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[9207] 【ネタ】私にとって、ほんの少し特別な、昔話をしようか。
Name: ⑧◆47966b73 ID:2a2a8ca1
Date: 2009/05/30 16:45
私にとって、ほんの少し特別な、昔話をしようか。





















子供の頃の夏休みは、私にとって特別だった。

当時としては、当り前の事なのだろうけど、私にとっては確かに特別だったのだ。













私の実家は、愛知県に在る。

そこに住んでいる祖母に会うために、夏休みを利用してよく遊びに行ったものだ。

お蔭で、夏休みの宿題である、絵日誌の半分が実家の話題で埋まった。


実家に行くためには、朝早く、両親の車に乗り。

私は、久しぶりに帰るであろう、親の会話を子守唄にしながら後部座席で寝た。

コンクリートで固められた道路が、やがてタイヤをガタガタと揺らす田んぼ道に変わると。

私は目を覚まし、車内窓から見える景色に眼を輝かせた。

母親が暑いからと注意をするのにも関わらず、窓を開ける為に、取ってつきのハンドルをぐるぐる回し。

だんだんと下がっていく窓から、だんだんと映る繊細な自然の景色を眺める。


ある人から見れば、山と田んぼしか無いじゃないかと、言うのだろう。

だが、私には、それだけでも別世界の景色に見えたのだ。

溢れんばかりの自然に、私の子供心という心は擽るに擽られて、早く早くと両親を囃し立てた。


電柱が一本ずつ、実家を示してくれるように、立ち並んでいる風景。

その先に見えたのは、今は古き瓦屋根の家。

見間違えようにも、見間違えられない、私の実家である。

運転手の父親は、左右をチラリと確認して、雑草多き広い庭に無雑作に車を停めた。


私は、待ちきれないようにドアから勢い良く飛び出した。

そんな私を迎えてくれたのは、おっきな籠に入れられた鶏達であり。

目立つ鶏冠と、鋭い眼光は、ぎょっとせざるをえない。

視界の橋で、背筋を伸ばす仕草をする親を確認すれば、ここで漸く私は実感する。

――――ああ、夏休みだ。と。


電灯も無い、ビルも無い、本屋だってゲームセンターだって無い。

しかし、自然が在る。山が在る、小川が在る、田んぼが在る。

都会には無いモノが、確かに此処にはあるのだ。

子供ながらでも、私はその感情を誰よりも理解する事が出来た。

いや、もしかしたら子供だったからこそ、その光景をそう思えたのかもしれない。


曇りガラスに窓枠をはめた様な玄関を開けて、広く冷たい廊下を私は走った。

障子が幾つも外され、居間の中が筒抜けに見える。奥には、囲炉裏もあり、私達が寝る部屋も見えた。

長い渡り廊下を裸足で走るのは、中々に気持ちが良いもので。

学校で受ける50mテストよりも、廊下で50mを走りたいと、我ながら馬鹿な事を願った事がある。

………実のところ、今でも、運動場より廊下の50mの方が良い記録が録れるのでは?と思う。


祖母が居るのは、裏口からでないと行けない畑。

当然の如く、私は、裏口ドアまで風のように走り、ぶかぶか草履を履いて畑へと出た。

突然開いたドアに驚きもせず、祖母は、農作業から手を放し私を出迎える。

動きやすい服装と、長靴、頭には手ぬぐい姿の祖母に私は、「ただいま」と一言声を掛ければ。

祖母は、「おかえり」と、ビニール手袋を外して、皺くちゃの手で頭を撫でてくれた。

私は、その温もりを今もなお、忘れる事は無いのだろう。


祖母との再開から直ぐに時は過ぎて、夜になった。

かなり古いカラーテレビを見ている両親の隣で、私は、持ってきた宿題をせっせと片付ける。

勿論、祖母が御手製の料理を運んできた時点で、そんな物は部屋の片隅に押し込むのだが。

祖母の手料理は、これと言って変わったものは無い。

一流のシェフが絶賛するような美味しいものでも無いし、度肝を抜くような奇抜さも。

ただ、祖母の料理は、私にとっては美味しい。それは、両親とて同じ。

故郷の味というのだろうか、美味しい美味しいとご飯を食べる私達を、祖母は優しく笑った。


ご飯を食べ終わると、私は、しばらくの間、宿題と睨めっこをした。

その時だ。

祖母が、優しい笑顔で、私に声をかけたのは。

はっとして振り返ると、祖母はポケットから取り出したキャンディーを私にくれた。

私の祖母がくれたキャンディー。それはヴェルタースオリジナル。

その味は甘くてクリーミーで、こんな素晴らしいキャンディーをもらえる私は、きっと特別な存在なのだと感じた。


今では、私がお祖母ちゃん。

夏休みに遊びに来る孫にあげるのは、もちろんヴェルタースオリジナル。

なぜなら、彼もまた、特別な存在だからです。


























―――――――――――――あとがき



途中までは真面目に書いてたつもりだった。

だけど、途中で食べたキャンディーのせいでこうなった。

だから、俺は悪くない。

悪いのは、俺を狂わせた魔性のキャンディー。たった一つの特別なキャンディー。

それが、ヴェルタースオリジナル。

こんなネタで笑った人が居たならば、それはきっと特別な読者様。




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