第拾壱話 闇の中で動くもの
チチチチチチ・・・
まだ太陽の位置もそう高くない朝。
早朝だというのに元気な子供達が声を上げて、嬉しそうに走り回っている。
まだ平和な光景が見られることに喜んでいいのだろうか。
シゲルはそんな疑問を浮かべながらも自動販売機でコーヒーを買い、その様子を見守っている。
後ろのコインランドリーではリツコとマヤが洗濯物を取り出している。
「毎回毎回これじゃ、クリーニング代も馬鹿にならないわね。」
「せめて自分で洗濯できる時間くらいは欲しいですよね。」
そこにコーヒーを飲み終えたシゲルが入ってきた。
「まだ家に帰れるだけマシっすよ。」
(この前の戦いは全くの誤算だったな・・・)
自宅で朝食を料理しながらも先日の戦いに思いをめぐらせるシンジ。
(まあ、ばれちゃいないだろうけど、たぶんリツコさんは何かしら僕に疑いを持っただろうな。)
まだこの時間はミナモは起きていない。
いつもならこうしてシンジが考えにふけっていると何かしら相槌をうってくれるのだが、そのミナモがいないため、どんどんネガティブになっていく。
(この間は色々後処理で忙しかったみたいだから何も言ってこなかったけど、そろそろ何か聞かれてきそうだな・・・)
(はあ〜、気が滅入るなあ・・・)
慣れというのはすごいもので、こうして料理に集中していなくても、いつの間にか見事な朝食がテーブルに並べられている。
(なあ〜に暗い考えに浸ってんのよ。)
(あ、ミナモ。起きたの?今日は早いね。)
(おはよう、シンジ。そんな朝っぱらから考え事してちゃ、私の目覚めも悪くなるでしょ?)
(聞いてたの?)
(まあね。でも大丈夫よ。いくら疑いを持たれようとも誤魔化しようはいくらでもあるわ。)
(それは分かってるけどね。ばれるとは僕も思っちゃいないさ。ただこれから少し動きづらくなるかなと思ってね。)
(気にすることはないわ。過小評価するつもりはないけど、何も出来やしないわ。
それより、朝ごはん食べないの?)
こうしていつもの朝食が始まる。
(でもさ、歴史が変わりつつあるのはやっぱり気になるよね。)
(そうね。といってもまだ大きな変化が現れてるわけじゃないし。)
(大まかなところはあんまり前回と違う行動はしてないからかな?)
(この後もそう大きな違いは出てこないと思うわよ。)
(だといいけどね。)
不安は尽きないが、とりあえずシンジは今目の前にあるご飯と味噌汁を片付けることにした。
ネルフ本部
ミサトがエレベーターに乗り、ドアを閉めようとすると、
「おーい、待ってくれー。」
と声が聞こえてきたが、ミサトはその声の主を確認すると、そのまま無表情で躊躇なく「閉」ボタンを押した。
だが、ドアが完全に閉まろうかというところで、ニュ、と手が伸びてきて再びドアが開いていく。
それを見てミサトは表情を一変させて舌打ちをした。
「いやー、走った走った。こんちまたご機嫌斜めだねえ。」
ドアを閉められそうになったにも関わらず、暢気な声でミサトに声を掛ける加持。
腰をトントン、と叩きながら実に年寄り臭い仕草である。
ミサトはそんな加持を横目で見ながら不機嫌そうに
「来た早々アンタの顔見たからよ。」
「つれないねえ。」
口調の割には笑顔を絶やさず加持は腰を叩き続けた。
(さてと、今日はちょっと早めにネルフに行っておくか。)
授業もすべて終わり、シンジはネルフへ向かおうと教室を後にしようとした。
今日は第九使徒、マトリエルが現れる日である。
その上、恐らく前回同様ネルフも停電に見舞われ、ケイジにたどり着くのが遅くなってしまう可能性が高い。
マトリエル自体はそう苦労しないだろうが、サンダルフォンの一軒以来、何が起こるかわからなくなってきている。
そう事態は変わらないだろうが、念には念を、とシンジは早めに行動することにしたのである。
「あれ、シンジ。もう帰るの?」
教室を出たところでちょうどアスカと出くわした。
「うん、特にする事も無いから早めにネルフに行っておこうかと思って。」
「まだ大分時間あるわよ?」
「まあ、ジュースでも飲みながら時間を潰すよ。なんなら一緒に行く?」
すでに何が起きるか確固とした確信が無い以上アスカやレイも連れて行ったほうがいいと判断したシンジは会ったついでにアスカを誘ってみた。
「レイは?」
「まだ誘ってないけど。アスカ、聞いてみて。」
わかったわ、とうなづくと、教室の中でヒカリたちと話していたレイに声を掛けた。
「レイ〜。」
「何?」
「アタシ達もうネルフに行くけど、レイも一緒に行く?」
少しの間考えていたが、やがて小さくうなづいた。
「んじゃ行きましょうか。
ヒカリ〜、アタシ達もうネルフに行ってくるわ〜。」
「分かったわ。レイさん、アスカ、頑張ってね。」
「ありがとう、じゃあね。」
レイとアスカはクラスメート達に手を振ると、三人で教室を後にした。
ネルフ本部 実験室
零号機の稼動延長試験が行われていた。
テキパキと作業員に指示を出しながらもリツコは浅間山での出来事を考えていた。
(あの時、アスカが助かったのはシンジくんのおかげね。シンジくんが使徒を攻撃してくれたおかげで最終的に使徒に勝てた。
でもあの時シンジくんはどうやって攻撃したのかしら?武器はプログナイフだった。でもどう計算してもマグマの粘性の中ではあんな速度は出ない・・・。
碇シンジ・・・。一体何者・・・?)
ここに来てまもなくは14歳らしからぬ行動に疑問も持っていたが、ここ最近は目立った行動も無く、記憶の端へと追いやられていた。
しかし、先日の一件でリツコの中に再び疑問が浮かび上がってきた。
彼はシナリオにイレギュラーな存在なのか?
あの人の計画はうまくいくのだろうか?
次々と浮かびあがる疑問に思わずリツコはめまいを起こしそうになった。
(そのうち、もう一度シンジくんに話を聞いてみる必要があるわね・・・)
とりあえずの結論を出し、そばにあるボタンに手を伸ばす。
すると、それまでモニターに映し出されていたデータが次々と消えていき、元々薄暗かった室内の明かりが完全に落ちた。
「主電源ストップ。電圧ゼロです。」
マヤの声が室内に響く。
突然の事態に部屋にいたスタッフ全員の視線がリツコに集まる。
そのリツコの指先は手元のコンソールにあるスイッチにかかっていた。
「・・・あ、アタシじゃないわよ・・・。」
リツコの言葉も空しく、全員の視線はリツコから離れることは無かった。
「なんとなくアンタについてきたけど、何か暇を潰すようなことあったかしらね〜。」
本部へ向かう道中、雑談をしながら歩いて向かっていた。
最寄のバス停から本部のゲートまでは少し距離がある。
「アスカ、漢字はもう覚えたの?」
「うっ・・・」
「レイに教わるんじゃなかったの?」
ため息をわざとらしくつきながらアスカに尋ねる。
「だって、この前教わろうとしたらマグマの中にいってこなきゃならなかったし・・・。」
「あれから結構間が空いたよ?」
「う、うっさいわね!ちゃんとこれから覚えるわよ!大体アンタこそどうなのよ?成績あんまりよくないんでしょ?」
状況が不利だと悟ったアスカは話の矛先をシンジに向ける。
「僕はちゃんとやってるよ?この前のプールの時にもやってただろ。ね、綾波?」
「・・・碇君はいつもちゃんと課題はやってるわ。」
「ほらね。」
アスカが何か反論の糸口は無いかと頭をフル回転させていたとき、
キキーーッ!
ガッシャーン!!!
(!)
(シンジ!)
「危ない!!」
シンジが叫びながらアスカとレイを押し倒した。
「キャ!なにすん・・・」
突然押し倒され、非難の声を上げるアスカ。レイはほんのり頬を赤く染めている。
その時何か影が三人のそばを通過していった。
ガシャーン!!
起き上がって音がした方向を見てみると赤い車が壁に衝突してひしゃげていた。
まわりを見てみると何台か他の車も事故を起こしていた。
(まさか!)
思い当たり、信号機を見てみると全ての信号が消えていた。
ポケットから携帯を取り出し、ネルフに電話をかけてみるがやはり通じない。
(くそっ、早すぎる!)
(急いで本部に!)
(わかってる!)
「な、何よ、一体・・・」
次々と起きた事故を見て、呆然とするアスカ。
「アスカ、早く本部へ急ごう!」
「何でよ?」
「ネルフと連絡が取れない!それに停電してる!」
「停電なら電話も通じないに決まってるじゃない。それにすぐに復旧するでしょ?何をそんなに焦ってるのよ?」
状況がいまいち理解できていないアスカは頭にクエスチョンマークを浮かべながらシンジに聞き返す。
それにレイが答えた。
「・・・本部は正・副・予備の三系統の電源が備わってるわ。同時に全てが落ちるなんて考えられない。」
「それって、まさか・・・」
アスカも徐々に事の重大性が認識できてきたようである。
「そう、誰かが意図的に電源を落としたんだよ。」
(恐らく、アイツだね・・・)
シンジは犯人の目星はついているが、ここでは言わない。
「じゃあ、早く行かないとまずいじゃない!行きましょ!」
そう言いながら走り出すアスカ。
「・・・こっちのほうが近道よ。」
「七分経っても復旧しないなんて。」
無理やり実験室のドアをこじ開けた作業員達をリツコは気にした風も無く、マヤは申し訳無さそうにまたいで発令所へ向かう。
リツコの持つ懐中電灯だけが暗い通路を照らし出している。
一方、エレベーター内
「正・副・予備の三つが同時に落ちるなんて考えられないわ。」
ミサトが加持を睨みながら呟く。
ミサトは決して無能な人間では無い。
かなり優秀な兵士と言えるだろう。
だが決して指揮官向きでは無い。それは今までの使徒戦が証明している。
ところが単独で行動するとなると話は変わってくる。
また誰かの指揮下でも彼女の能力は発揮されるだろう。
ともかく、電源が落ち、現在まで大した時間は経っていないがミサトは今の状況を必死で分析していた。
自然にはありえないことが起きている。それは停電が人為的に引き起こされたことを意味する。
しかし、ネルフの警備はそう外部の人間の侵入を許すようなものではない。
ミサトとしても現在の警備がMAGIに頼りすぎの感があることは否めない。
それを差し引いても並みの工作員では進入することはかなりのリスクを伴うはずである。
だが、現実にこのような事態が引き起こされている。
となると可能性は二つ。
一つはネルフの監視の網をかいくぐって進入出来るほどの能力を持つ人間。
そしてもう一つは内部の人間の手引きによって侵入した可能性。
本部の人間でばれずに手引きが出来る人間はそういないはずだ。
上層部の人間―――ゲンドウや冬月は考えづらい。
リツコもそんなパイプは持っていないだろう。
となると残るは・・・
「おいおい、そんなに睨むなよ。俺が何かしたかぁ?」
いつもと変わらず笑いを浮かべながら睨みつけているミサトを見返す加持。
ミサトは肩の力を抜いた。
「ま、いいわ。」
「?なんだ、一体?」
「気にしないで。で、早いとここっから出ないといけないわね。」
「そうだな。ドアを開けることは不可能。となれば・・・」
そう言って加持はエレベーターの天井を見上げた。
戦略自衛隊 発令室
「測的レーダーに正体不明の反応あり。予想上陸地は旧熱海方面。」
戦自のオペレーターがレーダーの反応を見て、後ろに陣取る幹部に報告する。
「わかった。」
報告に短く返事をすると、幹部連中はひそひそと周りに聞こえないように会話を始めた。
「おい、まずいんじゃないか。タイミングが悪すぎる。」
「ああ、ちょうど工作員が作業を完了している頃だ。」
「ちっ・・・。仕方ない。
ネルフのほうに反応は?」
一人がオペレーターにネルフの動向を確認する。
「沈黙を守ったままです。まもなく使徒は上陸します。」
オペレーターの言葉にわずかに顔をしかめる。
「第三新東京市にヘリを飛ばせ。とりあえず住民はシェルターに避難させろ。」
「已むを得んな。」
「ま、いざとなれば第三新東京ごとN2で焼き払って足止めするだけだ。」
そう言うと、オペレーターに念のためだ、と言ってN2爆雷の準備をさせた。
黒い、クモのような姿をした第9使徒マトリエルはゆっくりと歩みを第三新東京市中心部へと進めていく。
使徒が接近しているが、いつものように戦闘態勢に姿を変えることなく、第三新東京市は平和な様相のまま時を過ごしていた。
「葛城さんもずぼらな人だよな。洗濯物くらい自分で取りに行けばいいのに。」
愚痴をこぼしながらも自分の分とミサトの分もきちんと回収し、袋につめるマコト。
愚痴を言ってはいるが、その顔はどこか嬉しそうだ。
紙袋いっぱいの洗濯物を抱えて道を歩いていると、上空からけたたましい音が聞こえてきた。
何事かと思って空を見上げてみると、そこには戦自のヘリが低速で飛行しながら何やらアナウンスしていた。
「こちらは第三管区航空自衛隊です。ただいま第三新東京市に未確認生物が接近中です。付近の住民の皆様は速やかに指定のシェルターに避難してください。繰り返します・・・」
使徒の来襲を告げるヘリの放送を聞き、一気に青ざめるマコト。
「まずい、こうしちゃいられない。早く本部に行かないと・・・」
呟きながら辺りを見渡すマコトだが、人影はどこにも見当たらない。
その時、接近してくる一台の車があった。
「ラッキー。」
嬉しそうに顔をほころばせるマコトだった。
その頃、ネルフ本部
残った電力を全てMAGIとドグマの維持に回しているため、発令所の中はすさまじい熱気に包まれていた。
あまりの暑さに皆胸元のボタンを外し、どこに持っていたのか、うちわを扇いで少しでも涼を取ろうとしている。
「まずいわね、空気も淀んできたわ。
はあ、これが近代科学の粋をこらした施設とは・・・」
「しかし、さすがは司令と副指令ですね。この暑さでも顔色一つ変えていませんね。」
マヤが尊敬のまなざしで一段高いところにいる二人を見る。
だが、そんな二人の足元には水の入ったバケツがあった。
「ぬるいな・・・。」
「ああ・・・。」
第三新東京市の中心部まで到達した使徒。
その横を一台の選挙カーが通り過ぎる。
「当管区内における非常事態宣言発令に伴い、緊急車両が通ります・・・ってこの先は行き止りですよ!?」
選挙カーのマイクからウグイス嬢の今にも泣き出しそうな声が聞こえてくる。
だが、隣にいるマコトと運転手はややテンションがハイになっているのか、そんなウグイス嬢の声を無視して車を走らせ続ける。
「いいから突っ込め!なんせ非常事態だからな!」
「了解ぃ!」
となりで青ざめてるウグイス嬢をよそに非常時の割には二人ともどこか嬉しそうである。
「いやぁーー!!もう止めてぇ!!」
ウグイス嬢の泣き声だけが空しくマイクから響いた。
「このジオフロントは外部から隔離されても自給自足出来るコロニーとして作られている。その全ての電源が落ちるなどということは、理論上ありえない。」
明かりも復旧せず、わずかな蝋燭の明かりだけが照らし出すゲンドウの机の周りで冬月が語る。
「誰かが故意にやった、ということですね。」
「恐らくその目的はここの調査だ。」
リツコの言葉を受け、推論を語るゲンドウ。
「電源の復旧ルートから本部の構造を推測するわけですか。」
「シャクなやつらだ。」
「MAGIにダミープログラムを走らせます。全体の把握が困難になると思いますから。」
「頼む。」
短く返事をするとリツコはMAGIを操作するべく、端末へと向かった。
「本部初の被害が同じ人間の手によるものだとはな・・・。やり切れんよ。」
「所詮人間の敵は人間だよ。」
忌々しそうな冬月にすぐに答えるゲンドウ。濃いサングラスと薄暗い部屋によって、その表情は誰も図り知ることは出来なかった。
shin:またもや長くなってしまいましたので、前後編に分けました。後編も大分書き上げていますのですぐに公開します。
ミナモ:じゃ、後編も楽しんでくださいね。
SEO
AD
[PR]
花
ローン比較
再就職支援
バレンタイン
無料
レンタルサーバー
SEO