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成長神話 佐賀北の夏

2007年08月23日

 その瞬間、5万人の大観衆がどよめいた。8回、副島のフルスイングから放たれた打球は、大きな弧を描いて左翼席へ飛び込んだ。逆転満塁本塁打――。開幕戦から登場し、この日が7試合目だった佐賀北が、試合ごとに成長を続け、4081校の頂点に立った。

写真両手を上げて喜ぶ久保投手のもとに駆け寄る佐賀北の選手たち

 「満塁ホームラン、出ないかな」。そんな突拍子もない百崎監督の期待が現実になってしまう。佐賀北の勢いは恐ろしく、痛快だ。

 3点を追う8回1死満塁。その3球目だった。甘く入ったスライダーを副島は逃さない。94年、県内のライバルである佐賀商が決勝で放ったグランドスラムと同じ左翼へ打球は消えた。

 7回まで、わずか1安打。外角スライダーに手が出て、10三振を奪われていた。甲子園で無失点を続けていた久保も7回、2点を失う。4点差で、攻撃は残り2回。劣勢は否めない。

 それでも、選手たちはあきらめていなかった。「1点ずつかえしていこう」。1死から久保が三遊間を破る。代打・新川が続き、辻、井手の連続四球でまず1点。副島は「みんながつくってくれたチャンス。つなぐことだけ考えていた」。

 前の打席まで2三振。内角球を見せられた後、苦しんだスライダーにヤマをはった。「体を開かないようコンパクトに振る」。狙い通りだった。

 満塁本塁打での逆転劇は、堅い守備のたまものだ。5回2死一、二塁から左前安打を許しても生還を許さない。6回1死二、三塁でも、遊ゴロを落ち着いてさばいて三塁走者を挟殺した。内外野が大胆にポジションを変え、冷静に送球した。

 あのときの佐賀商と同じ、開幕戦からはじまった佐賀北旋風。延長再試合、延長サヨナラ勝ち……。ひと夏で、様々なドラマを経験し、劇的なアーチで頂点にたどり着いた。「信じられない」と苦笑する百崎監督のそばで、選手たちは屈託なく笑っていた。




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