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特集ワイド:ゆうかんなトーク 政治に体力、報道に提言を

 近藤勝重・夕刊編集長を聞き役に、旬のテーマを語り合う「ゆうかんなトーク」。第1回のお相手は小菅洋人政治部長です。支持率低下で混迷を深める民主党政権や新党騒動、さらには変革を迫られるメディアについて語ります。【構成・山寺香】

 ◇小菅洋人・政治部長--首相の言葉の信頼欠如、深刻

 ◇近藤勝重・夕刊編集長--普天間、政争の具にするな

近藤 新企画は「夕刊」に加え「勇敢」の意味も込めています。まずは与謝野馨、平沼赳夫両氏の新党「たちあがれ日本」です。TBSラジオの時事川柳に党名と立ち上がる際のひと声を詠み込んで「たちあがれ? だったらむしろ“よいしょっ党”」や「立ち上がれその足腰で立てるうち」といった句がありました。

小菅 前途は厳しいと思いますね。新鮮味がないし、政策理念の違いが大きく、数合わせの印象が強い。ブームにはならないでしょう。

近藤 「サンデー毎日」の編集長だった時、首相になった日本新党の細川護熙さんを表紙にすると、よく売れました。清新さがあったんですね。司馬遼太郎さんは、「新」は語源的には「木ヲ斤(き)ル」、切り口の香気だと書いています。民を新たにする「新民」、一方で自らも新たにする政治的意味合いにも触れています。そうすると、今回の「新」は何なのかと。

小菅 70歳を超えた与謝野氏と平沼氏は、喉頭(こうとう)がん、脳梗塞(こうそく)と大病もし、政治家として残された時間との闘いの中で、命を削っている。悪評紛々ですが、メンバーの一人は「シルバー新党」だと居直っています。比例でいい候補を出せるかがポイントで、一時は応援団の石原慎太郎東京都知事の名前も上がりました。できるだけ平沼色を出さず、財政再建、経済成長を2本柱にする与謝野さんを前面に出せば、民主党のウイークポイントをつくことはできる。

 失望するのは、威勢のいいことを言いながら立ち上がらない中堅・若手です。地元後援会からは「逆風の衆院選を勝たせてやったのに勝手なことをするな」といったプレッシャーもある。小選挙区制度だから、落ちぶれたとはいえ、自民党公認も捨てがたい。計算ずくでは離党はできないということでしょう。

近藤 鳩山邦夫衆院議員の合流はありえますか。与謝野さんは鳩山由紀夫首相に「平成の脱税王」という「言霊(ことだま)」を発しました。五十歩百歩の邦夫氏と合流するのはおかしいです。

小菅 新党を作るには事務所家賃や職員の給料、選挙対策費など金がかかる。新党メンバーからは「邦夫さんの資産を担保に、資金を銀行から借りたい」という現実論を耳にしました。しかし、邦夫さんも近藤さんの言う通り母親からの資金提供問題を抱えており、今すぐ「さあお入りください」とは言えない。

近藤 舛添要一参院議員は、どんな動きをしますか。

小菅 舛添さんの動向は自民党の命運を握ります。新党の園田博之衆院議員は自民党の大島理森幹事長に、幹事長を舛添さんに代えるぐらいの人事をすべきだと進言していた。新党にあわてた執行部は、舛添さんを取り込もうと必死になったが、舛添さんは携帯にも出ません。世論調査での舛添人気で存在感もますます増しています。(1)離党(2)無役のまま選挙後に総裁を狙う--元東大の先生ですから世論分析も鋭く、人気の賞味期限を意識しながら、本人もぎりぎりの判断をするでしょう。

近藤 鳩山政権に対しては、二つの見方があるようです。一つはまゆつば。もう一つは試行錯誤中。部長はどちらをとりますか。

小菅 まゆつばだとは言いませんが、衆院選中、民主党は「財源はある」と主張したが、現実は違った。マニフェスト修正に世論は寛大ですが、中間採点である参院選での審判は受けなくてはならない。

近藤 「人間の建設」と題した小林秀雄、岡潔両氏の対談に、人間は生後18カ月前後に一つのまとまった全身運動をするといった話が出てくる。人間と政権を一緒にはできませんが、すべてが初体験なのですから米国並みの早さで評価を下すのは性急かと。

小菅 ある記者から「鳩山首相に『毎日は新政権のことを比較的好意的に書いてくれる』と言われた」と報告を受けました。政治家に感謝されるのは気分はよくないし、是々非々でやっています。新政権発足時には部員に「政権は迷走するかもしれないが、混乱、混乱と書くのはよそう。生みの苦しみもあるはずだ」と話しました。自民党政権時にはこんなことは言ったことがない。でも新政権は予想以上にもろかった。

近藤 つまり待つ姿勢は十分持っていたけれどあまりにもひどいと。

小菅 鳩山さんは普天間飛行場移設問題を5月末までに決着させると明言しているが、この言葉をどれだけの国民が信じているのか。首相の言葉は信頼を失っている。これは深刻です。このままでは民主党は参院選を乗り切れず、また政局は安定しなくなる。衆院選と参院選を連続して勝てる政党はなかなか出てきません。それゆえ衆参のねじれがないように、常にダブル選挙を志向しなくてはならない。

  ■

近藤 日本の戦後は、広島と長崎に原爆が落とされ、沖縄が占領され、その大きな反省から始まりました。密約の問題は、核と沖縄がともにうそで塗り固められていたということです。そうなると、戦後って一体何だったのか。国家のうそです。「法の支配」という国の基本原理は、うそをつかない国家のもとで成り立っている。外交上の秘密とうそは違いますよね。鳩山政権が密約と歴代総理のうそ答弁を明らかにした点は大いに評価したい。

小菅 密約公表は、政権交代とはこういうことだと思いました。文書破棄の問題も徹底的に解明してほしい。

近藤 しかし、それはそれ、実権を握る政治家のカネをめぐるうそは許せない、そこから民主党の小沢一郎幹事長が好きか嫌いかと、政治がそこに落ち込んでいる印象があります。

 ところで、小沢さんの秘書だった石川知裕衆院議員の国会開会前の逮捕については、結果的にどうだったのか、と今も「?」です。

小菅 いや、検察批判はかつてなく噴出しました。自民党一党支配の時代は、検察により政治が浄化されるという検察頼みの空気があった。でも政権交代という手段を得た今、検察ではなく有権者が政権を代えるという発想が必要です。逮捕、起訴されたから、または不起訴だから、という理由で責任論を語るべきではないと思います。

近藤 ずばり聞きますが、小沢さんは辞めるべきだと思いますか。

小菅 思います。旧田中派的な体質を引きずる小沢さんを乗り越えないと民主党の新しい政治は実現しないと思います。民主党のリーダーたちがあまりにもひ弱だから、小沢さんに頼らざるを得ない。鳩山首相はいきなり小沢さんに辞めろとは言えないでしょう。普天間問題の処理も絡みますが、あるタイミングで内閣を改造し、それを機に小沢氏交代を含む党役員人事も決断できるかが、参院選前の最大の焦点でしょう。

近藤 自殺者や失業者の増加、貧困、格差、虐待……。社会はぐしゃぐしゃです。ここで政治がもっとおかしくなったらこの先何が待っているのでしょう。

小菅 本当に危機感を感じています。福田康夫首相の時、小沢さんと大連立を組む話がありました。あの時は批判的に考えていましたが、この国はどうなってしまうのかと考えた時、そうでもしなきゃという気にもなります。

近藤 私は世論調査も気になります。鳩山政権が何を志し将来どういう果実をものにするかより、当面のマイナス点に引っ張られた負の連鎖もあるような気がします。

小菅 世論調査結果はあくまで参考指標で、すべてではありません。だが、世論調査で政局が動く時代です。リーダーたちは、結果に向き合う政治的体力が必要ですよ。

近藤 政治を育てようという意識はありますか。

小菅 政治記者がまずやるべきことは、水面下に隠れている権力者の思惑や手口を暴き出し読者に明らかにすることです。一方で、人材難ですから、「これは将来性がある」という政治家がいたら、積極的に取り上げる姿勢が必要だと思います。

近藤 普天間の問題では、沖縄の市民団体は「日米安保が必要ならば、みんなが応分の負担をすべきだ」と。みんな同等に生きていく、その道を探すのが政治です。沖縄に集中する基地の問題は超党派のテーマなのに、政争の具になっている。先の党首討論などでは、意見を出し合うべきところでとっちめて点数を稼ごうとしている。討論の後に、「追い込めなかった」などの言葉で表現する報道もあるが、首相が辞めるとか辞めないの言質を取る討論など、もううんざりです。

小菅 党首討論は、党首がぶつかり合う闘いのひのき舞台です。その迫力から真の政策論争も生まれてくる。党首の背中を押す意味でも、どっちが勝ったかをマスコミが判定するのは必要です。

近藤 メディアは批判をして飯を食っているようなところがありますね。権力監視がジャーナリズムの一番の役割ですが、政治ジャーナリズムは批判だけではすまない転機にきている気がします。

小菅 そういうことですね。批判するだけでは「じゃあ、あなたたちはどう考えているんだ」ということになる。これからは、もっと「提言報道」が必要になるのかもしれません。

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t.yukan@mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2010年4月9日 東京夕刊

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