<検証>
民主党の小沢一郎幹事長が5月の大型連休中の訪米を見送ったことが波紋を広げている。小沢氏側は、重要法案が残り「大型連休中の本会議も有り得る」(山岡賢次国対委員長)という国会情勢や参院選準備を見送りの理由にあげている。しかし、背後には米軍普天間飛行場移設問題をきっかけに日本への不信感を強める米政府内の複雑な思惑と駆け引きがあり、それが「二元外交」批判を懸念する小沢氏のいら立ちを深めてしまったという悪循環が見え隠れしている。
「米国という国は理解できない。『来てくれ』と言っておいて、それっきりで、招待状も持ってこない」。3月11日、国会内で中国の唐家〓前国務委員と会談した民主党の小沢一郎幹事長は米国への不信感をあらわにした。小沢氏は2月2日、国会内でキャンベル米国務次官補と会談し、訪米を招請されていた。しかし、その後、米側からの接触は途絶え、1カ月たってもまともな調整は進んでいなかった。
キャンベル氏の念頭にあったのは、小沢氏の昨年12月の訪中だ。民主党議員約140人を率い「民主党は中国寄り」との印象と懸念を米政府内に広げた。キャンベル氏は訪米を招請した際、小沢氏に議員団を組織するよう求め、3月の毎日新聞のインタビューでも「(小沢氏と)同時に他の党幹部、政府高官にも訪米してもらいたい」と強調した。
米政府内の数少ない「知日派」であるキャンベル氏にとって、訪米団で昨年の訪中団の印象を薄め、バランスをとらせる狙いがあった。さらに、自らが深くかかわる米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題の決着に向け、小沢氏の実力に期待するところがあったとみられる。
だが、こうしたキャンベル氏の思惑に、日米双方で複雑な波紋が広がっていく。日米関係筋によると米大使館関係者は小沢氏が訪米の条件にオバマ米大統領との会談をあげたことに対し「首相でもない小沢氏に大統領の招待というわけにはいかない」と不快感を示したという。アジア外交を統括するベーダー国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は中国に詳しく、キャンベル氏とはやや距離があると見られているが、ベーダー氏も小沢訪米に否定的だったという情報もある。米政権内の力学が、米側からの具体化が進まなかった一因とみられる。
一方、小沢氏側も最初から訪米に積極的だったわけではない。昨年12月初旬に小沢氏と訪米について意見交換した側近によると、当時から小沢氏は「今行くと普天間の話にならざるを得ない。自分が関与すれば二元外交と批判される」と懸念していたという。政府の迷走を懸念しつつも、可能な限り口出しを避ける姿勢をとっていた。小沢氏の米国への怒りは「二元外交」を批判されるリスクを冒して米側の「正式な要請」(小沢氏)に応えたのに、米側が手続きを進めようとしないと受け取ったためだ。小沢氏の側近議員は「普天間などで微妙な時期に訪米すればよくない憶測を呼ぶ」と語る。
ただ、12日からワシントンで開催される核安全保障サミットでも、正式な日米首脳会談は設定されていない。小沢氏の訪米見送りも重なったことで、混迷する普天間問題が日米の要人の交流を妨げている印象が日米間に広まった。求心力の低下がささやかれる小沢氏にとっても、一度は前向きな姿勢を明言しただけに訪米先送りはマイナスだ。今回の先送りは日米双方に後味の悪さを残した。【須藤孝、念佛明奈】
毎日新聞 2010年4月9日 東京朝刊