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【日本の未来を考える】東京大・大学院教授 伊藤元重 企業任せの雇用に転換点

2009.3.7 02:58
このニュースのトピックスフリーター・ニート

 今の日本人は膨大な負担を将来世代に押しつけている。膨れあがっている政府債務はその典型である。政府債務はすべて子供や孫の世代の税負担となることを忘れてはならない。将来世代に負担を押しつけていくような社会の将来は暗い。そして将来の展望が見えない社会では、現在だって活力は生まれない。私たちは今ある制度の一つ一つについて、若い世代に不当な負担を押しつけるものがないか検証しなくてはならない。

 そうした視点から、雇用制度などでもきちっとした検証がなされなくてはならない。バブル崩壊後の厳しい雇用情勢の中で、就職氷河期世代が生まれてしまった。多くの若者がまともな職につく機会を奪われ、今にいたるまでその後遺症は続いている。そして、このままの状況では、今回の不況でまた大量の第2次就職氷河期世代が生まれてしまうことが懸念される。

 景気の好不調によって雇用機会が変化するのには仕方ない面はある。しかし、終身雇用が確立している日本では、たまたま新卒採用の時期に不況にあたった若者は、その後一生不況の後遺症に悩まされることになるのだ。

 現行の日本の雇用制度や雇用慣行では、正規労働者があまりにも保護されすぎており、結果的に若者が排除される傾向がある。雇用確保の責任を企業だけに押しつけすぎている日本の制度の欠陥である。すでに企業に正規労働者として雇われており、「指定席についている」人たちは、手厚く守られているが、新たに労働市場に参入してくる若者はそれだけ不利な地位に置かれることになるのだ。雇用責任を負わせられた企業としては、不況下でそう簡単に新規採用に踏み切ることは難しいからだ。

 労働経済学の世界では、こうした現象を「インサイダー・アウトサイダー問題」と呼ぶ。正規雇用労働者であるインサイダーの権利が強くなるほど、非正規雇用労働者や若者などのアウトサイダーが市場から不利な扱いを受けることになる。すべての人を正規雇用労働者並みにすればよいという乱暴な議論もあるようだが、インサイダーを作れば、かならずその外にアウトサイダーが生まれるのだ。それが職を得られない若者か、それとも不当な扱いを受ける非正規労働者か、さもなければ失業者かの違いはあるだろうが。いずれにしろ、アウトサイダーからスタートせざるを得ない若者がもっとも不利な状態に置かれることになる。

 日本の雇用制度は重要な転換点に来ている。企業だけに雇用責任を押しつけるのではなく、政府や社会が雇用を作る仕組みに転換する必要がある。北欧やオランダなどで行われているように、企業にもっと解雇の自由を認めると同時に、職を失った人の転職と所得保証を徹底的に政府が面倒を見る制度を検討する必要がある。解雇の自由度が高まればこそ、企業ももっと気軽に新規雇用に踏み切れるというものだ。雇用の流動化を高めることは、構造変化の激しい経済の実体に適応することでもある。ある人から聞いた話だが、デンマークでは職を失うとおめでとうといわれることがあるという。先のない産業や企業にしがみつくのではなく、将来性のある職種に転換できるチャンスが生まれるということだろうか。(いとう もとしげ)

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