プロローグ夢を見ていた・・・・不思議な夢。真っ暗な周りに何も無い空間。自分の体が浮遊しているような感覚を覚えた。周りに動くものや、時計等、時を図るものが無いので、どれほどの時間が経ったのか分からなかった。何も無い空間でただ漂っているだけと言うのも飽きてきた頃、ある一点に光が溢れ出した。その光は何処か懐かしく、傍にいた大切な何かに感じ取れた・・・・光がはぜ、光が収まったとき・・・・俺は・・・・知らない世界に来ていた。その世界では月が出ていた。綺麗な月だな、と思いつつここがどんなところなのかと思い周りを見た。そこは何処かの学校の屋上だった。俺の目の前に一人の少女がいて、月を眺めていた。「・・・・・・今日は特に綺麗な月夜だな」その少女はたしかにそう、言った・・・・・・・・・・これが俺、黒木 神夜とEvangeline.A.K.McDowellとの出会いだった。
第壱章:灰色の月壱話: 人と人が惹かれあう心、原始に戻れ・・・私こと「Evangeline.A.K.McDowell」は眼が見えない。私は人間から吸血鬼になった。そういう者を真祖と言うらしいが、真祖の血は元人間では身体が耐えれるものではなかったらしい。血が身体に馴染む前に私の身体は変調をきたした。副作用と言えばいいのか分からないが、五官のうち「視覚」を消失してしまったのだ。はっきり言って、絶望した。私が何をしたというんだろうか?私を吸血鬼にした奴を殺したらこの絶望感を消せると思い実行に移した。だが、まずは視力の代わりになる何かを得なければ動くことさえも出来ない。この血のおかげか、「視覚以外の五官を意図的に普通より高め」たり、「致命的な攻撃を受けても細胞レベルで瞬時に復元」「魔力が篭められた超音波を自分を中心にサークル状に飛ばし、跳ね返ってきた音で周囲の対象物の形や色をおぼろげに認識する」ことが出来るようになった。人間の頃には出来無いことが出来るようになった。何十年もかかって成功したが、何故か私はもう死にたいと思うようになった。そう思うようになってふと頭を過ぎったのは、高い場所から落ちて死にたいと思ったことだった。そう、屋上とかがいい。本当に何と無くだが、高い場所からだと空にとても近いような気がしたから。空のように自由に成りたかった。自由=死安直ではあったが、死んだら自由になれると思った。屋外はすでに日が落ちていた。空には総てを飲み込むような、空の暗さよりなお暗い灰色の月がでていた。空の暗さよりなお暗く見えるのに、なぜか私には明るく感じた。「・・・・・・今日は特に綺麗な月夜だ」色や形は情報として私の眼にはほとんど映らないので、適当に呟いてみた「そうですね、俺も綺麗だと思いますよ・・・」突然後ろから返事があり、私は敵に不意を付かれたと思い舌打ちをしながら振り返った。白を基調とした腰までありそうな長い髪が、白くきめ細かい肌は、月夜の光のせいでさらに病的に見えた。私はこれだけ印象的な青年を、今までの誰よりも素晴らしいく美しいと思った。目の前の存在感よりその中身が美しいと。・・・強い、と。肉体ではなく、精神でもなく、魂でもなく、圧倒的な存在感でもなく眼が・・・眼が強いと思ってしまった。その眼は何処か高貴さが漂う紫色で、なにかを悟ったような強い意志の光を宿していた。眼は世界を見渡すことが出来る唯一の手段だ、とEvangelineは何時も思っている。世界を見渡す力は素晴らしい。まるで眼に見えない力が働いているようだ。その力が私の女の部分を刺激する。快楽にもにた高揚感が私の中を駆け巡っている。見ほれてしまったのだ、この私が・・・「・・きさま、何者だ?この私の後ろを取れるなどありえんことだぞ?」見ほれていたことを誤魔化すように、私が訪ねるとその青年は涼やかに笑った。「明日からまほら学園高等部に転校します・・・・・黒木 神夜といいます。よろしくお願いします」こやつ、私の質問に答えないだと・・・「おい!キサマ、分かって言っているのか?私は「何者」か、と聞いているんだぞ?」下らないことをほざく様なら殺してしまおう、と思い不思議そうな顔をしている奴を睨んだが、帰ってきた予想外の答えに私は戸惑った。「・・・俺は俺です。それ以外ないと思うんですが?」「はは!・・・・そうか、そうだな!お前がただしいよ!!」私は、笑った。ただ、笑った。そうだ・・・・シンプルでいいな、コイツは。こいつの好きな言葉は絶対「シンプル・イズ・ザベスト」に違いない!自分は自分。ほかの誰でもない、私は神夜にはなれないし、神夜もEvangeline.A.K.McDowellにはなれないのだから・・・「私の名はEvangeline.A.K.McDowellだ!光栄に思えよ、我が名を聞くことにな」その後、私と神夜はお互い自己紹介をすませ、ただ何も語ることなく月を二人で見ていた。こいつのことをなぜかモット知りたくなった私は、他愛もない質問をやつにぶつけた。「・・・しかし、あれだ。今は12月だぞ?卒業まで数ヶ月しかないが、大学はこっちで受けるのか?」その時、神夜が悲しそうな顔をした。「なにかまずいこと言ったか?」Evangelineは神夜の顔を見ながら聞いた。「ん?・・・いえ、大丈夫ですよ」「それら良いいがな・・・・」・・・ま、まずい!か、会話が続かん!これでは、嫌われてしまうではないか!奴の顔をみれん!・・・・その、恥ずかしすぎて!それっきり会話が無くなり、再び神夜と月を眺めていた。何分ぐらいそうしていたのだろう、ふいに神夜が話し掛けてきた。「貴女は目が見えないのですか?」「・・・・そうだ、よくわかったな」「違和感がありましたから・・・・」「そうか・・・・だから今日の月はおぼろげに見えるぐらいだ。」「完全に見えなくなるよりはましだと思いますよ・・・・・・どれぐらい見えてますか?」「どんな方法で視力を上げようとしても、0.01~0.03位だ・・・・」「う~ん?綺麗なのでは?と思いますよ?今日の月は・・・」「すっごいテキトーだな、お前」しばらく笑っていた私は神夜の方へ顔を向けた。「これからよろしくな、神夜」神夜はにこりと笑って言った。「こちらこそ」やつの、その、笑顔があまりにも綺麗で、私は思わず顔が赤くなってしまった。「・・・・そろそろ帰りません?」「・・・・また会えるか、神夜?」「貴女が望めば、きっと」「・・そうか、では帰るか」「夜は危険なので送っていきますよ、お嬢様?」「大丈夫だ。それとそのお嬢様ってのはなんだ?」「・・・貴女のような可愛い方をお嬢様と言うのは、必然と思いますが?」「・・・おもしろいことをいう。だが少しうれしいな。」「・・・ご一緒しても?」「いいだろう」「では、私の腕におつ掴まりください、お嬢様」「よし!いくぞ?」「・・・御意〈笑〉」「・・・あ、因みに俺が最初に綺麗って言ったのは月ではなく、貴女のことなんですよ?実は」それを聞いた私は益々コイツから離れられ無くなった。Evangeline.A.K.McDowell・・・・・・永遠に枯れないルピナスの花を貴女に
第壱章:灰色の月第参話: 逢いたい・・・・ Evangeline.A.K.McDowellは夢を見ていた。まだ眼が見えていた10歳の人間だった頃の夢。その夢に必ず出てくる大切な人・・・なくしたくないものがあった・・・・でもその想いは届かなかった・・・・・・その人が私を裏切ったから・・・・私を吸血鬼にしたのは、その人だった。その人が去っていった痕に屋上から見える月はとても綺麗で・・・・綺麗過ぎて・・・・残酷な光だった・・・・・・みんながみんな、大切なものだった・・・・・・なのに、私はその痕(あと)をいつの間にか忘れてしまった。文字道り、記憶を無くしてしまった。思い出したくなかった、憶えていたくなかったのかもしれない。大切な人が私を傷けた瞬間を。無理やり自分の中から消して、楽になりたかった。記憶を消したら、後に残ったのはあの人に対しての殺意しか私のなかには存在しなかった。彼が私にとってどんな存在か、どこの誰かということすらもうどうでもよかった。再び出会っても、私はあの人のことを憶えてはいないだろう。「どこの誰かは知らんが、私を吸血鬼にした憎き存在」という程度にしか思わないだろう。あの時から10年以上も閉ざされたままの自らの世界。なぜか屋上に惹かれている。今日もまた、月を見に外に出る。今日は、どんな形の月が見えるのだろうかそう思う―-------- 逢いたい、母に。黒木 神夜(かぐや)には大好きだった母がいた。死んでしまった大好きだった母上。名前を黒木 神愛(かみあ)と言った。思い出したくない。なぜ母上が重い病気にからなければならなかったのか。そのせいで泣きたくて、でも自分ではどうすることもできない。でも、泣いても何も変わらない。泣いてる暇があるなら自分の足で立って前に向かって転がったほうが、少しはましだ。父は仕事が忙しく、ほとんど家に帰ってきていなかった。心弱い父は、仕事を忙しくすることによって耐えれない何かと戦っているように思えた。人はだれでも悲しみを持っている。心の真ん中にぽっかりと大きな大きな穴を持ってる。だから人は皆、自分に足りない何かを補完しようとする為に、穴を埋めるために一生懸命生きていると思う。僕は父親の代わりに友達とも遊ばずに学校と病院を往復していた。母上が望めば何でもする。母上が治ることだけを望んで、頑張ってきた僕が健康になった彼女を迎えてやることはできなかった。最後に彼女の望みだけを叶えてやることはできた。母上の望みは、僕自身の手で早く楽にしてもらうことだった・・・・・・・・・・・・。そして過労で倒れた父が戻ってくることもそれきりなかった。天村家は神夜だけとなってしまった。この世界を母上に見せたかった。ただ、ここに存在して欲しかった。死んでしまった母上と父上の変わりに、僕、いや俺が生きよう、俺の存在がこの世界から消えて無くなるまで。今まで子供だから本当の意味で名乗れなかった「黒木」として。いつしか世界は俺の存在を奪っていく。それが「死」、だ永遠の眠りに付くということ・・・・・・・神夜が夢から覚めるとそこは高校の屋上だった。すでに日は落ち、月が出ていた。この時点で神夜がこの高校に編入してから既に、二ヶ月たっていた。その二ヶ月の間に、いろんな形の月を見てきた。どの月も別に綺麗だとは思えなかった。眼は白と黒以外の色が写らなくなっているから。「おはよう」Evangelineが話し掛けてきた。ずっと私が起きるまで傍にいててくれたのか・・・この人は。「Evangeline.・・・・・」「ん?なんだ~」「膝枕気持ちいい・・・」「・・・・・・・・起きて第一声がそれか、キサマは!」「フンワリやわらかでそれでいて確りとした固さが難ともまた・・・むふー」「・・・・結構、変体なんだな、おまえ?」「よく、言われます・・・って冗談ですが、膝枕が気持ちいいってことは本当ですよ、はい」「そうか・・・」「何か?」彼が私の顔を見上げながら、問い掛けてきた。「別に、何でも無いぞ~・・・・」「悲しそうな顔をしていますが・・・・」彼は不安そうな顔で私を見上げていた。彼の前では悲しい顔をしないでおこうと思っていたのだが、一緒に居ると、どうも心が緩んでくるみたいだ。「なあ、神夜・・・」「はい?」「もし、私がおまえのことを忘れたらって言ったらどうする?」唐突な問いに不思議そうな顔をしながらも神夜は口を開いた。「頑張って思い出してもらいますよ。貴女が私のことを憶えていた時、その時どれだけEvangelineと思いでを作ったかで変わってくる・・・と思いますが。」Evangeline.にとって神夜との思いでは、彼がわすれないでくれるほどたくさんあるのだろうか。Evangeline.の不安を察したのか、神夜は優しく笑った。「思いでがあったらEvangelineも私のこと思い出します。人というのは、補完しながら生きていくものですから・・・傍にいた大切な何かというのは貴女にはありますか?どんな人でも必ずある・・・・・絆が。たとえ自分が孤独だったとしても」「そう・・・か」Evangeline.の涙が神夜の姿を歪ませていた。「・・・・・そろそろ、帰りますよ。私は私の居るべき場所に」「神夜!?待て!何処に行く?!私をまた一人にするな!!!」「・・・・やはり思い出していましたか。」「私は貴方が好きだ!!愛してる!!互いが死を分かつまでとは言いわん!せめてもう少しだけでもお前のそばに居たい、神夜!!」「笑って下さいEvangeline.・・・怖い時や寂しい時、笑うと世界が広がりますよ?」「いやだ!!絶対離さん!行かせない!ここにいてくれ!」「お嬢様、我が侭を・・・・」「我が侭でもいい!ここに傍に居てくれたら!」「・・・・しつこい方は嫌われますよ?」「お前は滅多に笑わないが、笑ってもらいたいから頑張る!笑ったら、世界広がるっていったのはお前だぞ?!私Evangeline.A.K.McDowellがお前の世界広げてやる!」「貴女は私を許してくれるのですか?・・・こんな私を。貴女を傷つけたはずですが・・・・」「そんな事、もうどうでもいい!お前が私を助けてくれたことも、なにもかもどうでもいい!・・ただ横にいてくれればいい、私のそばに・・・」「・・・・有り難う、Evangeline.A.K.McDowell。私は誓いますよ、他の誰でもない貴女を永遠に守ります。」「うむ!それでいいんだぞ!それでこそ、私のお兄様だ!」「えっと・・・とてつもなくえらそうですねえ~貴女は・・・・」「ふん!だがこれが”私”だ!」「・・・イエス・マイロード(笑)」濡らす涙の部分が、風に吹かれてひ冷たかった・・・・・・・・。灰色の月明かり。澄んだ空気と綺麗ででも壊れている世界綺麗過ぎて、壊れている世界。何かが隠れているみたいで、いいかんじだ。屋上から月を眺めようと思う。私は扉を、音を立てないように開ける。きっとその扉の先には、自らが望んで行こうと思える場所だ。全ての時を止めて眠りに付ける場所に近かったから・・・・・・・。 その扉を開けた後、自分がどうなったのかが解らなかった。どうしてなんだろう。一瞬だけ物凄い風がなだれ込んできたと思ったら、なぜだか胸の辺りがすごく熱くなった。私が最後に見たのは、兄と慕ったあの人、「神夜さん」が私を助けようとしている姿だった・・・・・・・・・・何十年も昔に私は少女を助けようとした。その少女の命が魔の存在に狙われていたから私の吸血鬼の血を分け与えなければならないほどに、彼女の身体は傷に犯されていた。私は彼女の元を離れた。彼女を助ける為とはいえ、無断で人では無くしたのだから。怖くなったのだ。彼女に責められるのが。「なぜ、私を人では無くしたのだ!私はお前を許さない!」と言われそうで怖かった。だが、再び出会うことになる。「闇の福音」となっていた彼女と。彼女は俺のことを覚えてはいなかったようだ。ただ、鋭い眼で此方を睨んでいた。彼女は眼が見えないままだった。そして彼女は確かに言った・・・・あの時「今日は特に綺麗な月夜だ」・・・・・・・・と何かを守る為には、圧倒的に覆すことの出来る決定力が必要だと思う・・・再び貴女にルピナスの花を捧げる・・・・・ 闇夜の中から生まれる者 ~Evangeline.A.K.McDowell 編~ END