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個人の戦争責任、重層的に 井上ひさしの東京裁判3部作

2010年4月10日

写真拡大演出の栗山民也

 庶民の視点から日本人の戦争責任を考えた、井上ひさし作「東京裁判3部作」の連続上演が、東京・初台の新国立劇場小劇場で始まった。「戦い」を今季のテーマに掲げる鵜山仁芸術監督が企画した、3カ月にわたる大型公演だ。

 3部作はいずれも、同劇場の前芸術監督、栗山民也の企画・演出で初演された。第1作が2001年の「夢の裂け目」。03年に「夢の泪(なみだ)」が続き、06年の「夢の痂(かさぶた)」で完結した。「東京裁判は井上さんがずっと温めていたテーマ。その膨大な知識と思考を1本にまとめるのはとても無理なので、3部作を構想した」と栗山は振り返る。

 1946年に始まった東京裁判(極東国際軍事裁判)では、日本の戦争指導者の責任が問われた。当時少年だった井上の耳には、ラジオから流れた「デス・バイ・ハンギング(絞首刑)」という判決の声がずっと残ったという。戦争の責任は誰にあるのか。東京裁判は何を裁いたのか。その問いに様々な角度から切り込み、笑いと音楽をふんだんに盛り込んだのが、この3部作だ。

 「夢の裂け目」は、証人として出廷した紙芝居屋の親方が主人公。「夢の泪」はA級戦犯の補佐弁護人となる弁護士夫婦を軸に物語が展開する。「夢の痂」では、東北地方を舞台に、天皇巡幸を受け入れる騒動と、主語を明確にしない日本語の特性をからめ、戦争責任のありかを照らし出す。

 3部作の演出に改めて取り組む栗山は「通して見ると、戯曲が重層的に書かれていることがよく分かる」と語る。

 「例えば言葉という点から見れば、『裂け目』では紙芝居という子供向けの小さなメディアの問題を浮かび上がらせ、『泪』では弁護士という言葉によって相手を説得する職業に注目する。『痂』は日本語の文法から東京裁判のからくりに迫る。こうした積み重ねが、個人が歴史にどう責任を持つかという現代への問いにつながってゆきます」

 また「政治的なドラマの中で『腹へった』といった人間の本質的な声を響かせたり、笑いや歌で楽しませたり。井上さんの劇作家としての本性がよく出ている」とも言う。

 角野卓造、三田和代、木場勝己、辻萬長、土居裕子、熊谷真実、藤谷美紀ら17人の俳優が、それぞれ1〜2作に出演する。日程は「夢の裂け目」=28日まで▽「夢の泪」=5月6〜23日▽「夢の痂」=6月3〜20日(休演日あり)。当日券の問い合わせは電話03・5352・9999(劇場)。(山口宏子)

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