大分市内で20代女性が性的暴行を受けてけがをした事件で、大分県警が被害女性の意向をくんで裁判員裁判の対象となる強姦(ごうかん)致傷容疑での立件を見送り、強姦容疑で男を逮捕・送検したことが8日、県警への取材で分かった。性犯罪をめぐる裁判員裁判は、被害者のプライバシー保護など二次被害防止が大きな課題とされているが、制度のために捜査方針の変更を余儀なくされた実態が初めて明らかになった。
県警によると、事件は昨年9月4日深夜に発生。大分市内の路上で帰宅途中の女性が性的暴行を受けた。女性は全身に軽傷を負い、診断書も作成された。県警は強姦致傷事件として捜査。容疑者として同県杵築市相原の無職半澤周二被告(37)=強制わいせつ罪などで公判中=を割り出した。
しかし事件に関して、女性側から「裁判員裁判で他人の目に触れるのは嫌だ。どこで誰に漏れるかわからない」などと県警に不安が寄せられたため、今月6日、強姦容疑で半澤被告を逮捕、8日に同容疑で送検した。
裁判員法は、最高刑が無期懲役の強姦致傷罪は裁判員裁判の対象となるが、3年以上の有期刑の強姦罪は対象外としている。
各地裁は性犯罪を審理する際、被害者が傍聴者に分からないように、法廷外の別室からモニターを通して被害者に意見陳述させるなどの配慮をしている。最高裁によると、被害者の実名が記された起訴状や証拠写真を裁判員に見せるかどうかは各地裁の判断に委ねられる。昨年9月の青森地裁の公判は、裁判員には裁判官に提出されたのと同じ書面が示された。
裁判員には守秘義務が課せられるが、女性側は守秘義務の徹底について不安を覚え、県警も被害者感情に配慮した形だ。
最高裁は「同様の例があるかどうかは聞いていない」としている。
=2010/04/09付 西日本新聞朝刊=