【社説】韓元首相判決前日に別の違法資金捜査とは

 ソウル中央地裁刑事合意第27部は9日、首相公館で2006年12月に昼食を共にした後、大韓通運の郭泳旭(クァク・ヨンウク)元社長(70)から5万ドル(現在のレートで約466万円、以下同じ)を受け取った疑いで起訴された韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相(66)に無罪を言い渡した。地裁は「(韓元首相が)昼食会直後に5万ドルを受け取り、隠すのは容易とは思われない。短時間に現金が入った封筒を処理できたかも疑問がある。郭元社長の供述は一貫性に欠け、信ぴょう性が疑われる」としている。そして、「郭元社長は『拘置所に収監されている間に死ぬかもしれない』と感じ、差し迫った状況を免れようと、検察に協力的な供述をした可能性がある」と述べた。

 韓元首相は、6月2日に行われる地方選で、民主党からソウル市長候補として出馬することが有力視されている政治家だ。検察がその韓元首相を法廷に立たせれば、いくら単純な刑事事件だとしても「政治事件」に変質し、裁判結果が地方選に影響するのは、火を見るよりも明らかだ。だからこそ、検察はほかの事件のケースよりも綿密な捜査を行い、慎重に起訴するかどうかを決めるべきだったはずだ。

 しかし、検察は韓元首相の5万ドル授受が事実かどうかを裏付ける決定的な物証を提示できないまま、「韓元首相は郭元社長からゴルフクラブをプレゼントされ、郭元社長が所有するゴルフ場宿泊施設を1カ月近く無料で使用した」などの状況だけを示した。唯一の証拠だった郭元社長の供述は、金額について「10万ドル(約932万円)→3万ドル(約280万円)→5万ドル」と変わり、受け渡し方法は「韓元首相に直接渡した」から「食事後、いすに封筒を二つ置いてきた」になるなど、行ったり来たりした。郭元社長は判事の前で、「検察の捜査中に命の危険を感じ、供述を変えた」と証言、「強圧的な捜査では」と騒動になったが、結果的に地裁もこれを認めたことになる。韓元首相の行動・証言には一部明快でない部分があり、まだ二審・三審が残っているとはいえ、韓国トップ捜査機関のレベルを疑いたくなるような判決だった。

 民主党と韓元首相側は、この地裁判決文を「ソウル市長選勝利への保証手形」と考え、与党攻勢や選挙運動に乗り出す姿勢を見せる一方、与党ハンナラ党は「公人としての道徳性に欠け、不適切な行動」と問題視している。

 検察は、この判決の前日、「韓元首相は07年の民主党大統領選候補者予備選挙に出馬した際、地元地方区の建設業者から違法な政治資金約9億ウォン(約7500万円)を受け取った疑いがある」とし、別の捜査に着手した。検察の立場からすれば、司法的に当為性がある正当な捜査だとしても、よりによってこの時期に、この状況で再び別の捜査に着手するのは適正かどうかが問題視され、野党の反発を呼ぶだろう。韓元首相と検察の新たな「真実探しゲーム」がどう繰り広げられるのか、目が離せない。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

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