全国高校野球選手権大会第12日は19日、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で準々決勝2試合があり、県代表の佐賀北は春夏通して3度の全国優勝を誇る帝京(東東京)に延長13回の末、4―3でサヨナラ勝ちし、県勢として13年ぶりの準決勝進出を果たした。県勢の「全国4強」は1960年の鹿島、1994年の佐賀商に続き3校目となる。
佐賀北は、1回裏1死一塁から4番市丸大介が右翼へ適時三塁打を放ち、一走副島浩史が先制のホームを踏んだ。1―1の同点に追いつかれた直後の2回裏には、二死満塁から2番井手和馬が左前にはじき返し2―1と勝ち越すと、続く3回には3番副島が左中間スタンドに今大会2本目となるソロ本塁打をたたき込み、3―1とリードを広げた。
全国屈指の強豪・帝京も持ち前の強打で意地を見せ、4回表、再び同点とされたものの、馬場将史、久保貴大両投手の粘り強い投球と内外野の堅い守りで猛攻をしのぎ、追加点を与えなかった。13回裏は二者が凡退したが、9番馬場崎俊也が左前打で出塁。1番辻尭人も中前打で続き、一、二塁。井手が好投手・垣ケ原が投じた2球目の直球を中前へ鮮やかに運び、二走・馬場崎を迎え入れ、3時間を超える熱闘に終止符を打った。
準決勝は第14日の21日、同球場で2試合があり、佐賀北は20日にある長崎日大(長崎)―楊志館(大分)の勝者と、第2試合(午後1時半開始予定)で決勝進出をかけ対戦する。
【佐賀北-帝京】4強進出を決め、応援団のアルプススタンドへ駆ける佐賀北ナイン=甲子園
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▽準々決勝
佐賀北-帝京(11時、30000人)
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計
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帝 京
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佐賀北
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1X
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4
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(延長13回)
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【帝京】 高島、垣ケ原-鎌田
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【佐賀北】 馬場、久保-市丸
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▽本塁打 副島2号(1)(垣ケ原)
▽三塁打 市丸(佐)
▽二塁打 中村2、長田、杉谷拳、上原(帝)
▽犠打 杉谷拳、鎌田(帝)辻、井手2、田中(佐)
▽盗塁 中村、長田(帝)
▽失策 久保(佐)
▽暴投 久保(佐)
▽試合時間 3時間12分
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【戦評】試合の流れは、帝京にあった。帝京の怒とうの攻撃を何度もしのいだ。佐賀北がいつまで辛抱できるのか、とみんな思っていた。だが、勝ち名乗りを上げたのは佐賀北だった。
延長13回は簡単に2死をとられた。9番馬場崎は三遊間をゴロで破って出塁。1番辻が中前打で続いた。井手は0―1からの内角高めの直球をセンター前にはじき返し、二走馬場崎が本塁に滑り込み、3時間12分の激闘に終止符を打った。
序盤は佐賀北のリズムだった。初回、副島を一塁に置き、市丸の右翼への幸運な三塁打で先制。同点に追いつかれた直後の2回は満塁から井手の左前適時打で2―1と勝ち越した。3回には3番副島が、帝京の2番手垣ケ原の代わりばなの直球を強烈なスイングでとらえ、左中間まで運ぶ今大会2本目の本塁打でリードを広げた。
だが、地力がある帝京は直後の4回、6番長田の左中間の適時二塁打で同点に並んだ。
いつもの通り、6回から先発馬場を引き継いだ久保は強打の帝京に3長打を含む8安打を浴びながらも粘り強い投球を続けた。10、12回と2度、スクイズを敢行されたが、好フィールディングで三走を刺すなど13回までの8イニングを無失点で切り抜けた。
久保だけではない。右翼江頭の好返球。中堅馬場崎は、この日もフェンスにぶつかりながら打球を離さない超美技。内野陣も鉄壁の守備を見せた。全員で守り、奇跡的なサヨナラ劇を演出した。
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「抜けてくれ」。魂を込めた打球は二塁手のグラブの左上をライナーで越えていった。優勝候補の帝京との延長13回に及ぶ激闘に終止符を打ったのは、佐賀北の2番井手和馬だった。小学3年から10年間の“野球人生”で初めてというサヨナラ打。チームをベスト4に導いた163センチのヒーローは「夢のようです」。笑顔は、夏の日差しにも負けないほどまぶしかった。
2死一、二塁。一打サヨナラというしびれるような場面で打席に向かった。しかし、「自分が決める」という色気はなかった。「なんとか(3番の)副島につなぎたかった」。それが自分の役割と思っていた。待ったのはカウントを取りに来る直球。1球目は内角高めに直球、ボール。「次に来る」。帝京の2番手垣ケ原が投じた「真ん中ストレート」を、狙いすまして振り抜いた。
佐賀大会で4割の打率を残した。しかし、好調だった打撃は甲子園に入ってから下降線をたどる。3回戦まで16打数4安打、2割5分と当たりが止まっていた。
復調のきっかけは前日の練習にあった。グリップ位置が下がり、ヘッドが寝て、バットが下から出ている。野球を始めたころから自宅での150球ものトスバッティングに付き合ってくれた父・学さんのアドバイスだった。
「上からコンパクトにたたく」。この日は鋭い打球を連発した。初回には先制の口火となる右前打、2回には勝ち越しの左前打。そしてサヨナラの中前打。価値ある3安打を左右に打ち分け、完全復活を見せた。
小学校時代、休みの日は朝7時から夕方まで黙々と壁投げをするほど野球が好きだった。高校野球中継を見て、甲子園で活躍する選手にあこがれた。そんな野球少年が、夢の舞台のお立ち台に立った。そして言った。「ここまで来たら頂点を狙います」。決してうわついた言葉ではない。しっかり正面をみつめ、自信に満ちた口調で言い切った。
【佐賀北―帝京】13回裏佐賀北2死一、二塁、井手が中前にサヨナラ打を放つ=甲子園
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聖地のマウンドにはこの日、間違いなく背番号1の「野手」がいた。3―3の延長10回表1死二、三塁。佐賀北のエース久保貴大が投じた初球スライダーだった。帝京の6番長田はスクイズを敢行、打球が久保の正面に転がった。
投球と同時に猛然とダッシュする久保。「刺せる」。捕手の市丸大介に、冷静なグラブトスで白球を預けた。タッチアウト。後攻めとはいえ、絶対に1点もやれない「剣が峰」を、自らの好守で乗り切った。「練習通りですよ」。
さらりと言ってのけるだけの理由がある。ブルペンに毎日入ることはなくても、バント処理の練習だけは欠かしたことがない。絶対の自信を持つ「前」への守備。78キロと横幅があるが、市丸は「投手陣の中で、あいつが一番俊敏なんです」と言う。
12回も強打の帝京からピンチに立たされる。1死一、三塁。今度も3球目のスライダーをスクイズされたが、正面の打球をグラブで捕球しそのままトス、また本塁で捕殺した。投球技術だけに「特化」することなく、磨いてきた「投手の守備力」が4強切符をかけた大一番で実を結んだ。
「本職」では、振りの鋭い帝京打線に3本の二塁打を含む8安打を浴びた。延長に入ってから、佐賀北攻撃中は、氷で額を冷やし続けた。だが、甲子園での躍進を支える外角への制球は体が覚えている。この日も狂いはなかった。初戦の福井商戦から続く連続無失点は、27回2/3まで伸びた。先発投手であればもう3試合以上、点を許していない快記録だ。
「打たれた長打も失投ではないし、いい球がいっていたと思う。どんな場面でも“集中”です」。試合後も浮かれることなく、ペットボトルの水をおいしそうに飲みながら冷静に話し続けた。フィールディングも巧みな佐賀の「無失点男」は、炎熱のマウンドに仁王立ちを続ける。
【写真】帝京戦で6回から2番手で登板し、再三のピンチを無失点で切り抜けた佐賀北・久保=甲子園
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先発メンバー9人のうち170センチを超える選手は3人しかいない。そんな「小型」で、練習時間も制限される県立普通校の佐賀北が、大型選手をそろえた私学の雄・帝京を破り、4強に進出した。甲子園で勝てるチーム、夏を勝ち抜くチームづくりを目指した地道な「体力強化」が実を結んでいる。
14日の2回戦からこの日の準々決勝まで6日間で4試合。いずれも炎天下のゲームで、うち2試合は延長戦。疲れを心配する周囲の声に、市丸大介主将がナインを代表して「それだけの練習をやってきました」。体力に絶対の自信を持っている。
「試合は集中力が大切。その集中力を支えるのは体力」。百崎敏克監督の持論だ。昨年夏の新チーム結成後、徹底して基礎体力強化に取り組んだ。70メートルダッシュを交えたインターバル走、スクワットなど20種類はあるという下半身強化メニュー。選手たちが「走ってばっかりでした」と言うように、3時間あまりの練習のうち、半分近くは「野球以外」に費やした。
延長13回を戦い抜いたこの日の試合でも、高い集中力を見せた。深いゴロを確実に処理した遊撃の井手和馬、2度のスクイズを仕留めた投手久保貴大のフィールディングなど、いずれも打球に対する「第一歩」が速かった。
「球際の強さ」を、随所に見せる佐賀北ナイン。それはこの1年で積み上げてきた体力が支えている。記録には残らないが、基本に徹した堅実なプレーにこそ佐賀北野球の強さがある。
【写真=佐賀北―帝京】10回表のピンチをしのぎ、気合いを入れる佐賀北ナイン。この1年の地道な体力強化が、炎熱のグラウンドでの過酷な戦いを支えている=阪神甲子園球場
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絶体絶命のピンチを佐賀北の右翼手・江頭英治の好返球が救った。9回表2死一、二塁。帝京2番の上原の打球が一、二塁間を抜ける。猛然とダッシュする江頭。「絶対刺す」。ワンバウンドでの「ストライク返球」を本塁を守る市丸大介に送り、補殺に仕留めた。
6月のNHK杯の時、百崎敏克監督から指摘された。「送球が甘い」。肩を痛めていた時期もあって、送球にそれほどこだわりはなかった。しかし、そのひと言で変わった。日々のキャッチボールでも常に「正確に」を意識した。
一塁手・辻尭人のカットプレーも光った。佐賀北の外野ノック中、捕手の市丸の声がよく響く。「カットはしっかり正面に入れ」。捕球場所と本塁をつなぐ線上にきっちり入る。そしてグラブの高さも本塁までの距離を考えて構える。この日も基本を確実にこなした。
「(カットに入った)辻さんのグラブ目掛けて投げました」と江頭。この日は辻がカットすることはなかったが、見えない連係が生んだファインプレーだった。
【写真佐賀北―帝京】9回表2死一、二塁、帝京2番上原の右前打をホームへ好返球する右翼手江頭。二走垣ケ原を本塁でタッチアウト=甲子園
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延長13回。佐賀北きっての俊足馬場崎俊也が攻守で見せた。帝京の垣ケ原が放った大飛球を外野フェンスに激突しながら好捕。その裏の攻撃では左前打で出塁し、サヨナラのホームに滑り込んだ。
打球を追った馬場崎本人が「ホームランかな」と思うほど大きな飛球だった。それでも懸命に背走、途中で打球に伸びがないと感じた。「これは取れる」。フェンスが気になったというが、打球を捕ることがすべてだった。グラブにボールを収めた直後、左腰からフェンスに激突。転倒したが、ボールは離さなかった。
サヨナラの場面も微妙なタイミングだった。二塁走者としてスタートを切った瞬間は「クロスプレーになる」と思った。三塁をけって捕手のタッチに備え、外に回り込んだ。
しかし、9回にバント安打を決めるなど馬場崎の足を警戒する帝京守備陣の連係が乱れ、ボールが本塁に届くことはなかった。試合を通して帝京に「スピード」を意識させ続け、もぎとったサヨナラのホームだった。
【写真左=佐賀北―帝京】13回表帝京1死、垣ケ原の飛球を好捕し、フェンスに激突する中堅手馬場崎=甲子園
【写真右=佐賀北―帝京】佐賀北13回裏2死一、二塁、2番井手の中前適時打でサヨナラのホームを踏む二走馬場崎=甲子園
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「ウオー」という地鳴りのような歓声が、ダイヤモンドを一周する主砲を祝福した。3回裏無死走者なし。佐賀北の3番副島浩史は、この回から登板した先頭帝京の左腕・垣ケ原の8球目、真ん中直球をフルスイングでたたいた。左中間最深部に届くアーチ。背番号5はベンチの前で、右手を夏空に突き上げた。
開幕戦の福井商戦に続く今大会2本目。「1本目は『入っちゃった』という感じだったけど、きょうは完ぺき」。垣ケ原の内角攻めを想定し、バッターボックスではホームベースにできるだけ近寄って立ち、真ん中付近の甘い球を待った。3球のファウルに、「手応えがあった」という。
横浜高校に進んだ高浜卓也もいた城南中時代は4番。全国中学総体でベスト8入りした。それから3年。自慢の強打は中学より上の「全国4強」に貢献した。「勉強に北高祭の準備とやらなきゃいけないこといっぱいあるんですけど…。大丈夫ですかね」。そう言って苦笑いの顔には、「一日でも長く甲子園でプレーしたい」の熱い思いが見て取れた。
【佐賀北―帝京】3回裏無死、3番副島がレフトスタンドへ本塁打を放つ=甲子園
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