俺が中学のとき、すぐ後ろの席に、何があったのか妙にいきり立っている野郎がいた。
ある日の授業中、そいつか、一緒にいた隣の奴が、俺に「黒板が見えないから伏せていろ」みたいなことを言う。
授業中に伏せてたら、先生に態度が悪いと思われる。俺は嫌がった。
そうしたらどうだ、後で呼びつけて、俺を殺さんとばかりに脅しにかかった。
俺は、もう笑うしかなかった。
おかしいんじゃないよ。人間、極度の恐怖と危険を感じたら、笑うしかないんだ。
俺はそのせいで、それから20年以上経つ今でも社会へ出られない。というより、自らを主張さえできない。少なくとも若者相手では、返ってくる反応ですぐ思い浮かぶ のは、脅されることばかりだ。おそらく、小学生並みに臆病になっている、というよりそのぐらい退行してしまったのではないか。
奴は正しさの名を冠していながら、非道な男だった。
もちろん、そいつからだけやられたわけじゃないが、自分を全否定されて、バカ正直にやってられねえよ。
こうなったら、とことん取り返さなきゃあ気が済まない。
いつか大人になって、体制を立て直したら、いよいよ社会を見方に攻め入るつもりだった。
しかし・・・
そいつは、高校のとき、バイクで事故ったそうだ。
バイクを運転中、詳しく走らないが、脳を損傷する大怪我だったらしい。
それでもそいつはガタイがいいからくたばりはしなかった。だがさすがに脳をやられては人を脅すことはできない。人間は決して絶対君主にはなれないのだ。
後に偶然会ったとき、もうすでに俺の知っている奴ではなかった。
不良グループのリーダー的存在が、卒業して数年も立たないうちに、母親に付き添われ、言葉に反応して緩やかに動くだけの機械のようだった。自我なんてどこにも感じられなかった。
その時はさすがに何も言えなかった。半植物人間を前にしては。あれこそ、生ける屍というやつだろう。
それでも、奴の中で、事故の直前までは、俺を脅しねじ伏せたところで記憶が終わっている。もうあの時までの自我がない以上、人生が終わったと言っていい。脅し逃げ、いや、殺人未遂逃げされたと言っていい。
奴は自分のやったことを責められも抗議されることなく、残虐な殺人を犯しながら悠々と逃げ切り天寿を全うした犯罪者の様に、絶対許されてはならない男だ。
俺はこの我慢ならない思いを伝えられぬまま、悶々とした人生を今後も過ごさなきゃならないのか。
いったいなんでこんな余計な人生が待っていたのか。こんな目にあう必要はどこにもなかったはずだ。
そう悶々としながら過ごしていたある日、テレビである男が自らの体験を語っていたのを見る機会があった。
その男は、どうも元はならず者のようだった（多分）。
最初から見ていないので過去は良くつかんではいないものの、確かに言えることには、左右とも手足がなかった。
その男は、それを自業自得だと自らで言っていた。
おそらく、バイクでふっ飛ばしたか何かだろうか。喧嘩だけでは、そこまでになってしまうのは難しいだろう。
俺はそれを見て、ふと思った。
俺を脅したあの野郎も、あれは自業自得というものだったんだろうかと。
自分が好きで乗っていたバイクが、自分に牙を向けたのだ。
人を脅していいように言うことを聞かせて生きるつもりが、間抜けなことに、自らが人に言うことを聞かされ動かされなければ何もできない人生となってしまった。
あの植物人間になったごとき様を見て、まるで俺が脅されたときの精神状態そのものだと思った。
何をしたくともできない。主張のひとつもできない！ まるで生き生きとできない！
自分が向けたものが自分に跳ね返るという教えは、現象として確かに存在した！
俺は宗教は好きじゃないが、その辺を見抜いていたことだけは知恵の深さを感じた。
それでも俺は吹っ切れず、今でもこうしてはけ口を求める日々。
奴と同じように、俺は障害者の様なものだ。ただし精神的に。
何もしないままでは、一生こんな軟禁状態のままで生きなければならなくなる。
とにかくできることからやりたい。もはや黙ってはいられない。自分の一生を取り返し、今までの屈辱に対しての給金でももらって、悠々と楽しく後の人生を生きたいものである。
本当に、あの脅しに勝ったと心から信じられる事実を手に入れ、二度とあのような屈辱に出会わなくて済む人生を。
ある日の授業中、そいつか、一緒にいた隣の奴が、俺に「黒板が見えないから伏せていろ」みたいなことを言う。
授業中に伏せてたら、先生に態度が悪いと思われる。俺は嫌がった。
そうしたらどうだ、後で呼びつけて、俺を殺さんとばかりに脅しにかかった。
俺は、もう笑うしかなかった。
おかしいんじゃないよ。人間、極度の恐怖と危険を感じたら、笑うしかないんだ。
俺はそのせいで、それから20年以上経つ今でも社会へ出られない。というより、自らを主張さえできない。少なくとも若者相手では、返ってくる反応ですぐ思い浮かぶ のは、脅されることばかりだ。おそらく、小学生並みに臆病になっている、というよりそのぐらい退行してしまったのではないか。
奴は正しさの名を冠していながら、非道な男だった。
もちろん、そいつからだけやられたわけじゃないが、自分を全否定されて、バカ正直にやってられねえよ。
こうなったら、とことん取り返さなきゃあ気が済まない。
いつか大人になって、体制を立て直したら、いよいよ社会を見方に攻め入るつもりだった。
しかし・・・
そいつは、高校のとき、バイクで事故ったそうだ。
バイクを運転中、詳しく走らないが、脳を損傷する大怪我だったらしい。
それでもそいつはガタイがいいからくたばりはしなかった。だがさすがに脳をやられては人を脅すことはできない。人間は決して絶対君主にはなれないのだ。
後に偶然会ったとき、もうすでに俺の知っている奴ではなかった。
不良グループのリーダー的存在が、卒業して数年も立たないうちに、母親に付き添われ、言葉に反応して緩やかに動くだけの機械のようだった。自我なんてどこにも感じられなかった。
その時はさすがに何も言えなかった。半植物人間を前にしては。あれこそ、生ける屍というやつだろう。
それでも、奴の中で、事故の直前までは、俺を脅しねじ伏せたところで記憶が終わっている。もうあの時までの自我がない以上、人生が終わったと言っていい。脅し逃げ、いや、殺人未遂逃げされたと言っていい。
奴は自分のやったことを責められも抗議されることなく、残虐な殺人を犯しながら悠々と逃げ切り天寿を全うした犯罪者の様に、絶対許されてはならない男だ。
俺はこの我慢ならない思いを伝えられぬまま、悶々とした人生を今後も過ごさなきゃならないのか。
いったいなんでこんな余計な人生が待っていたのか。こんな目にあう必要はどこにもなかったはずだ。
そう悶々としながら過ごしていたある日、テレビである男が自らの体験を語っていたのを見る機会があった。
その男は、どうも元はならず者のようだった（多分）。
最初から見ていないので過去は良くつかんではいないものの、確かに言えることには、左右とも手足がなかった。
その男は、それを自業自得だと自らで言っていた。
おそらく、バイクでふっ飛ばしたか何かだろうか。喧嘩だけでは、そこまでになってしまうのは難しいだろう。
俺はそれを見て、ふと思った。
俺を脅したあの野郎も、あれは自業自得というものだったんだろうかと。
自分が好きで乗っていたバイクが、自分に牙を向けたのだ。
人を脅していいように言うことを聞かせて生きるつもりが、間抜けなことに、自らが人に言うことを聞かされ動かされなければ何もできない人生となってしまった。
あの植物人間になったごとき様を見て、まるで俺が脅されたときの精神状態そのものだと思った。
何をしたくともできない。主張のひとつもできない！ まるで生き生きとできない！
自分が向けたものが自分に跳ね返るという教えは、現象として確かに存在した！
俺は宗教は好きじゃないが、その辺を見抜いていたことだけは知恵の深さを感じた。
それでも俺は吹っ切れず、今でもこうしてはけ口を求める日々。
奴と同じように、俺は障害者の様なものだ。ただし精神的に。
何もしないままでは、一生こんな軟禁状態のままで生きなければならなくなる。
とにかくできることからやりたい。もはや黙ってはいられない。自分の一生を取り返し、今までの屈辱に対しての給金でももらって、悠々と楽しく後の人生を生きたいものである。
本当に、あの脅しに勝ったと心から信じられる事実を手に入れ、二度とあのような屈辱に出会わなくて済む人生を。