第拾弐話  さまようオモイ



激しい雨が降り続く第三新東京市

ここ数日あまりすっきりしない天気が続いていたが、今日は一段と激しい雨が降っていた。


第三新東京市の郊外に位置するコンフォートマンション

その一室で一人着替えている女性が居る。

整ったプロポーションの持ち主であるが、現在その美しい体を見ることが出来るのは彼女の正面に位置する鏡だけである。

その鏡には豊かな胸が映し出されていた。

同時に大きな傷跡も。

胸の間から縦に大きく入った傷はもうずいぶんと見慣れたものになったが、彼女には醜いものに見えた。

そっとその傷を指先でなぞる。

指先から伝わるわずかな冷たさに思わず体を震わせる。

そして瞳を閉じ、もう一度目を開いて鏡に映る自分の体を険しい表情で見る。

しかしそこに映っていたものは先ほどとなんら変わらないものであった。


ザアザアと外から入り込んでくる雨音だけが彼女の部屋を満たす。

無言のまま鏡を見つめる。




ガシャン!




彼女の体に無数のひびが入る。

いらだたしげな表情でゆっくりと鏡から拳を離す。

そして自分の傷跡を覆い隠すように急いでブラジャーのホックを止める。

いつもの格好に着替えた葛城ミサトは部屋を後にした。













暗い部屋の中でカタカタ、とキーボードを打つ音が響く。

夜ではないのだが、まるで何かを拒むかのようにカーテンは閉められ、遮光性のよいそれは雲越しに降り注ぐ日の光を完全に遮断していた。

それでも昼間なら多少の光が差し込むはずだが、モニターの明かりがやけに目立って見えるのは部屋の主の放つ空気ゆえか。

部屋の主は暗い哂いを浮かべながら一心不乱にキーボードを叩き続ける。


(何をしてるのよ?それはこの前完成したんじゃなかったの?)

「ふふふ・・・、ただ見てるだけじゃつまらないからね。」


他の人間が見たらただの独り言に見えるが、二人にしか分からない会話は続く。


(ふうん・・・。どういう風に変更してるの?)

「いやあ、ちょっとネルフの皆さんと遊んでみようかと思ってね。」


キーボードを打つ手を休めることなく、逆にその動きを早めながらミナモと会話するシンジ。

しばらく打った後、ゆっくりとその手を休める。

胸ポケットからタバコを取り出し、火をつけると、味を楽しんでいるのか、煙を少しずつ吐き出す。

目を閉じて静かに時を過ごしていたが、やがて、手が小刻みに震えだす。

目を大きく開くと、タバコを素手で握りつぶした。

慌てて立ち上がり、トイレに駆け込む。


「ぐっ、かはっ、ゲエエェェ!」


胃の中のものを全て吐き出すが、吐き気は治まらず、胃液を吐き続ける。

冷や汗で全身がびっしょりとなったところでようやく治まる。

大きく息を吐き出すと、トイレの壁にもたれようと体を倒す。

すると何かやわらかいものに当たり、後ろを振り向くと、心配そうにシンジを見つめるミナモがいた。

何も言わずにただ優しく背中をさすり続ける。

シンジも何も言わず、幾分気分が楽になったようで、目を閉じて、ミナモに任せている。

トイレから出てきて、ミナモは自分の足を枕にしてシンジを寝かせる。

シンジは横になると、再び目を閉じた。

膝の上のシンジの髪を優しく撫でながらミナモは微笑を浮かべた。

お互い何も言わない。



そうして時間が幾らか過ぎていったが、ふとミナモが口を開いた。


「・・・神様に膝枕なんて、そんなことが出来る私はさながら女神様かしら?」

「・・・神様なんてどこにもいやしないよ。人が神になろうなんて、所詮夢物語さ。」


ミナモにそう答えると、再び沈黙が暗い部屋を支配する。

また時間が経過し、今度はシンジの方が口を開いた。


「ねえ、ミナモ。」

「何?」

「僕はダメなやつだよ。何度結論を出しても、やっぱり悩んでしまうよ。」


自嘲気味に話すシンジ。

ミナモは黙って聞いている。


「ゼーレや、ゲンドウに復讐するのはいい。でも、その後に残るのはなんだろうっていつも思うよ。いまさら復讐をやめようとは思わないけどね。

 ただ気になるのはそんな僕が綾波やアスカに対して救いたいという気持ちを持っていいものか、ということなんだ。

これは前にもミナモに聞いた。くどい、というのは自分でも思うよ。

でも、その疑問はいつも蘇ってくるんだ。特に紅い記憶が頭によぎったときは。

さっきみたいに吐き気とともにその疑問が湧き上がってくる。

憎しみに満たされているときは何も感じないけど、冷静になると急に不安になるんだ。

ミナモの考えは聞いたけど、それに納得する僕とそうでない僕がいるんだ。」


弱々しく、どこか泣き出してしまいそうな声で弱音を吐くシンジ。


「そんなの当たり前じゃない。悩んだり、苦しんだりするのは。」


ミナモの言葉に目を開いてミナモの顔を見つめる。


「だって私達は神様じゃないもの。」
















ネルフ 試験室


現在この部屋ではシンクロテスト、及びハーモニクスのテストが行われている。

マヤの手元のモニターには三人のパイロットの様子と、データが送られ、表示されている。


ピーッ


「零番、二番、共に汚染区域に隣接。限界です。」

「一番にはまだ若干余裕があるわね。グラフ振動を後0.3下げてみて。」


リツコの指示に従って、マヤが手元の端末を操作する。

三人並んで表示されていたが、シンジの部分だけが少し下がる。

表情を全く変えないシンジ。


「やっぱりすごいわね、彼。」


後ろから聞こえてきた声にマヤや他のオペレーターたちが振り返る。

だがリツコだけはモニターから目を離さない。


「ええ、相変わらずいい数字よ。シンクロ率もアスカと並んでトップだわ。」

「ホント、すごいですよね。」

「これを才能というのかしら。」

「まさにエヴァに乗るために生まれてきたような子供ですね。」


口々にシンジを褒めるリツコたち。

そんな中、ミサトだけは渋い表情をしていた。


「どうしたの?嬉しくないのかしら?」

「いえ、そりゃあ嬉しいわよ。こちらの戦力が上がれば状況も楽になるでしょうし。

 でも、エヴァに乗るために生まれてきた、なんて少しね・・・」


その言葉に先ほどそのセリフを言った作業員が顔を伏せる。


「その気持ちは分からないでもないわ。

 でも、ミサト。半端な同情ならやめといた方がいいわよ。あの子達、特にシンジくんはそれが一番嫌いみたいだから。」


リツコに言われて、今度はミサトが顔を伏せた。

リツコの言う通り、シンジはその点を一番嫌っており、それこそがシンジをしてミサトを憎ませている所以である。


「そうね・・・」


短く返事をするとミサトは顔を窓越しに見えるプラグの方へと向けた。

それを見て、リツコは内心で呟く。


(不器用な娘ね・・・)


だが、すぐにあることに思い至る。


(いえ・・・それは私もね・・・)











「はい、お疲れ様、三人とも。」


ミサトが笑顔でテストを終えた三人を出迎える。

そこには先ほどの様子はどこにも無かった。


「んじゃ、これ。さっきのテストの結果よん。」


ミサトがそれぞれにシンクロ率の書かれた紙を渡す。

そこには三本のグラフが書かれており、アスカとシンジの線が重なるように書かれ、やや低いところにレイのグラフが描かれてあった。

それを見てアスカが小さくため息を吐く。


「どうしたの?アスカ。」

「いえ、別に。ただね、とうとうシンジに追いつかれちゃったんだなぁ、と思うとね。」


ミサトの問いに答えるアスカ。

シンジは隣で苦笑いを浮かべている。



最近アスカは変わった、とミサトは思う。

そう、ほんの数ヶ月前まではこんなに丸い性格では無かった。

それこそ、シンクロ率でシンジに追いつかれたならば、ヒステリーを起こして騒いでいたに違いない。

きっと他のパイロットに負けるなんて許容できないことだっただろう。

だが、ここに来て、正確には第七使徒戦のころからだろうか、徐々にではあるが確実にアスカは変わってきた。

変えたのは恐らくシンジだと思う。

何があったのかは分からないが、何かがあったのだろう。

でも、とミサトにふと疑問が浮かんだ。


あのシンジが誰かのために何かするだろうか?

ミサトの中では、シンジは誰かのために何かをするような性格ではない。

あくまでもミサトの中で、だが。

実際、シンジはアスカやレイ以外では、表面上は笑顔を浮かべているが、誰かのためになるようなことは全くやっていない。

それはネルフの人間だけではなく、学校などでもそうだ。

その容姿と笑顔でシンジに好意を抱いている女子も多い、と報告は受けている。

しかし、その一切に応じた様子は無い。

他の子にただ興味が無いだけなのだろうか?


そこまで考えてミサトは思考を中断した。

訝しげにアスカがミサトの顔を覗きこんでいたのに気付いたからだ。


「どうしたのよ、ミサト。何か悪いもんでも拾い食いしたんじゃないの?」

「失礼ね、アスカ。アタシはそんなに食べ物に飢えてないわよ。」

「どうだかね。あ、あの部屋に住んでるんだから多少変なもの食べても具合悪くならないか。」


アスカのセリフにミサトがこめかみをピクピクいわせている。

と、何かにアスカが気付いたようにミサトの襟に視線を向けた。


「あ、ミサト昇進したんだ。と、いうことは三佐になったのね。おめでとう。」

「おめでとうございます・・・」

「おめでとうございます、葛城さん。」


アスカをきっかけとして口々にお礼の言葉を述べる。

ここでお礼を言われるとは思っていなかった、というよりミサト自身昇進を納得していなかったため、咄嗟に言葉が出てこなかった。


「え、ああ、うん。ありがとう。」


何とか笑顔を取り繕って返事を返すミサト。


「なによ。昇進したんでしょ?嬉しくないの?」

「嬉しいことは嬉しいわよ。ただね、実戦ではほとんど何もしてないから・・・」

「いいじゃないの。素直に喜んどきなさいよ。」


アスカが何を言ってるんだか、といった感じで呆れたようにミサトに言う。

ミサトもクス、と笑って


「そうね。お給料も上がるし、これでえびちゅがもっと飲めるわ〜。」

「ミサト・・・、貴方まだ飲み足りないの?」


ミサトの飲む量を知っているリツコがうんざりしたように言う。

シンジもミサトの酒豪ぷりは知っているだけに、苦笑いを浮かべるしかない。


「そうだ、折角だし今度ミサトの昇進パーティーでもしない?」


アスカの思いもよらない提案にミサトは思わず声を上げてしまう。


「へっ?」

「だから、アンタのためにパーティーを開いてやるって言ってんの。

 折角ミサトにしては珍しいお祝い事なのに、パーティーやんなくてどうすんのよ。」


アスカの言葉にやや引っかかるところはあるものの、ミサトとしては特に異論は無い。


「あら、いいじゃない。アスカの言う通りめったに無いことなんだから素直に祝ってもらえば?」

「リツコぉ〜、アンタまでそんなこと言う?」

「あら、アタシは事実を言ったまでよ。」


ふふ、と小さく笑いながらミサトをからかうリツコ。


「じゃ、決まりにね。場所は・・・アタシの家でいっか。ミサトのすぐ近くだし。」

「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ。アタシはまだ・・・」

「葛城三佐。」


そこへレイがミサトに声を掛けた。

普段ネルフではあまりしゃべらないレイが話しかけたとあって、皆レイのほうへ注目する。

レイは、上目遣いに


「嫌なのですか?」


と聞いてきた。

うっ、と後ずさるミサト。どうもレイに言われると自分がものすごく悪いような気がしてくる。

と、そこへアスカが


「レイ、それは男に対してしか効果は無いのよ。」

「そう、そうだったの・・・。分かったわ、次はちゃんと男子にやってみるわ。」


などとレイとやり取りを始めた。

それを聞いてどっと体の力が抜けるミサト。

ミサトに対してもどうやら効果はあったらしい。

そういえば、レイもずいぶんと変わったわね。

もしかしたらあの子が一番変わったのかも・・・。


子供達に比べてアタシは・・・

ふっ、と自嘲気味な笑みを浮かべるミサト。

そこへ頭上から声が掛けられた。


「で、結局どうするの?」

















「かんぱ〜い!!」


日もすっかり暮れ、アスカの家に明るい声が響き渡る。

この日はミサトの昇進パーティーで、アスカの家には現在、ミサト、アスカ、レイ、シンジ、ヒカリがいる。

料理は出来合いのものがメインなのだが、今日は食べることよりも騒ぐことがメインなので皆あまり気にしていない。

それでもやはりヒカリは幾らか料理を自宅で作って持参している。


「でも、アスカ。本当にいいの?私なんかが参加して?」

「いいのいいの。こっちとしても出来合いのものだけじゃなく、ちゃんとした料理が食べられるんだから。ありがたいぐらいよ。」


ヒカリがアスカに不安そうに尋ねるが、アスカは気にしないよう笑いながら答える。

ヒカリの方もそんなアスカの様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。



そうこうしてるうちに時間も経ち、ミサトも大分酒が入ってきたころ、玄関のチャイムが鳴った。

ミサトとアスカは楽しく談笑しているため、手の空いていたレイが玄関を開けると、


「よっ、こんにちは、レイちゃん。お邪魔するよ。」

「あら、レイ。レイが出てくるってことはミサトはもう出来上がってるのね?アスカも恐らく酔ってるんでしょうね。」


加持とリツコが揃って姿を現した。

声を聞き、こちらも揃って玄関に顔を出した。

ミサトは足取りこそしっかりしているものの、その顔は赤く染まり、明らかに酔っ払いの様子をかもし出している。

アスカにいたっては足取りもふらふらとして覚束なく、ヒカリに支えられながら玄関へとやってきた。

部屋の床にはビールの缶があちこちに散らかっている。

リツコの言ったようにアスカも相当飲んだようだ。


「あ〜、か〜じ〜さ〜ん。こんばんは〜。」

「何しに来たのよ?アタシはアンタを呼んだ覚えはないわよ。」


酔った勢いか、思いっきり甘えた声を出すアスカといつもと同じようにそっけない態度のミサト。


「おいおい、葛城。アスカに酒飲ませたのか?」

「別にいいでしょ。こういう場で飲まない方が失礼、てもんよ。」

「ま、それもそうだが・・・、そういえばシンジくんはどうした?」


靴を脱ぎながらミサトに尋ねる加持。リツコもそれに続いて上がる。


「碇君なら・・・。」


とレイがベランダを指差すと、そこにはベランダでタバコをふかすシンジの姿があった。

片手にはグラスを持っており、酒も幾らか飲んだようだが、見た目には酔っている様子は無い。


「あら、シンジくん。一服中かしら?」

「こんばんは、リツコさん、加持さん。」


後ろから声を掛けられ、振り向くとシンジはにっこりと笑って挨拶を返す。


「若いうちからタバコはあまり体によくないわよ。」

「はは、ご忠告ありがたく頂戴しておきますよ。」


リツコが一応注意をするものの、あまり真剣味は感じられず、シンジの方も軽く流した。

と、


「あ〜、シンジぃ〜。何タバコなんか吸ってんのよぉ〜。」


アスカが大きめの声を出しながら酔ってくる。相変わらず足元は危なっかしい。


「い、碇君・・・。その、タバコは・・・」


ヒカリもまさかシンジが吸うとは思っていなかったのだろう。

やや、驚きながら咎めるような雰囲気を出している。


「あ、やっぱり気になる?一応ベランダに出て吸ってるんだけど。」

「シンちゃ〜ん、そういうのは誰も見てないところでやりなさいよ。」


天然かわざとか、ずれた答えを返すシンジにやはりずれた注意をするミサト。


「ミサト・・・そういう問題じゃないわよ・・・」


呆れたように頭を抱えるリツコ。だがそこには普段あまり見せない笑顔が浮かんでいた。

普段忙しい毎日を送っているリツコにとって、この騒げる空間というのは貴重なのかもしれない。


「それはそうと・・・

 この度は昇進おめでとうございます、葛城三佐。」


急にかしこまって頭を下げる加持。

だが次の瞬間にはまたいつもの軽い口調に戻っていた。


「これでタメ口聞けなくなったな。」

「何言ってんのよ、バ〜カ。」


座りながらビールを口元へ運び、加持の軽口を返すミサト。


「いやいや。司令と副指令が揃って本部を空けるなんて今までにないことだ。これも葛城の手腕を信頼してるってことだ。」


加持がミサトを褒めるが、一瞬ミサトの顔が曇る。

だがそれは一瞬のことで誰も気付くことは無かった。シンジでさえも。

ただ一人気付いた人物はいたが。


一方シンジの方も加持の言葉を聞いて、部屋の中へ向けていた視線を外へと向ける。

一人のベランダに紫煙が静かに立ち上る。


(そうか・・・、もうそんな時期か・・・)

(結構時が経つのは早いものね。)

(これまでの事を、そしてこれからの事を思えば一瞬のことに過ぎない。)

(そう・・・そうね。)


常夏の第三新東京市にしてはやや涼しい風がシンジの髪を揺らす。

部屋の住人は誰もシンジの心をうかがい知ることは出来ない。

シンジが何を思って生きているのか、わずかな推測を許す隙間も今は存在しない。


(ロンギヌスの槍・・・か。)

(神殺しの槍。同時に神を、いいえ、神の力をもたらしかねない槍ね。)

(結局はなにも生み出すことは無かったけどね。欲しかったものは、だけど。)

(そうね・・・)


それっきり何も言わずに、ただ風だけがわずかな音楽を奏でていた。














巨大な、布に包まれた何かがUNの艦上に固定され、艦隊が紅い海を横切っていく。


「いかなる生命の存在も許さない死の世界南極。

 いや、地獄というべきかな。」


UNの戦艦の中で外を見ながら冬月が呟く。

ガラス越しに見える世界はもはや20世紀の面影は無く、かつて氷に包まれていた大陸はいまやいかなる生命も存在できない世界へと姿を変えている。


「だが、われわれ人類はここに立っている。生物として生きたままだ。」

「科学の力で守られているからな。」

「科学も人の力だよ。」


感傷的な冬月とは対照的にいつもと変わらぬ様子でゲンドウが言葉を返す。


「その傲慢が15年前の悲劇、セカンドインパクトを引き起こしたのだ。

 結果その有様だ。与えられた罰にしては罪が大きすぎる。まさに死海そのものだよ。」

「だが、原罪の穢れ無き、浄化された世界だ。」


冬月がやや強い口調でゲンドウの言葉を非難するも、ゲンドウは表情を全く変えない。


「俺は罪にまみれても人が生きている世界を望むよ。」


冬月が最後にしみじみと呟いたとき、入電を知らせるブザーが鳴り響く。


「報告します。ネルフ本部より入電。インド洋上空、衛星軌道上に使徒発見。」















「二分前に突然現れました!」

マコトの報告とともに発令所の主モニターに巨大な使徒の姿が映し出される。

そのあまりの巨体に発令所にいた誰もが驚きの声をあげる。


「こりゃすごい・・・」

「常識を疑うわね。」


ミサトたちも例外でなく、同様にため息をもらす。


サーチ衛星が使徒―――サハクイエルに接近し、データを取ろうとするが、その途端衛星が突然ひしゃげ、敢え無く衛星は圧壊した。


「A.Tフィールド!?」

「新しい使い方ね。」


驚きに目を見開くミサトと、対照的に冷静なリツコ。

本部の驚きをよそに、サハクイエルは衛星を破壊した後自らの体組織の一部を切り離し、地上へと落下させる。





「大した破壊力ね。」


作戦室でミサトが感嘆の声を漏らす。

現在ミサトが覗き込んでいるモニターには数時間前に投下された使徒の体組織が落下した場所の映像である。

A.Tフィールドに加え、落下エネルギーまでも利用したこの攻撃は、原始的ながらも最も効果的な攻撃である。

ただし、本来の使徒の目的と思われるものは果たすことが出来ないが。



ともあれ、初弾は太平洋に外れたものの、徐々に軌道修正して最も最近のものはついに日本列島の一部に命中した。


「確実に誤差修正してるわね。」

「学習してるってことか・・・」


ため息に似たものを吐き出しつつ、ミサトはモニターを眺め続ける。


「N2航空爆雷も効果ありません。」


マコトの言葉とともにモニターに使徒の様子が映し出される。


「以後、使徒の消息は不明です。」


マコトに続いてシゲルが報告書を読み上げる。


「来るわね、たぶん」

「ここに本体ごとね。」


口調こそ軽いものの、それが意味するところは自分達の生還か即時消滅のどちらかの選択を迫られることである。

が、二人の表情はどこか明るいものだった。

しかし、その内面は大きく異なる。

リツコにしてみれば、どこか予感めいたものがあったのだ。

すなわち、シンジが何かしてくれるのではないかと。

これまでシンジが直接何かをしたことは無い。

正確に言えば、前回と大きく異なることはそれほどやっていない。

少なくともリツコたちの視点から見れば。

それにもかかわらず、リツコはどこか安心していた。

無論、無意識ではあるのだが。

一方、ミサトはといえば、リツコのようにそんなものがあったわけではない。

ただ、気分が高揚してきていただけである。

理由はミサトにもよく分かっていない。

だが、心の奥底から湧き上がってくるものに興奮し、自然と顔がほころんでいるのである。


「その時は第三芦ノ湖の誕生かしら?」

「富士五湖が一つになって太平洋とつながるわね―――本部ごとね。」



「碇司令は?」


表情を引き締めて、ミサトがシゲルに問う。


「使徒の放つ強力なジャミングの為、連絡不能です。」

「MAGIの判断は?」

「全会一致で撤退を推奨しています。」

「どうするの?今の責任者は貴方よ?」


リツコも表情を引き締めてミサトに判断を求める。

ミサトは少し考える仕草をするものの、すばやく判断を下す。


「日本政府各省に通達!ネルフ権限における特別宣言D−17、半径50キロ以内における全ての市民は直ちに避難。松代にはバックアップを頼んで。」


ミサトの決断に慌ててマコトが口を挟む。


「ここを放棄するんですか!?」


だがミサトは落ち着いた様子で


「いいえ。だけど、みんなで危ない橋を渡る必要は無いわ。」














第三新東京市の上空に戦自のヘリが飛び交う。

市内における全ての道路が下りへとなるが、それでもあちこちで渋滞が起きていた。

だが、避難には慣れている第三新東京市民。数時間後には全ての避難が完了していた。



本部内の女子トイレ。

ミサトが手を洗っているが、その後ろにはリツコが険しい表情で立っている。

鏡越しで睨みあう二人。


「貴方の勝手な判断でエヴァを失う気?勝算は万に一つも無いのよ?」

「エヴァにかけるだけよ。」

「葛城三佐!」


リツコにしては珍しく声を荒げ、ミサトを階級で呼ぶ。

だが、ミサトはそんなリツコの様子も意に介した様子も無く言い放った。


「使徒殲滅は私の仕事です!やれることはやっときたいのよ・・・」


だが、最後の方は消え入りそうな声だった。

ミサトの言葉を聞き、リツコは鼻で笑う。


「仕事?笑わせるわね。復讐でしょ?

 貴方の自分勝手な復讐で他人を傷つけるのはやめなさい!」


リツコ叱責にミサトは無言のままトイレを後にした。

















shin:またまた今回も前後編に分けることにしました。


シンジ:最近ずっとだね。


shin:少しずつ書いているんだが、あんまり遅くなるのもどうかと思って。

   文量的にも最初はこんなもんだったし。

レイ:後編も楽しみにお待ちください・・・

shin・シンジ:(いつの間に・・・)














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