第拾話  変わり行く流れ






「ラッキー♪加持さんに買い物に付き合ってもらえるなんて。」


歩行者天国となっている第三新東京市の街中をアスカと加持が一緒に歩いている。

アスカはしっかりと加持の左腕にしがみつき、それを加持は嫌がることも無く、微笑みながら見ている。

二人の目的は来週から始まる修学旅行の準備である。

アスカが加持に買い物の手伝いを頼むと、加持は「美しい姫様からのお誘いだ。喜んで手伝わさせて頂くよ。」とその場でOKし、今に至る。

第三新東京市で一番大きいデパートに入る二人。

一通りのものを買い揃え、最後の目的地にしてアスカ最大の目的地に着いた途端、加持は間の抜けた声を上げた。


「なんだぁ、ここ。水着売り場じゃないか。」


素っ頓狂な声を上げたことで周りの客からの視線を浴び、慌てて口を押える加持。

やはり加持といえども女性専用の水着売り場に足を踏み入れるのは恥ずかしいらしい。

アスカは加持には目もくれず、一心不乱に水着をあれこれと物色している。



加持が居心地悪そうに所在無げに立ち尽くしていると、アスカが二着の水着を持ってきた。

一方は赤と白の縞のビキニで、もう一方は白を基調とし、わずかに赤のラインが入った少し大人しめのワンピースだった。ただし、背中は大きく開いていたが。


「加持さん、どっちがいいと思います?」

「いやはや、どっちも男からしてみれば刺激的な水着だな。中学生にとってまだ早いんじゃないか?」

「加持さんおっくれてるぅ〜。今時これくらいは普通よ。」

「そうか?で、どっちがいいか、だったな?」


コクコクとうなづくアスカ。


「そうだな・・・。どっちも似合うとは思うが、やっぱりアスカにはこっちのビキニの方が似合うんじゃないか?」

「やっぱり加持さんもそう思います?じゃあ、こっちは戻してきますね。」


そう言いながらワンピースの水着を元の場所へ戻しに行った。

加持はアスカの後姿を眺めながら呟いた。


「・・・アスカがワンピースを持ってくるなんてな・・・。少しずつ変わってきてるのか。

・・・シンジくんのおかげかな。」



















「ええ〜〜っ!!修学旅行に行っちゃいけない〜〜!!??」


コンフォートマンションにアスカの怒声が響き渡る。

もはやこのマンションに叫び声が響き渡るのは日常の事となっている。


「誰が決めたのよ、そんな事!?」

「作戦部長であるこのアタシが決めました。」


アスカの問いにミサトがしれっとした態度で答える。



ちなみにここはミサトの部屋では無い。

ミサトはアスカと一緒に住もうと誘ったのだが、その途端アスカが青い顔をして


「・・・ふ、腐海は嫌、腐海は嫌、腐海は嫌」


と連呼しながら震えだしたのを見て敢え無く断念したのである。

なお、その間アスカは無意識だったことを追記しておく。

では二人は今どこにいるかというと、ミサトの部屋でないのなら当然アスカの部屋である。

前回の使徒戦の後、アスカはどこに住むかという話になり、ミサトの部屋の間一部屋開けて隣になったのである。

それまではネルフ本部内の個室に住んでいた。

アスカの荷物が数日遅れて届いたときちょうどユニゾンの真っ最中だったのでミサトの部屋に運ばれた。

ところが業者も部屋のあまりの惨状に倒れてしまい、空いていたユニゾンが行われた部屋にシンジとアスカが協力して運び入れたのである。

その荷物を移動させるのが面倒だということで今の部屋に落ち着いた、と至る。

その後、ミサトもやはりきれいな部屋のほうがいいのか、事あるごとにアスカの部屋に入り浸るようになり、今ではほとんどをアスカの部屋で過ごしている。


「とにかく!これは決定事項よ。」


ビールを片手に有無を言わせぬ勢いでアスカに告げる。


「貴方達がいない間に使徒が来たりでもしたら大変でしょ?」

「いつも待機・待機・待機!たまにはこっちから攻めて行ったらどうなのよ!」

「それが出来たら苦労しないわよ。」

「アンタ達も何か言ったらどうなのよ!?」


アスカが隣に座っているシンジとレイを睨みつけながら言う。

二人ともミサトが話がある、と言ったので一緒にここに来たのである。

正確にはミサトが告げたのはシンジだけである。

ここにくる途中レイを見かけたので声を掛けたところ、レイは知らされておらず、ちょうどいいと思いシンジが連れて来たのだ。


「別に。待機はいつものことだしね。最初から期待していなかったよ。」


ずずっ、と熱い日本茶をすすりながらなんでもないかのように答える。


「特に何も無いわ。使徒がいつ現れるか分からない以上常に待機しておくのは当然のこと。」


一方、レイはシンジに入れてもらった紅茶を飲みながらやはりいつものように答える。

だが、内心レイは残念に思っていた。

レイも待機になるのは分かっていたが、クラスのメンバーと旅行に行くのを楽しみにしていたのも事実である。

レイは当然ながら誰かと旅行に行った経験が無い。

だからなおさら楽しみにしていたが、やはり待機と分かって消沈していた。

もっともそれが分かるのもシンジくらいなものだが、シンジは何も言わなかった。

シンジとしても二人を、特にレイには修学旅行に行かせてやりたかった。

それによってレイの世界もいっそう広がるだろうと思う。

しかし、修学旅行中に使徒が来るのは確かなのである。

いや、これも正確には使徒が来るのでは無く、こちらから攻め込むのである。アスカの言葉通りに。

それが無ければ別に修学旅行には行っても全然問題は無い。

だが、シンジにそれを止める術は無い。

自分が使徒がいつ現れるか、何が起きるのか知っていることを現在の状況では皆に教えるわけにもいかず、二人には諦めてもらうことにした。


(これも自分のエゴだな・・・)


内心でシンジは自嘲する。


(ほら、すぐそんな風に考えないの。シンジの悪い癖よ。)


ミナモが諫める。


(シンジはもっと傲慢になってもいいのよ。二人を守るって決めたんでしょ?そのためには現状では二人を行かせるわけに行かないんだから、気にしない気にしない♪)

(そうだね。)


シンジは思わず笑みを浮かべた。

彼女のこういうところは本当に助かる。沈みがちになる自分をいつも掬い上げてくれる。

シンジはミナモに知られないように感謝した。


「何笑ってんのよ?アタシが旅行に行けないのがそんなに嬉しい?」


頭上から浴びせられた言葉でシンジは思考から戻ってきた。

どうやらミナモに隠すのは成功したらしいが、笑みは顔に出てしまったらしい


「い、いや、そういうわけじゃないよ。」

「へえ、じゃあどういうわけで笑ってたのかしら?詳しく聞かせてもらおうじゃない?」

「ほ〜ら、アスカもシンジくんに突っかからないの。」


シンジがどうやって追求をかわそうかと焦っていたところにミサトから助け舟が出てほっと一息つく。

もちろんアスカには悟られないように。


「ま、これをいい機会だと思いなさい。クラスメートが楽しんでいる間じっくり勉強できるでしょう?」

にやっと笑いながらミサトがフロッピーディスクを二つ取り出した。


「出さなきゃばれないと思ったら大間違いよ。貴方達がテストで何点取ったかなんて筒抜けなんだから。」

「は、旧態依然とした減点方式のテストになんか興味ないわ!

それに何で二枚しか無いのよ?」

「レイは成績優秀だからよ。全く問題ないわ。それに比べて貴方達二人は・・・」


アスカはユニゾンの最中からレイを名前で呼ぶようになっている。

これも彼女が言った努力の一つなのであろうか。


「僕もですか?」

「まあね。シンちゃんも成績悪いってほどじゃないけどあまりいいほうじゃないでしょ?」

「僕はあまり勉強好きじゃありませんし、頭もいいほうでもありませんしね。」


さらっと嘘を吐くシンジ。

実際シンジの成績は中の中から下といったところである。

これはネルフに怪しまれないため極々平凡な成績を狙っているシンジの策の一つである。


「じゃ、二人で頑張りなさいよ。」

「いぃ〜〜〜〜だ!」









ザッパーン


人気の無いプールに大きな水しぶきが上がる。

ここはネルフの厚生施設の一つであるプールである。

修学旅行にいけないアスカ達にミサトが特別にプールを貸切で開放したのだ。

アスカは先日加持と一緒に買った紅いビキニの水着を、レイは白っぽいがわずかに水色がかったワンピースの水着を着ている。

ユニゾン以来二人は仲がよく、アスカはまだ知らないことの多いレイに色々世話を焼いて姉御肌なところを見せている。

傍から見ていれば仲のよい姉妹の様に見えないことも無い。

誰もが目を奪われるような美人二人組みなのだが、シンジは二人には目もくれず、またプールにも関わらず制服姿で何かを一心不乱に手元のパソコンに打ち込んでいる。

アスカとレイがいる位置からはシンジの背中しか見えず、シンジが何をしてるかは見えないが、シンジの手はそれこそ神業のようなキータッチでキーボードを激しく叩いている。

実際神(シンジ)の技ではあるのだが。


(ほ〜、速い速い。)

(まだまだだよ。タイピングだけならまだまだ速い人はいくらでもいると思うよ。)

(そうかしら?そうそういないと思うんだけど・・・。

あっ、そこちょっと間違ってるわよ。)

(えっ、どこ?)

(ちょっと戻って。そう上から5行目のところ。)

(・・・あっと、ホントだ。ありがとう。)


何をやっているかはわからないがなかなかいいコンビっぷりを発揮しているようだ。


(よし、これで終わりっと。)

(お疲れ様。)


画面を学校の授業の内容に切り替える。


「水着にも着替えないで何やってんのよ?」


ちょうどそれと同時に後ろからアスカが声を掛けた。

その後ろからはレイが顔を覗かせている。


「ん、ちょっと授業の復習をね。」


そう言ってパソコンの画面を二人に見せる。


「アスカはやらなくていいの?」

「ああ、いいのよ、別に。」

「そういえばアスカは大学出てるんだったね。なら日本語が読めないとか?」

「まあね。読めないことは無いんだけど漢字がね。まだ全部覚えてなくて。」

「なら、綾波に教わったら?

 どうかな、綾波?」


アスカの後ろに立っていたレイに尋ねてみる。


「私は別に構わないわ。」


簡潔な答えを返すレイにアスカは


「そうね。一人で漢字をやるっていうのもなんだか気が滅入りそうだし。

 レイ、教えてくれる?」


コクコクとうなづくレイ。

どうやらレイもアスカと一緒にいられるのは嬉しいらしい。

そんな二人を見て嬉しそうにシンジも微笑む。


「そうだ、ついでだからアスカ、ここの問題教えてくれない?」

「いいわよ。どれどれ・・・」

「ここの熱膨張に関する問題なんだけど・・・」

「なによ、幼稚なことやってんのね〜。とどのつまり、物ってのは暖めれば膨らむし、冷やせば縮むってことじゃない。」

「そんなものかなぁ・・・」

「アタシの場合、胸だけ暖めれば少しはおっぱいが大きくなるのかなぁ・・・」


自分の年齢の割りに十分に発達した胸を触りながらシンジに問いかける。


「試してみれば?なんなら手伝ってあげようか?」


シンジが冗談めかして言ってみる。


「っ!ばかっ!変態!!」


パッシーン!


シンジの頬に大きな紅葉が花開き、アスカは再びプールへとドスドスと足音を立てながら戻っていった。

レイはシンジの元に駆け寄り、頬を擦っている。


「恥ずかしいなら言わなきゃいいのに・・・」











ネルフ本部作戦室


暗い室内で床に埋め込まれたモニターからの光が室内の人物の顔を照らす。

モニターに映し出される画像が次々と切り替わる。


「これではよく分からんな。」

「しかし、浅間山地震研究所の報告どおり、この影は気になります。」


冬月の言葉に青葉が答える。


「MAGIの判断は?」

「フィフティ・フィフティです。」


リツコの問いにすぐに隣にいたマヤが答えを返す。


「現地には?」

「すでに葛城一尉が到着しています。」




浅間山地震研究所


火口にもぐっている観測機からの情報をミサトとマコトが解析している。


「もう限界です!」

「いえ、後500続けてください。」


研究員が潜行の中止を求めるが、ミサトは即座にそれを却下し、続行が決定された。

その直後、マイクから何かが割れる音が響き、耐圧隔壁に亀裂が入ったとの報告が入る。


「葛城さん!!」

「壊れたらうちで弁償します。後、200。」


さらに潜行は続けられ、観測機が悲鳴をあげる中


「モニターに反応!」

「解析開始、急いで!」


すぐに解析を開始するマコト。その直後に観測機が爆発した。


「解析は?」

「ぎりぎり間に合いましたね。パターン青、間違いありません、使徒です。」


二人の見つめるモニターには成長途中の胎児のような姿をした使徒の姿があった。


「これより当研究所は完全閉鎖。ネルフの管轄化となります。一切の入室を禁止したうえ、過去六時間以内の事象は全て部外秘とします。」


ミサトが高らかに宣言する。

その顔はわずかに喜びに歪んでいた。


「碇司令宛にA−17を要請して。」

「気をつけてください。これは通常回線です。」

「わかってるわ。さっさと守秘回線に切り替えて。」


本来ミサトのミスなのだが、それを誤魔化すようにシゲルに強めの口調で命令する。




「A−17!?こちらから打って出るのか!?」

「だめだ、危険すぎる!」


ホログラフで映し出された委員会の人間達が口々に否定の言葉を口にする。

だがゲンドウは意に介した様子も無く、


「これはチャンスなのです。これまで防戦一方だった我々が攻勢に出る。それに生きた使徒のサンプルの重要性はそちらも理解なさっているでしょう?」

「・・・失敗は許さん。」


キールの言葉を最後に委員会の姿は消えた。


「失敗か・・・。その時は人類そのものが消えてしまうよ。

 いいんだな、碇?」


(ここまで全てシナリオ通りか・・・。最初に感じた不安は杞憂だったのか・・・。)












Historical Fact








「・・・これが使徒ですか・・・。」


モニターに映し出された使徒の姿を見て、シンジが確認するように口を開く。


「ええ、今回はこの使徒を捕獲することを最優先目的とします。」

「わかったわ。それで、誰が捕獲するの?」


アスカがそわそわしながらリツコに尋ねる。


「今回は特殊装備が可能な弐号機にもぐってもらいます。だからアスカ、貴方が捕獲することになるわ。」


それを聞き、小さくガッツポーズをするアスカ。

その様子をシンジは苦い思いで見ていた。


「出来なかったときはどうするんですか?」

「即時殲滅。いいわね?」

「アタシが捕獲するんだから大丈夫よ!任せときなさいって!」


だが、シンジは首を横に振る。


「僕は反対です。」


その言葉にその場にいた皆がシンジの方を向く。

シンジの顔からはすでに笑顔は消えていた。


「なぜ捕獲する必要があるんですか?」

「私達はまだ使徒について分からないことだらけだわ。使徒についてより詳しい情報を得るためよ。」

「別に生きた使徒じゃ無くてもいいんじゃないですか?」

「生きたサンプルじゃないと分からないことも色々あるのよ。」


シンジとリツコの話にマヤが助け舟を出す。


「で、どこで研究するんですか?まさかここではないでしょう?使徒が突然孵化したらどうするんでしょうね。」

「計算ではまだ大分日があるわ。」


そのリツコの発言を鼻で笑いながら


「計算、ですか。世の中計算どおりにはいかないと思いますがね。」

「とにかく、これは決定事項です。予定通り捕獲を最優先とした作戦とします。」


リツコはこれで話は終わりだ、といわんばかりに変更不可を告げ、その場を後にした。

マヤもすぐその後についていく。


「どうしたのよ、シンジ。リツコに食って掛かるなんて珍しいわね。」

「珍しいことではないわ。碇君は最初の頃作戦の度に葛城一尉に意見していたわ。」


レイの言葉に苦笑いを浮かべるシンジ。


「まあ、確かに葛城さんには大分意見を言ったね。最近はそうでもないけど。

 でもこの作戦には納得できないから。危険を冒してまで使徒を捕獲する意味なんて無いと思ったから。」


笑顔を見せながらシンジは答える。その笑顔は軽薄なものだったから。

レイはわずかに顔を曇らせるが、アスカは気がつかない。


「大丈夫だって。何もおこりゃしないわよ。泥舟に乗ったつもりでアタシに任せときなさい!」


胸を張って自分の胸を叩くアスカ。


「・・・泥舟だと沈んでしまうわ。」







浅間山火口


レイの零号機は本部待機となり、ここには初号機と弐号機が配置された。

ここに来るまでに耐熱プラグスーツを着たアスカが自分の姿と弐号機の姿を見て放心状態に陥ったが、シンジに任せろと言った手前引くことも出来ず、泣く泣く諦めた、といった経緯があったが。


現在は二機とも待機の状態である。

何もすることが無く、二人ともぼんやり過ごしていたが、その時上空を飛行するUN機を発見した。


「なに、あれ?」

「UNよ。」

「なに、手伝ってくれるの?」


嬉しそうな表情を浮かべるアスカだったが、返ってきた答えは非情なものだった。


「いいえ、後始末よ。」

「この作戦が失敗に終わったときに使徒を熱処理するのよ、私達ごとね。」

リツコとマヤの言葉に憤慨するアスカ。


「ひどい!誰がそんな命令出したのよ!?」

「碇司令だよ。」


感情のこもっていない声でシンジが答える。


「ま、一つ二つ先のことを見越して命令を出すのは指揮官として当たり前のことだよ、アスカ。」

「あら、珍しいわね。シンジくんが司令の事を褒めるなんて。」

「僕は人を過小評価することはありませんよ。」


アスカは黙って二人のやり取りを聞いていたが、ふと疑問に思った。


(シンジは司令と親子なのよね・・・。あまり仲がよくないのかな?)


思い返してみれば前回の使徒戦のときも司令に文句言ってたわ。さっきも碇司令、て他人行儀な呼び方だった。


(ま、他人のアタシがどうこう言える立場じゃないか・・・。)


アタシも他人のこと言えないしね。



「それよりリツコさん、プログナイフのことですが・・・」

「なにかしら?」

「途中で脱落するなんてこと無いんですか?」

「計算上は予定深度まで持つはずよ。」

「使徒が計算通りの場所にいる保証なんてありませんよ。これはアスカの命にも関わることですからより強力に設置しておいたほうが良いと思うんですけど。」

「・・・そうね。分かったわ。より頑丈に固定しておくわ。」

「お願いします。」



「シンジ・・・。」


アスカの脳裏に先日のシンジの言葉が蘇る。


――――僕は君達を守り続ける――――


「ありがと・・・」


誰にも聞こえないように小さな声で感謝の言葉を口にした。












「それではこれより作戦を開始します。沈降開始!」


全ての準備が整い、ミサトによって作戦の開始が告げられる。

場所が場所だけに、オペレーターたちもみな緊張の色が伺える。


弐号機をつるしたリフトが徐々に高度を下げていく。


「うわ〜、あっつそう〜。」


アスカも軽い口調ではあるが、その顔には汗が浮かび、熱さ以外の緊張が見られる。

弐号機が完全にマグマの中に沈み、外からは全く中の様子をうかがい知ることが出来ない。


「・・・なんだろう・・・。」


シンジは何か違和感を感じていた。

作戦に不安が無いといえば嘘になるが、現状で出来る限りのことはしてきたつもりである。

だが、そうした不安以外のなにか気持ち悪さをシンジは感じていた。


(ミナモ、どう?何か感じる?)

(う〜ん、なんだろ?うまく言葉に出来ないけど、なんか変な感じはするわ。)

(やっぱりミナモもか・・・)

(今は何も出来ないわよ。しょうがないけど、今は見守ることしか出来ないわ。

 本当は”しょうがない”なんて言葉使いたくないけどね。)

(同感。)


そう、確かに今は何も出来ない。

(とにかく待つか・・・)


だがシンジの心は晴れなかった。


「深度1300。目標予測地点です。」


時間が経ち、計算された深度に達したが、使徒の姿は見当たらない。


「思ったより対流が速い様ね。」

「目標の移動速度に誤差が生じています。」

「再計算よろしく。再度沈降開始。」


マコトがミサトの言葉に思わず顔を向ける。


「アスカ、どう?まだいけそう?」


ミサトの問いは半ば返事が予想された上でのものだった。

―――アスカなら続行に文句は言わない。

しかし、アスカの返事はミサトの予想を裏切るものだった。


「一応念のためにもう引き上げて欲しいんだけど。」


予想外のアスカの返事だが、ミサトは食い下がる。


「私としてはもう少し潜ってもらいたいんだけど。」

「行けなくはないわよ。ただ、なんとなく止めといたほうがいい気がするの。」

「不安なのは分かるわ。でももう少しだけ潜ってちょうだい。」

「う〜ん・・・」


いつもと違って歯切れの悪いアスカの態度に徐々にミサトはイライラをつのらせる。


「アスカ。なら命令します。後150潜って。」

「葛城さ・・・」


マコトが非難の言葉を口にしようとしたとき、マイクから聞きなれない声が聞こえてきた。


「葛城さん、今回は調査と違ってアスカが乗ってるんですよ。無理に捕獲に拘る必要は無いでしょう?」


いつもより幾分低い声のシンジだった。

オペレーターたちの背中に冷や汗が流れる。


「・・・この作戦の責任者は私です。続けて。」


シンジの声を無視して命令を下すミサト。

作戦は続行され、歯がゆい思いでモニターに映るミサトをシンジは睨む。


(シンジくんの言ったとおりにしておいてよかったわ。

 まさかシンジくんはこうなることを見越していたのかしら・・・?)


リツコの頭に疑問がよぎるが、すぐに打ち消す。


(まさか、ね・・・)



「深度1450。目標予測修正深度です。」


オペレーターの報告で再び一同の緊張が高まる。

アスカも報告を聞き、使徒の姿を確認しようと正面のモニターを凝視する。

だが、どこにも使徒は見当たらない。


「いない。どこにもいな・・・」


使徒の姿が確認できないことをミサトに報告しようとしたとき、激しい衝撃がアスカを襲う。


「キャアア!」

「どうしたの!?」


アスカの悲鳴にミサトがすぐに確認を求める。

マコトから返ってきたのは信じられない報告だった。


「し、使徒がすでに孵化して弐号機に取り付いています!!」

「なんですってぇ!!」


その悲鳴にも近い報告はすぐにシンジの耳にも届いた。


「なっ!!」


シンジにしても予想外の出来事だ。


(ちっ、歴史が変わってきてるのか!?迂闊だった。こうなることは予想できていたはずなのに!)

(さっき感じてた違和感はこれだったのね。)

(確認は後だ!)


歯軋りし、自分の迂闊さを呪うシンジ。こうしてはいられないとすぐに気持ちを切り替える。


(落ち着けシンジ。まずは現状をどうするかだ。)


この世界に戻ってきてから過ごした過酷な条件を生き抜いてきた経験を生きているのかすぐに冷静さを取り戻す。

必死で現状を打破する手段を考えるが、なかなか良い案が浮かんでこない。

時間だけが無情に過ぎていく。


弐号機も何とか反撃を試みていた。

ナイフを抜き、使徒に突き立てようとするが、表皮が硬く、全く効果が無い。


「だめだわ!この条件に耐えているんだもの。ナイフじゃ歯が立たないわ!」


(じゃあ何らかの対策を考えておけよ!)


内心でリツコに毒づくが、自分もそれに思い至らなかったことに情けなくなる。


(・・・くそっ!何か無いのか!)


冷静さを取り戻したが、徐々に焦りがシンジに生まれていく。

このままではアスカが危ない。

やむを得ず力を使う決意をする。
(ミナモ!ちょっとA.Tフィールドを使う!MAGIに感知されないように誤魔化して!)

(わかったわ。でもどうするの?)

(こうするの・・・さ!)





「くっ・・・何か方法は無いの!?」


焦りからかミサトが大きな声を上げる。

だが誰も妙案を思いつかない。その時だった。


「弐号機上方から高速接近する物体があります!」

「なんですって!?」

「まもなく弐号機と接触します!

 !これは・・・!」

「どうしたの!?早く報告しなさい!」

「は、はい!使徒をめがけて進行しているプログナイフです!」

「まさか、シンジくん!?」






「っ・・・どうしろってぇのよ!」


使徒に組み付かれ、腕以外弐号機は全く身動きが出来ない。

アスカの焦りも現状打破の方策が浮かび上がらず、ピークに達しようとしていた。


(やばい・・・。このままじゃ・・・)


死、がアスカの頭をよぎったとき、


「アスカ!そのままじっとしてて!」


シンジの声がマイクから聞こえてきて、落ち着きを取り戻す。


「じっとって、このままじゃ・・・」


シンジの言葉に反論しようとしたとき、何かがサンダルフォンの体を貫く。

その衝撃でサンダルフォンの体が弐号機からわずかに離れる。


「アスカ!熱膨張!」

「!分かったわ!」


シンジの言葉に即座に反応し、弐号機につながれた冷却パイプを数本切断する。

切断され、冷却液がもれ出るパイプを全て使徒の傷口に突っ込む。


「なるほど、熱膨張ね!」


リツコが合点がいったという感じでアスカの行動に納得する。

使徒が苦しむようにもがく。

そこに弐号機が止めとばかりにプログナイフを突き立てる。

先ほどまでと違い、あっさりとナイフが使徒の体に沈み込んでいく。

ナイフが突き立てられてもなおサンダルフォンは弐号機にしがみつくが、やがて力尽きたのか力なく弐号機から離れていく。

しかし、最後の瞬間サンダルフォンは弐号機につながる冷却パイプを切り裂いていく。

ぼろぼろと崩れていくサンダルフォンが完全に朽ちていく頃にはわずかに一本のパイプがかろうじてつながっているだけであった。


「やだな・・・ここまでなの・・・?」


心細くつながるパイプを見つめながら呆然と呟くアスカ。

やがて最後の一本も切れ、静かに沈んでいく弐号機。


「・・・死にたくないよぉ・・・。」


アスカが目をつぶったとき、軽い衝撃が弐号機に走った。

驚いて上を見ると、そこには特殊装備も何もつけてなく、ただ怪しげに目を光らせる初号機の姿があった。


「ばか・・・無理しちゃって・・・。」


言葉と裏腹に優しく笑うアスカ。

主モニター以外はすでに壊れ、初号機の様子をうかがい知ることは出来ない。







「っ、ぐうぅぅ・・・。」


くぐもったうめき声を上げるシンジ。


(くっ・・し・・んじ・・・)


ミナモも苦痛からか、途切れ途切れの声しか出ないが、とっさの判断で指揮車につながるモニターを砂嵐にした。

それは正解だったと言えよう。

現在シンジの体はマグマの熱で、もはや人間とは言えない状態になっていた。

皮膚は完全に黒く焦げ、普通の人間ならとっくの昔に息絶えているだろう。

だが、この状態でも生きていられるのは、苦痛に対する強靭な精神力と使徒化によるなまじ強靭な肉体のおかげと言えるであろう。

苦痛を受け続けてもなお意識を保っていられるその肉体に感謝すべきなのだろうか。

意識も朦朧としながらも弐号機を掴み続ける初号機。

やっとマグマの海から開放され、急速に回復をするシンジ。

モニターから何かミサトやリツコの声が聞こえてくるが肉体の修復にシンジは集中する。


「シンジくん、シンジくん!返事をして!大丈夫なの!?」

「は・・・い、大丈夫です。」

「そう、良かったわ・・・。」


(そんなに心配なら最初からこんな作戦立てるなよ・・・)


心の中で一人ごちるが、口に出す元気はまだ無いのか、心の内に留めた。


(ミナモ、ありがとう・・・)


ミナモに感謝の言葉をかけてシンジは再び目を閉じた。





ドンドンドン!

何かを叩く音でシンジは目を覚ました。

ちょっと目を閉じたつもりがどうやら眠っていたらしい。

エントリープラグを射出し、ハッチを開けて外に出るとアスカが立っていた。


「どうしたの?」

「どうしたのって、アンタが何の反応も返さないから心配になったのよ。」


よく見るとわずかにアスカの目元に涙の後が見える。

しかし、シンジはそれには触れず、にっこり笑って軽く言った。


「ごめんごめん、疲れてたからね。目を閉じただけのつもりだったんだけど、どうやら眠ってしまったみたい。」


それを聞いて気が抜けたように息を吐き出すアスカ。

だが慌てて頭を振ると


「べ、別にアンタの事を心配してたわけじゃないんだからね!」


アスカらしいと内心笑っていたが、やがて微笑を浮かべて言った。


「じゃあ、早いとこ帰ろうか。レイが待ってるよ。」


それにアスカは無言でうなずいた。




















shin:ど〜も〜、第拾話をお送りしました〜


レイ:また私の出番が少ないわ・・・


ミナモ:私も・・・


shin:まあ、レイに関しては基本的に本編準拠なんで勘弁して。ミナモは大体位置づけが確立してきたから。


シンジ:僕にいい感じのアドバイスをくれてるよね。


shin:まあ、そんな感じやね。


ミナモ:・・・なんか複雑・・・


アスカ:流れはアタシに来てる様ね!


shin:まあ来てるかどうかは分からんけど。


シンジ:原作に沿った流れならアスカの出番はまだ多いよね。


アスカ:ちょっと!じゃあ何よ、後半になったらアタシの出番は減るわけ!?


shin:それはなんとも言えないね〜。一応の流れは考えてるけど、まだどうなるかはわかんないし。


ミナモ:まだ流動的なのね。


shin:そ。


レイ:碇君の過去について少し触れてるけど・・・?


shin:そこらへんについてはその内書くけど、本編で書くかそれとも外伝の形にするかはまだ決めてない。あんまり面白くないから本編の流れの中でちょろっとだけ触れていくかも。


シンジ:今回が初めてだね。僕が戻ってきてから何をして過ごしてきたか。


ミナモ:あんまりいい環境にいなかったみたいだけど。


アスカ:実はまだ何も考えて無かったりして・・・


shin:ギクゥ!


シンジ:まさか・・・


ミナモ:そんなことはないわよねぇ?


レイ:・・・ダメ作者


shin:ま、まあ多少は考えてるけど・・・


アスカ:ほぼ白紙なのね?


shin:(コクン)


一同:はあ〜・・・












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