放送批評懇談会が選ぶベスト番組【ギャラクシー賞月間賞】
“日本固有の文化”なるフィクションを打ち砕く〜NHK「日本と朝鮮半島2000年」
(GALAC 2010年4月号掲載) 2010年4月6日(火)配信
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ETV特集
「シリーズ 日本と朝鮮半島2000年」全10回
2009年4月26日〜2010年1月31日放送 22:00〜23:30
日本放送協会
2009年4月から、全10回にわたるETV特集「日本と朝鮮半島2000年」を観て、たくさんの未知の歴史と出会った。それは、他者を通して自らを振り返ることの反復であり、同時に新たな考古学上および歴史研究の実証を伴って、“日本固有の文化”というフィクションの虚妄性を明らかにする過程でもあった。
番組は弥生中期以降の日韓交流史を、常に東アジア全体を俯瞰する視点から考察した。だから水稲も鉄器も、漢字や仏教、さらに律令制度から暦に至るまで、生活・社会に係る大多数の事物や文化が、朝鮮半島経由で渡来したことに今更ながら感嘆させられた。
全10回を総評するのは容易でない。が、たとえば第5回、6世紀ごろには玄海灘でなく日本海ルートの“民間交流”が渤海(中国東北部)やロシア沿海州のクラスキノにまで及んでいたこと。第6回、蒙古襲来を阻んだのは“神風”よりも、朝鮮の軍事集団「三別抄」の蒙古軍への猛反撃だったこと。さらにはベトナムの蒙古軍撃退が3度目の日本襲来を断念させたこと。第8回、秀吉の7年にわたる朝鮮侵略は民衆を苦しめ、5万とも20万ともいわれる「被虜人」(朝鮮人連行)を生んだこと。日本兵も飢餓に瀕し、この出兵が豊臣政権を崩壊させたこと。第9回「朝鮮通信使」の往来が、鎖国の江戸時代に時ならぬ韓流ブームを招来したこと。そして第10回、福沢諭吉と朝鮮の若き開化派金玉均の親交は、「脱亜」の一言では片付けられぬ近代化の苦悩と可能性を孕んでいたこと等々、いわば日本の文化・政治体制を相対化し、批判する視点を提示する深い「教養」番組であったことに敬意を表したい。
番組中での地名、人名は江華島(カンファド)、李舜臣(イシュンシン)のようにすべて朝鮮語で発音された。また朝鮮語会話に堪能な大桃美代子らの現地リポートと日韓双方の学者による歴史分析にも行き届いた配慮が見えた。この番組のバトンを引き継ぐ4月以降のNHKスペシャルに期待したい。(藤久ミネ)
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