きょうの社説 2010年4月11日

◎舳倉島調査が終了 孤島から届いた地球の警告
 2年にわたる北國新聞社の舳倉島・七ツ島自然環境調査が終わり、能登沖に浮かぶ小さ な島々が貴重な動植物の宝庫であると同時に、地球のデリケートな環境の変化を映し出す鏡のような役割を果たしていることが、あらためて確認された。孤島から届いた地球の静かな警告を、年末に金沢市で開催される「国際生物多様性年」の締めくくりの会議に反映させるなどして、世界規模の環境保護に生かしていきたい。

 第1次調査からほぼ半世紀をへて組織された調査団は、地質・気象、魚介類・海草、野 鳥、動物、昆虫、植物の6班に分かれ、各分野のエキスパートが現地で精力的に調査を実施した。その結果、一帯の古環境の解析につながる約2千万年前の樹木化石の発見、渡り鳥や昆虫の楽園であることを裏付ける希少種の確認など、多岐にわたる成果があった。

 さらに酸性雨や漂着ごみの確認など、主に人的要因による環境変化の実態が明らかにな り、日本海のほぼ中央に浮かぶ孤島が「海のオアシス」として、また東アジア海域の環境の変遷と今日的課題を伝える「定点観測地」として位置付けられることを示した。

 先に終了した最後の漂着物調査では、日本のみならず諸外国の大型漂着ごみが確認され 、一帯が海の十字路として越境被害の危険にさらされる最先端の地であることも裏付けた。藤則雄団長は「クリーンデー」を設けるなどして、島民以外も巻き込んだごみ回収作戦を展開することを提案したが、定点観測地としての島の環境を守る上でも実現させたい試みであろう。

 調査団は活動をまとめるにあたって、野鳥や植物保護について猫対策や外来種の除去を 提言しているが、関係自治体も耳を傾け、対策を急ぎたい。

 舳倉島調査では、海の生態系を壊さずに水産資源を管理する海女の生きざまに接する機 会があった。自然と共生しながら持続性のある社会をつくる「里山」「里海」の思想を地で行く海女たちの生き方の極意もまた、大いに発信したいものだ。自然に恵まれた北陸であればこそ、地域社会でこうした共生の考え方を育てたい。

◎高速新料金 路線変更もためらわず
 民主党が高速道路の無料化をどこまで本気でやろうとしているのか、ますます見えにく くなってきた。国土交通省がまとめた上限制を柱とする新たな料金制度は、無料化の前段というより、事実上、路線を修正したようにも映る。一部無料化の社会実験にとどめて置いた方が、政策の流れとしては、まだ分かりやすさがあった。

 料金上限制は民主党のマニフェストにもなく、昨年末に小沢一郎民主党幹事長が政府の 重点要望に盛り込んで急浮上した経緯がある。曜日を問わない上限制の導入は、自公政権時代からの「休日上限千円」より渋滞が緩和され、料金体系も簡素になるといった理由が挙げられている。

 前政権の政策をひっくり返す意図は伝わっても、無料化との整合性はよく分からない。 プラス、マイナス面を冷静に判断し、その結果次第で無料化路線の変更をためらう必要はないだろう。

 新料金制度は、地方路線の一部無料化実験と合わせ、6月から実施される。首都高速、 阪神高速などを除き、全国一律で軽自動車千円、普通車2千円など車種別の上限料金となる。

 制度には一長一短があるが、現行割引の大半がなくなることで、多くの利用者は実質値 上げになるとみられている。高速道路の車の流れがどのように変化するのか予測は難しく、減収に危機感を抱く鉄道、フェリー、バス業界など他の交通機関の声も軽視できない。

 前原誠司国交相は、現行の割引制度見直しで浮かせた財源などを、政権交代で凍結して いた高速道路整備に充てる考えを示した。暫定二車線の四車線化など、完成による効果が大きい区間を整備するのは理解できるとしても、道路建設をめぐる一貫性のなさは政策の迷走を印象付けている。

 無料化で通行料金収入がなくなれば、過去の道路建設の巨額債務を税金で肩代わりする ことになる。それを上回るメリットが無料化にあるのかどうか。新料金制度は今年度末までの試行と位置づけられているが、その間に政策の方向性をしっかり見定めてほしい。