一流企業社員の7割は一生ヒラ! 城繁幸に聞く“雇用の本音と建前”サイゾー4月 2日(金) 12時58分配信 / 国内 - 社会──城さんは著書『たった1%の賃下げが99%を幸せにする』(東洋経済新報社)の中で「キャリアパスが複数ある会社が望ましい」と強調されています。日本の現状として、そうした会社は増えてきていますか? 城繁幸(以下、城) ベンチャー企業はともかく、残念ながら、国内大手上場企業ではほとんどありません。あえて例を挙げるなら、ホンダでしょうか。同社は、エンジニアとして給料が上がるようなキャリアパスを用意しています。でも、それはごく一部のエンジニアだけで、文系出身では絶対にあり得ません。キャリアパスは日本ではひとつしかないので、あきらめるべきでしょう。年齢によって給料が上がり、40代で課長になって、普通はそこで終わる。5%の人が部長になれるかどうか、というものです。 ──40〜50代の正社員の既得権が守られるあまり、今後、正社員の7割が課長にさえなれないとも指摘されています。社員を守りすぎたために会社の経営が傾いている会社といえばいわゆる大手企業が顕著だと思いますが、どの会社が一番危険だと感じますか? 城 マスコミは全部そうだと思いますが(笑)、特に大手出版社は危ないですね。新聞社は経営が優れているわけではないものの、歴史があり、多くの不動産を抱えているのが有利。毎日新聞社なんて、どう考えても潰れておかしくないのだけれど、不動産があるからやっていけている。しかし出版社のほとんどには、それがない。給与水準が非常に高く、それを見直す能力もないので、僕は今年あたり、有名な出版社の倒産があるのではと思っています。 ──著書の中では、仕事の難易度によって賃金が決まる「職務給」と、年齢とともに賃金が上がっていく「年齢給」の違いを紹介されています。2005年にキヤノンが職務給制度を導入したことも話題になりました。 城 キヤノンが完全に職務給を採用しているかどうかは微妙です。日本では、労働組合により賃下げが認められにくいため、職務給は実現不可能なんです。同じ理由でキャリアパスを複数化するのも無理ですから、日本企業に期待しちゃダメです。入るなら滅私奉公の覚悟で(笑)。賃金の見直しができない以上は、それしかないんです。 ──賃金体系の見直しができるまでの期間とは? 城 僕は20〜30年はかかると思います。それまでは40〜50代の賃金は下がらず、20〜30代の賃金は頭打ちという状況が続くでしょう。そして、経済がさらに落ち込めば、正社員であることのメリットは今以上になくなっていく。そうなれば、複数の企業と契約を結ぶ専門家インディペンデントコントラクターのような形で、自由にいろんな業種から仕事を取ってくるのが、一番儲かるんじゃないかと思います。出版業界などは、将来的にそうなるのではないでしょうか。 ──一方、新卒採用においては、キヤノンマーケティングが採用活動を夏まで控えるというニュースもありました(本特集[就職活動]記事参照)。 城 夏から採用活動を開始して、優秀な人材を確保するのは至難のワザですから、実質的に今年の採用はないと考えるのが自然です。大手のお眼鏡に適う人材を100人集めようと思えば、その100倍くらい、最低でも1万人を集めなければいけない。新卒採用があるとしても、アリバイ作りのための2〜3人というところでしょう。他社が追随する可能性もあります。 ──キヤノンマーケティングが新卒採用を控えるのは、不況による一時的なものなのでしょうか? それとも、今後も継続される可能性があるのでしょうか? 城 新卒採用自体が過渡期にあるのは間違いなく、全体として比重は減っています。しかしながら、現在はやや買い手市場であるものの、数字だけを見れば決して氷河期ではありません。2000年の就職氷河期に1・0倍を割っていた新卒の求人倍率も、今は1・6倍。つまり学生ひとりに対して1・6件の求人がある計算になります。そんな中で、“内定率”が最低水準なのは、企業が新人に求めるハードルが上がったからでしょう。近年の傾向として、年功序列が崩壊しつつあることから、企業は即戦力を求めています。また、リスクの高い新卒採用だけではなく、現在では第二新卒、中途採用、非正規雇用、派遣採用に請負など、選択肢の幅も広くなっている。企業にとって新卒採用にこだわる理由がないので、例えば2〜3年後に景気が回復しても、新卒が売り手市場になるということはないと思います。 ■“死んだ魚の目”を持つ40代サラリーマンの処遇 ──そうして、新卒採用のレールから外れた人は、実質的に大企業に入る道は閉ざされることになります。 城 現状でそうした人材を採る日本企業、それも大手となると、リクルートしかありません。リクルートが30代のフリーターなどを積極的に採用しているのは、単純に労働組合がないため、給料を自由に設定できるからです。つまり、半期ごとに給与が変わり、降格することもある。これが大手電機メーカーであれば、「30歳大卒は、組合とのモデル賃金で550万円保証しないといけない」となり、キャリアがないフリーターを雇うことは難しい。日本中の企業がリクルートのような価値観になれば、高齢フリーター問題はなくなるでしょうね。 ──正社員においても、幹部を選別する年齢が引き下げられる傾向にあるようです。 城 幹部登用はもともと40代半ばが主流でしたが、今や30代半ばになっており、バブル世代がふっとばされた格好です。企業には、40代前半で死んだ魚のような目をしたおじさんたちが、たくさんいる(笑)。例えば新聞社には、好景気で例年の3倍も記者を採用した年もあり、彼らが40代になった今では扱いに困っている。今後はそういう人材をどう使っていくか、という問題が深刻化してくると思います。 ──そういった40代前半の社員に生き生きと働いてもらうために、企業は工夫をする必要がありそうです。 城 その通りですが、現実問題としてなかなか難しいと思います。日本の企業では、30〜40代のメンタルトラブルが増えています。これは、(仕事上のモチベーションの喪失に対して)すでに打つ手がないからで、この問題を解決するには、結局のところ制度を変える── つまり、年齢で区切るシステムをなくさないといけない。先ほども申し上げたように、それには20〜30年かかるでしょうから、今は「アフターファイブに軸足を移して、本でも読みながら楽しんでください」と言うしかありません。 ──年功序列を改め、正社員の既得権にメスを入れる企業が出てくる余地はあるのでしょうか? 城 経営者が長期的なビジョンを持ち、正社員制度を変えなければならないと思っている企業は、少しずつ増えていると思います。また、大手でも現実的に長期雇用を維持できなくなる企業が増えています。例えば電機業界では、富士通などが海外展開に活路を見いだしていますが、国内だけでやってきたNECあたりは厳しいでしょうから、雇用に関しても変革を迫られる可能性はある。しかしながら、トヨタやキヤノンは典型的な日本型雇用を貫いており、大きな構造の変化は望めない現状です。リクルート幹部が経団連のいいポストに就くことがあれば、経済界全体に変化があるでしょうが、それは絶対にあり得ない(笑)。結論として、日本企業の雇用環境が近々に大きく変わることはないと考えています。 (構成/神谷弘一(blueprint)) 城 繁幸(じょう・しげゆき) 1973年、山口県生まれ。東京大学卒業後、富士通へ入社。人事制度の構築などにかかわったのち、独立。近著に『7割は課長にさえなれません』(PHP新書)など。 【関連記事】 ・ 派遣の“叫び”がこだまする現代版蟹工船『遭難フリーター』 |
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