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[9359] 【習作】番犬と姫【オリジナル?】
Name: フィル◆8a182754 ID:4d3e2aa6
Date: 2009/06/06 10:05
ネギま→オリジナル のオリ主もの
 猟犬 の前の話
 XXX板にするか、オリジナル板にするか、赤松板にするか迷ったためチラ裏へ。他の板へ移行するのはXXXじゃないかぎり『忘れ者』完結後になります。



[9359] 1-1
Name: フィル◆8a182754 ID:4d3e2aa6
Date: 2009/06/06 10:01
「あら?」

 自宅の庭園を歩いていた愛理の目の前に何時もとは違う景色が現れた。何時もならそこには様々な色の花がきれいに咲き、庭園を彩っているはずだった。しかし今日、いつも通り庭園の散歩をしていた愛理の目の前にあったものは違っていた。
 そこにあったのは無残に散っている花々と小さなクレーター。クレーターはそんなに深くなく、直径3メートルほどの円で一番深いところは5センチほど抉れていた。そしてその中心には赤黒い何かがあった。
 愛理はあたりを見渡して状況の確認をする。目をこすって目の前のものをもう一回見たが、状況はまるで変わっていない。

「どうしましょう……」

 愛理はしばし黙考した後、花畑だった所へ足を踏み入れた。花々は嵐にでもあったのか花びらは散り、茎も折れている。かなり致命的な状況だ。

「新しく買い換えないといけませんわね」

 白百合の花だったものを手に取ると、彼女はクレーターの中へ足を運ばせた。赤黒い何かを確認すると目を細める。そして携帯電話を取り出すとどこかへ電話をかけた。

「――うん、そう。よろしくね」

 彼女は電話を切るともう一度それを見据える。それは少年だった。赤黒いものは血だ。
頭からバケツの水でもかぶったかのように大量にかけられた血は、少年が丸まっていたということもあり近くに来るまで少年をそれと認識させなかった。
愛理は裾からハンカチを取り出すと血の付いた少年の顔をそれで拭う。
拭った先から少年の顔があらわになる。まだあどけない表情を見せるその顔は苦悶の表情を浮かべていた。未成熟ながらも発達したその顔を見るに彼は中学生かそこらなのであろうか。
赤黒く染まった彼の服は所々千切れており、服としての様相は保てていなかった。
愛理は少し考えた後、彼の服をはがした。長袖の服だったであろうそれは脱がそうとすると、その力に耐えられなかったのであろうか音を立てて破れていった。
その奥から出てきたのはいたるところに傷を負った白い肌。少年の外見年齢にしては鍛えられている体であるが、まだその体は柔らかな様相をしており、愛理が触ると布団を触ったかのような肌触りがした。
 愛理はさらに下の方へ視線を動かしたが、少年の為にズボンを脱がすことはしなかった。脈を取り、呼吸を確認した愛理はその細身を思わせないほど軽々と少年を持ち上げる。そのまま少年をお姫様抱っこして連れて行く愛理は王子様のようだった。



愛理は屋敷へ戻ると待機していた侍女に少年を任せた。侍女は一礼をすると少年を連れて行った。恐らくは血を流しにいったのだろう。愛理は自室に戻ると箪笥から新たな着物を取り出す。慣れた手つきで帯を締めた彼女は幾つか部屋を回ることにした。


「愛理様おはようございます」

「愛理様、来てくださったんですか」

「あいりさまぁ……昨日は激しかったですぅ」


 彼女は各々の部屋を回りその部屋の住人に挨拶をしていく。部屋の住人たちは愛理が部屋へ来ると誰一人違わずやっていたことを止め、愛理の元へと駆け寄っていった。そして犬のように寄り添い愛理の足へ自分の体を擦り付ける。そしてその者達には皆首輪がついていた。

此処は通称百合薔薇殿。幼女の奴隷を買い、大きくなるまで育て侍女へと育てる。小さなころから心も身体も御主人様のものとなったそれは御主人様にとって忠実な侍女へとなる。彼女は自分の物となった奴隷の部屋を回って愛犬を愛でる様に接していく。もちろん言うことを聞かない者には躾として罰を与えたりもしている。そうしなければ愛理に忠実な侍女にならないからだ。


「きゃぁ!」


 部屋を回っていると下の階から悲鳴が聞こえた。愛理は慌てる奴隷達を一蹴すると下の階へ行った。そこには先ほど少年を連れて行った侍女が少年と対峙していた。少年はズボン一枚で中腰に腰を落として右足と右手を出し、逆に左足と左手を引いて構えていた。侍女はただ慌てるばかりで何もできてはいなかった。


「き、君。落ち着こうね。私は怪しいものじゃないから」





 少年は返事を返さず侍女を見据えていた。侍女はただオロオロするだけで何の進展もなかった。


「君」


愛理が声をかけると、少年の姿勢が一瞬にして変わり彼女のほうを向く。


「この状況が分からないんですか? 貴方は倒れていて助けられたんですよ。それくらいは分かるでしょう?」

「……」

 少年はしばしの沈黙の後ゆっくりと頷いた。しかし愛理を睨み付け左足をさらに引き、いつでも飛びかかれるように少し体を前に倒して姿勢を下げる少年。それを見た愛理は苦笑浮かべながら両手を広げた。あまりにも無防備な姿に警戒心が少しずつ霧散していく。


「あなたは助けられたらどのようにしなさいと教えられましたの? そうやって相対して逃げて来いって教えられて?」


 愛理の言葉を聴いてからも暫くは構えを崩さなかったしかし愛理と侍女が何もしてこないのを確認すると構えを解いた。


「ごめんなさい」

「貴方の倒れていた姿を見ると普通じゃなかったことは分かります。仕方の無いことでしょう、先ほどのような行動をとるのも理解できないわけではないですわ」


 深々と謝る少年を見て愛理と侍女は安堵のため息を漏らす。愛理は後で朝食の時にでも事情を聞きますと言い残すと残りの奴隷の所へと戻っていった。侍女は愛理へ一礼をすると少年のほうへ振り返った。


「ボクは一人でお風呂は入れる?」


 少年は黙ってうなずく。構えを解いた彼は警戒心を微塵も出さずに次女のほうへと寄っていった。侍女は少しばかり肩を張ったが、少年の顔を見るとそれをといた。


「そう、ならお風呂入ろうか。こっちですよ」


 侍女は少年の肩を掴むと風呂場のほうへ押していった。
少年が風呂に入っている中、侍女は困っていた。
無かったのだ、変えの服が。
百合薔薇殿と称されるこの家には一切男物の服が無かった。もちろん下着なんて無い。何とか汚れも無くすんでいた下着は速攻で洗って乾燥させたため間に合った。しかし上着は引き裂いてしまっていたしズボンの方もところどころ千切れ、血で汚れてしまっている。ジーパンだった為かカジュアルな感じになっているが侍女が手にとっている少年が脱いだズボンはさすがに千切れすぎていた。


「あのー……」


 風呂場から顔だけ出した少年が侍女に話しかける。侍女がピクリと体を弾ませた。硬い動きで振り返った。


「どうしたの?」

「衣類を貰えますか?」


 二人は見つめあったまま固まった。まるで時間が止まったかのように二人はその状態で停止した。


「あの、衣類を……」

「女の子の服しかないんだけど、どうします?」

「え?」


 再び沈黙が訪れる。少年は目を丸くし、呆然と立ちすくんだ。
とりあえず侍女は乾燥させた下着を受け取った。下着姿で現れた少年の肢体は艶めかしく、風呂に使っていたためか身体が赤く火照っており、未成熟な少年の肌はとても綺麗に見えた。


「あの……とりあえずそれらしいものがあればそれでいいのでお願いします」


 少年の言葉を聞いた侍女は着替えを置いておいたクローゼットから何種類かの服を取り出した。ボンテージにメイド服、着物やワンピースとフリフリのミニスカートなど女の子を強調するような服しかった。


「こんな物しかないんだけど……」


 申し訳なさそうに数々の服を広げていった。最早わざとやっているとしか思えないようなラインナップを見た少年は激しく頭を悩ましたができるだけましな衣類を選ぶことにした。二人で十分くらい吟味した結果藍色の着物を羽織ることになった。





着替えを終えた少年と侍女はリビングへと向かった。そこではすでに他の侍女が朝食を作り終え、さまざまな料理が並べられていた。


「あら、可愛い格好で……お風呂上りでサッパリなされましたか?」

「えぇ。おかげさまで」


 愛理の問いに少年は小さな声で答える。その表情は少しばかり歪んでいた。


「まぁ座りなさい。君がここに来るまでにどんな事情があったのか教えてもらわないといけません。それに貴方の身寄りの方に連絡を取らないといけませんしね」


 愛理は促して少年を近くの椅子に座らせる。そこに次々と食事が運ばれていく。味噌汁に白いご飯、焼き魚と焼き海苔に卵焼きなど純和風の食事が並べられた。


「では、先にいただきましょうか。いただきます」

「いただきます」


 二人が食事を始める。二人が食事をしている間侍女は皆、後ろに立っていた。二人は一言も話すことなく目の前に並べられた料理を平らげていった。二人の咀嚼の音が響き渡る中愛理は少年を見る。彼はお腹が空いていたのか幼さが残る表情で必死に目の前の食事を頬張っている。
ボサボサだった髪は綺麗に整えられていた。彼の真っ黒な髪は後ろ髪は肩口にかかるまで伸びており、前髪は眉毛から瞼に触れるくらいに分けられて伸びていた。


「あの……」

「え?」

「僕の顔、何か付いてます?」


 愛理は少年のことをじっと見ていた。最初のうちは気にせず食べていた少年だったがどうやら耐え切れなくなったらしい。はにかんだ様子で愛理に話しかけた。


「いえ、別にそういうわけではない……ようではないようですね。麻衣さん取って差し上げて」


 後ろから侍女の一人が少年のほうへ向かい、少年の頬に付いたご飯粒をナプキンで取る。その侍女は少年に付き添っていた侍女だった。


「貴方、お名前は?」

「……」


 食事も済み、目の前の食器が片付けられたところで愛理が切り出した。


「あぁ、お名前を聞くにはまず私から名乗らなければいけませんわね。私は百合咲 愛理この家の主です、貴方は?」

「……犬上 大牙です」


 愛理が自己紹介をした後もしばらく沈黙を守っていた少年だが、愛理が何も言わずに待っていると重い口を開いた。


「大牙さんですか。なぜ先ほど我が家に倒れていたのか教えていただけますか?」

「……」


 大牙は俯いてしまい何も答えない。それを見た愛理は話題を書けることにした。


「では貴方の親御さんの住所を教えていただけますか?」

「……」


 話題を変えても大牙は答えず、只俯くのみだった。ただそれを見守るのみだった愛理はため息を吐く。


「教えていただかなければ連絡をすることもできませんわ。電話番号かなにか教えていただけませんか?」

「……分からないんです」



 俯かせていた顔を上げて少年が告げる。その表情には苦々しいものがあった。


「そうですか。ではどうしましょうか。貴方の家はここの近くなんですか? 親御さんは?」

「分からないんです。覚えてないんです」


 大牙は呻くように呟いた。愛理は苦々しい表情をした大牙を見据えた。


「覚えてないって?」

「名前以外覚えてないんです。どこで何をしてたのかも、親の名前も、顔も、兄弟のこともいたのかさえ分からない。全部……全部覚えてないんです」

 そう呻くと半錯乱状態に陥ってしまう。愛理は麻衣に大牙を空き部屋に連れて行かせた。



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