそれと同義なのよ!」

「では作戦部から正式に要請します!」

「却下します!これは技術部が解決すべき問題です!」

「何意地はってんのよ!」


ミサトと激しい言い合いをしていたリツコだが、暗い表情で呟く。


「・・・これは私のミスから始まったことなのよ。」

「・・・貴女は昔からそう・・・。一人で全部抱え込んで・・・。他人を当てにしないのね。」


寂しそうな表情をミサトは浮かべる。

リツコは黙って聞いていたが、不意に顔を上げた。


「使徒が進化を続けるのなら勝算はあります。」

「進化の促進かね。」


ゲンドウの反応は早かった。

元々名門大学で生物学を専攻していたゲンドウである。今でこそ政治的なやり取りの方が多いが、冬月と同様に学者畑の人間である。


「進化の終着地点は自滅・・・。死、そのものだ。」

「ならば進化をこちらから促進させてやれば良いわけか・・・。」


ゲンドウの言葉を引き継いで冬月が説明する。

自滅かMAGIとの共生か。

人類にとって分の悪い作戦が承認された。









「じゃあ始めようか―――ミナモ。」


シンジの声を皮切りに手元に用意されたディスクをミナモがコンピュータに読み込ませる。

続いてキーボードを叩いて、なにやら操作を始めた。














リツコを始めとする技術部の面々は承認された作戦を実行にこぎつけようと必死にプログラムを組み立てていた。

リツコも自らカスパーの内部に入り込み、さながら工事をしているかのように作業している。

この作戦においては技術部はそれこそ猫の手を借りたいほど時間に追われているのだが、オペレーターでもない職員―――特に葛城ミサトは仕事もなく暇を弄んでいた。

やることがないがこの場から離れることの出来ないミサトはリツコの手伝いをしながら時間を潰していた。


「ねえ・・・、たまには教えてよ。」

「MAGIのこと?それとも私のことかしら。」

「・・・両方よ。」


リツコに工具を渡しながらリツコにミサトは問いかけた。


「長い話よ。その割りに面白くない話。

 人格移植OSって知ってる?」

「ええ、第七世代の有機コンピュータに個人の人格を移植して思考させるシステム。エヴァで操縦にも使われている技術よね?」

「ええ、MAGIはその第一号らしいわ。

 母さんが開発した技術なのよ。」

「じゃあ、お母さんの人格を移植したの?」

「そう、言ってみればこれは母さんの脳みそそのものなのよ。」


そう言いながら工具を使い、鉄で覆われた一部を切り取っていく。

作業が終了し、切り取られた部分を外すと脳のようなものがあった。


「それでMAGIを守りたかったの?」

「違うと思うわ。」


暗い内部を見渡しながらはっきりと口にする。

リツコの視線は内部にところ狭しと貼り付けられたコード表に向けられていた。

実際はそれを見ていたのではないかも知れない。

ミサトにはどこか遠くを見つめているような気がした。


「来た!?来ました!」


徐々に埋まっていく青の部分を見ていたマコトが叫びだす。

それはバスタザールは完全に乗っ取られたことを意味していた。


「そんな!?予定より大分早いわ!?」


前史なら十分間に合った時間ではあるが、それを知る者はこの場にはいない。

リツコたちは慌てて作業を進める。









「ふふ、リツコさんたちかなり慌ててるみたいだね。」

「当たり前よ。前なら十分間に合った時間なのに、今回はそれより大分早く進行してるんだから。」

「前と同じならあまり面白くないしね。それに今回はリツコさんたちもかなり早く組み立てが進んでるからやっと面白くなった、て感じだと思うけど。」


シンジは笑みを浮かべながら答える。


「まあね。確かに折角イロウルが手に入ったんだし、少しは面白くしてくれないとね。」


ミナモもニヤッと笑いながらシンジに賛成をする。

そんなやり取りを二人でしているとモニターの向こうの方で動きがあった。


「お、大分早いね。もうすぐ終わりそうだ。」

「あら、どうするの?」


ミナモの問いかけにシンジは再び笑みを浮かべると別のディスクをコンピュータに読み込ませ始めた。

ミナモは何も聞かずに黙ってシンジの方を見ている。

静かになった部屋にしばしの間、カタカタという音だけが聞こえてくる。









「!?進行速度がアップしました!!」

「何ですって!?」


突然進行速度が上がったイロウルにモニターを監視していたマコトが叫び声をあげる。

それを聞いたミサトも叫ぶ。

リツコやマヤは声こそ上げなかったものの、端末を操る指の速度が明らかに上がった。

その表情には焦りの色が伺える。

無言のまま猛烈な勢いでキーボードを叩き続ける。

だが、時間は無情にも過ぎ、見る間にカスパーもハッキングされていく。


「リツコ!間に合うの!?」

「・・・・・・。」


焦りからか、ミサトが大声でリツコに確認を取ろうとする。

しかしリツコは無言でミサトには答えない。


「リツコ!!」

「うるさいわね!!少し黙ってて!!」


リツコにしては珍しく怒鳴り声を上げてミサトを黙らせる。

額には大粒の汗が光っている。


「自立自爆まで5秒。」


そんなリツコたちの努力をあざ笑うかのように癇に障る人口音声の声が発令所全体に響く。

未だプログラミングは終わる兆しを見せない。


「・・・ダメか・・・。」


ゲンドウにしては珍しく弱音を吐いたが、それは全職員の気持ちを代弁していた。











残り0秒

それがカウントされた瞬間、全てが終わるはずだった。

だが、残り一秒でカウントは停止していた。

誰もが目を瞑り、死を覚悟したが、その瞬間は訪れなかった。

マコトもその一人であったが、そっと目を開いて画面を見てみると、わずか左端の一コマ分程度がわずかに残ったまま使徒の侵攻は停止していた。


「も、目標の侵攻は現在停止しています・・・。」


信じられない、といった様子で、呆然とモニターを見ていた。

それを聞き、慌ててリツコが作業を再開させる。

そんなリツコを見て、マヤも自分の作業に復帰する。


「なんにせよ助かったわね。」


ミサトもようやく現実に復帰し、リツコに話しかける。


「まだ分からないわ。残り一秒で止まったままだもの。」


とは言うものの、ミサトに返事を返すということはそれだけリツコも余裕が出来たということである。


「マヤ。」

「はい、先輩。こちらはいつでも大丈夫です。」


マヤも緊張が薄れたのか、笑顔で答える。


「押して。」


リツコの言葉とともにマヤとリツコが同時にエンターキーを押す。

するとほぼ一面赤に染まっていたモニターがあっという間に青に戻る。

それを見て皆一斉に歓声を上げ、発令所は大騒ぎとなった。

リツコたち技術部もようやく肩の荷が下りたのか、力が抜け、その場に座り込んだ。


リツコも無論例外でなく、近くにあった椅子に座り込むと大きく息を吐き出した。

そこにミサトがコーヒーを運んでねぎらいの言葉をかけた。


「お疲れ様。」

「ありがとう。」


短く礼を言うとコーヒーを一口のどに運ぶ。


「ミサトの入れてくれたコーヒーをこんなに美味しく感じたのは初めてだわ。」


リツコにしては珍しく自分から軽口を叩く。

ミサトは苦笑いを浮かべるだけである。

すぐに表情を引き締めると、リツコに問いかける。


「疲れてるとこ悪いんだけど、さっきのどう思う?」

「・・・急に侵攻が早まったり止まったり・・・。どこか作為的なものを感じるわね。」

「まあ、そのおかげでこっちは助かったんだけど。どこか引っかかるのよね。」

「そうね・・・。」


そう言ってもう一口コーヒーを口に含む。

その時、近くの端末からピピッ、と電子音が聞こえてきた。

マヤたち他の職員は後片付けに追われて余裕がないため、リツコが重い腰を上げて端末へ寄る。

先ほどの電子音はメールの受信を告げたもので、リツコはこんなときに、と思いながらも届いたメールを開いた。

メールを開くと、そこには0と1ばかりが並んでいた。


「何よ、これ?」


ミサトがリツコの後ろから顔を覗かせる。

ミサトでなくても首をかしげるところであろう。

0と1ばかりが並んだメールなど理解しろ、というほうが無理である。

しかし、リツコは画面をじっと見つめて何か考えている。


「何、リツコ?アンタこれがなんなのかわかんの?」

「0と1ばかりが並んでいるのよ。何か気付かない?」


リツコにそう言われて考え込むミサト。


「・・・二進数?」

「恐らくそうね。」


しばらく画面とにらめっこしていたが、やがて近くにあった紙を持ってきてなにやら書き込み始めた。

軽快にペンを走らせていたが、やがて止まった。


「ふ、ふふふ・・・。そう・・・。」

「分かったの!?」

「いえ、なんでもないわ。よく分からない、ということが分かった、といったところかしら。」

「ガクッ・・・。」


リツコの答えに一気に力が抜けて崩れ落ちるミサト。

リツコは静かにその場を離れた。

先ほどまでリツコがペンを走らせていた紙の上には







It is a problem to depend on MAGI too much.
(MAGIに頼りすぎるのも問題ですよ)















「よかったの?」

「それはどっちのことかな?助けたこと?それともメッセージのこと?」


ミナモの問いかけに楽しそうにシンジは答える。

ミナモのほうも咎める、といった様子は無く、ただ疑問に思ったから聞いた、といった風である。


「両方よ。」

「別にいいんじゃない?あのまんまイロウルに負けてもらっても困るし、メッセージの方はちょっとした忠告みたいなものだよ。

 それにミナモが組織だって動いている風にリツコさんに匂わせてくれたしね。勝手に踊ってくれるのを見てるのも一興かなと思ってね。」

「ふ〜ん。」


そんなものかしら、と気のない返事を返したミナモだが、気にしないことにした。


「ま、せいぜいあちらさんに気付かれないようにね。」

「分かってるよ。」


パシャ、という音とともにミナモはいなくなり、部屋にはシンジ一人が残された。


「ま、僕としては気付かれてもいいんだけどね。そっちの方が面白いし。」
















shin:終わったのはいいんだが・・・

ミナモ:どうしたのよ。

shin:どうも最近スランプ気味なんだよ。

シンジ:どういうこと?

shin:なんか漠然としてるんだけど、うまいこと書けない。まあ、思ったとおりに書けないのは今に始まったことじゃないんだが・・・

レイ:・・・最近原作そのまんまのシーンが多いわ

shin:うん・・・

アスカ:え〜い、うっとおしい!しゃきっとしなさい!!

ミナモ:そうよ。そのうち、何とかなるわよ。気にしないことね。

shin:でも、贈ろうと思った短編も途中まで書いて全部消したしな・・・

シンジ:そんなの珍しいことでも無いと思うけど・・・

ミナモ:ほっときなさいよ。どうせなんだかんだ言っても続きを書くんだから。

シンジ:それもそうだね。

アスカ:レイ〜、行くわよ〜

レイ:ちょっと待って・・・。出番がほとんど無かった制裁を加えていくわ。





追記  英語は間違ってるかもしれません。もしお気づきの点があればお知らせください。














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