「引きこもり」するオトナたち
【第15回】 2010年4月8日 池上正樹
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1度社会から断絶されるとどん底に…
貧困と無縁ではない「引きこもり」の実態

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 「とにかく寝たい。寝続けよう」

  気がついたら、引きこもりになっていた。ところが、立ち上がろうと思っても、そういういきさつが体に刻み込まれているので、働くことに意義を見いだせなかった。

  「また、あの地獄に帰っていくのか」と思うと、怖かったのだ。

1度社会から切断されると
繰り返してしまう無意味な自問自答

 梅林さんによると、就労を経て引きこもった人たちからは、こうした自分の経験に似たような相談が多いという。

  「共有しているのは、自分の体や心に負った痛みとはまた別の次元で、働く意義や価値を解体している。孤立した中で、向き合う相手が自分自身しかいない状況に長期間置かれると、まず自己否定する。引きこもった状況の自分自身を到底、肯定できないからです」

 彼らは必然的に、自分に対して否定的な感情が芽生え、「このままでいいのか?」「なぜこうなったのか?」と、自問自答を始める。そして、理由を探したり、これからのことを考えたり、多くの問いかけをほぼ24時間続けているという。

  「自問自答を繰り返すということは、言葉に置き換えると、1つ1つの事柄をすべて言葉にしていく作業。なぜ自分は生きているのか?なぜ働かなければいけないのか?といったように、疎外されない状況の中で、人と密な関わりの中で過ごしていれば、とくに必要のない問いかけをせざるを得ないのです」

 その結果、暗黙の共有された価値や意義である「自明性」が崩壊していくと、梅林さんは考える。それは、本来、学校や地域、家族、会社の中で体感として育んでいくもの。しかし、1度切断されて、滑り落ちて、何もない所に置かれてしまうと、もう1度最初から、言葉にしていくしかないからだ。

  「自分も働くのはもう嫌だと思って、休んでいるうちに、引きこもってしまった。そして、引きこもっている間に、さらに自分を追い込んでいく。当たり前のものを1つ1つ壊して解体していき、自分なりに積み上げようとした。結果的に、何もわからなくなってしまったのです」

 梅林さんが再び社会に復帰したのは、ゆっくりした気づきがあって、言葉にしなくてもいい領域があることを理解したからだ。

 暗黙の了解の中で生きている人たちにとっては、理解する必要はない。しかし、はがしてしまった人たちは、もう1度自分で言葉漬けしながら、暗黙の領域という言葉を作って、「ここは気にしないぞ!」という言葉で、カギをかけなければいけないという。

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池上正樹 [ジャーナリスト]

1962年生まれ。大学卒業後、大手通信社や制作会社の勤務を経て、フリーに。月刊誌や週刊誌、夕刊紙で、ひきこもり現象や健康医療、マンションなど、医・食・住のテーマを主に手がける。著書は、『ハッピー リタイア マニュアル』(ゴマブックス)、『痴漢「冤罪裁判」』(小学館文庫)、『「引きこもり」生還記』(小学館文庫)など。


「引きこもり」するオトナたち

「会社に行けない」「働けない」――家に引きこもる大人たちが増加し続けている。彼らはなぜ「引きこもり」するようになってしまったのか。理由とそうさせた社会的背景、そして苦悩を追う。

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