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[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/27 14:08
 俺、つい最近兵士になった。
 なんだか知らないけど戦争が始まったから。
 ホント言うと、一般市民として細々と暮らす気マンマンだったんだけど、なんていうかムリヤリ? 

とあるセリフを聞いてポカーンとしてたらお前は殺さないでやるから兵士やれって言われて。
 あ、セリフ聞きたい? あら、聞きたくないの?
 そっか、残念。じゃあ勝手に言うわ。
「ブタは死ねええええ!!!!」
 だってさ。


 いやー、すごかったよ、あの時は。
 なんて言うの?
 皆殺し?
 とにかく村の中の生きてる人間はバーさんだろうがガキだろうがとにかく全部殺されていった訳。
 俺はずっと宿の二階でボーっと茶をしばいてたんだけど、何でだかいつまで経っても誰も来なかったの。
 余裕かましてた理由?
 うん、だって逃げ出すのも怖かったんだもん。立ち向かっていったオッサンたちはみーんなあの『ブタは死ね!!!』さんに殺されてたし、逃げ出そうとした人たちはみーんな兵士たちに殺されてたし、
じゃあ怖いのガマンして逃げ出さなくてもそのうち誰か来て勝手になんかしていくのを待とうかと。
 でもいつまで経っても誰も来ないし、もしかしてもうエライ人は帰っちゃって逃げ出すチャンスかなー、と思って窓から外を見てみたら、這い回ってぶーぶー言ってた女の人を、大笑いしながら切り捨てるでっかい人を発見したんだよね。
 えー……ってなるでしょ。普通。俺ホントにポカーンって感じだったもん。
 だからつい、窓辺に突っ立ってることに気づかれそうになったとき、隠れるっていう発想がまったく出てこなかったんだ。
 当然、でっかい人に見つかりました。
 遠くのほうで
「生き残りはもういないと言っていたはずだろう。このブタが!!!!」
 とか言いながら自分の部下であろう兵士さんに切りつける様子もはっきり見ました。
 その後、ギロって睨み付けられたので、
「ああ、とうとうあの人が俺のところに来るんだな」
 と思った俺は、震える足をムリヤリ動かして、ただひたすらに目的の場所へと向かったわけだ。
 その場所は。
 トイレ。
 いや、だってほら! 殺される恐怖で粗相しちゃったら嫌じゃん!? この年でそれは恥ずかしすぎるじゃん! でも粗相しないでいられる度胸がない! これ確実!
 だから、せめて最期の誇りだけは保とうかと。もう見付かってんのに逃げるって言う選択肢はない。大人しく殺されようと思ってる。
 で、トイレに行って、また同じ部屋に戻った直後に、あの人、やってきました。


「大人しく隠れていれば命は助かったかも知れないのに、馬鹿な奴だ」
 ニヤリと笑うでっかい人。
 そんなこと言われてももう諦めてたしなー。「必要ない」と思っちゃったんだもん。
「ほう、大した自信だ。その丸腰で何ができる?」
 何で!? 自信って何!? 俺いま「何にも」言わなかったよな!? ナニコノヒトー。怖いよー。
 チッという舌打ちの音が聞こえたと思った瞬間、でっかい人の持っていた剣が振り下ろされた。俺は怖すぎて目を閉じることすらできずに終わりの瞬間を迎えようとしていた。




 忌々しいことこの上ない。生き残りがまだいることに気がついて宿へ向かってみると、兵士どもが踏み込んだ様子すらなかった。はじめに見つけた部屋には、窓を閉め、寛いだ様子で佇む一人の男。
 見たところ武器を持っている様子もないのに、このオレを見ても怯える様子すらない。
「大人しく隠れていれば命は助かったかも知れないのに、馬鹿な奴だ」
「必要ない」
「ほう、大した自信だ。その丸腰で何ができる?」
「何にも」
 生きることを諦めているのか、死なない自信があるのか、それすらもわからない。その瞳はオレすら見ていないように感じる。恐怖ですべてを支配しようと考えた矢先に、こんな男に出会うことは予想外だった。
 本当に忌々しい。
 それならこの場で切り捨ててやろうと剣を振り下ろしたが、避けることも目を閉じることすらもなくただその場に自然体で立っているその男を見て、聞いてみたくなった。
「命が惜しくはないのか」
「惜しいに決まっている」
「ならば、なぜ避けなかった」
「無駄だから」
 そう、無駄だ。今この男が生きているのは、あの一瞬の気まぐれのせいであってこの男の実力でもなんでもない。だが、
「その度胸は気に入った。オレの軍で役に立つなら、その間は生かしておいてやる」
 大した理由もない気まぐれだが、気に入った。
 命乞いの為に家畜の真似事をする連中とは違う。下らない正義感で生きている連中とも違う。
「予想外の、拾い物だ」





 で、なんか俺、助かりました。
 兵士やってれば殺されないらしいです。
 でもよく考えたら兵士っていつ殺されるかわかんないよね? これきっと、怖がる俺をいじめてみようって言う、悪趣味な遊びだと思うんだよね。
 でもまあ、なんでもいいか。しょうがないから、ちょっと兵士でもやってみようかと思ってみた。そんな俺の、20歳の春のことでした。












というわけで、習作を投稿してみました。
ここの色んな作品に影響をうけてます。
でも初めておはなしづくりをやったので、変なところがたくさんあると思います。
愛あるツッコミ、お願いします。
ガンガン直します。そしてガンガン書きます。愛あるツッコミがいただければ。どうぞみなさん、よろしくお願いします。



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。2(訂正してみた)
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/28 04:56
 はいどうも。俺です。
 ハイランドの兵士一日目です。
 なんかね。この人たち、みんなで傭兵隊の砦ってところへ攻め込むらしいんだよね。それ、どこ?

 
 誰も教えてくれなかったから、他人の話に聞き耳を立ててみた。
 どうやら、ビクトール、とか、フリック、って奴らが邪魔になるかも知れないからとりあえず潰しとけってことらしい。それ、誰?


 やっぱり誰も教えてくれなかったから、ちょっと自分で見てこようと思ってみた。
 黙って行ったら脱走だと思われて後で殺されそうだったから、エライ人に報告してからにすることにした。あのでっかい人は怖かったから、次にエライ人は誰かなーと思ったら、タマネギ頭だった。
「ちょっと傭兵隊の砦まで行って来ていいですか?」
 無言で切り付けられそうになった。
 なんていうかさ、ハイランドって怖いよ。どうしてみんなまず切りつけてくんの!?
 でもまた、目の前で剣を止めてくれた。なんか知らないけど、ガッタガタ震えてる。よく見ると、俺じゃなくてその後ろを見て震えているようだったからなんとなく振り向いてみた。
 そこには。
「!!!!!!!!!!!!!!!」
 あのでっかい人が「ブタは(略!!」って言ってた時と同じ顔をして俺の方を見ていた。
 怖いよ!! めちゃくちゃ怖いんだよ! 何なの、あの人!? だから何なの!? っていうか誰!? 
「傭兵隊の砦で、何をする?」
 聞かれました。うん、これ、たぶん俺が聞かれたんだよね。じゃあ、答えなきゃいけないよね?
「ビクトール、と、フリック、に、会ってこようかと」
「会って、どうする?」
「普通に帰ってくる」
 結果から言うと、大笑いされました。
 ふはははははははははははははははは!!!!!!!!!!
 って笑われました。
 この人もしかして笑い上戸なんだろうか。俺、何にも面白いこと言ってないのに。
 はっ! わかった! 俺きっとこの人の笑わせ要員だ。役に立つってのは兵隊さんとしてじゃなくてピエロ役としてだったんだ!
 うん、むなしいね、むなしいね。でもいいんだ。それで命が助かるなら!
 でもブタごっこだけは絶対にしない。だって「ブタ(略」ってなるから。
 最終的に、行って来ていいよって言われた。1日を過ぎたら帰ってきても殺すとも言われた。怖かったから急いで出かけた。
 なんか、意外とあのでっかい人っていい人かも知れないと思った。ところで、あの人誰なんだろう。






 キャンプを出たのが、夜中だったのに、もうお日様がてっぺんまで昇ってます。
 よく考えたら俺、傭兵隊の砦がどこにあるのかを知らなかったんだよね。
 どうしよう、どうしよう。
 と、テンパってたら、道行く親切な人が救ってくれた。なんでも、クマの砦って所の隊長と副隊長で、今は物騒だから見回りをしているところだったらしい。
「で、どこへ行こうと思ってたんだ?」
 副隊長さんが気さくに尋ねてくる。なんかすごく青い。全身が。
「どこへ、というか会ったことも見たこともない人がすごく噂になってたからちょっと見てみたくなって」
「何だぁ? 今のご時勢に気ままな旅人ですってか? ノンキでいいな、お前」
 がっはっは、と笑う隊長さん。ちょっと失礼だとおもうよ。クマを笑わせるために生きてるんじゃないんだぜー!
「馬鹿にすんなよ? あまりに横暴すぎて部下にもびびられてるようなオカタ相手に、笑わせ係は日々奮闘しなくちゃならないんだからな!」
「へえ、お前道化師なのか。じゃあ今はネタ探しの最中なわけか」
「そうなんだよ、副隊長さん! だからさ。もう人探しは諦めるからなんかネタおくれよー」
 なんて話をして、二人を追っかけまわした。
 結局、副隊長さんの不幸っぷりと隊長さんの阿呆っぷりで大いに笑わせてもらい、クマの砦の真正面で別れた。隊長さんは酒でも飲んで行けばいいだろって言ってくれたけど、そろそろ夕方っぽいしな。
「すごく嬉しいんだけどさ、帰りが遅くなったら殺されちゃうから」
 と断ってみた。
 けど、それまですごく楽しそうに笑っていた2人が急に怖い顔してこっちを見てきたからかなり怯む。
 え? え? 何?
「お前、そこまでヤバイとこにいんのか?」
「そりゃヤバイよ。だからさっきも言ったじゃん。やっぱり忘れっぽいね、隊長さん」
「クマのことはこの際どうでもいい。お前、そんな所にどうしているんだ。何か理由があるのか?」
 副隊長さんまで詰め寄ってくる。
 でも、よく考えると、どうして帰らなくちゃいけないんだっけ?
「初めは、殺されそうになった」
「あ?」
「で、諦めて殺されようと思った」
「おい」
「クマ、ちょっと黙れ」
「でも、殺されなかった」
「……」
「そうだ。そのとき、役に立つなら殺さないって言われた」
 うん。そうだ。だから、とりあえず兵士をやってみようと思ったんだ。
 あ、じゃあ今逃げちゃえば万事オッケー!?
「そうじゃんか! 俺今から逃げればいいんだ! どこへ逃げようか? なあ、俺どうしたらいい!?」
 二人はすごく親身になって考えてくれた。
 いわく、ハイランド方面は今は危ないからやめておけ。
 いわく、お前はモンスターに対応できないから必ず用心棒を雇え。でも俺たちはやることがあるから一緒に行けない。ごめんね。
 いわく、トトとリューベは焼き討ちされてるから用心棒探しには向いてない。
 と、言うことで、ミューズ市がいいんじゃないの?という結論になった。
「なあ、なんだったらこの砦にいてもいいんだぜ? 大したことはしてやれないが、食うものくらいなら何とかなるし、ある程度の脅威からは守ってやれる」
 隊長さんはすごくいい人だ。もう、かなりいい人だ。ぶっちゃけそうしようかとも思った。だけどね。
「ミューズ市の方が安全なんだろ? 俺、戦争怖いし、なんか都市同盟そのものがヤバイみたいだからどっか他の国へ逃げちゃおうかな、とか思ったんだ」
 うん、たぶんそれが一番。外国へ高飛びだー。
「そうか、わかった。さっきも言ったが、俺とクマはついていってやる訳には行かないから、せめておくすり持って行けよ。モンスターからはとにかく逃げ回れ」
 もうなんと言って感謝したらいいのか分からないよ。
 そうして俺は、ありったけの感謝をこめてお礼を言い、砦から足を踏み出した。途中、遠くから
「火炎槍、修理できましたよ!!」
 という声が響いているのを、聞くとはなしに聞きながら。もう辺りは、夜の闇が広がりかけていた。




 とかカッコ付けたのに、ミューズへ行く途中、モンスターに襲われすぎて方角が分からなくなった。運悪く月もないし、星を見て方角を知るなんて高等技術は持ち合わせていない俺は散々迷った挙句、キャンプにたどり着いてしまった。
 なんという俺。頑張れよ、俺。
 タマネギ頭に成果はどうだったかと聞かれたから、何とかして逃げようとしたことをごまかせないかと隊長さんと副隊長さんの面白話を聞かせてやった。怒られた。役立たずは殺してやるとも言われた。
「クマの砦だかウマの砦だか知らんがそんな情報に用はない!!」
 なんだよ、このタマネギ将軍! この面白さはな、この面白さはな!「ここじゃあ俺とあの人にしか分からない」……んだ……よ?
 ちょっとだんだん自信がなくなってきた。
 タマネギの様子を見ると、一日の間には間に合った。運がいいのか悪いのかは分からないが、とにかく俺は約束通りに帰ってきたことにはなるんだ。でも。
 面白くなかったらブタごっこをさせられるかも!? いや、もしかしたら逃げようとしたのもバレてるかも!? え、ちょっと!? ヤだよ、そんなの!?
 だって「俺は死にたくない」からさ! ちゃんと「役に立つ話を聞いてきた」って! いや……たぶん。
「よほど自信があるようだな?」
 出たよ!!!! いつもいつもいつも(略)絶対この人タイミング見計らってるよね? そっかー。ヒマでしょうがないから俺のことを待ってたんだねー☆ 
スンマセン。うそです。
「哨戒から話は聞いているぞ。このキャンプを通り越してミューズ方面へ向かっていたらしいな」
 バレてる! バレてる、バレてる!! うん、もういいや。諦めよう。
「そう。ミューズへ向かってた。でも逃げ回ってあいつら撒こうとしたら道に迷って、結局ここに着いた」
「ふん。所詮はブタか」
「それでも、誇りはあるんだよ! せめて『ブタは死ね!!!!』じゃなくて『役立たずが』って言って殺してくれよ! 俺の話を聞いた後で」
「よかろう。ちょうど退屈していたところだ。せいぜい楽しませてもらおうか」




 なんかでっかいテントに連れてこられた。中にいた兵士たちをしっしっっと追い払って俺に向き直るでっかい人。ちなみに名前はまだ知らない。
「始めろ」
 って言われたから、早速今日の出会いについて語ることにした。
「クマの砦の隊長と副隊長だという二人組みに会いました」
「クマの砦、だと?」
「隊長がクマっぽいからクマの砦だそうです」
「……それで」
「隊長だという男は黒髪でかなり筋肉質でした。副隊長だという男は青い男でした」
「……簡潔に話せ」
 チャキ、という音にびっくりして上向いていた目線をでっかい人に向けると、いつの間にか剣を抜いていた。
 気が短い! 気が短いよ!
「全身青尽くめで、隊長と比べると長身で痩身。まあ、なかなか女ウケの良さそうな顔立ちでしたね」
 声が震えないように、精一杯気を張り詰めてゆっくりと話す。
 だって怖いもん! 声がひっくり返ったらカッコ悪いじゃんかよ!
「ほう」
 よかった、表情が変わった。きっと興味を持ち始めたな、これは。
「不幸体質らしく、他にもモンスターに風船を付けられすぎてどこかへ飛んで行ってしまったりモンスターに水入りのバケツを被せられたりあと」
「真面目に話す気はない様だな」
 また怒った! ここからが面白いのに! うわあ! ちょっと! 睨まないで! 立ち上がらないで!
「真面目ですよ。3年前のトランでのパーティーで何らかのスピーチをする直前にどこかへテレポートで飛ばされたらしいです」
「3年前のトラン……赤月帝国か」
「その通りです。隊長はそのとき、カエンソーってのを持ったまま、一緒に都市同盟のどこかへ飛ばされたと言っていました」
 ふう、座ってくれた。なんでこんなに怖いの、この人。もうヤだよー。帰りたいよー。
「火炎槍、噂は耳にしたことがあるぞ。それを、どうしたのかは分かったのか」
「隊長は物忘れが激しいらしいので、つい最近まで倉庫で錆付かせていたようです。あ、」
「何だ」
「そういえば、夕方ごろカエンソーの修理が終わったようですよ」
「……お前はそこまで聞き出したのか?」
「聞き出した、というか、聞こえました。砦の中から大声で叫んでいたので。砦の門でもバッチリ」
「砦の門、だと?」
「ええ。隊長と、副隊長と、俺と。3人で砦まで歩いて行ったんです。まあ、そこで色々と思うところがあったのでミューズ方面へ行ったわけですが」
「ミューズで何をするつもりだった」
 一番初め、リューベの時と同じ顔でギロっと睨んでくるでっかい人。ここが正念場だ。殺されないために、何を言う? どうする? どうすればいい!?
 結論。
 正直に言った。もっと分かりやすく言うと諦めた。
「バイバイするときに殺されちゃうから帰るって言ったら、バカ、逃げろよって言われたんで、どこに逃げればいいの!? と相談し、ミューズがいいんじゃない? ってことになったんで、じゃあとりあえずミューズへ行こう! という結論になりました」
「逃げるつもりなら、何故戻ってきた」
「さっきも言ったとおり、逃げ回ってたんです」
「何から」
「ウサギ」
 大笑いされました。
 そっかー。面白かったのかー。よかったよかった。ブタごっこしなくて済むかな。よし、ここでちょっと調子にのって機嫌とってみよう。「ブタは(略)」って殺されるのだけはヤだー!!!
「ね、面白い話でしょう?」
「ああ、面白い。面白いぞ! それで、その2人の名前は何だった」
「それが、お互いに自己紹介ができなかったのだけが心残りです。俺なんか『ピエロってのはネタ探しが大変だな! がんばれよ!』なんてことも言われましたよ。暖かい心遣いが身にしみて涙が出そうです」
 そしてまたまた大笑い。やったー。喜ばせたー。だけど真面目に喋ったときばっかり笑ってるから、笑わせてるというより笑われてる気がするのがなんかヤだ。でも言わない。怖いから。
「喜んでいただけたようなので、ひとつだけ、お願いをしたいんですが」
「内容によるが、聞いてやる」
「じゃあ、言います。俺を切り殺すときはこのブタが!! ってのだけはカンベンしてください」
 言っちゃった。でも、このぐらいのお願いは聞いてほしいなー。最後だし。いや、最期だし。
 そうしたらさらに笑われた。だからこっちは大マジメなんだってのに。
「鎖さえつけておけばお前は役に立つ。今回の働きに免じて一度だけ見逃してやろう」




 というわけで。俺、ギリギリのところで生き延びました。今回のことで俺は逃げ出す可能性ありと判断されたので、今後は必ず見張りと2人以上で行動することになったけど。これから長い付き合いになるであろう見張り君(仮)は、
「逃げ出そうとしたのに見張りが着くだけで済むのはありえねえよ。お前、どんな重大情報持って帰ってきたんだ?」
 と、終始不思議がっていました。
 俺も不思議だ。あんなに怖い人なのに、優しい隊長さんたちとの世間話をあんなに喜ぶとは思わなかったし。
 次に会ったときには、俺、結局逃げられなかったけど、あんたたちが親身になってくれてホントに嬉しかったよ、って伝えたいと思ってる。
 何はともあれ。結構、人生ってうまくいくものだな、と思った、20歳の春のことでした。


 ちなみに。
 本気でウサギどもから逃げ回っていたことを知ったでっかい人は戦には出なくていいから別のことでちゃんと役に立ってね。という意味のことを言ってた。戦闘にも出なくていいらしいよ。よ。
 なんかちょっと、俺にとってはいい人かも知れない。と思った。見張り君(仮)には真っ青な顔でお前相当ヤバイ奴だな! って言われたけど。










1話コメント、ありがとうございました!
ルカが一般人殺さないわけないじゃない! とも言われて、確かし! とは思うのですが、なかなかウマい理由が見つかりません。思いついたら書き直そう! と思ってとりあえず保留していますが、何か思いついた人がいたら教えてもらえたら嬉しいです。

主人公の名前はまだ出てません。一応決まってますが、たぶん当分出ません。もしかしたらずっと出ないかも知れないです。

そして、この主人公は最強ではありません。たぶんトウタ君に一騎打ちで負けます。なので、兵士のクセに出撃は回避してみました。


では、誤字脱字を含めて、この展開はこうすべし! や、けしからん、こういう風に書き直せ。などの愛あるツッコミ、ぜひともお願いします。ちゃんと最後までかけるようにがんばります。


追記。
早速暖かい感想と愛あるツッコミ、いただきました。本当に感謝です。
「一人で外に出たんだったら逃げろよ、おい!」
というツッコミ頂いたんで、
1、逃げることなんて初めから思いつかなかったから素直に傭兵隊の砦を探す。
2、とある二人組みに出会う。
3、お前逃げろよ、馬鹿。とツッコまれる。
4、そうじゃん! 俺逃げるよ! と、決断する。
5、ご都合主義で結局キャンプに戻っちゃった。

 という流れに変更してみました。でも、やっぱりご都合主義は変わらなかった。自分の文才のなさに軽く絶望。
 そして、自分で思ったこと。世話になったとか思ってる割に敵に情報を売るなと。でも、主人公はあの二人がビクトールとフリックだとは夢にも思っていないので、本当にただの世間話のつもりなんです。とか、ダメですかね。うーん。

とりあえずこんなのできたので、訂正版、投稿です。
新たな愛あるツッコミ、お待ちしてます!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。3
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/28 23:54
 やあどうも。俺です。
 ハイランドの兵士になって何日目かは忘れました。


 あの後、タマネギ将軍は傭兵隊の砦って所に攻め込んであえなく敗走。入れ替わるようにでっかい人が攻め込んで行った。
 俺はというと、見張り君との会話に花を咲かせつつ、タマネギ将軍の隊にくっついてミューズ方面へと向かっていた。タマネギ将軍はでっかい人にすごく怖い目で睨まれてたけど、俺と同じで切り飛ばされることもなく、経過はどうあれ無事に復帰、ってことになったらしい。だからタマネギの隊なのにタマネギだけはいない。ちょっと嬉しい。
 そういえば、と思いついたけど、あのでっかい人って相当エライ人だってことはなんとなく分かってるけど、どういう人かは全く分からない。
 俺の視点からすれば、第一印象はあのリューベでの鬼畜な言動で埋め尽くされてるからとにかく怖い人だけど、こんなに部下がいっぱいいて反乱? とかも起こらないんだから実は人気者ってこともありえるんだろうか。
 素朴な疑問を見張り君にぶつけてみた。
「人気者ってのとはちょっと違うな。お前じゃないけど怖いから逆らえないっていうのが大きいとは思う。ただ、あの方にはなんていうか、ある種のカリスマ性があるから、一部の人間は憧れのようなものを持っているのかも知れない」
 というお答えが返ってきた。
「逆に聞くが、お前はリューベの惨状を当事者として体験しているんだろう?」
 うん、と頷いてみせる。
「それなのに結果的に殺されはしなかったとはいえ、本能的に怯えるとか、憎むとか、そういう感情が全く見えないんだよ。何かを企んでいるのか、それともどこかキレちまってるのかはわからねえけど」
 でっかい人ほどじゃないけど、タマネギ将軍くらいには怖い目で睨まれた。でも、怖いのを我慢して言い返してみる。
「アンタはさ、俺がいつもあの人に呼ばれたとき、一番初めにすることが何なのか知らないからそんなことを言うんだ」
 不審そうな目で俺を睨み続ける見張り君。
「怖いなんてもんじゃないんだよ。震えるとか怯えるとか通り越してもうカカシみたいに突っ立ってることしかできないんだよ。だからってそのまま突っ立ってるとどうなるか、お前に分かるか!?」
「な、何だよ。はっきり言え!」
「失っちゃうんだよ!? 男としてって言うか人間として大切な何かを! だから」
「だから?」
「トイレへ行く」
 周り中の空気が凍りついた。
 なんて言ってみたけど要するに、みんなまるで初めて俺が「ブタ(略)」を聞いたときのようにポカーンとしている。
 いつの間にみんな聞いてたの?
「……トイレ?」
 なんだよ、見張り君! バカにしてるんだな?
「そうだよ! ちょっとよく考えてみてよ? 怖いじゃん。でもプライドって大事じゃん。だから、トイレに行くじゃん。俺が人としての尊厳を保つために、トイレへ行くことで回避しようとしている事態がなんだか分かるでしょ!?」
「分かった。分かったよ。だがじゃあ、お前のあの口の利き方は何なんだ? 怖がってるどころか対等を気取ってるようにしか」
「あのさ。俺ってしがない旅行客だったわけ。アンタ達と違って軍人教育どころか、ぶっちゃけると読み書きの教育すら受けてないわけ」
 なるほど。お互いに理解しあえてなかったって訳だな。道理でよく怒られると思った。主にしゃべり方で。ここは今後の俺の為に精一杯説得するしかないね。
「それでもちゃんと温泉のアルバイトとかしてたから、です、とか、ます、とかの店員さん語ならなんとか喋れるよ。あの人がエライ人なんだってことぐらいは俺でも分かってるからその程度の言葉なら頑張れば使えるけどさ。ギリギリ普通にしゃべれる状態で、それがやっとなのよ。だから怖すぎてテンパってる時までそんな言葉を使えって言われても俺、ムリ」
「ちょっと待て。旅行客って、お前、もしかして都市同盟の生まれじゃないのか? その腕っ節で旅なんてできるわけがないし、俺はてっきりリューベの……」
 見張り君、食いついて欲しいところが違うよ。俺はしゃべり方なんてよく分からないってところがって、あれ。そういえば誰も俺のことなんて聞いてこなかったから出身地とか言ったことなかったな。
「何? もしかして軍の人たちが俺にめちゃくちゃ冷たかったのってそのせい? 敵国人だからキライだーってヤツ?」
「あー。まあ、否定はしねえよ。で、どこの出身だって?」
「群島だよ。群島諸国にあるヘンな島」
 ネコボルトに育てられましたー。何でだか知らないけど。




 そんなこんなで、いきなり打ち解けてくれた兵士さんたちと一緒にミューズ市の近くまで近づいたころ、見張り君は急に鎧とか剣を着替え始めた。初めは脱いだらそのままかと思ったけど、別の鎧を着込んだりしてたから今日はここでキャンプ、とかではないらしい。
「あれ、休暇か何か?」
「ああ、似たようなもんだと思ってろよ。お前とおれは隊から離れてミューズで待機だとさ」
 俺たちだけ? 何でだろう。まあいいけど。
「あ、じゃあアルバイトとかもオッケ?」
「好きにしろよ。だが、基本的におれはお前と一緒に行動するから、そのつもりでいろ」
 やった。実は俺、隙を見て逃げ出してやろうっての、完全に諦めてはいないんだよね。アルバイトでガンガン稼いでいつか来る日の用心棒代にするんだ。
「そういえばさっきの話に戻るけどよ。お前群島なんて遠くから旅してきたってんなら、この辺りまでの地理とか結構詳しいのか?」
 なんか、ヤなこと、聞かれたよ?
「もちろんさ! ……って言いたいところだけど、実はここまで来るの、いろんな人に連れてきてもらっただけだからぜんぜんわかんないんだよね。さっきみんなと話してて、やっとこの都市同盟が群島の北だってこと知ったもん。島を出たときは確かに西に向かってたハズなのに、なんでだ」
 見張り君にまで大笑いされました。
 こんなバカ相手に警戒してた自分もかなりのバカだ。とか言ってたけど、あんまりバカバカ言われるとへこんじゃうからやめて欲しいな、と思ったり。でもやっぱり言わない。なんかもう軍人さんってみんな怖いから。
 怖いのはあの人だけじゃありません。ハイランド軍人みんな俺にガンつけすぎ。喧嘩、いくない。
 下らない事を話しながら歩いてるうちに、ミューズ市が見えてきた。壁に囲まれてるし、門番さんとか立ってるし、予想以上に大きな街だ。
「おい、通行証を用意しておけよ。入るときにもたつくと不審がられるからな」
 おお。忘れきってた。
 慌てて唯一と言ってもいい荷物の道具袋からおくすりをかきわけて通行証を取り出す。
「あった!」
「お前、いつの間にそんなにおくすり溜め込んでたんだよ。しかもそんなに奥に入り込むほど前からミューズの通行証を受け取ってたのか」
「ああ、これ? うん、この前ひとりでクマの砦って所まで行ったときにそこの副隊長さんがくれたんだよね。自分は何とでもなるから持って行けって言ってくれてさ」
 その時のことを思い出してつい笑顔になった俺を、見張り君はなんだか複雑そうな顔で見てきた。
「お前が行ってきた砦ってそりゃ……」
「お?」
「いや、何でもねえよ」
「なんだよー、変なヤツだな。でもホント、いい人たちだったよ。もしまた会うことがあったらまた面白い話聞かせてもらうんだ!」
「……そうか」
「アンタこそ、なんで通行証なんて持ってんの?」
「トトで拾ってきたらしいぜ。本隊から離れる前に将軍から受け取った」
 略奪してきたってことじゃん。
 軍人さんって怖いです。


 ミューズ市は、一言で言うと、とても活気に満ち溢れていた。
 人も多いし、店も多い。思わずウキウキするのも仕方ないと思う。どこで働こうか? どこなら働かせてくれる?
 考えるだけで嬉しくてたまらない。
 いやね、旅行の前はどっちかって言うと働くのはキライな方だったんだよ。でもさ。こうしていざ金に困ってみると、嫌でも働かせてくれる場所があったなんて俺って結構幸せ者だったんじゃないかな、なんて思うわけだ。
 兵士になってからは金がなくても一応食うものくらいはもらえたんだけど、金ってもらった事ないんだよね。
 だから見張り君も金は持ってないんだと思う。しばらくはずっと一緒だよ、って言われたことだし、2人で、なおかつ住み込みで、働ける場所となると。
「ねえ、アルバイト先は宿屋がいいと思うんだけど、どうだい?」
「あ!? おれまで働かせる気か……っと、そうか。2人で住み込みできるところを考えたのか」
「そうとも! 仲良くやろうぜー」
 なんか見張り君は何か言いかけて、別のことに言い換えるクセがあるようだ。口下手さんだね。
 見張り君が快くオッケーしてくれたから、しばらくのバイト先は宿屋に決まった。おかみさんに頼み込んでみたら、人手が足りなかったらしくて二つ返事で雇ってくれたし、これは幸先がいいかもしれない。
 一番の収穫は、一階にある酒場でつい最近働き始めたというお姉さんがもんのすごく美人なこと。あれ、もともと働いてたのが帰って来たんだったっけ? どっちでもいいや。とにかく、際どいスリットの入った赤い服がすごくお似合い。ぜひとも仲良くしていただきたい。
 勢い込んで話しかけに行ったら、バカな男とナンパな男は大嫌いなんだよ! と怒られたから大人しく帰った。軍人さんだけじゃなくて美人さんも怖い。
 俺、そろそろ怖くないものってなくなってきたかもしれないよ。
 おかみさんから与えられた屋根裏部屋で落ち込んでたら見張り君も帰ってきた。今日はご飯あげるからゆっくり休むといいよー。明日から仕事よろしくー。ということになったらしい。
 ありがたく、今日はもう寝てしまうことにした。あっ。でっかい人のご機嫌取れるような面白話もちゃんと仕入れておくの忘れないようにしないと。




 明日から、でっかい人やタマネギ将軍のいない、開放ライフが始まるのさ! そう思うと嬉しくて眠れないよ。そんな俺の、20歳の春真っ盛りのことでした。













2話コメント、本当にありがとうございます!
全部で3つ4つ頂けたらラッキーかな、と思っていたんですが、予想以上の愛あるツッコミといくつもの暖かい励ましを頂いて嬉しい限りです。とても励みになっています。

2話投稿の時に、ルカ様に殺されなかった理由どうしよう! と書いたところ、都市同盟以外の出身ってことにして膨らませていったら? というアドバイスを頂いたので、まずはこんな形で表現してみました。肝心の1話はもう少し保留します。

それでは、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!
なぜか湧き出るやる気がおもむくままに次回も頑張ります。



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。4
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/29 16:40
 俺、ミューズに来てから3日経った。
 宿屋のアルバイトは充実しているよ。見張り君ともうまくやれてるし、何よりあの時の隊長さんと副隊長さんに再会したんだよ。



「お前、無事にミューズまで辿りつけたんだな。良かった良かった」
 再会するなり隊長さんに思いっきり頭をがしがしかき回されたのは痛かったけど、お互い無事だったのは素直に嬉しかった。
「クマさんと副隊長さんには本当に感謝してるんだ。あの時もらったおくすりのおかげでモンスターに追い回されてもなんとか生きてたし、通行証でちゃんとミューズにも入れたし」
「だからクマって言うなっつってんだろうが! でもまあ、その様子だとこの前言ってたヤバイご主人からは逃げ切れたみたいだな」
 いかつい顔なのに爽やかな表情で笑う隊長さん。
 うう、その安心感を裏切るのが心苦しい。
 でも、心配してもらったんだから今の自分の状況を正しく伝えるのが義務だと思うんだ。
「いやー、それがさ。あの後ミューズへ向かう途中でウサギの群れに追い回されて迷っちゃったんだよね」
 言いながら2人の顔を伺うと、なんかこう、生温かい目で見つめられた。
「でもちゃんとここまで来られたんだろう。良かったな」
 さっきの隊長さんと同じ言葉で、肩を軽く叩く副隊長さん。
 ちくしょう。イケメンだからって輝く白い歯の安売りなんかするなよ! いっそ憎らしいよ。嫉妬的な意味で。
「んにゃ。迷ってたどり着いた先が元の場所だった」
 爽やかな笑みを凍りつかせる2人。もともと肩にあった手はそのままでもう片方の肩まで掴まれた。
「逃げようとしたのを捕まえられたってことか?」
 なんかぺたぺた体中を触られてるんだけど。ヤだなー。別に幽霊とかじゃないよ?
「そう。でもさ、2人のおかげでネタ話はいっぱいあったし、面白かったから今回だけは許してやるって」
「そう、か。クマの阿呆もたまには役に立つんだな」
「おいこら。お前の不幸のほうが笑い話だろうが」
 やっと俺から手を離してくれた副隊長さんと隣の隊長さんは楽しそうに話している。
 いいなー。
「仲良しだ」
「ただの腐れ縁だ!」
 口を揃えて反論された。やっぱり仲良しだと思う。羨ましい。


 しゃべってばっかりで仕事をサボっちゃってたことに気づいた俺が急いで仕事に戻ると、優しいおかみさんは知り合いだったら今日はもういいから話しておいでって言ってくれた。
 残っている仕事は部屋のベッドメイクとゴミ出しだけだったこともあって、お言葉に甘えさせてもらうことにした。
 そのせいで見張り君が門外までゴミを運ぶことになっちゃったけど、いつもだったら絶対に文句を言うのに、何故か今回は快く引き受けてくれた。
 やたらと隊長さんと副隊長さんを気にしてたから、きっと気を使ってくれたんだと思う。
 ちょっと怖いけど優しいヤツだよ。俺、感動。夜の風呂沸かしも見張り君の仕事だから、これから何時間か働きっぱなしになっちゃうのに。
 お礼に酒でも奢ろうかな。
 それからは2人と現状報告とか、新しい失敗談とかの話をした。
 途中で隊長さんが見張り君の帰りが遅いのを気にしてたから、風呂沸かしの仕事に行ったんじゃないかなって言ったら安心したみたいで少し声が大きくなる。
 俺が見張られてるばっかりに窮屈な思いをしてたのかも。
 ごめんよ、と心の中で謝りながら、どんどん話を続ける俺。
 だって、見張り君もすぐ睨んでくるんだよ。
 怖くてあんまり話しかけられなかったんだよ。
 だからこういうムダ話に飢えてたんだー。あの人にするネタ話、ぜんぜん集まってなかったし。
「今回もアテにしてるよ! 俺の身の安全の為に面白い話よろしく!」
「おいおい。お前も道化師なら逆に俺たちに面白い話聞かせてくれよ」
 期待には、応えなきゃいけないよね? ここ、頑張りどころだよね?
 俺は力の限り頑張った。自分の失敗談はもう話し終わっちゃってたから、ネタ元は主にタマネギ将軍。
 部下に髪型を真似しようとされて怒ってたとか、翌日の朝ムキになって髪の毛を下ろそうとしてデコ周辺の毛を抜いた自分に絶望してたとか。
 その時の、
「俺は……諦めない……!」
 っていう悲痛な呟きは忘れられない。
 副隊長さんはデコにあるバンダナを抑えながらビミョーな顔をしてたけど、隊長さんが喜んでた。
 ひとしきり笑った後、隊長さんがやっとこっちに向き直ってくれた。
「でもこうやって休暇をくれたってんならそれなりに大事にはされてるってことなんだろうな。あの時は殺されるなんて言うから驚いたが、それ程ヤバイ人間でもないのかもな」
「うーん、どうなんだろう。もしかしたらいい人かもしれないって思ったことはあるんだけど、やっぱり怖いよ。実際に目の前で部下の人が殺されてるのとかも見てるから」
 悩んでいる俺に、副隊長さんが深刻な顔で言い返す。
「お前はもうその環境しか分からなくなってるのかも知れないけどな。休暇をくれたとか、殺されなかったとか、それだけでいい人って思っちまうのもどうかと思うぞ」
 そうなのかな? そうなのかも。俺から見たって怖い人なんだから、一般的にもヤバイ人なのは間違いないよね。
「こんな情勢じゃなければ、今ついてる見張りってのも振り切って逃がしてやることは出来るんだ。俺もいるし、そこの飲んだくれてるクマだって弱くはない」
 でも、2人は仲間が合流するのを待ってからじゃないとこの街からは出られないらしい。詳しくは話してくれなかったけど、クマの砦でなんか大事件が起こってみんなバラバラになっちゃったんだってさ。
 俺の方は、帰って来いって言われるのがいつになるかも分からないから、この場で2人に頼って逃げ出せるかどうかは運次第、ってことになる。
 ためしに、どっちか1人が俺を遠くの街まで送ってくれないか、と頼んでみたけど、隊長と副隊長だから責任上ムリだと断られた。
 本当に心から申し訳なさそうに謝ってくれるから、むしろ俺が怯んだ。
「ごめん、変なこと頼んだ俺がいけないんだからそんなに謝らないでよ。前に一回会っただけの俺にここまで親身になってくれて嬉しかった」
「悪い。ああくそっ、ただでさえ物騒な時期だってのに。おい!」
「なっ、何!?」
「俺たちはミューズでの用事が終わったらデュナン湖を渡ってサウスウィンドウへ向かう予定だ。デュナン湖の南側ならしばらくは戦場にもならないだろうし、そこからならラダトを経由してトランに向かうことも出来るかも知れない」
 デュナン湖って、何?
 副隊長さんは兵士さんたちと違って優しく説明してくれた。言われてみると、リューベまで行く途中に小舟に乗ったかもしれない。
 今度こそ忘れないためにメモに地図を描いてもらった。
 ありがたく受け取って道具袋にメモをしまうのとほぼ同時に、後ろから見張り君の声がした。
「おい、世間話で盛り上がるのもいいがそろそろ終わりにしろ。おれも少し話があるからな」
 くそう。楽しかった時間に終わりが来てしまった。残念だけど、今日はこれでお別れだ。
 おやすみ、と手を振ったら、隊長さんがこっそりと言ってくれた。
「おれ達がサウスウィンドウにいる間にまたお前と会えたら、その時は必ずトランまで送り届けてやる。だからいいな、絶対死ぬんじゃねえぞ!」
 何なの、この人! どうしてこんなにカッコいいのさ! 副隊長さんのイケメンとは違う意味で嫉妬だよ!
 逃げ出すのにどれだけ時間がかかっても、初めの目的地はサウスウィンドウにしようと決心した。






 部屋に帰ったら見張り君が仁王立ちで待ち構えていて、夜明けにキャンプへ向かうことになったと教えられた。
 おかみさんに挨拶したいよ! って言ったけど、自分が伝えておいたから必要ない、いいから準備しろって怒られた。
 その言葉通り朝日が昇りきる前に、キャンプへ帰ることに。
 戻った時にはもう日は昇りきってて、でっかい人に報告をしにいって来いと言われ。
「はい!」
 と元気よく返事をしてから、一目散に向かう。トイレへ。
 一大儀式を終えてすっきりし、儀式の閉めの為、水場に向かおうと目隠しのカーテンをめくった先には予想外のものが。
 げっ、とか、きゃー、とか言わなかった自分に心の中で拍手を送る。
 開放感からやや上を向きながら外に出た俺の目に、何より先に映ったのはあの人の顔だった。
 心臓に悪い! びっくりしすぎて止まるから! なんでこんなところにいるんだよ! 心の準備できてないんだからカンベンしてよ!!
 あまりの衝撃に固まった俺を見て、どんどん不機嫌になっていくその顔が怖い。
「邪魔だ。どけ」
「はい!」
 慌てて飛びのいた俺と入れ替わるようにカーテンの中へ入ろうとする後ろ姿を、思わずマジマジと見つめてしまった。
「報告なら後にしろ」
「ごめんなさい!」
 これ以上至近距離にいるのも自分の為に良くない。そして儀式の終わりには手を洗うのが鉄則だ。
 素早く、かつ丁寧に手を洗い、走って見張り君のところまで戻った俺が、
「何であの人がトイレに来るの!? 何で!?」
 と叫んでしまったのを、笑う人間はいなかったさ。
 涙目を通り越してマジ泣きした俺を哀れに思って慰めてくれる人もいなかったけどね。


 涙も収まったところで、報告の為にキャンプ内で2番目に大きいテントに向かった。
 ちなみに1番大きいテントはハイランドのお姫様がいるらしい。へー。
「ミューズの報告に来ました」
「入って来い」
 失礼しますよー。
「遅かったな」
「すみません、色々と整理をしていたもので」
 心の整理を。
「まあいい。例の2人組に会ってきたらしいな?」
 って、誰?
「見張りにつけた男から概要の報告は受け取っている。一々鬱陶しい顔で見るな」
 睨まれました。でも剣を持ってないからいつもより怖くない。慣れてきた感じがしてヤだけど。
「クマの砦の隊長さんと副隊長さんのことなら、その通りです」
「何を話した」
「あれから色々あったんだよー、お互い大変だったね。っていう感じですね」
 興味津々っぽかったから覚えている限りで全部話す。
 はぐれた仲間とミューズで落ち合う、というところと、責任を取って市長に謝りにいくらしい、というところに反応あり。
 でもなんかマズイ。今日は全然笑ってくんないの。ブタごっこフラグ? ねえ!?
 あれ、絶対ヤなんだよ。もうトラウマだもん。おかげでポークステーキが食えなくなった。好物だったのに。
「それで終わりか? つまらん話ばかりだったな。役目も終わりだ」
 あ、立ち上がった。
 あ、剣抜いた。 
 そっか、俺、殺されちゃうのか。避けてみようかな? うん、無駄だな。しょうがない、大人しく殺されよう。
「命乞いをしてみるか?」
 リューベで見たときのあの顔で、ニヤリと笑われる。でもさ。
「ブタごっこなんて冗談じゃないんだよ」
 今日では初めて、笑われた。
 でも、いつもと違うのは剣を収めてはくれないところ。
 やっぱり俺、死ぬみたい。
「いい度胸だ。ならば死ね! この役立たずが!!!」
 隊長さんたちのいる「サウスウィンドウ」へ、行きたかったな。
 抵抗できるものならしてみたけど、いつまで経っても俺は俺。弱いもん。っていうか怖いもん。もう足とかガタガタと震えてる。
 怖すぎて、また目を閉じることすら出来ずに迫ってくる剣を見つめていたら、首元にピリッとした痛みは感じたものの、頭と胴とが離れてしまう前に動きが止まった。
 どうなったんだろう、と思って視線を剣から話したら、おっそろしく凶悪な顔をしていた。
 やばい。俺、失神しそう。
「詳しく話せ」
「え?」
 あ、剣しまった。
 あ、座った。
 何だろう。助かったのか、な?
「サウスウィンドウで何がある?」
 うーん。何で止めてくれたんだ? 俺、何にも言ってないよね?
 うん。わかんないから何でもいいや。死ななくて済むんなら、それでいい。
「隊長さんが、誘ってくれたんだ」
「お前をか」
「そう。ミューズでの用事が終わったら一緒に連れて行ってくれるって」
「何のために、行くと言っていた?」
 俺じゃなくて、隊長さんたちが行く理由、だよね。
「とてつもなく危ない人に目を付けられちゃったから、エライ人に匿ってもらうつもりらしい。次の戦いに備えて、当分はそこを拠点にするつもりだ、と」
 喜ばれた。いつもと同じで、邪悪な高笑い。でも、もう一度剣を抜く様子はない。
 本格的に助かったみたい。だけどまだ怖い。声が掠れそうで余裕もない。
「よくやった」
 褒められた。
 何で初めからそれを言わないんだって聞かれた。
 純粋に聞いてみただけなのか怒ってる様子じゃなかったし、正直に答える。
「あなたが喜ぶ話がどれなのか、俺にはどうもよく分からない。だから、知ってることを、知った順に話すしかない」
 やっぱりバカだ、お前。という意味のことを言われて笑われた。
 何だか、ホントに、楽しそう? 
 うん、楽しそうだ!
 大丈夫だ! 俺、今日も助かった!! やったー!
 よし、ご機嫌とろう。今の俺のとっておき。隊長さんの大笑いというお墨付きももらってるし、ここで言うしかないでしょ。
「これは全く関係ない世間話なんですが、もう一つ、面白い話を聞いてみませんか?」
「言ってみろ」
 タマネギと部下のみなさんの日常について語ってみた。
 名前を知らないからタマネギ将軍って呼んでることに気づいて大笑い。
 髪型を気にしてることを知って大笑い。
 最後のデコの話には大爆笑。
 結論。
 大好評だった。
 こういうところを見ると、この人も普通の人間なんだな、って思う。
 いつもこうやって笑っててくれたら、全然怖くないのに。
「お前、小金を稼いできたらしいが、くれぐれも逃げようとは思うなよ」
 笑いながらだけどそう言われて、ドキッとした。
「は、はい!?」
「おれから逃げるようなブタは許さん。どこまで行こうと、おれ直々に追いかけて首を飛ばしてやる」
 ヤだ。ヤだヤだヤだヤだヤだ! ブタはヤだ!!
「わ、かりました。逃げません」
 もういい。逃げるのやめる。逃げても殺されるんなら、怖い思いして逃げ出す必要ないもん。ここにいれば少なくともモンスターは怖くないわけだし。
 親身になってくれた隊長さんたちには悪いけど、死ぬために逃げ出すなんて絶対しません。
 その後は、機嫌を直してくれたみたいで、ちょっとだけ世間話をしてみた。
 なんで俺らと同じトイレ使ってんの? って聞いてみたら、前は別のトイレを作ってたけど、設置と撤去にその分余計な時間を使うのは無駄だからだって教えてくれた。
 無駄なことに労力を使うのは無能だ、覚えておけ。だってさ。 





 それからは、俺にとっては概ね平和な生活だった。
 何日めかの夜に、2組くらい侵入者がいたらしいけど、その時間にはもう寝てたからよく知らない。
 これから危ないことが始まるよー。お前は先にハイランドの首都に行ってろよー。って言われて、大人しく連れて行ってもらったから、どうして何日もあんな変なところでキャンプしてたのかも分からないままだった。
 色々あったけど、まだ生き残ってます。
 そんな俺の、20歳の春真っ盛りのことでした。











3話コメント、ありがとうございます!

ここまで何度もコメント下さっているので、毎回見に来てもらってるんだな、というのが分かって感動です。感激です。感謝です。本当にありがとうございます。

質問? ご指摘? 愛あるツッコミ頂いたんですが、本文中で分かりやすく書けなかったようで、すみませんでした。
この場でお答えさせてもらうと、ヒッチハイク→その通り。です。
群島から大陸までは交易船か何かに乗せてもらって、それからは行く先々で旅に慣れてそうな人を捕まえながら用心棒をしてもらって旅していた、という設定です。

本文中では、モブ同士の会話ということで、あまり深くは掘り下げませんでした。


それでは、これからもがんばります!
ご指摘、ご感想はとても励みになっているので、気が向いたらぜひお伝えください。



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。5(訂正してみた)
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/31 15:26
 おう、どうも。俺です。
 ハイランドの首都に着きました。ルルノイエっていう街だそうです。ミューズよりおっきいよ。遊びに来るならオススメだよ。




 ルルノイエに入るのは大変だった。
 あれがルルノイエだよって言われて、なんとなくわかるかなー、ぐらいの距離までは大勢の集団に混ざって連れて来てもらったんだけどね。
 そこでミューズのときとは別の人だったけど、やっぱり見張り君と2人だけにされた。
 置いてけぼり!? って大騒ぎしてたら、見張り2号にぶん殴られた。痛いよ! 怖いよ!
 怖すぎて怯えてた俺に見張り2号が言ったことをまとめると、
 1、俺は軍人として登録されてないから正規軍と一緒に街に入っちゃダメ。
 2、でもあのでっかい人が街で待機しろって言った。
 3、ちゃんと一般人として街に入れる方法を思いついたから言うとおりにしなさい。
 ということらしい。
 でもおかしい。
 俺は知ってるんだ! あのでっかい人、ミューズで俺よりちょっと年下かなー、ってくらいの男の子連れてたもん!あの少年は軍と一緒のはずだもん! 何で俺だけ!?
 つい騒いじゃったからか、またぶん殴られた。ねえ、やめようよ。暴力、いくないよ。
 よくわかんないけど、とりあえず頷いておくことにした。
 そうしたら、モンスターの前に、一人で放り出された。
 それからのことはよく覚えてない。
 目が覚めたのは応急の医務室で、大勢いた医者の一人が3日間生死の境を彷徨っていたことを教えてくれた。
 事情はよく分からないけど、死にかけたのが、助かった。うん、それで満足。
 意識がはっきりしたからということで優しさのしずくをかけてもらい、体力も万全になったところでじゃあさようなら、と思ったのに、そう上手くはいかなかった。
 話によると、俺を助けてくれたという人が今相当ヤバイ状況なんだそうです。




 医務室から連れてこられたのは、尋問室という部屋だった。
 俺がぐっすり眠り込んでいた3日の間、行き倒れを助けてくれただけの優しい人が閉じ込められていたという。
 部屋の扉を開けると、赤毛の男の人が思ったより元気そうに座り込んでいるのが目に入った。
「お前!」
 相手もすぐに俺に気がついた様子で、叫びながら飛び掛るように詰め寄ってくる。
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! 俺のせいで迷惑かけちゃってごめんなさい!
「助かったんだな? 生きてるな? もう大丈夫なのか?」
 お前のせいで俺がこんな目に! とか怒られるかと思ったのに、赤毛さんはひたすら俺の心配をしてくれた。
 この前の隊長さんたちといい、この人といい、世の中っていい人ばっかりだと思う。
 あ、訂正。見張り2号はキライ。あのでっかい人は怖い。
「もう万全。でも、まだ状況がよく分からなくて。俺を街に入れたせいで怒られたって聞いて」
「あー、そんなこと聞いたのか」
 お礼と一緒に尋ねたら、苦笑いを浮かべて答える赤毛さん。
「軍規違反ってヤツだよ。任務からの帰還中は正規の軍人以外と街に入るのはちょっとマズイんだ」
 何だとう! グンキイハンって何だか全然分からないけど、もしかして俺めちゃくちゃ迷惑かけてんじゃん!? どうしよう、謝るか? 謝るだけでいいのか?
 だけどどうしたらいいのかやっぱり分からないし、とにかくひたすら謝った。
「気にすんなよ。軍規っていっても、普段だったらそれほど重大事でもないんだ。何つったって、オレは地位があるからな」
「うあ? そうなんだ……じゃない、そうなんですか?」
「おう。今回はちょっとタイミングが悪くてな」
 どうやら、赤毛さんはすごくエライ人だったようだ。
 いつもなら、オレが責任を取る! とか言えば、ちょっと遅刻しちゃったよ、とか、行き倒れ拾ってみたよ、とかは少し怒られるだけで済むらしい。
 今回3日間もキンシンショブンを受けたのは、ちょうど皇子サマが城に帰ってきてたからなんだとか。
「皇子サマって、そんなに厳しい人なんですか?」
「厳しいなんてもんじゃねえよ。あれは鬼畜って言うんだ。でもまあ、自分で言うのもなんだがオレは有能だから、これからの尋問にさえ耐えれば軍務に復帰ってところだな」
 ちょっとした休暇だと思えばどうってことねえさ。と爽やかに笑う赤毛さん。
 器がでっかい! カッコいい! 俺、尊敬!
「ところで、どうして俺はこの部屋に呼ばれたんですか?」
「そこなんだよな。しばらくしたら皇子から尋問を受けることになってんだよ。もしかしたらお前も皇子から直接尋問を受けることになんのかもな」
 それ怖い! 皇子サマが厳しい人だって今言ってたじゃんか! 怖い人なんてあのでっかい人だけで十分なのに!
 あ、でも、もしかしたらもう当分会うこともないのかも? あの人結局どこにいるのかわかんなくなっちゃったし、今はもう見張りもついてないし。
 でも怖いし、とりあえずトイレに行かせてもらうことにした。大事な儀式。
 戻ってすぐに、皇子サマが来るからしゃんとしなさいと言われた。
 どんな人だろう。皇子サマってくらいだからきっと、華奢で、キラキラしてて、くるくる金髪に青い目で……。
「ルカ様!」
 来た!? って、えー。
「おい、お前が拾ってきたというのはこいつか」
「はい。ルルノイエから少し離れたところでモンスターに襲われて倒れていたのを見つけて、つれてきました」
「そうか。ならばお前はもういい。次はグリンヒルだ、準備が整ったらすぐに発て」
 この人皇子サマだったの!? どうして誰も教えてくれなかったの!?
 動揺しているうちに、2人の間では話がついてしまったようだ。
「では、失礼します」
 ちょっと! 赤毛さんだけ行っちゃうの!? 俺は!? どうしたらいいの!?
 そんな俺の思いなんて知らないまま、赤毛さんは部屋から出て行ってしまった。
 恐る恐る皇子サマを見上げると、
「つくづくお前は運がいいな。偶然とはいえ、シードとつながりを持ったのは好都合だった」
 ニヤリと笑う。
「あの、事情の説明とかしてもらえたら、嬉しいなー、なんて」
「お前は普通に軍へ入れたところで何の役にも立たん。しばらくは街で放っておこうと思っていたが、予定が変わった」
 これからは当分あの赤毛さんが俺の面倒を見てくれることになったらしい。今の今そんな話してたらしいんだけど、聞いてなかった。
 と言っても、赤毛さんは自分でも言っていた通り優秀な軍人らしく、7日もしたらグリンヒルという街へ出かけることになっているんだとか。
 とても大きな学校があると聞いて、行ってみたい! と言ったら、すんなりいいよって答えてくれた。文字の読み書きくらい出来るようになれ、とも言われた。
 でも、皇子サマは手続きとかそういうのを手伝ってはくれないんだってさ。赤毛さんに自分で頼んでなんとかしてもらえって怒られたよ。
「おれの手を煩わせるようなブタなら用はない。いっそのことここで死ぬか?」
「はい! ごめんなさい! 自分で頼みます!!」
 尋問室から慌てて逃げ出したら、赤毛さんに追突。
 どうやら俺を心配して部屋の前で待っていてくれたようだ。ホッとして涙出ちゃったし。
「何で!? 何であの人って人のことブタブタって! よりにもよってブタって! 死ねって!」
 前のキャンプの時と同じようにマジ泣きした俺を、赤毛さんはしっかり慰めてくれた。いい人。





 ルルノイエで暮らし始めてから3日経ちました。今日も宿屋でアルバイト、頑張ってます。
「将軍がいらっしゃったよ! 今日はもういいから行っておいで」
「本当ですか! じゃあ行ってきます、おかみさん」
 あれから毎日、自分も忙しいはずなのに赤毛さんは夕方になると俺の様子を見に来てくれていた。
「よっ。どうだ、変わりねえか?」
「はい! あ、でも最近ちょっと困り始めました」
「何だよ、どうしたんだ?」
 心配そうに聞いてくれる赤毛さん。
「それほど大したことじゃないんですけど。宿帳の管理ができなくて」
「宿帳だあ? そんなの、ちょっと中身読めばそれでいいんじゃねえのか? よく知らねえけど」
「そこが問題なんですよね。俺って文字の読み書きできないんです」
 すごく驚かれた。おかみさんもそうだったから知ったけど、この国の人で俺くらいの年になると、読み書きができないのってすごく珍しいらしい。
 自分が育った島ではそれが当たり前のことだったから、読み書きができなくて恥をかくとは思ってもみなかったよ。
「そういえば、もう少ししたらグリンヒルへ行くんですよね?」
「ああ。だから、ここへ様子を見に来られるのもあと2、3日ってところだな」
「俺、学校ってのに通ってみたいんです。なんとかして連れて行ってもらうことってできないですか?」
「グリンヒルへか? それはムリだ」
 皇子サマから聞いたときはちょっとしたおつかいみたいな口ぶりだったけど、グリンヒルには戦争しに行くんだとか。
 遊びに行くんじゃねえんだ、ふざけんな。って言われたけど、口が悪いわりにいつもニコニコしてるから怖くない。
 戦争かー。じゃあいいや。怖いし。文字が読めなくても死ぬわけじゃないし。
「でもまあ、確かに読み書きができねえってのは困るよな。オレも知り合いにちょっと相談してみてやるから、あんまり期待はしないで待ってろよ」
「ありがとうございます!」
 じゃあな、と言って去っていく赤毛さんは、とにかくひたすらカッコいい。
 あんな男に、俺はなりたい。
 次は何を話そうかな、なんて考えてたんだけど、翌日、赤毛さんは来てくれなかった。
 あと2、3日は来てくれるって言ってたのに、どうしたんだろう。何かあったのかな?



 
 夜になって、おかみさんに呼び出された。
 今日までそんなこと1度もなかったから、何事かと思って驚いてたら赤毛さんだった。
「お前、昨日グリンヒルに行きたいって言ってたよな。その気持ち、変わってねえか?」
 急にどうしたんだろう。グリンヒルは危ないよって教えてくれたばっかりなのに。
「変わりました。戦争なんですよね? 俺、怖いのキライ」
「そうだよな! だ、そうだぜ。やっぱりムリがありすぎるんだよ」
 ホッとした顔で頷いて、後ろに振り返る赤毛さん。つられて赤毛さんの後ろを見てみたら、知らない人が立っている。誰?
「それは困るな。ルカ様からの命令がある以上、これはもう決定事項だ」
 なんか、怖い言葉が聞こえた気がするんだけど。
「ルカ様って、皇子サマのことじゃ、ありませんでしたっけ?」
「それがどうした」
 やっぱりー!
 何で? 命令って何!?
 事情を聞いた。
 赤毛さんが俺の為に、なんとか読み書きを教えてくれる人がいないかどうか、この人に相談してくれたらしい。
 でも、ちょうど通りかかった皇子サマに話を聞かれた。
 で、それだったらちょうどいいからグリンヒルに潜り込ませろ、命令だ。って言われた。
 だって。
 何のイジメよ? 戦争するんでしょ? 危ないんでしょ?
 そもそもさ。あの人が通りがかりに部下の話に口を突っ込んだところなんか、俺、見たことないんだけど。
 俺をイジメるタイミングを今か今かと計ってたとしか思えない。でも、実際のところどうなのかは俺には到底わからないし、確認なんてしたくもない。あの人、怖いもん。
「なんなんだろうな、最近のルカ様は。次のグリンヒル攻略だって、急にあのガキに指揮権を与えるって言い出すし」
「さあな。私たちには理解できない考えがあるんだろう。当分は忙しくなりそうだな」
「まあ頑張れや、知将さん?」
「馬鹿を言うな。お前もだ」
 急に難しい話を始めるから、俺にはほとんど理解できなかった。
 とりあえず、赤毛さんと一緒に来たこの人はチショーさんというらしい。
 うん、覚えておこう。
「それで」
 突然こっちに振り返るチショーさん。
「これだけ機密事項を聞いたんだ。命が惜しいなら従っておいたほうが身のためだぞ」
「や、やらせてイタダキマス」
 返事は、決まりきっていた。





 と、いうわけで。
 このたび、ニューリーフという学校へ入学することになりました。
 詳しいことを聞いた後で、年齢制限に引っかかってるけど大丈夫? って聞いたら、赤毛さんとチショーさんが2人して驚いてたのが不満です。
 どう見ても10代だから大丈夫だ、と言われてすごく複雑。
 年齢相応に見られるためにも、学校でしっかり勉強してこようと思った。
 そんな俺の、20歳の春の終わりのことでした。












 みなさま、いつもコメントありがとうございます!
 
 今回、話を作るときのコンセプトとして、ルカ様には思うまま、望むまま、邪悪に、生きてもらう。ということと、主人公は無自覚スパイ。ということがあるので、その辺りも理解していただけたようで嬉しい限りです。更に、今回は本当にありがたいコメントいただきました。まさかここまで受け入れて下さる方がいるなんて、と、とても喜んでいます。

 そして、実はタマネギ将軍も嫌いではないので、読んでくださった人たちのお気に入りにも加えてあげてね、という気持ちで出演させてみました。

 こんな文体なので好みによって好き嫌いは分かれるとは思いますが、ご意見、ご感想はありがたく受け止めています。もし気が向いたら、今後もよろしくお願いします。


 それでは、次回も頑張ります!



 追記


 事件の起こった時期に関して、愛あるツッコミいただきました。
 
 お恥ずかしい限りですが、完全に勘違いしていました!
 書き始める前にゲームをプレイしてチャートのようなものを作っていたにもかかわらずこの失態。深く反省しております。
 
 皇王暗殺のタイミングについては今後の展開に大きく関わることでもなかったため、急遽訂正、という形で編集し直してあります。ご指摘、ありがとうございました!


 見捨てずに、今後も読んでいただけたら嬉しいです。



 今後も愛あるツッコミ、どしどしお願いします。それでは!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。6
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/05/31 15:37
 あ、どうも、俺です。
 グリンヒルで学生を始めて、10日経ちました。



 グリンヒルに入るのは、予想外に簡単だった。
 門で通せんぼされることも、街の近くでモンスターの前へ放り出されることも、学校でイジメられることも全くありませんでした。
 リューベ以来、一番平和です。
 本当に、平和なんだよね。
 赤毛さんに言われたとおり、ハイランドに関係があるってことだけは絶対に言わないようにしてるけど、それ以外は普通に過ごしてる。
 だけどこのところ、街の雰囲気がピリピリしてきてるんだな、これが。
 寮内では、ハイランド軍が攻め込んでくるらしいっていう噂が広まってる。
 俺じゃないよ! 俺のせいじゃないからね!
 と、心の中で言い訳しつつ、毎日文字の勉強に励んでます。


 
 やっと簡単な文章なら書けるようになった頃、恐れていたものがやってきてしまった。
 戦争だ。
 基本的に学生は戦わなくていいよ、って言われてたから、初めはみんなで大人しくしてたんだけど、途中で金髪の元気な女の子が、
「私も戦うわ!」
 なんて叫んで学校を飛び出しちゃったから、それにつられて戦いに参加し始める生徒も多かった。
 まあね、自分だけ参加するなら別にいいんだよ? 勇敢でえらいなー、とか思うし。
 でも!
「早くしてよ!次は踊る火炎の札を取ってきて!」
 どうして俺まで巻き込まれなきゃならないんだ?
 怖かった。怖くて仕方なかった。防壁の外では剣同士がぶつかり合う音が響いてるし、誰かの絶叫や紋章術を使った爆音も聞こえてくる。
 門も破られそうになって、もうダメだ! と思ったとき、誰かの声が聞こえてきた。
 シルバーバーグ家の人なんだって。自分の指示通りに動けば絶対勝てるから諦めるな、って言ってた。
 その名前は、俺でも知ってる。ここに来るまでに俺が受けた唯一の教育は群島の歴史だったから。
 だからさ、ちょっとおかしいな、とも思ったんだよね。
 一生懸命になって街の人を指揮してる男の人。金の髪に青い目のあの人は、俺が知ってるシルバーバーグ家の人の特徴とは違ってたんだもん。
 まあ、どうでもいいんだけどさ。
 戦争の終わりは、結構呆気なかった。
 シルバーバーグさんと、紋章師のお姉さんが前後でぴったり寄り添ったと思ったらなんかおっきな壁みたいなものができたところだけは忘れない。
 羨ましすぎる。俺もあのお姉さんとぴったりくっつきたい!
 なんて頭の中が暴走してるうちに戦いが終わっちゃったから。
 その日の夜、昼間の怖さを思い出して寝付けなくなった俺は、シルバーバーグさんを見つけた。
 たまたまだったんだけど、向こうはすごく驚いてたみたい。
 逃げるの? って聞いたら、悲しそうな顔をして、そうだって言った。
 すごく急いでたみたいだし、その場でじゃあね、って言って分かれたけど、本当は一緒に連れて行って欲しかった。
 そして、朝になりました。
 協力して戦った同盟軍の人たちとグリンヒルの人たちがみんなで喜び合ってる。
 俺は一緒に喜ぶ気になれなかったから、一人で学校の寮へ。
 どうしてあんな怖いことの後で、みんな普通に笑ってるのかわからないよー。俺ってばまだ怖いよー。
 皇子サマにも何度か殺されそうになったけど、戦争はもっと怖かったし。
 ヤなことはすぐに忘れたいから、とにかく勉強頑張ろう。
 そう思って、ひたすら勉強に明け暮れた。
 

 


 
 やっと俺、普通の授業に混ざれるようになった。読み書きをマスターしたからね!
 センセイたちには、飲み込みが早いよって褒められました。やったー。
 勉強も順調だし、学校生活は楽しいけど、最近ちょっと、不満があります。
 給食が足りない。
 センセイに文句を言ってみたら、ハイランド軍に包囲されてるから物資が不足し始めたことを聞かされた。
 言われてみれば、ここ何日かは同盟軍の人たちとグリンヒルに元々いた人たちとで喧嘩が絶えなかった気もする。
「包囲されてるってことは、また戦争が始まるの!?」
「いや、ハイランド側の指揮官が変わったから、テレーズ様が投降してくるまでは手出しはしない、という約束になっている」
 今度の指揮官は戦いが嫌いらしく、あくまで穏便にグリンヒルを制圧したいらしい。
 更に言うと、外から食べ物や武器を街へ入れることは禁止されてるけど、街から手紙を出すときは、ハイランドの軍人が中身を確認した後なら鳩で飛ばしてくれるんだとか。
 ここには家族から離れて暮らしている学生が多いから、という理由での温情なんだって。
 そこまで聞いて、俺は重大なことを思い出した。
 赤毛さんに手紙を出さなくては!
 文字を覚えたら必ず手紙ぐらいよこせって言われてたんだよ! 勉強に夢中になってすっかり忘れてたよ!
 ささやかな夕食のあと、部屋で必死に手紙を書いた。
『学校に通わせてくれてありがとうございました。おかげでこうして字が書けるようになりました。でも、最近ご飯が減って悲しいです』
 その日のうちに、手紙を出そうと思ってたんだけど、街から手紙を出すとき、念のためにグリンヒルのエライ人も中を確認してるんだってことを思い出して悩む。
 シンさんに渡さなきゃいけないんでしょ? ヤだなー。あの人怖いし。
 この前なんか、ちょっと興味本位でターバンの中を見せてくださいって言ってみたら無言で睨まれたんだよ。
 それでも諦めきれなかったから、次は風呂を狙ってみた。
 意外と付き合いは良くて、学生が誘うと風呂には一緒に入ってくれるんだよ。
 一言もしゃべらないけど。
 でもムリだった。
 服は脱いだ。もちろん下着も脱いだ。どんなときも手放さないという噂の剣だってちゃんと脱衣所に置いてきた。
 それなのに、なぜかターバンだけは脱がなかった。
 意味ワカンナイ! 頭洗わないの!?
 って思ったけど、言えなかった。怖くて。
 そんな経緯があるせいか、実はちょっと嫌われてるような気がするんだよね。
 でもしょうがない。お世話になったらお礼をする。これ、ネコボルトの常識。
 翌朝、勇気を出してシンさんのところへ行った。俺が声をかけたときはものすごく嫌そうな顔をされたけど、手紙についてはオッケーが出た。
 それから10日後、もうギリギリまで悪化していた同盟軍とグリンヒルとの関係が、とうとう崩壊した。
 グリンヒルはハイランドに投降。
 同盟軍の人たちは全員捕まってどこかへ連れて行かれたけど、それ以外は平和なグリンヒルに戻ったから、俺はこっそり喜んでる。
 変わったことといえば、市長さんがいなくなっちゃったことくらい。
 でも、あのシンさんが市長さんを放っておくなんてことはたぶんないから、この街のどこかにはいるんじゃないかな。
 状況が変わったのにやっぱり街から外には軍人さんが出してくれなかったし、赤毛さんも迎えに来てくれないし、しょうがないからもう1度手紙を出した。
『最近はご飯の量が元に戻って嬉しいです。街のケンカも減って嬉しいです。でも、今まではほとんど来なかったエライ人が、しょっちゅう学校の中を見回るようになったからちょっと怖いです。いつか、あのターバンをむしりとってやるのが夢になりました』
 シンさんに見せに行ったら、搾り出すような低い声で、どういう意味だ、と怒られました。
 書き直すから代わりにターバンの中身見せて、って纏わりついてみたけど、うるさいから早く出しに行ってこいと首根っこ掴んで放り投げられた。
 痛い。だからみんな、やめようよ。暴力、いくないってば。
 とりあえずオッケーは出たことだし、軍人さんにお願いして手紙を出してもらいに行く。
「おい、宛先も差出人も書いてないじゃないか。これじゃあどこにも出せないぞ」
「あ、うん。何でだかよく分からないけど、そうやって出せば絶対に届くからって言われたんだ。よろしくお願いします」
 親切な軍人さんと2人でなんでだろーねー。と首を傾げつつ、俺は授業に出るために学校へ戻った。
 ホントに、何でだろうね。







 グリンヒルも平和になったことだし、何の連絡もないし、当分の間はここで学生生活を送ることになりそうです。
 皇子サマから離れた生活が、こんなにゆとりある生活だとは思ってもみませんでした。
 いつまでも学生でいたいなー。
 とか考えてる俺の、20歳の夏の初めのことでした。









 5話コメント、ありがとうございます!

 愛あるツッコミをいただいたので、慌てて訂正した5話と同時に6話を投稿させてもらいました。
 今後は、ありがたくも読んでくださっている方へ、間違えました。すみません。という失礼な発言をしないで済むように気をつけて書いていこうと思います。

 今後もよろしくお願いします!

 

 それでは、次回も頑張ります!
 



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。7(訂正してみた)
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/05 14:38
 どうもどうも、俺です。
 学生生活にも完全に慣れてきて、毎日をエンジョイしてます。




 街にとりあえずの平和が訪れてからは毎日手紙を出してるんだけど、一度も返事が来たことがないんだよね。ちょっと寂しい。
 でも、今日も懲りずに手紙を出した。
『こんにちは。最近、学校の中はさんぽするオバケの噂で持ちきりです。夜になると、学校の中を歩き回る足音が聞こえるそうです。そして、今日、一度に3人の入学生が来ました』
 そうなんだよ。今までは俺が一番後に入った生徒だったんだけど、今日になって3人、入学してきたんだ。
『頭に変なわっかをつけている男の子と、お姉さんだという元気な女の子と、無口な男の子です。友達になりたいのに、話をしてくれないから残念です』
 様子を見てると、あの3人はもともと知り合いだったっぽい。どこに行くにも何をするにもずっと一緒だし、寮に荷物を置きに来たと思ったら、さっさと街へ散歩に行っちゃった。
 でも、あんまり楽しそうじゃないんだよね。ニコリともしないで学校中を歩き回ってたからちょっと怖い。
 まあいいけど。でもあのムササビを撫でてみたい。
 あ、それと、街で知り合いを見つけました。
 あの青ずくめは間違いないと思います。

「副隊長さん! 久しぶり」
「お前! 生きてたのか!」
 久しぶりの再会に、嬉しさがこみ上げる。
 ミューズではお別れも言えずにそれっきりだったから、実は気になってたんだよね。
 副隊長さんは、今日入学してきた3人組の護衛としてこの街に来たらしい。
「だが、お前はどうしてこんなところにいる? 今のこの都市同盟にいて、会うのはこれで3度目だ。しかも毎回違う場所となると、いっそ怪しいぞ」
 そう言って俺を睨む副隊長さんは、それまでの優しい表情とはかけ離れていた。
 こういう目は、キライ。皇子サマみたいな、殺してやるって顔。
 怖くて、すごく怖くて、何も言えなくなりそうだった。
 でも頑張る。
 大丈夫。まだしゃべれる。だって剣を突きつけられてるわけじゃないもん!
「ミューズを出てからのこと、聞いてくれる?」
「おう。聞かせてもらおうか」
 色々話した。
 ミューズからルルノイエへ行くまでの道の大変さも、ルルノイエへ入るときに門外で放り出されたことも、そのときの怪我のことも、グリンヒルでの戦のことも、全部話した。
 ただ、ハイランドに関することは絶対に言うなって言われたことは忘れてなかったから、具体的な地名と、皇子サマのことまでは話せなかったけど。
「それじゃあその、街の前で倒れていたのを拾ってくれた人に、学園へ入れてもらったのか」
「うん、そうなるね。初めはさ、このあたりは危ないからやめておけって止められたんだけど。その後色々あって、結局入学することになったんだ」
 1度目の防衛から降伏までの話が終わったとき、副隊長さんの表情は悲しそうだった。
「どうしたの?」
「疑ったりして、悪かった。お前も大変だったのに、つい余裕を無くしちまって」
 さっきの怖い雰囲気はどこにも無い。いつもの優しいカンジ。
「いいよ、そんなの。副隊長さんもそれだけ大変だったってことでしょ?」
「お前、その副隊長っての、いい加減やめてくれねえか? おれには歴とした名前が……あ」
「そういえば、俺、副隊長さんの名前って聞いたこと無かった! 教えてよ」
 尋ねながら顔を覗き込むと、なんかビミョーな顔が浮かんでる。
「シュ……」
「しゅ?」
「シュトルテハイム・ラインバッハ3世」
 あんまり顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに答えるもんだから、つい笑っちゃったよ。
「そんなに笑うな! 俺だって、好きでこんな名前をつけたわけじゃ」
「ごめん! シュトルテハイム・ラインバッハ3世さんの顔、顔が、あんまり、おもしろ、かったから、つい」
 あ、マズイ。本気で怒りそう。
 笑いやめー。笑いやめー、俺!
 よし。
「別に名前を笑ったわけじゃないんだ。俺も自分の名前、大っキライだし」
「よーし。教えろ。今教えろ」
「教えるもんか。俺は死ぬ直前まで絶対に隠しきってやるって決めたんだからな!」
 しばらく、2人で顔を見合わせて笑った。
 もうそろそろ宿を取りに行く、と言って、シュトルテハイム・ラインバッハ3世さんが離れていく。
 この街なら学生の安全くらいは保証されるだろうから大丈夫だ。
 そう、聞かされた。
「あの時もらった地図だけどさ。サウスウィンドウには結局行けなかったけど、今でも持ってるんだ」
「そうか。でも、もう大丈夫だよな」
 うん、と頷いた俺に笑いかけて、シュトルテハイム・ラインバッハ3世さんは歩いていった。
 
 さあ、これからどうしよう。手紙はもう書いちゃったし、今日は授業もないし。
 ヒマでヒマでしょうがないから、街に買い物に行くことにした。
 広場のあたりにつくと、なにやらもめている気配。
 野次馬根性で様子を見に行くことに決めた俺。
 だってほら、皇子サマに報告するネタ話は多いに越したことはないし?
 で、人ごみをすり抜けて騒ぎの中心を観察してみる。
 誰だろう、あれ? なんか性格悪そうなオッサン。
「グリンヒル内に同盟軍の者が潜入している可能性がある! 侵入者の名は青雷のフリック!」
 フリックって同盟軍のエライ人、だったよね? あの皇子サマとガチンコ戦争やってるっていう! 学校で習った!
 怖くなった。パニくった。結局、俺がどうしたかというと、
 走って逃げた。
 なぜかハイランド軍から。
 当然のことながら、周りにいた兵士たちに捕まえられたさ。怪しいやつめ! とか言いながらね。
「イヤだ! 同盟軍がいるんだろ! 皇子サマも怖いけど、同盟軍はもっと怖い! 離せよ! 寮に帰る!」
 耐え切れなくなって叫んだら、急に周りの人の目が優しくなった。
 かわいそうに、なんて声も聞こえてくる。
 そう思うなら誰か助けろよ!
 必死の思いで見回してみたけど、みんな遠くから見てるだけで助けてくれそうな気配は無いし、それどころか怒り心頭って表情で俺を睨みつけてくる人も混ざってたり。
 なんでだろ。同盟軍が好きなのかな。
 でもさ。怖いの、当たり前じゃない?
 そりゃあね。戦争の時以外はノンキに学生やってたよ? けど、俺は知ってるんだ。
 給食がどんどん減って、ついには朝食以外は何も出なくなって、もうみんないっぱいいっぱい、ってなった時のこと。
 市長さんがいないせいだ、って言いがかりをつけてグリンヒル内で市民の虐殺をしたのは、同盟軍だった。
 さあみんな、よく考えてみよう。
 皇子サマに殺されるのは、役立たずだから。
 同盟軍に殺されるのは、メシがないから。
 皇子サマに殺されないためには、面白い話をすればいい。
 同盟軍に殺されないためには、メシを出せばいい。
 面白い話は、頑張れば思いつく。
 メシは、無いものは無い。
 つまり。
 同盟軍の方がリフジン。死亡回避、不可。ムリ。怖い。
「ラウド様、どうなさいますか? これはさすがに、同盟軍とは無関係かと思いますが」
「逃げたからにはやましい事があるに決まっている! ひっ捕らえろ。キャンプに戻って尋問してやる」
「い、いやだ!」
 尋問って、ひどいことされるんだろ!? 何で俺が! 何も悪いことしてないのに!
 さすがに大騒ぎに気づいたのか、どんどん人が集まってくる。
 その中に、今ではもう見慣れたターバンがあった。
 シンさんだった。
 約束がちがう、学生には手を出すなって言ってくれたけど、このラウドってヤツは聞く耳も持たないって感じ。
 最終的に皇子サマの名前が挙がると、そのシンさんですら黙り込む。
 ですよねー。怖いもんねー。
 救助に頼るのは諦めてさんざん暴れてみたところで、やっぱりいつまで経っても俺は俺。
 結局、ハイランド軍の陣営に連れて行かれた。





 

 グリンヒルの真正面で張られていたキャンプに連れ込まれ、もうそろそろ騒ぐ気力もなくなってきた頃、大きなテントの中から予想外の人が現れた。
「騒がしいぞ、何事だ? って、何でお前がここに……」
「赤毛さん! 助けて! 怖い!」
「ラウド! どういうことだ?」
 赤毛さんが助けてくれました。軍団長がなんとかかんとか、と、すごい剣幕で罵り合ってる。
 よく分からないけど、この人、命令違反で罰を受けるんだってさ。ざまーみろ。
「しかし! 青雷のフリックがグリンヒルにいるというタレコミが」
「それについても軍団長の指示を仰ぐべき状況だ。お前や、たとえ俺であっても、勝手な行動が許される状況じゃねえよ」
 難しい話になったからボーっと聞き流していたら、来い! って言って赤毛さんに掴み起こされた。
 怖くて腰が抜けてたんだよ。
 中央の大きなテントに入ったら、中は誰もいなかった。赤毛さんと2人きり。
「ちっ、その様子じゃ相当派手に連れてこられたみてえだな。くそっ」
「ご、ごめんなさい!」
「ああ、いや。お前に怒ったわけじゃねえんだ」
 来ちゃったものは仕方がないから、今までグリンヒルで起こったことを詳しく話せってさ。
 あのラウドとかいう人から解放されたことですっかり安心しきった俺は、これまでのことを涙混じりに訴えた。
 同盟軍の協力でハイランド軍を撃退したときのこと。
 女子学生は元気が良すぎて怖いということ。
 勝利して浮かれきった街のこと。
 給食がおいしかったということ。
 その後の、同盟軍がやった虐殺のこと。
 シュトルテハイム・ラインバッハ3世さんに再会したこと。
 広場で捕まったときのこと。
 赤毛さんは、笑ったり、真剣な顔になったりしながら、根気よく俺の話を聞いてくれた。
 皇子サマと違って剣を突きつけてきたりしないから、俺も落ち着いて話すことができたよ。
 やっぱり俺、この人スキ。
「なるほど。色々と手紙にして情報を送ってきたことといい、ルカ様の人を見る目もさすが、ってとこか」
 ん? 手紙?
「あれは純粋によくやった、って思ったぜ。今日の給食のメニューだの、学生同士のケンカのことだの、普通のガキらしい内容がほとんどだったからな」
「あの手紙が役に立ったんですか?」
「おう。お手柄だ」
 ほーめーらーれーたーぜー。
 赤毛さんが言うには、軍を動かすタイミングを掴みやすかった、優秀なスパイがいて助かったって。
 スパイなんかいたんだ。俺、全然気づかなかった。
 さすが。優秀なスパイは違うね。
 きっと、俺が手紙をたくさん出したから、スパイの連絡も紛れ込めたんだよ。
 よくやった、俺。
 しかも今の話でよく気づいた、俺。
 やっぱり学校に通ったおかげで賢くなったんだな。
「グリンヒル側で手紙の内容を確認してないってのもラッキーだったな。今回の戦では軍団長に天運が味方したっつーこった」
 ん。なんか変なこと言った。
「確認、してますよ」
 嬉しそうにしてた赤毛さんの動きがピタッと止まる。
「あ?」
「だから、確認。してました。俺、ちゃんと手紙を提出してから出してたもん」
 そんなに驚かなくてもいいと思う。
 もちろん、出そうとした手紙の中には、破いて燃やされちゃったものもあったよ。
 シンさんはターバンの中でキノコを栽培してるんだと思います。
 とか、
 シンさんと女子学生が深夜に空き部屋で密会してました。その後、声がしなくなったから、自分の教育上よろしくない事態だと思って慌てて逃げました。
 とか。
 何でシンさんのことしか書いてないんだって怒られたこともあるけど、俺、友達いないんです。って言ったら納得してくれた。
 かなり複雑。
 そんな話をしたら、赤毛さんがよくやったって大笑いしてくれた。
 その部屋がどこだか教えてくれって言われたので、学校の見取り図を描いてみる。
 ムダに俯瞰で。
 更に、シンさんと女の子の似顔絵をその空き部屋へ描きこんだ。
「何なんだよ、その無駄な才能! 次オレ描け、オレ!」
「任せてください!」
 調子に乗って描き続け、ちょうどチショーさんが描き終わったとき、本人がテントに入ってきた。
 軍の備品で遊ぶなって怒られました。
 誰かと2人で怒られるのは生まれて初めてだったから、ちょっと嬉しい、とか思ったりして。
 それから軍団長さんが帰ってくるまでの1日は、一般兵用の小さなテントで大人しく過ごしたよ。寂しかったよ。






 外が騒がしくなってきた。ずっとうとうとしてたのがようやく眠りになりそうなところだったのに。
 うるせえよ。なんだよ。
「君! ニューリーフの新入生のこと、ちょっと聞かせてもらえるかな?」
 俺のところへ駆け寄ってきたのは、少し年下かなー、という年齢の少年。
 眠気が覚めてなかったし、何が何だか分からないから黙ってたら、周りの兵士にボコボコ殴られた。
 目は覚めたけどさ。もうちょっとこう、ね? やり方とかあるんじゃないかな?
 むやみに人を殴っちゃいけないと思うんだよ、俺としては。
 というか、これ誰よ。
「もしかして僕のことを知らないのかな? 軍団長のジョウイ・アトレイドだ。君が潜入していたグリンヒルのことで確認したいことがある」
 マジメな話っぽい。それに軍団長って、昨日赤毛さんが言ってたエライ人だ。
「この絵、君が描いたんだよね?」
 見せられたのは、学校の見取り図の片隅に描いた似顔絵だった。
 軍団長さんが指差している、頭に変なわっかをつけた少年の絵を見てゆっくり頷く。
 うん、確かに俺の絵だ。赤毛さんに聞かれて新入生の絵を描いたんだよ。
「新入生の1人です。お姉さんと、友達と、ペットのムササビを連れて入学してきた男の子」
「こっちは?」
「少し前にお世話になった、シュトルテハイム・ラインバッハ3世さんです。3人の護衛としてグリンヒルに来たと聞きました」
 そう、とうつむく軍団長さん。悩みこんでるみたいだけど、どうしたんだろう。
 声をかけるべきかどうか考えている間に、軍団長さんは悩み終わった様子で声を張り上げた。
「クルガン! シード!」
 急に呼ばれたはずなのに2人はすぐテントへ駆け込んでくる。
 次々と指示を出していく軍団長さんと、それに1度も聞き返すことなく頷く2人。
 なんかすごいよ。カッコいいよ。
「明日の正午に街へ入ることにしました。よろしく頼みます」
「了解しました、軍団長」
「お手並み拝見させてもらうぜ、ジョウイ」
 3人は連れ立ってテントから出て行った。
 どうしたらいいんだろう。終わりかな? 俺、もう寝ていいのかな?
 あ、いいっぽい。テントの一般兵さんたちが帰ってきたし。
 もう、ねむ、い……。








 目が覚めたら夕方でした。
 グリンヒルは無事に無血で攻略し、明日の朝にはルルノイエに帰るそうです。
 赤毛さんも、チショーさんも、軍団長さんまで忙しそうにしてるのに、ラウドって人だけはあたふたしてるだけで仕事してない。ウケる。
 あ、2人だけ軍団長さんに呼ばれた。
「ジョウイ様、シードには少しばかり多めに仕事を与えておかねば。ただでさえデスクワークの役に立たないのですから」
「あ、てめ、この野郎」
「そうなのか。じゃあもう一つ……」
「わ、分かりました」
 和気あいあいとしてて、戦の帰りなのに楽しそう。
 仲良くなったのかな?
 でも、何だか違和感。だけどどこがおかしいのか分からない。
 悩んでも仕方なさそうだったから、深く考えるのはやめておいた。



 みんな嬉しそうだけど、皇子サマのところへ帰らなくちゃいけないのが憂鬱です。
 それでも、前向きに生きていこうと思う。
 もう少し学生をやっていたかった俺の、20歳の夏のことでした。











 7話、書き終わりました。
 早くルカ様のところへ帰りたいばかりにこんな時間に投稿。愛は尽きません。


 誤字脱字を含め、ここでその展開は無理矢理すぎる。書き直してみろ。など、ご意見、ご感想をいただけたら喜んで書き直します。
 気が向いたら、よろしくお願いします。






 話は変わりますが、この話が完結したら本板へ移動してみたいなー、とか生意気なことを考え始めています。

 やめておけ! お前はチラシ裏のこの優しい空気でしか生きられない!
 or
 やってみろ。愛をもって盛大に罵りに行ってやる。

 といったアドバイスがいただけたら嬉しいです。



 それでは、次回も頑張ります!








 追記
 

 20歳で主人公のこの言動は幼すぎる! と、愛あるツッコミいただきました。

 幻水4でのネコボルト(チープーなど)の喋り方と、主人公の設定をしたときのことを含めての言動だったのですが、ひどすぎる、とのご意見でしたので、該当部分だけは少し変更してみました。


  年齢そのものを変更する、という案もいただいたのですが、いい年していてこの言動だからこそ、という自分なりのこだわりもありまして、このようになりました。毎日ネコボルトと暮らしていて、ほとんど教育を受けていないとこんな大人になるんじゃないかな、と思ったりしています。

 ですが、このご意見を参考にして、この作品が終わった後にまた投稿することがあれば主人公の性格設定には十分気をつかっていこうと思います。

 貴重なご意見、ありがとうございました!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。8
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/02 01:49
 あ、どうも。俺です。
 ルルノイエに帰ってきました。 
 今回は入るの簡単だったよ。いつの間にか俺、正規軍人として登録されてたらしいから。




 軍団に混ざってルルノイエ入りを果たしたら、まずは任務の報告をしろと言われたので、教えられた通りの道を辿る。
 着いた先には、シード将軍とクルガン将軍とジョウイ将軍がいた。ラウドって人もいた。
 あ、ルルノイエに入る前にね、クルガン将軍に怒られたんだよ。
 一般人ならどんな風に呼んでも構わないけど、正式に軍人となったからには上官へは敬意を払え。
 ってことらしい。
 じゃあ皇子サマもルカ皇子殿下って呼ばなきゃいけないの? って聞いたら、皇子サマは1人しかいないから別に良いんだって。
 だから、シード将軍たちだけはちゃんと名前で呼ぶようになりました。
「なんか、エライ人ばっかりですね。どうして呼ばれたんですか、俺」
「君は情報班の配属だからね。階級こそ一般兵扱いだけど、任務の重要性で言ったら僕らとそれほど変わらないんだよ」
 だから、情報班の任務報告は必ず皇子サマに直接しなきゃいけないらしい。
 俺、かなりびっくり。知らないうちに出世してたよ。
 とりあえず、走ってトイレへ行ってきた。



 任務報告が始まった。ラウドって人は1言2言しゃべったらさっさと追い出されてた。
 じゃあ次は俺かな、と思ったのに、俺を無視してジョウイ将軍たちに話をふる皇子サマ。
 グリンヒルの攻略って、本当は半年くらいかかるハズだったんだってさ。だいぶ早く終わったって褒められてた。
 ジョウイ将軍、すごい。俺より年下なのに。
 いや、まあ、俺と比べてもしょうがないんだけどさ。




 報告はすごく長かった。めちゃくちゃ長かった。
 そろそろ立ってるの疲れてきたんだけど。
 あ、終わった? これで終わり? やった、帰れる。
「待て。お前はまだ報告が終わってねえだろうが」
 一緒に帰ろうとしたら、シード将軍に怒られた。
 報告って言っても、俺の知ってることはほとんどシード将軍に話してあったし、実際、今の報告でそれは全部伝えてあるのに、何で?
 でも文句は言わなかった。後ろでイライラしてる皇子サマが怖いから。
「始めろ」
 本当に話すことなんて何にもないのに。
「何を、話せば、いいですか? 俺の、知ってること、は、全部、シード将軍に……」
 しかも怖いからすぐ帰りたい。
「シード将軍、か。随分と懐いたものだな。グリンヒルに向かったときは名前すら満足に知らなかったようだが?」
 そのせいでクルガン将軍に怒られたんだもんよー!
「クルガンか? そう堅苦しい男でもないはずだが」
「初めは、シード将軍の真似をして、ジョウイ様、とか呼んでみたんです」
 でもシード様って呼んだら、柄じゃねえからやめてくれーって言われて。
 じゃあ僕も、ってジョウイ将軍が言って。だから。
 ジョウイくん。って呼んでみました。
 クルガン将軍にものすごい剣幕で怒られました。
「シードが、あれをそう呼んだんだな?」
 何だ、何だ? ナニ怒ってるの?
「はい」
「いつからだ」
 いつからだったかな。初めからじゃなかったっけ?
 いや、違うな。初めはジョウイって呼び捨ててたハズ。
 いつから? いつからだっけ?
「そっか、帰ってきてからだ」
 うん、そう。俺が寝てる間に、グリンヒルの攻略が終わってた日。
 前日の夜は確かにジョウイって呼んでた。
 よくよく考えてみると、あれから言葉遣いも変わってる。
 思い出した順にぽつり、ぽつり、と話すのを、皇子サマは黙って聞いてくれた。
 今日は剣を遠くに立てかけてあるから、気がついたら突きつけられてるって事もなさそうだし、あんまり怖くない日かも。
 とか思ったのに。
「ふん、そうか」
 機嫌悪い。ヤバイ。機嫌悪い! 何で!?
「グリンヒルで、あの3人に何があった?」
「知らない!」
 怖さに負けて、つい叫んじゃった。
 せめて黙っていれば良かったかもしれないと思ってすごく後悔した。
 ガッ! って音がしたんじゃないかっていうくらいの勢いでアゴを鷲づかみにされる。
 殴られる! と思ってそむけようとしていた顔を無理矢理正面に向けられると、もう皇子サマから目を逸らせない。
「おれは今、機嫌が悪い。隠し立ては許さん」
「本当に知らないんだ!! 俺はその日、夕方まで眠りこけてた! 気がついたときにはもう全部終わってたんだよ!」
 ギリッと、手に力が込められたのを感じる。
 アゴ、砕けちゃうかな。
 痛いな。
 っていうか、顔が近い。顔が近い。顔が近い。
 怖さまで薄れてきて、どうでもいい事しか思い浮かばなくなった頃、ふっとアゴへの圧力が無くなった。
「嘘は無さそうだな。いいだろう、信じてやる」
 皇子サマが離れていく。
 また、助かった、のかな。
 初めて至近距離で顔を見たせいなのか、切り殺されそうになったときよりよっぽど怖かった。
 ちょっとさ。
 別に俺へのビビらせレベル上げたってしょうがないと思うんだけどさ。
 どうしてこの皇子サマは、会うたびに怖くなっていくのかな。
 最初だってもちろん怖かったけど、最近拍車がかかってる気がするよ?
 

 ひとまずは、皇子サマは俺の言葉を信じてくれたようだった。
 さっさと自分の椅子に座りなおしてくれて、ようやく安心できる俺。
 気が抜けた瞬間、膝の力までガクッと抜けそうになったのをやっとのことでこらえる。
 ダメ、ゼッタイ。
 こんな場面でそんなことしたら、みっともない姿を晒すな! とか言われて殺されるんだ、きっと。
「まあいい。今回のことはお前にしては上出来だった」
 おや?
「今までの功に、報いてやるのも悪くない」
 もしかして。
「褒美をやろう。望みは何だ?」
 俺、すんごく褒められてるー!!
 どうしよう! ごほうびだって! 
 でもさ。ごほうびくれるのはもちろん嬉しいんだけどさ。
 だけどさ。
「もう少し優しくしてくれたらいいのになー」
 ってダメだよ! 声に出して言っちゃったよ! 言っちゃった!
 余計な事を言った自分に絶望して、俺は死を覚悟した。……んだけど。
 予想に反して、剣や罵声は飛んでこない。
 恐る恐る見てみたら、皇子サマは怒るでもなく、ただただびっくり! という表情で俺を眺めている。
 うわあ。初めて見た、そんな顔。
 もうね。あれだよ。俺で言うと、
 ポカーン、
 って顔。
 ついつられて、俺までポカーンとしてしまった。
 静寂に包まれる室内。
 次の瞬間。
 皇子サマの高笑いがこだました。
「このおれに面と向かってそれを言ったのはお前が初めてだ!」
 そんなバカな。
 皇子サマだって子供の頃はあったんだから、言われたことあるでしょ。
 他人には優しくしてあげましょう、とか、弱いものイジメをしてはいけません、とか。
 それともまさか、昔は心優しい少年だったとか?
 それはないか。ないない。



 何はともあれ、だ。機嫌を直してくれたみたいで嬉しいです。
 しかも、何でもあげるよ! お金が欲しい? それとも貴族になってみる? というのも聞かれました。
 お金なんてなくても宿屋で働けば生きていけるし、キゾクになんてなりたくないし、丁重にお断りすることに。
「あ、でも」
「どうした。言ってみろ」
「ハイランドの地図、くれませんか?」
 グリンヒルでの勉強で一番面白かったのが地理の勉強だったんだよね。
 都市同盟がここだとするとー、ハイランドがここ、群島がこっちの方、ってヤツ。その土地の名産品とかも教わった。
 もともと、世界にはどんな場所があるんだろうって思ったのが俺の旅の理由だったし。
 ただ、グリンヒルには都市同盟の地図しか無かったんだ。
 世界が実際にどんな形をしてるかなんて誰にも分からないだろうから、仕方ないけど。
 それでも、グリンヒルへ行けばいくらでも見られるって部分で、都市同盟は便利になってるらしい。
 普通の国では、それこそ王家の人たちとか、一部の人しか知らないんだって。
「何に使うつもりだ?」
「勉強に。卓上旅行とも言うらしいです」
 俺の言葉を聞いて納得したらしい皇子サマは、机の上にあった紙に、さらさらと何かを書き始める。
 邪魔をして怒られるのもヤだし、大人しく待っていると、やがて書き終わった紙をぴらっと投げ捨てた。
 拾えってこと? わざわざ下へ捨てなくたっていいのに。
 皇子サマの視線に耐え切れなくなった俺がその紙を拾ってみたら、そこにあったのはひとつの絵。
 色々と描き込んであったんだけど、その中に、ルルノイエ、と書いて丸で囲ってある部分があった。
「国全体の地図など、どこにも無い。それで満足か」
 地図、描いてくれたんだ。
「ありがとうございます!」
 兵士になって初めてのごほうびだった。




 その後は、次の仕事の話。
 ハイランド貴族のアトレイド家について調べろってさ。
 城の資料室は俺みたいな下級兵士でも入れる1階にあるから、そこで調べたことを詳しくまとめて提出すればいいんだとか。
 レポート作りは学校でさんざんやったから、俺、得意。


 こういう仕事ばかりなら、ハイランドの兵士ってのもいいかもしれない。
 そんなことを思ってみた俺の、20歳の夏真っ盛りのことでした。











 7話コメント、ありがとうございました!

 クセがありすぎて嫌われるかな、とも思っていたので、主人公を気に入ってくださって嬉しいです。
 フリックとの再会は、7話までの展開上、避けるほうがむしろ不自然かな、と思いああいった形になりました。その為、今後の再会の予定は今のところありません。

 ほぼ毎話コメントがいただけているので、読んでくださっている皆様には本当に感謝しています。

 酷評、激励、ともに真剣に受け止めて精進していこうと思いますので、今後も愛あるツッコミいただけたら励みになります。気が向いたらぜひ、一言残していってください!


 何度かルカ様の今後についての展開予想をしていただいています。

 できれば、最後まで興味を持って読んでいただきたいという思いからあえてコメントは控えていましたが、完全スルーは失礼かも、と思い直し、ここでお礼に代えさせてもらいます。

 これからも読んでいただけたら嬉しいです!


 それでは、次回も頑張ります!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。9
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/03 06:17
 みんなどうも、俺です。
 アトレイド家について調べるために、資料室にこもりっきりです。




 基本的なことは、すぐに調べがついたんだ。
 代々キャロに邸宅を構えていることも分かったし、当主の名前も分かった。血筋を紐解く中には、ジョウイ将軍の名前もある。
 ここまでは予想通りってとこかな。
 ただ、その先が問題だった。
 まさかあの皇子サマに、こんな3行レポートを提出するわけにはいかないし。
 もう少し、内容を煮詰めていかないと。
 ところが。
 無い。全然新しい情報が無い。貴族目録や領主名簿で探そうとすると、今分かってることで精一杯。
 しょうがないから、キャロについて調べなおした。
 どんなところかなー、とか、ここ出身の人って誰、とか。
 結論から言うと、キャロ出身の兵士はほとんどいなかった。
 一応ね、正規軍人は名簿に登録されるんだよ。もちろん俺のことも書いてある。ハズ。
 何でこんなに曖昧かって言うと、名前と年齢が空欄になってたんだよね。 
 経歴欄に、皇子サマが行軍中にリューベで拾って来たって事と、群島出身だってことと、配属が情報班だっていうことだけが書かれてた。
 だからたぶん、これ、俺。
 司書さんによると、情報班は機密性の高い情報を持っているから、万が一スパイに入り込まれても分かりにくいようにあえて名前や年齢は書き残さないんだって。
 でもバカにつき取り扱い注意、とは書かれてた。もうムカつかないよ。何でもいいよ。
 で、肝心のキャロにいたことのある軍人だけど、その中で俺が知ってる名前は2人。
 ジョウイ将軍本人と、ラウドって人だった。
 どっちも、今回の戦争の発端だったユニコーンとかいう少年部隊の所属だったらしい。
 でもなー。皇子サマにこっそり調べろって言われてるからジョウイ将軍に直接聞きにく訳にはいかないし、俺、あのラウドって人キライだし。
 うーん。どうすっかなー。
 しばらく悩んでみたけど、今日はもう終わりにしようと決め、兵舎にもらった自室へ帰ることにした俺は、そこですばらしいラッキーに出会った。
 部屋長の上級兵さんがキャロ出身でした。
 初めは、つっかれたー! とか騒いでたら、訓練もしないで何をしとるか! って怒られたので、ちょっと言い訳してみたんだよ。
「まだハイランドに来て日が浅いので、歴史や今回の戦について勉強していたんです」
 これ、皇子サマの入れ知恵。
 なんかね。情報班の仕事内容って、直接指示をしてきた人と、その人の上官にしか教えちゃいけないっぽいんだよ。
 調べものをしなくちゃいけないのに、更に訓練なんてやったら死んじゃいますって言ったら、こう言えばなんとかなるって言われたのさ。
 そうしたら皇子サマの言葉通り、部屋長さんはすぐに納得してくれた。ついでに、キャロの事情まで教えてくれる。
「へえ。同盟軍の軍主って、キャロの出身だったんですか」
 おうよ。と頷く部屋長さん。更にはその軍主とジョウイ将軍がとても仲良しだったことも知った。
「でも、何で? この国の貴族って、あんまり平民と一緒に遊んだりしないのかと思ってたんですけど」
「まあそうかもしれんな。だが、ジョウイ様にはちょっと複雑な事情もあったから」
 ふんふん。なるほど。これでなんとかレポートが書けそうだよ。
 ジョウイ将軍は、どうやらアトレイド家の当主とは血がつながってないらしい。
 その辺の出来事をしっかり調べれば、レポートとしては十分でしょ。
 部屋長さんのおかげで、どうして皇子サマがジョウイ将軍のことを調べろって言ったのか分かったしね。
 なんと! 皇子サマの妹のジル皇女様と、ジョウイ将軍が婚約したんだってさ!
 やっと納得がいった。
 ジョウイ将軍たちの話をした直後で皇子サマの機嫌が悪くなったのは、妹を取られちゃうと思ってヤキモチやいてたんだ。
 シード将軍とクルガン将軍がジョウイ様って呼んでたのは、きっと仲良くなったときにジョウイ将軍と皇女様の恋愛について聞いていたからなんだと思う。
 アトレイド家について調べたのは、ムコ殿の身辺調査ってヤツだったんだね。
 あんな怖い顔して、意外にシスコン。ウケ……ウケません。皇女様、かわいそう。
 でも良かった! 
 俺、実はちょっと心配してたんだ。あのときの皇子サマの怒り方って普通じゃなかったし、もしかしてジョウイ将軍のことキライなのかなって。
 シード将軍の友達をどうするつもりでこんな仕事をよこしたんだろう、って思うと集中しきれなかったんです。
 だけどもう安心。
 だって、今回の婚約は皇子サマも皇王様もオッケーを出したらしいもん。キライだったらそんなこと許さないだろうし。
 よーし。俄然やる気出てきた。
 皇子サマの愛する妹さんが幸せになるためのお手伝いだもんね。ジョウイ将軍にはキャロにいる頃から今まで、やましい女性関係はありません! って証明しないと!
 明日の調べものは、アトレイド家の交友関係についても資料を集めよう。




「やっと、できた」
 レポートが書きあがったのは、皇子サマに指定された期限ギリギリのことだった。
 まだ、夕食の時間までには少し時間がある。
 報告は今日の夕食後に行く予定だから、読み直すくらいはできそう。
「ワイズメル家に、シルバーバーグ家、ねえ」
 俺が見ているのは、アトレイド家の交友関係のページだった。
 ジョウイ将軍が生まれてからのここ16年となると、正式な交流だけでも数は多い。その中で特に俺の目を引いたのが、この2家。
 キャロの町は都市同盟との国境付近にあるせいか、アトレイド家は都市同盟内の貴族との交流も盛んに行っていたようだ。
 とりたてて特に親しい家があるわけではないらしく、どの家とも1度か、多くて2度行き来をしている程度だったんだけど、その中にはグリンヒルの市長だったワイズメル家の元当主の名前もあった。
 もしかしたら、テレーズさんとも知り合いだったかも。
 うーん、マズイかな。俺は直接話したことはないけど、かなりの美人だったし。
 なんて言ったって、あのシンさんが心酔しきっちゃう程の人だもん。あのシンさんが。
 皇女様もかわいらしいって評判だけど、俺は見たことないしなー。比べられない。
 でもそのグリンヒルを攻めて、皇女様と婚約したんだから、きっと皇女様の方が好きなんだよ。
 羨ましいぜ。俺もお姫様と恋がしてみたい。
 ハイランドはヤだけどね。あの皇子サマをお義兄サマとか、呼べないでしょ。
 ジョウイ将軍、さすが。恐怖に負けずに愛を取った男。
 俺、絶対真似できない。
 まあこれは、問題ないか。普通に報告しよう。
 ヘンなのはシルバーバーグ家の方だ。
 シルバーバーグ家は昔からトランにあった軍師の家系で、ありとあらゆる戦況を覆すために知識の習得を惜しまないことでも知られている。らしい。
 アトレイド家へは、何度か家庭教師のようなことをするために出入りがあったんだとか。
 都市同盟どころかかなり遠くに住んでいるのをどうしてわざわざ、とは思わない。
 俺でも知ってたくらいには、頭がいい事で有名な家だし。
 大昔の戦争の時には群島にも出没したらしいし。
 むしろ、よく家庭教師なんかやってくれたなってところに驚いた。
 どうしても調べ切れなくて、どういう事情でそうなったのかまでは分からなかったけど。
 好奇心で、シルバーバーグ家の家系図も調べてみた。
 外国の貴族のことだから、正確なことはわかってないらしいんだけどさ。
 シルバーバーグ家っていうのは本当に変わってて、1度でも付き合いのあった国には、権力者宛に家系図を送りつけるんだって。
 有名すぎる家名がむやみに騙られるのを防ぐためだ、とか色々説が飛び交っているものの、本当のところはシルバーバーグ家の人にしか分かりません。
 という話だ。
 その家系図の中には、現在20歳代であろう男子の名前は書かれていなかった。
 やっぱりグリンヒルで街を指揮していた金髪さんはニセモノだったみたい。
 そこまで調べたところで、俺はレポートを整理して資料室を後にした。夕食食って、トイレへ行かなきゃ。




「これで全部か」
「はい。それ以上のことは本人に直接聞くのがいいんじゃないかと」
 俺は皇子サマの居室に来ていた。
 前回の報告は日中に執務室でやったので、この部屋に入るのは初めてだ。
 皇子サマの部屋っていうくらいだから もっとキラキラしてるもんだと思ってたのに。
 執務室にあったものよりいくらか小さな執務机と、やたら大きなベッドがおいてあるだけで、余計なものは一切無い。
「シルバーバーグ家と繋がりがあったとはな」
「あ、やっぱり気になりました? 俺も少し引っかかったんで、少し詳しく調べてみたんです」
 皇子サマの視線が、初めてレポートから俺に移された。
 グリンヒルで出会ったニセモノさんの話をすると、訝しそうな表情に変わる。
 イライラされたらたまらないので、俺の知っているシルバーバーグ家について必死に話してみた。
「百何十年か前に、群島であった戦争にもシルバーバーグ家の人が関わっていたらしいんです」
「それがどうした」
「歴史で聞いたシルバーバーグ家は、負ける戦に首をつっこんで更に途中で逃げるなんてこと、絶対にしないんですよね」
 さすがの皇子サマも、ハイランドから遠く離れた群島の歴史は詳しく知らないみたい。
 俺の方がよく知っていることなんてそうは無いから、つい調子に乗って力説しちゃったよ。
「というわけで、俺のイメージでは強い軍か真の紋章が好きな人たちなんだろうな、と」
「主君を捨ててでも勢力の勝利を取る、か。なるほどな、覚えておこう」
「まあでも、それはあくまで俺のイメージですから。結果的に当時は軍は勝ったけど軍主が死んだっていう事実があるだけで」
 俺、ずっと間違えてたんだけどさ。真の紋章って、持ち主を不老にはするけど、決して不死にはしないんだって。
 考えてみればそうだよね。心臓刺されたり、首飛ばされたりしても生きてたらホラー。
 だから、真の紋章の持ち主だったと言われている軍主が死んだってことも、そんなにおかしなことではないのかもしれない。
 でも、歴史って本当に面白いと思う。
 俺が今皇子サマに伝えたのは俺の育った島で伝わってる歴史だけど、軍主はオベルっていう国の王様だった説のほうが有力なんだよ。
 軍主は死んでねえぞ、って怒られるかも。
 どっちが正しいのかなんてわかんないから、詳しく知ってるほうで語ってみたけどな!
「えーと、俺からの報告は以上です」
「分かった、下がれ」
 おお! 今回は1回も怒られなかった!
 急いで帰ろう。さっさと帰ろう。何かで怒られる前に。
「いや、待て」
「はいー!?」
 ナニ? 俺、やっぱりまたなんかした!?
「当分の間はあれの行動に気を配っておけ」
 あれって言われてもわからねえよ!
「あれ?」
「ジョウイだ」
 なんかね。訓練や調べものはしなくていいから、兵士同士の噂とかをちゃんと聞いておけってさ。
 聞いたことを逐一報告しろって。
「チクイチって、どのくらい?」
「毎晩だ」
 皇子サマには逆らえません。
 やっと仕事が終わったからしばらくは会わないで済むと思ってたのに、これからは毎日皇子サマに会いに来なきゃならなくなりました。
 俺、不幸。



 そんなこんなで、気の休まる日はありません。
 自分の不幸っぷりはシュトルテハイム・ラインバッハ3世さんよりひどいんじゃないかと思ってみた。
 そんな俺の、20歳の夏真っ盛りのことでした。















 8話コメント、ありがとうございます!

 幻水2だけではなく、カードストーリーズとティアなんとか以外は全部プレーしました! できるだけ楽しんでいただけるように今後も頑張ろうと思っています。

 レオンについても、ちょっとフラグ立ててみました。今後も興味を持っていただけたら嬉しいです。



 酷評、激励、ともにまだまだお待ちしています。皆様、今後もどうぞよろしくお願いします!


 それでは、次回も頑張ります!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。10
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/03 22:26
 ん、どうも、俺です。
 噂話は大好きですが、そろそろ飽きてきました。



 初めのうちは、珍しい話ばっかりだったんだ。
 シード将軍が幼女に纏わりつかれて結婚してー!! って迫られてたとか、クルガン将軍には彼女がいるらしいよ、とか。
 あとはそうだなー。
 ジョウイ将軍の執務室は、シード将軍とクルガン将軍が入り浸ってるとか。
 あの3人って、やっぱりすごく仲がいいみたい。
 部屋付きのメイドさんとか兵士を追い払って、内緒話をしてることが多いらしい。
 でも、そんな噂話も、10日もすれば底をつく。
 命令だから一応皇子サマの部屋へは毎日報告に行ってるけど、新しい話がないと盛り上がらないんだよね。
 ネタが尽きたら殺されるかもしれない、と必死になってた俺に、今日は新しい噂が舞い込んできました。
「へ? 皇子サマが?」
「そうなのよ! 今まではさすがに上流貴族のお嬢様方はお話し相手ぐらいなさってたのに、ここ数日はめっきりなんですって」
 なんかね。皇子サマって、一部のお嬢様方に大人気らしいよ。
 確かに、言われてみれば身分はこの国の独身男性の中では1番高いし、鬼のように強いし、そこだけ見ると申し分ないのかも知れないけど、
「怖くね?」
 俺の感想はこの一言に尽きる。
 剣の腕で言うならシード将軍だって相当のものらしいし、戦略的な意味ならクルガン将軍だって優秀だと聞いた。
 なにも好き好んであんな怖い人を選ばなくてもいいだろうに。
 シード将軍優しいよ。顔もカッコいいよ。オススメ。
「バカね! あの危険な魅力があってこそよ! これだから男っていうのは分かってないわ」
 わかりたくねーよ。っていうか俺がそこでこのメイドさんと一緒に、
「抱かれたーい」
 とか言っちゃダメだろ。色々間違ってるだろ。男としては。
「で、どうしてそこで皇子サマに彼女ができたって話になんの? 色々忙しくてお話し相手をするヒマなんてなくなっただけかも知れないじゃん」
「ところが、そうでもないのよねえ」
 彼女が言うには、もともとお嬢様方とのお話に使っていた時間は執務時間後の数時間だったんだって。
 で、同じ時間に皇子サマの部屋へ入っていく人影を見た人が何人かいるんだとか。
 その時間になると、その人が来る前にメイドさんを下がらせちゃうから、実際にその人物を直接見たことのある人は誰もいない、と。
「じゃあ女かどうかわからないじゃん」
「女よ! 女に決まってるわ!」
 キイーッと叫んでいるメイドさん。
 なんでも、メイドさんの集まる控え室では犯人探しまであったらしい。
 でも結局誰だかわからなくて、中には各将軍に、知りませんか!? って特攻した人もいたんだとか。
 城の女の人って思い込み激しくて怖いね。
 それってたぶん、俺だよ。
 とは、言えなかった。なんとなく恐ろしいことになる気がして。





「ということがありました」
 今日の噂話の報告を終わらせた俺を、皇子サマが睨みつけてくる。
「ふん、くだらん噂を」
 そんなこと言ったって、しょうがないじゃん! 実際噂になっちゃったんだから!
 そもそも、皇子サマがちゃんとお嬢様方とのお話を続けてれば良かったんだ。
 断じて、俺のせいじゃありません。
「ジョウイ達にも知れたということだな?」
「ええ。今ルルノイエ内にいる将軍なら全員知ってるんじゃないかと」
「潮時か」
 チッ、と舌打ちをする皇子サマ。どういうわけか、俺の仕事がジョウイ将軍たちに知られるのはマズイらしい。
 これからはもう仕事も無いから、また呼ばれるまではここに来なくていいってさ。
「だが、任務の内容は悟られるなよ。命が惜しいならな」
「ちょっと待ってくださいよ! そんなこと言われても、あの様子じゃ俺がここに来てたことなんてすぐバレちゃいますって!」
 メイドさんの怒りはハンパじゃなかった。あの人ならやる。すぐにでも俺の正体を突き止める。
 俺が皇子サマの部屋に通っていたことが知られても、任務の内容だけは隠す方法を考えないと!
「い、言い訳! 俺が皇子サマと何か別の話をしていたことにすればなんとかなるかも知れないです! 皇子サマも口裏を合わせてくれれば、バッチリ!」
「勝手にしろ」
 しょうがないなあ、ってカンジでため息を吐かれた。
 リフジンだ。
 俺は皇子サマの命令を聞いていただけなのに、なんか何もかも俺のせいにされてる気がする。
 大体さ。皇子サマのほうが頭良いんだから、言い訳だって皇子サマが考えてくれればいいのに。
 ん、待てよ。
「皇子サマに、勉強を教わりに来てました、とかどうですか?」
「城の連中ではなく、わざわざおれに教わっていたと説明するつもりか」
「はい。皇子サマじゃなきゃいけない理由は、これです」
 言って、俺は道具袋から1枚の紙を取り出した。
「それは……おれがくれてやった地図か」
「そうです。俺が知っている中で、皇子サマ以上にハイランドに詳しい人はいませんから」
 頭のいい人を見つけたら、何が何でも教えを請いなさい。
 それがグリンヒルの学校で、一番初めに教わったこと。
 うんうん。本当に学校って役に立つ。 
 皇子サマもひとまずは納得してくれたみたいで、そういうことにしておいてやるから今日はもう帰れって言われました。
 だが断る。とか言ってみた。
「せめて少しくらい、勉強を教えてください。そうじゃないと、すぐバレます」
 だって俺だし。嘘つくの苦手。
 いやいやいやいや。そこ睨むとこじゃないよ、皇子サマ! 
 怒った? 怒ったの!?
 あ、違ったみたい。
「来い」
 本当に教えてくれました。
 ハイランドの建国から今に至るまでの歴史を、地図を使って徹底的に。
 途中でちょっと驚かれた。1回で覚えるとは思わなかったって。
 みんな、俺のこと少しバカにしすぎだと思う。
 学校でも物覚えがいいってよく褒められたんだからな!





「失礼します」
 あー、満足。今日で一気にハイランドに詳しくなった自信があるよ。
 意外や意外、皇子サマは先生に向いてるかもしれない。
 途中でどんなことを聞いてもすらすら答えが返ってくるし、早すぎず遅すぎない話のペースもすんばらしい。
 言い訳のためだけの授業だったけど、もっと色々聞いてみたいと思った。
 すぐに我に返ったけどな! あんな怖い先生ヤだ。
 嬉しくなったり、怖くなったりしながら兵舎に戻ろうとすると、いきなり背後から取り押さえられた。
 口! 口ふさいじゃダメ! 苦しいから! 息できないから!
「しーっ! 大人しくしてろよ。ちょっと話を聞かせてくれりゃあすぐに帰してやるから」
 おんやあ? 知ってる声だよ。
「シード将軍?」
 パニくってた俺が落ち着いたのを確認して、後ろの人が手を離してくれた。
 やっぱりそうだ。どうしたんだろう、こんな時間に。
「話ですか? 俺に?」
「おう。最近噂になってる、ルカ様の彼女について、な」
 まるで連行するようにして、俺はどこかの部屋に連れてこられた。
「皇子サマのことなんて、俺が知ってるわけないじゃないですか。彼女いるのー? なんて会話、したいとも思いませんよ」
「ま、まあ、オレもそんな恐ろしい話、ルカ様にはできねえけど」
「でしょー? じゃあもう帰っていいですか?」
 俺、そろそろ眠くなってきたんだよ。それだけなら帰りたい。
「いや、オレが聞きたいのはお前がルカ様の部屋で何をしてたのかってことだ」
 シード将軍は、今日メイドさんたちに詰め寄られるまで皇子サマの部屋に通っている人間がいることは知らなかったらしい。
 で、誰かなー。何の話してんのかなー。と、皇子サマの部屋の近くで張り込んでたんだとか。
「うーん、基本的に噂話ですかね。幼女とシード将軍の関係についてとか」
「バカ野郎! くだらねえ話してんじゃねえよ! あれはだな……」
 うーん? どうして俺って、こんな夜中にシード将軍に言い訳されてんの?
「って、そうじゃねえよ。お前、本当にそんな下らない話しかしてねえ訳じゃねえだろ」
 あのルカ様だぜ? なんて事言ってる。そうか。あの人が怖いのは別に俺だけじゃなかったんだ。
「あとは、勉強です」 
「勉強?」
「グリンヒルで頑張ったから、ごほうびあげるよ! って言ってもらったんで、ハイランドの事を教えてもらってました」
 うん、我ながらなんて上手いんだ。
 これなら絶対バレない。
 と思ったのに、シード将軍はすごく疑ってるっぽい。
「ちょっとすぐには信じられねえな。よりにもよってあのルカ様だぞ?」
「何ですか。証拠を出せとか言い出すんですか」
「まあ、ありていに言えばそういうことだな。どうにもこうにも嘘くせえ」
 ひどいなー。俺はこんなにシード将軍のことが好きなのに、そんな俺のことを疑うんだ。
 まあ、ウソついてるけどね。でもこれはしょうがないと思うんだ。
 俺の命がかかってるし。
「じゃあ、こんなのどうですか?」
「あ? 何だよそれ」
「ハイランドの地図だそうです。皇子サマに聞いてみたら、描いてくれました」
「ルカ様の直筆って事か!?」
 ありえねえ、とか、貴族のお嬢様方に売れば相当の金になるぞ、とか、シード将軍、言いたい放題です。
「売りませんよ! 今日教えてもらったこととか復習するんです!」
「なあ、その勉強って、どんなこと教わったんだ? もう10日も経つんだろう?」
 よくぞ聞いてくれました!
 俺っていつもバカにされてばっかりだから、今は自分の知識をひけらかしたくて仕方がありません。
 こんな機会を逃すまいと、俺は語った。ひたすら語った。シード将軍にもういいって言われるまで、止まることなく語った。
「分かった。よく分かった。だからちょっと黙れ」
「えー。まだ半分しかしゃべってないのにー」
「もう十分だよ。確かにそれだけ教わってれば10日はかかるだろ、お前なら」
 シード将軍ってさ。
 優しいんだけどさ。
 俺のことどこまでバカにしてんのかなって、時々思うよ。
「事情も分かったし、もういいぜ。悪かったな、こんな時間まで」
 でも、もう帰っていいらしい。
 興奮したせいで眠気は飛んでいっちゃったけど、たぶんベッドに入ればすぐ寝られるし。
「わかりました。次は宿屋の娘さんとの関係について教えてくださいね!」
「調子に乗るなよ! 次はクルガンの女のことだ」
 ニヤリ、と笑うシード将軍は、すっごく楽しそうだったから、まあいいや、って思った。
 明日の夕食の後にシード将軍の特攻を観察だー!





 それからは、メイドさんに怒られたり、お菓子をもらったりしながら過ごしてます。
 皇子サマのことは遠くから見かけるくらいだし、毎日楽しいです。
 ルルノイエっていいところじゃん、とか思った俺の、20歳の夏真っ盛りのことでした。











 9話コメント、ありがとうございます!

 ジョウイの実父については、すみません、詳しく語る予定はないです。今のところ。
 というか自分の勉強不足で、アトレイド家の事情は実はよく知らないので独自設定に走ってしまいました。


 そしてまた展開予想いただきました! いつも読んでくださって本当にありがとうございます!




 
 主人公が既にオリキャラなので、なるべくこれ以上オリキャラを出さないように気をつけているんですが、今回はメイドさん大活躍になってしまいました。
 見張り1号、2号と同じく一発キャラなので見逃してください。


 それでは、次回も読んでいただけたら嬉しいです! よろしくお願いします!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。11
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/04 18:53
 どうも、俺です。
 とうとうハイランド軍が総力戦に臨むそうです。
 でもなんか、皇子サマの怖さが尋常じゃないんだよね。




 皇子サマがミューズへ進軍して、一時帰還をしてきたのが昨日のこと。
 今日の朝礼で、情報班は全員夕食前に皇子サマの執務室へ来るようにっていう連絡があった。
 なんか、全員に任務があるらしいよ。
 で、しっかりトイレも済ませた後で来てみたんだけどさ。
「何で俺だけ?」
 俺以外の人は誰もいなかった。
 もちろん皇子サマはいるんだけど。
「現段階の情報班でルルノイエにいるのはお前だけだ」
 だったら普通に呼んでくれればいいのに。ヘンなの。
「次の進軍ではお前も来い」
「……はい?」
 俺なんか連れて行ったって数にも入らないってこと、十分知ってるハズなのに。
 何で急に?
「2度は言わん。いいな」
 なんか様子が変だ。
 いつもだったらもう少し分かりやすいように話してくれるのに、今日はすごく一方的。
 そういえば、ミューズで皇子サマが暴走したらしいっていう噂を聞いたけど、何か関係あるのかな。
 あのさ。
 ミューズでね、皇子サマ、また虐殺やったらしいよ。
 俺はルルノイエでお留守番だったから、詳しいことは知らないんだけど、普通じゃなかったって。
 でも、と思う。
 あの人が弱いものイジメ大好きなのは今に始まったことじゃないでしょ。
 わざわざ自分で出かけて行って、ガキでもジーさんバーさんでも、とにかく殺しまくるのが皇子サマだ。
 だから、何を今更って。
 こうやって会ってみて、やっとそれも分かったけど。
 怖いよ。またビビらせレベル上げて帰ってきたよ。尋常じゃない。
 初めから皇子サマに逆らおうなんて思ってないけど、それにしたって、
「イマイチ事情がよくわからな……」
 言いかけたところで、腹に熱さを感じた。
 熱、い? いや、違うな。これ、痛いんだ。
 皮が切られたとか、そんな生易しいもんじゃないんだよ。
 ザクッと切られた感触なんだって。
 なんだか呆然としちゃってさ。自分が座り込んだことにも気づかなかった。
 皇子サマを見上げると、手にはいつの間にか抜き身の剣が握られてて、いつもの怖い顔で俺を見下ろしてる。
 そっか。皇子サマに切られたんだ。
「2度は言わん、と言った。逆らったらどうなるか、知らんわけでもあるまいに」
 所詮はお前もブタか。 
 なんて呟きやがった。
 機嫌が悪いらしいって事はわかった。
 分かったけど。
 さすがの俺もカチンときたね。ブタブタブタブタってさあ。どうなのよ、それはさあ。
「や、くそく、と、違う、じゃんか」
「何だと?」
「皇子、サマ、最初に、約束、してくれ、た、じゃんかよ。ブタ、って、言わない、って」
 みんな忘れてるでしょ? リューベで拾われたばっかりの頃、俺、確かに約束したもんね。
 殺すときは『ブタが!!!』以外で殺してね、って。
「何で、機嫌が悪いのか、知らない、けど、エライ人が、約束、破っちゃ、いけないんだ、よ?」
 あ、なんかもう痛くなくなってきた。
「そもそも、俺、行かない、って、言って、ない、の、に」
 目が、開かないよ。
「――、――――」
 誰かな。何か、言ってるのかな。
 もうワカンナイや。


 こうして俺の、20年の人生は、幕を閉じたんだ。
























































































 と思ったら生きてましたー!!!!

 やったよ! 生きてるよ! 何で!? どうして!? 
 どうでもいいや! 生きてるよ!!
 生きてる! 生きてる!
「黙れ。今度こそ本当に殺されたいか」
 こ、声。声がするよ。
 真上から聞こえてきた声に反応してつい、上へ目線を向けてしまった。
 皇子サマが不機嫌そうな顔で俺を見てる。
「す、スミマセン。俺、絶対死んだと思ったから、嬉しくて、つい」
 舌打ちされた。
 このまま倒れこんでるのもマズイと思って体を起こす。
 あれ、痛くない。
 もしかして! 俺、この部屋でまた3日間とか眠りこけてた!?
 あああああ。よく見たら外明るいし! 昼!? どんだけ経ったの!?
「あ、あれから、どれくらい、時間が」
「一晩だ。このおれの目の前でいい度胸だな」
 無茶言うなよ! 殺そうとしたのそっちじゃん!
 でも、昨日とは雰囲気が変わったみたい。
 イライラしてたのがちょっと落ち着いた、みたいな。
「お前にはまだ話があるが、おれは今忙しい」
 本当にどうしちゃったのか知らないけど、今日の皇子サマはちゃんと事情の説明をしてくれた。
 これから、ジョウイ将軍が騎士になるための儀式があるんだって。
「それについては文句はないが、ここに来てレオン・シルバーバーグが姿を現したことが気に入らん」
 それってつまり、アレか? 俺、やつあたりされたってこと?
 いいけどさ。どーせね。俺だしね。
 生きてたからまあいいけどね。
 でもシルバーバーグって最近よく聞くな。前から皇子サマが気に入らないって言ってたから、たぶんそのせいで機嫌が悪かったんだと思う。
 いい迷惑。
 来るんじゃねーよ。
 とにかく今は相手をしてやる時間がないから、さっさと帰って夜にまた来いってさ。
 寝起き一発目に皇子サマという恐怖に晒された俺は、腰が抜けて立てなかった。
 立てません。って言ってみたら胸倉をつかまれて、そのままぽいっと執務室の外へ放り投げられた。
 なにはともあれ、俺はまた一命を取り留めたわけだ。
 ムズカシイことよくわかんないし、とにかく皇子サマの命令には逆らわないでおこうと、改めて心に誓ったよ。




 また、夜になった。城は新しい騎士の誕生に沸き立ってる。
 ジョウイ将軍は人気者らしくて、あの人がいればハイランドは大丈夫だ、なんて言ってる人もいた。
 でも、妙な噂もたってるんだよね。
 皇王サマが、病気になったって。
 騎士の儀式の直後に倒れこんだみたい。すぐに死んじゃうほどじゃないけど、当分は意識が戻らないだろうって。
 そのことで、実質的なトップが皇子サマに変わったんだとか。
 ラダトを占拠してた将軍が負けそうっていう噂のこともあって、次は皇子サマが同盟軍と直接対決になるだろうっていうのが、話題になってる。
「ラダトへ向かう。これで同盟軍のブタどもを根絶やしにすれば、おれの勝ちだ」
 噂の通り、皇子サマはそう言った。
 これが最後の戦になるってことなのかな?
「それで俺は、何をすればいいんですか?」
「ジョウイとレオン・シルバーバーグの監視だ」
 皇子サマはとことんレオン・シルバーバーグが嫌いらしい。
 信用できないから、余計なことをしないように見張ってろって言われた。
 でも。たぶん俺、あんまり役に立たない。
「ジョウイ将軍が何かするとは思えないけど、万が一変なことしたとして、俺が止められるとは思えません」
「初めからそこまで期待はしていない」
 俺の仕事は監視だけで、とにかく何かがあっても何も無くても皇子サマに報告をすればいいんだって。
 それぐらいならできる、かも? 
 いや、できません、ムリです。なんて言えるわけないけどさ。怖いし。
 それに、止めることは期待してないけど、何かがあったときに俺なら皇子サマに伝えられるって思われたってことだよね。
 期待には、応えなくちゃいけないよね? ここ、頑張りどころだよね?
「頑張ります! だけど、ひとつ、約束してくれたら嬉しいな」
 皇子サマが黙って俺を見る。
 うん、怒ってない。言っていいみたい。
「皇子サマ、すごく強いから。だから、俺が近くで殺されそうになってたら、1回でいいから、守ってください」
 戦争って怖いから。グリンヒルでの防衛戦、俺は忘れてない。
 あの時は学生としてその場にいたおかげで、色んな人が守ってくれた。
 でもさ、今回は一応兵士として行くわけじゃん。
 自分の身は自分で守れ、って、部屋長さんにもさんざん言われた。
 だけどね。所詮、俺は俺だから。
 約束は、してもらえなかったけど。
「調子に乗るな。おれの手を煩わせるようなら、殺されるのを待つまでもない。おれがこの手で殺してやる」
 だってさ。
 予想通り、ってヤツかな。言ってみただけだし。
 これで決心がついたから、それで十分なんだ。
 死ぬかも!? じゃなくて、死にに行く! って思えた。
 見てろよ、皇子サマ! 俺にだってプライドはあるんだからなー!





 ラダトの様子は、思っていたよりも平和だった。
 ここを占拠していた、何ていったかな、ああそうだ、キバ将軍とクラウス様だ。その2人は、不必要な武力制圧はしなかったんだって。
 ついこの間、同盟軍に負けちゃったみたいだけど。
 軍の兵士たちを守るために、2人だけで同盟軍の本拠地へ向かっていったらしい。
 そこで何があったのかは誰にも分からないけど、良くて捕虜、悪ければ首が飛んだんだろうって言われてる。
 だから次の戦は、皇子サマが指揮を執ることになった。
 レオン・シルバーバーグとジョウイ将軍は後方支援だってさ。
 昼のうちに、軍団を率いて皇子サマが同盟軍を攻撃する。
 その日の夜に、皇子サマと親衛軍だけで同盟軍を奇襲する。
 うん、覚えた。
 作戦会議のとき、レオン・シルバーバーグは夜戦はやめておけってすごく反対したらしい。
 皇子サマはムキになってたのか、聞く耳も持たずに決定したみたいだけど。
 昼の戦闘は、すごく呆気なかった。
 皇子サマはやっぱり強い。
 同盟軍も勢力を広げてはいるけど、そんなのは関係ないくらいに皇子サマは圧倒的だったようだ。
 ほとんど時間もかけずに同盟軍を蹴散らして、捕虜まで連れて帰ってきた。
 コボルト。
 早く殺せ! ってわめき散らして、皇子サマを怒らせたんだけど、ジョウイ将軍とレオン・シルバーバーグが庇って、今はテントに縛り付けられてる。
「おい」
「はい」
「捕虜を見張っていろ。誰も近づけさせるな」
 なんだろう、皇子サマ。やけにあのコボルトを気にしてる。
 怪我がひどくてもうボロボロだし、自分で逃げ出せるとも思えないんだけど。
「将軍たちに命令されてもですか?」
「おれの命令が最優先だ。誰であろうと同じこと」
「分かりました」
 まあ、あの様子なら俺でも見張りできそうだし。皇子サマの命令だし。
 ちょっとでも文句を言ってまた剣を出されたら嫌だから、すぐにテントへ行った。

「あ、ジョウイ将軍! スミマセン、誰も通すなって皇子サマに言われてるんです」
 見張りに立ってしばらくは、誰も来なかったんだ。
 当然だよね。敵軍の捕虜になんて普通は何の用事もないし。
 だんだん辺りも薄暗くなってきて、そろそろ夕飯食べたいなーなんて思ってたんだけど、そんな時、ジョウイ将軍がやってきた。
 なんだー? 深刻そうな顔。
「それは知ってるよ。でも、僕はどうしても中の人に会わなくちゃならないんだ」
「うーん。シード将軍のお友達だし、できればそうしたいんですけど、皇子サマの命令破ったら俺、殺されちゃうし」
 俺を助けると思って! ね! 諦めてよ。
 だけどジョウイ将軍はなかなか諦めてくれない。ずっと困ったような、悲しそうな顔をしながら中に入れてくれって言い続けてる。
「困ったなー。将軍から命令されても絶対通すなって言われてるんですよ、俺」
 そうだ! 何か伝言があるんなら俺が伝えれば問題ないんじゃない?
 我ながらすごくいい思いつきだと思って提案してみたんだけど、ジョウイ将軍は首を横にふるだけだった。
「生温いですな、ジョウイ殿」
 あ、レオン・シルバーバーグだ。
 って痛てえー!! 何? 何されたの!?
「レオン! 何もそこまで……」
「あなたの決意はその程度だったんですかな? 邪魔になるなら排除する。それだけの意味があることです」
 俺の肩には、細身の短剣が突き刺さっていた。レオン・シルバーバーグに刺されたみたい。
「その短剣は」
「致死量には程遠いですが、毒が仕込んであります。放っておけばいずれ死ぬ。これであなたも思い切りがつくことでしょう」
 何勝手なこと言ってんだよ! 俺は思い切りつかねえよ!
 わめこうとしたけど、頭がクラクラしてムリだった。
 崩れ落ちた俺を横目に、ジョウイ将軍とレオン・シルバーバーグがテントの中へ入っていく。
 せめて、何をしているのか、確認しないと。
 テントの中で、ジョウイ将軍はコボルトに今夜の作戦について伝えていた。とにかく一刻も早く本拠地に帰って、夜襲に備えるようにとも。
 俺にもわかった。ジョウイ将軍が皇子サマを裏切ったんだってこと。
 気持ちは分からないでもないけどね。
 皇子サマ、怖いし。
 でも、軍人として、裏切るってのは良くないと思うんだよね。俺としては。
 それに、皇子サマが負けちゃったら、きっとハイランドは勝てなくなる。
 ルルノイエでも、グリンヒルみたいに同盟軍が虐殺を始めるかもしれない。
 俺、ルルノイエ好きだし。皇子サマのことも、怖いけど、それでも実は、キライじゃないし。
 だからさ。
 早く。早く皇子サマに伝えないと。
 夜襲はダメだって。バレてるから危ないって。
 必死に走った。頭が揺れると吐き気がして、何度も止まりそうになったけどそれでも必死に走った。
 皇子サマのいる大きなテントが見えてきたけど、そこまでで俺の体力は限界。
 道具袋の中からおくすりを取り出そうとしたら、ここにいるはずのない人を見つけた。
「シード将軍!」
「え? ……お前! どうしたんだ、それ!」
 良かった、もう大丈夫だ。
 シード将軍なら、きっとなんとかしてくれる。
 ジョウイ将軍と友達だけど、ハイランドの為ならきっと分かってくれる。
「ジョウイ将軍、裏切って、夜襲、同盟軍に」
 皇子サマの命令でルルノイエにいるはずのシード将軍が、どうしてここにいるのか。
 そんなことはどうでも良かった。
 ただ、ここで会えたのはラッキーだって、それしか考えてなかった。
「そうか。お前、知っちまったのか」
 だからかな。それを言ったときのシード将軍の顔なんて、見てなかったんだ。
「皇子サマ、負ける、ルルノイエも、グリンヒルみたいに」
 お願いだから、お願いだから俺の代わりに伝えてきて!
「シード!」
 ジョウイ将軍の、声だ。
 でも大丈夫。きっと、シード将軍が、助けて……。
「ああ、ジョウイ様。探してたのはこいつでしょう? 大丈夫、まだルカ・ブライトには伝わってませんよ」
 あれ?
「油断しましたな。まだ逃げる気力があるとは思いませんでした」
 何で?
「まあそれも、ここで限界だったみてえだけどな」
 これじゃまるで。
「どうする、レオン?」
 シード将軍も。
「確か、同盟軍の青雷のフリックと面識があるのでしたな。ならば無駄で元々、少々役に立ってもらいましょう」
 皇子サマを。
「なら、それについては任せるよ。シード、頼む」
「分かりました」
 裏切、ってる、みたい、じゃん、か。





 ああ、くそ。しくじっちゃったよ。
 今度こそ、皇子サマに、殺される、かも。
















 10話コメント、ありがとうございました!

 ハイスペックという言葉に吹いてしまいました。いつも温かいコメントを残してくださってありがとうございます!

 この作品を読んで、原作の素晴らしさを思い出してくださった方がいるのはとても嬉しいことです! ガンガンプレイしてハマり直してください!





 11話、書きあがりました!

 みなさまの愛あるツッコミに励まされて、やっと原作中盤の山場に到着です。
 これからも、読んでいただけることを願っています。


 それでは、次回も頑張ります!



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。12
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/05 14:46
「俺を、どこへ、連れて行く、つもり、ですか」
「ちょっとしたところへ、な。賭けに勝つためのささやかな小細工ってヤツさ」
 俺はシード将軍に担がれて、同盟軍の本拠地近くにある森へ連れて来られていた。
「そろそろ、毒で、死にますよ、俺」
「そりゃ困る。ほらよ、おくすり」
「いや、毒、消してくださいよ」
「無理だな」
 おくすりで体力だけはこまめに回復してくれていたけど、毒は未だに俺を蝕んでいる。
 肩の短剣も抜いてくれないし、俺が何を言っても、無理だ、ダメだ、って言ってばっかりで、シード将軍はもう俺を助けてくれる人じゃないっていう事実だけが伝わってきた。
「小細工、って、何の、こと、ですか?」
「言えねえな」
 どんなことを聞いても、教えてくれない。
「青雷の、フリック、って、俺、会ったこと、ない、ですよ」
「いや、お前は何度も会ってるよ」
 返事は、必ずしてくれるけど。
「いっそ、ひとおもい、に、殺して、くれれば、いいの、に」
「言ったろ。お前が死んでちゃ役に立たねえのさ」
 それでも、助けてはくれない。
「皇子サマか、フリック、って人が、俺を見て、動揺する、とでも、思ってん、の? ありえない、よ。俺が、いたって、何、も、変わらな、い」
 急に黙り込むシード将軍。
 二つ折りになるようにして肩に担がれてるから、俺からはシード将軍の背中しか見えない。
「お前が」
「え?」
「お前がもう少しバカだったら。ジョウイ様のことに気づかなければ、こんなことにはならなかった」
 そんなの、言いがかりだ。
 第一俺が気づかなくたって、俺以外の人が見張りに立ってれば、きっと皇子サマに伝わってた。
「お前がもう少し利口だったら。何が一番ハイランドの為になるのかが分かるヤツだったら、オレは何としてでもお前をこっち側に引き込んでた」
 それも、言いがかりだ。
 俺は俺なりに、ちゃんと考えてた。考えて、ハイランドには皇子サマが必要だって思った。
「そうすればオレは! せっかく助けたお前を、死なせに行かなくて済んだ!」
 それはもしかしたら、そうだったのかも。
 だってシード将軍、いい人だし。
 俺みたいなダメ軍人にも優しかった。
 グリンヒルからルルノイエに帰った後も、よく俺の様子を見に来てくれてた。
 皇子サマに泣かされたときも、慰めてくれたのはシード将軍だった。
「でも、最後の最後に、アンタは俺を見捨てるんだ」
「……お前は運が悪かったんだよ」
 そこまで言って、シード将軍は歩みを止めた。
 目的地に、着いたみたい。
 ゆっくりと、割れやすい物を運ぶときのように、俺を下ろすシード将軍。
 そこは、開けた場所だった。
 ついさっきまで回り中で生い茂っていた木々はほとんど無く、1本だけ、大きな木が、その存在を主張するかのようにそびえている。
 俺が下ろされたのは、その大樹の根元だった。
 胴と幹を完全にくっつけて、縄で厳重に繋ぎとめられる。
 捕虜のテントで縛り付けられていたコボルトとよく似ているかもしれない。
「腕、縛らなくて、いいわけ?」
「お前の腕の1本や2本自由になったところで、何もできやしねえだろ」
 まあ、そうだけどね。
 これでもかってくらいきつく縛られているから、ちょっとやそっともがいたくらいじゃ緩むこともないだろうし。
「そういえば、オレはお前の名前すら知らなかったんだな」
「絶対にアンタには教えない」
 俺の答えに、シード将軍は少し笑った。
「じゃあ、な」
 去っていく後ろ姿は堂々としていて、迷いなんて何もないように見えた。
 





 遠くで、金属同士のぶつかり合う音が聞こえる。
 あたりはもう真っ暗で、モンスターの気配すらないこの場所では余計に激しさを感じるのかもしれない。
 時折響く爆音や悲鳴は、グリンヒルでの戦闘を俺に思い出させた。
 俺の知っている戦争はあれだけだから。
 あれだけで十分だと思ってたから。
 だから、今聞こえている喧騒は、できることなら聞きたくなかった。
「皇子サマ、夜襲、始めちゃった、のか」
 夜襲を始めたということは、そして、本拠地からはやや離れたこの場所で戦闘が始まったということは、あのコボルトが情報を同盟軍に持ち帰ったということなんだろう。
「おくすり、あと、少し、か」
 俺は取り上げられなかった道具袋から、薬包紙に包まれたおくすりを取り出して使いつつ、なんとか今まで命をつないでいた。
 毒消しぐらい、持っておけばよかったと、今更ながら後悔したけど、そんなことを言っても始まらない。
 だんだん喧騒が近づいてきている。
 たぶんこの場所も、戦場になる。
 ああ、嫌だな。変なもん、もう見たくないのに。
 不意に、ザッと、足音が聞こえた。
 音のした方に目をやると、大柄な人影だけが見える。息が荒くて、すごく疲れきっているみたいだ。
「もしかして、皇子サマ?」
 問いかけると、すぐに返事が返ってきた。
「お前か。何故、ここにいる?」
 やっぱり、皇子サマだ。
「すみません。しくじっちゃった」
 ゆっくりと、近づいてくる。
「裏切り者かと思ったが、役立たずだったか」
「うん、そう」
 否定する言葉は浮かばなかった。ジョウイ将軍たちの裏切りを、報告することすらできなかったから。
 殺されるかな、と思った。
 でも、しょうがないか、とも思った。
 今までは理不尽に切り飛ばされそうになってたから嫌だったけど、今回は違うし。
 皇子サマを見れば分かる。
 敵に待ち伏せされて、きっとすごく大変な思いをしてここまで来た。
 親衛軍の人たちも、無事じゃないと思う。
 これが俺のせいだったら、殺されたって文句も言えないよね、って、そう思ったのに。
「今のお前に、殺すほどの価値もない、か」
 なんで、こんなときばっかり。
「その様子では、いずれにしろ長くは保つまい」
 そうだよ。道具袋いっぱいに入れておいたおくすりも、あとはこれだけ。
「うん。だから皇子サマ、これ使ってよ」
 俺は持っていたおくすりを差し出した。
 スズメの涙ほどのささやかな物だけど、きっとないよりマシだから。
 皇子サマが来た方角から、何人かの足音が聞こえてくる。
「俺はまだあるし。これからもう一戦、なんだろ?」
 皇子サマは黙って受け取ってくれた。
 足音が、大きくなってくる。
 俺は、道具袋から2つの紙の感触を確認して取り出し、皇子サマに見せた。
 それを確認して、皇子サマはおくすりを使う。
「せっかく、見逃して、くれるんなら、俺が、生きてる、うちに、やっつけて、ちゃんと、助けて、よ」
「ふん。知らんな」
 皇子サマが振り返った。
 ずっと聞こえていた足音も、止まった。
「追い詰めたぜ、ルカ・ブライト! これでお前も終わりだ!」
 追いかけてきた中から、どこかで聞いたことがあるような声が聞こえる。
 皇子サマは、笑った。どこまでも響き渡るような高笑い。
「虫けらが何をほざく! ブタどもが何を鳴く! このおれには貴様らの命を刈り取る権利があるのだ!」
 またあんなこと言ってるよ。
 だからシード将軍やジョウイ将軍に嫌われるんだって。
 でも。
「ルカ様! は、早く、お逃げ下さい!」
 こんな状況で兵士が駆けつけてくるほど、人気もあるんだよね。不思議だよ、本当に。
 無数の矢が飛んでくる。
 皇子サマを取り巻いて構えていた兵士たちが、みんな倒れた。
「い、ってえ、な、ちくしょう」
 俺に当たったのは、1本だけ。
「あれ、何、で」
 矢の飛んできた方向に、皇子サマが立ってる。
 守って、くれたの、かな?
「1度だけでいいと言っていたな、守ってやるのは」
 ルルノイエで言ったこと、覚えてたんだ。
 調子に乗るな、なんて言ってたのに。
「行くぞ、小僧!!!」
 お礼を言おうとした俺を振り返ることすらせず、皇子サマは敵に向かっていった。






 一騎打ちの決着がつくのに、それほど時間はかからなかった。
 皇子サマが、倒れこんだ?
 あんなに強いのに。
 今まで負けたことなんて無かったのに。
 俺は一瞬、自分の目を疑った。でも、聞いたことも無いような弱弱しい声を聞いて、これが現実なんだって、思い知った。
 あの時、シード将軍に頼らなければ、皇子サマ、勝ってたハズなのに。
 ちょっとは役に立てるようになったと思ったのに、俺は俺、かあ。
「ついに剣も折れ、それを振るう力も尽きたか……」
 皇子サマの声だった。
「貴様はなにゆえ戦う! このおれを殺し、何を思う!」
「この戦いを、終わらせるんだ」
 答える声は、静かだけど、はっきりしている。
 勝敗は、歴然だった。
「戦いを終わらせる? 夢物語だ……そんなものは、子供に言って聞かせるおとぎ話だ」
 ああ、そろそろ俺も、目がかすんできた、かな。
 さっき取り出した2枚の紙を、俺はぎゅっと握り締めた。
 これ、おくすりなんかじゃないんだ、本当は。
 隊長さんとシュトルテハイム・ラインバッハ3世さんにもらった地図と、皇子サマにもらった地図。
 絶対失くすもんかって思って道具袋に入れてるうちに、お守り代わりに思うようになってた。
「おれを殺し、我が王国を破ったとしても、そこに残るのは、平穏などではないぞ!!! ただ、恨みの声がこだまする荒野だけだ!!!」
 また、高笑いが、響き渡る。
 実はまだ、元気なのかな?
 そうだと、いいな。
「聞け! 貴様らは千人でおれを殺したが、俺は1人で、その何倍も、貴様らの同胞を殺した!!」
 俺はもう、ムリそうだけど。
「おれは! おれが想うまま! おれが望むまま! 邪悪であったぞ!!!!」
 皇子サマは、死なないといいな。

 誰かが倒れこむ気配がした。
 さっきまで張り上げられていた皇子サマの声も、聞こえない。
「勝った、のか? お―――」
 何度も聞いたことがあるような声が聞こえた気がするけど、それももう、聞き取れない。
 俺、死ぬんだな。
 意外と、怖くないな。



 ああ、短い、人生、だった、な。







 辛い目にもたくさんあったけどさ、心残りだって、後悔だってあるけどさ。
 それでも、いい人にもたくさん会えたし、学校にも通えたし、皇子サマが守ってくれたし、短い分、幸せな人生だったと思うよ。
 これが思いつきで旅行をしてきた俺の、20歳の夏の、終わりのことでした。




























 というわけで、完結してみました。

 皆様からの温かいコメント、本当に感謝ばかりです!
 色々と拙い部分もあったとは思いますが、ここまでお付き合いくださった方、ありがとうございました!



 実は、最後の11話、12話にあたる話だけが書けたことが投稿しようと思い立ったきっかけでした。
 そのため、11話投稿後にいただいたコメントの多さと、ルカ様死なないで! というご意見の多さにとても驚きつつ、ご期待を裏切ることを自覚しながらこの12話を投稿した作者です。

 が、1話から10話に至るまでにだんだん楽しくなり、11話、12話の矛盾部分を直しているうちに、ルカ様生存ルートも思いついてしまいました。
 アガレスが死なず、ルカが皇子なのは、歴史を大幅に変える前段階としてのフラグのつもりだったりします。
 もしかしたら、IF系の番外編としてまた投稿する日がくるかも知れません。
 そのときはまたぜひ、読んでいただけたら嬉しいです。



 7話でチラ裏脱出について書きましたが、本板での厳しいツッコミを横目にみつつ、当分は1読者でいようかな、と、思うようになってきました。
 やってみなよ! と言ってくださった方には、言い尽くせないほどの感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました!



 11話コメントでは予想以上の感想がいただけて、嬉しい限りです。
 その中で、主人公の性格についての愛あるツッコミをいただいたので、7話訂正と同時に、ここで作者が考えていた主人公の設定について語ってみたりします。
 興味のない方はスルーしちゃってください。















 >主人公きもい。これに尽きる。

 というコメントいただきました。
 ありがとうございます。わざとです。
 作者はキモキャラが大好きです。ごめんなさい。


 当初の設定としては、

 男。
 弱い。
 運がいいから意外と死なない。
 でもハイランド側。
 ルカ様お抱え。
 無自覚スパイ。
 戦争未体験。
 まともな教育を受けていない。→じゃあきっとバカっぽい。→むしろキモいって言われることもあるかも。
 
 というものでした。

 その後、コメントでのアドバイスから、

 都市同盟出身じゃない。
 じゃあ群島にしよう。
 ネコボルトに育てられたとかどうだろう。
 よし。チープー語でしゃべろう。

 という、よく分からない結論にたどり着きました。 


 こうして出来上がったのが、今作の主人公です。


 特定の友人キャラを作らなかったことやニューリーフでの友達いない発言で、変わり者アピールをしたつもりだったんですが、ちょっと弱かったかも知れません。





 それでは、長くなりましたが、最後に一言。

 皆様、本当にありがとうございました。



[9118] 【習作】幻想水滸伝2 見栄張って生きてみました。12 ~IF~
Name: UZUKI◆4b052ae5 ID:6cb4b8e6
Date: 2009/06/06 17:19
 皆様、完結後も温かいコメントをくださってありがとうございました!

 11話同様に予想以上の数の温かいお言葉と、IFのご希望をいただいたので、調子に乗って書いてみたら書きあがってしまいました!

 この話のテーマは、
 
 もし、ルカ様の主人公に対する信頼度がMAXだったら。
 もし、シードと主人公との友情度がMAXだったら。

 の2つです。



 投稿する日がくるかもしれません。なんて言っておきながら、自分でもどうかと思うほどの連続投稿になってしまいましたが、もし良かったら読んでみてください。


 なお、この話は、11話からの続きになっています。





















「俺を、どこへ、連れて行く、つもり、ですか」
「ちょっとしたところへ、な。賭けに勝つためのささやかな小細工ってヤツさ」
 俺はシード将軍に担がれて、同盟軍の本拠地近くにある森へ連れて来られていた。
「アンタたち、さ。こんなこと、して、皇子サマに、バレ、ないと、でも、思って、んの?」
「さあな。その時は……覚悟を決めるか」
 覚悟って、言った。
 どんな覚悟かなんて俺には到底わからないけど、それでも、もう皇子サマとシード将軍と、みんなでいたルルノイエには戻れないんだって事は分かった。
「皇子サマは、俺と、違う。捕虜が、逃げ出した、ことも、すぐ、気づく」
「なぜ、そう思う?」
「捕虜、を、見張ってた、のは、皇子サマの、命令、だから」
 そうだ。
 見張りを命じられたのは何も、俺一人じゃないんだよ。
 夕食の時間になったら、親衛軍の人が変わってくれることになってた。
「そろそろ、俺が、いない、ことも、捕虜が、逃げた、こと、も、皇子サマに、伝わって、る」
「そうなったら、お前の出番だな」
 ゆっくりと、肩から下ろされる。
 そこは、もう森じゃなかった。
 ほとんど木は生えていなくて、たった1本の大樹がそびえている。
 その根元に俺を縛り付けるシード将軍は、凍りついたような無表情だった。
「俺の?」
「お前に見張りを命じた。それなのに、捕虜とお前の両方が、同時に姿を消す。お前なら、どう思う?」
 そっか。
 俺のせいにしたいのか。
 でも、誰のせいでバレたかなんて、重要でもないんじゃない?
 それに。
「だったら、さっさと、俺を、殺せば、いいの、に」
「ルカ・ブライトがここで同盟軍に討たれるなら、お前が生きていようが死んでいようが同じことなんだけどな」
 どういうわけか、シード将軍は俺に色んなことを教えてくれた。
 もしかしたら、罪悪感、みたいなものを感じてたのかもしれない。
「夜襲の直前になって、捕虜の脱走が発覚することも、考えないはずがない。夜襲が成功してしまうことも当然、想定している」
 うん、そうだ。だって、あの皇子サマが負けるハズない。
「レオンはありとあらゆる状況を想定した。ジョウイ様とレオンが知っている青雷のフリックの性格も考慮して、だ」
 青雷のフリック?
「俺、そんな、人、会ったこと、ない」
「お前は何度も会ってるよ。最後に会ったのは、グリンヒルだったか?」
 グリンヒル? そんなハズない。だって、そこで会ったのは、シンさんと……。
「副隊長、さん?」
「お前が生きていれば、それをここで青雷のフリックが見つければ、同盟軍に連れ帰る可能性もある。お前が同盟軍に保護されたことが分かれば、疑惑は確信に変わる」
 そんなの、万が一にしか、ありえないじゃないか。
「ハイランドにはカゲっつう優秀な忍者もいるからな。一瞬でも疑惑がお前に向けば、こっちのもんだ」
「随分、ありえない、んじゃ、ない?」
「初めにレオンも言ってたろ。無駄で元々、なんだよ」
 シード将軍は、俺にたくさんのおくすりを渡してくれた。毒消しも、一緒に。
「こんなことしておいてオレが言うのも勝手だとは思うけどな。……死ぬなよ」
 最後に一言、呟くように言い残して、その後は振り返ることもなく、将軍は去っていった。
「ホント、に、勝手、だよ。メシくらい、置いてけ、っての」
 取り残された俺の返事は、きっと届いていなかったんだろう。






 夜が過ぎて、あたりが明るくなってきた。
 シード将軍のくれたおくすりと毒消しのおかげで、なんとか今のところは生きてるよ。
 あれが無かったら、一晩は保たなかったかも。
 俺はやっと見えるようになった景色を見渡した。
 このあたりにはモンスターもいないらしく、ただ静寂だけが広がっている。
 誰も、来ないな。
 皇子サマ、やっぱり夜襲はしなかったのかも。
 うん、きっとそうだ。だって、皇子サマは俺が知ってる中で、一番頭が良いんだから。 
 ムリはする。
 虐殺だってする。
 けどさ、ちょっとでも危険だって思ったら、すぐに作戦を変更するくらいの冷静さだって持ってる。
 夜明けになっても戦いの音は聞こえてこないし、ちゃんと危険が伝わったんだ。
「俺、ちょっとは、役に、立てた、かな」
 もう疲れきって、目を閉じようとしたとき、足音がこっちに向かって近づいてきていることに気がついた。
 戦っている様子には思えないから、ただ走ってきてるだけのような気がするけど、誰だろう。
 見えてきたのは、今まで何度も見た、青い装束だった。
「副隊長、さん?」
 そうだとしか思えない。あの青ずくめは、まさか他にいないだろうし。
 でも、こんな同盟軍の本拠地の近くにいるってことは。
「何やってんだ、フリック! いくらハイランド軍が仲間割れを始めたって言っても1人じゃ危険すぎるぜ!」
 遠くから、聞き覚えのある声が聞こえた。
 あれは、そう、きっと。
「ビクトール! ちょっと来い!」
「やっぱり、隊長さんと副隊長さんだ。ビクトールさんとフリックさん、でいいのかな? 久しぶり」
 現れたのは、だいぶ前にお世話になった2人組だった。
「シュトルテハイム・ラインバッハ3世だって、言ったじゃんか。ウソツキ」
 副隊長さん……フリックさんが、気まずそうな顔をして頬をかく。
「まあ、そう言ってやるなよ。あいつにも事情があったんだ」
 明るい声でフォローをするビクトールさん。
 ゆっくりと歩きながら俺に近づいてきたビクトールさんは、持っていた剣を静かに突きつけてきた。
「おい、ビクトール!?」
「ちょっと黙ってろよ、フリック。……なあお前、初めにおれ達に会ったときは、道化師だって言ってたな」
「うん。そう言った」
「グリンヒルでは学生をやってたんだってな」
「うん」
 相変わらず明るい声のまま、ビクトールさんは言い募る。
「おれにはどうも、今お前が着ているのはハイランド軍の鎧に見えるんだが、どうだ?」
「そうだよ。これはハイランドの正規軍で給付される鎧だ」
 フリックさんが息を呑んだ。
「てえことは、アレか? お前は、おれ達を騙して情報をハイランドに流してたっつうことか?」
 騙した?
 そんなつもりは無かったけど、でも、そうなのかな?
「そう、なのかもね。ミューズへ向かおうとしてキャンプに戻っちゃったとき、カエンソーの話をしたのは、俺だったし」
 ビクトールさんが剣を握る手に、力がこもった。
「どうりでなあ。妙に情報が漏れてるとは思ったんだよ。傭兵隊の砦といい、グリンヒルの話を聞いたときといい」
 グリンヒルは、俺のせいじゃないと思うな。
 フリックさんのことはシュトルテハイム・ラインバッハ3世さんだと思ってたし。
 あ、でも、シンさんの密会部屋教えたの、俺だっけ。
 ビクトールさんの表情は、いつも通りの明るいものだけど、フリックさんはちょっとショックを受けたみたいな顔をしてる。
 うん。ごめんね。
「なあ。違うだろ? 偶然、だったんだよな? そうだよな!?」
「ごめんね、フリックさん」
 俺は偶然だと思ってたけど、もしかしたら違ったのかも知れないよ。
 フリックさんの表情は暗かった。怒ってるような、悲しんでるような、複雑な表情。
 もう1度だけ、ごめんね、って言おうとしたとき、フリックさんの声が先に出た。
「お前の名前」
「え?」
「お前の名前、教えろよ。死ぬ直前なら、いいんだろう?」
 なんだかなー。
 どうしてみんな、俺の名前なんか聞きたがるかなー?
「俺、死ぬの?」
 ビクトールさんに問いかけたら、握っていた剣が振り上げられた。
「ああ、このままじゃあフリックが軍に連れ帰って保護する! とか言い出しかねねえからな。……悪いな」
 そっか。殺されちゃうんだ。
 俺、殺されるときは皇子サマに殺されるんだと思ってたけど。
 でもまあ、いいか。
 この2人なら、いいや。
「ねえ、フリックさん。どうしても、聞きたいの?」
「……お前だけ、おれの名前を知ってるなんて、不公平だろう?」
「じゃあ、皇子サマには内緒ね。あの人に知られたら、大笑いされるだろうから」
 フリックさんも、ビクトールさんも、ちょっと笑って、うなずいてくれた。
「俺の名前ね……」
「おう」
「ポークって、言うんだ」

 次の瞬間、あたりを高笑いが覆い尽くした。
「この声は……!」
 き、聞かれたー!? 何で!? どうしてこんなところにいんの!?
「皇子サマ!?」
 ビクトールさんたちの後ろから、皇子サマが歩いてきていた。
 なんでお供を連れてないのさ。
 っていうかホントになんでここにいんのさ。
 2人の言ってたハイランド軍の仲間割れって、何?
 聞きたいことはたくさんあったのに、俺が言葉を失っているうちに皇子サマに話しかけられた。
「同盟軍のブタを見つけて追ってみれば……。ブタはお前のほうだったか」
 くっそー! すっげいニヤニヤしてやがりますよ、この皇子サマ!
 何だよ! 文句あんのかよ!
「っつうか、ブタじゃないって何度言ったら分かってくれるんですか!」
「なら何だ。豚肉か?」
「ネコボルトの幼児と同じイジメ方しないで下さい!」
 つい状況も忘れてわめき散らしていたら、ビクトールさんが叫んだ。
「冗談じゃねえぞ。何でこんなトコに! おい、フリック! 手鏡だ!」
「だが、あいつが……」
「バカ野郎! 早くしろ!」
 逃がさん。とか言いながら振られた皇子サマの剣が当たるより一瞬早く、2人の姿は忽然と消えていた。
「何だ、今の?」
 もうなにがなんだか分からなくなって呆然としていた俺を、剣を収めた皇子サマが見下ろしている。
「ブタ。こんなところで何をしていた」
「ブタじゃねえです! っじゃなくて、えっと」
 俺は必死に、昨夜の出来事を説明した。
 ジョウイ将軍やレオンの行動。
 シード将軍がいたこと。
 俺がここに縛り付けられている理由。
 舌打ちをしながらも、皇子サマは黙って聞いていた。
「なるほどな。まあいい。これでおれに逆らう連中もあらかた知れた」
 皇子サマの方はというと、ほぼ俺の予想通り。
 捕虜もいないし、状況に不安要素が増えたからってことで夜襲は取りやめたらしい。
 ついでに、前から疑っていたジョウイ将軍とレオンを問い詰めたら、事態が発覚。
 一転して反旗を翻したジョウイ将軍とその部下を相手に、ハイランド軍内で戦闘が始まったんだとか。
 今はもう、勝敗がついたあとなんだって。
「俺が裏切って捕虜を逃がしたんだとは、思わなかったんですか?」
「奴らは元々胡散臭かった。それに、お前にそんな度胸も頭もない。どこかで野垂れ死んだかと思っていたが、運が良かったな」
 ずっとニヤニヤしっぱなしで、何かバカにされてる気がするんだけど。
 でもさ。
「俺のこと、ちょっとは信用してくれたんですね」
「ふん。同盟軍のブタどもに殺されるならそこまでだと思っていたものを」
「でも、結果的に助けてくれました」
「精々自分の名前に感謝することだな。まさかこのおれがブタを助けてやることになるとは……」
 忌々しい、と呟く皇子サマ。
 でも、そんなこといいながらちゃんと縄を切ってくれた。
 良かったー! ブタは死(略)とか言われて殺されるんじゃないかと思って、ずっと名前隠してたんだ!
「行くぞ」
「はい!」



 勝敗が決まってここに皇子サマがいるってことは、シード将軍たちはどうなったんだろうって、ちょっと思った。
 でも、あえて聞かなかった。
 聞いたところで、俺にはどうすることもできないだろうから。
 どうなったにしろ、もう、会えないだろうから。








 そんなこんなで、俺は今日も生きてます!
 皇子サマの邪悪な高笑いに怯えつつ、今まで通り必死に走り回ってる。
 そんな俺の、20歳の夏の、終わりのことでした。





























 つづく。……のはちょっと難しいかもしれない。





 でも作者はお調子者なので、続き希望の声がいただけたら、嬉しくなって書き始めるかもしれません。
 その場合は正史と大きく外れて完全にオリジナル展開になってしまうと思いますが……。


 というわけで、いかがだったでしょうか?
 読んでくださった皆様のご期待に沿えたかもしれませんし、かえって期待外れだったかもしれませんが、作者なりに考えて、このような結果になりました。


 また感想をいただけたら嬉しいです。
 作者からの返信は感想掲示板に書き込む予定です。


 それでは、ありがとうございました!


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